発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
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幼児は未知人物の誘いにどのように対処するか : 子どもの安全・防犯教育の発達心理学的検討
内田 伸子小林 肖
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2010 年 21 巻 4 号 p. 311-321

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抄録
子どもを略取誘拐事件から守ることは現代社会における最重要課題の一つである。本研究の目的は幼児が未知人物の誘いから危険を感知し,危険回避行動をとるのにどのような認知機能がかかわっているかを検討した。この問題を明らかにするために,研究1では,幼児が,大人-よく知っている人か,見知らぬ人か-に誘われる場面で誘う口実の緊急度の要因を統制して危険回避行動がとれるかどうかを検討した。その結果,4歳児と5歳児とでは危険回避行動に大きな違いがあることが判明した。4歳児(5歳前半)は誘う人物の意図を推測できず,状況の緊急性に基づいて判断するため,危険が回避できない。しかし,5歳児(5歳後半)は,未知人物の誘いの意図を推測し,口実の緊急性にかかわらず,誘いにのらないという危険回避行動をとることができる。5歳前半と5歳後半で顕著な差が見られるのは認知発達の質的な違い,すなわち,メタ認知能力,展示ルール,プラン能力の質的な発達差によると推測される。研究2では,教授実験パラダイムを用いて大人が子どもにどのように教えたら,危険回避行動を選択できるようになるかについて検討した。その結果,4歳児であっても,未知人物の誘いの意図に注目させるような教え方をすると,未知人物の誘いに応じないで危険が回避できる可能性が示唆された。これらの知見から,幼児期の安全・防犯教育においては,子どもの認知発達に適応的な教示が与えられることが必要であることが示唆された。
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© 2010 一般社団法人 日本発達心理学会
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