発達心理学研究
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特集序文
特集
原著(依頼)
  • 沼田 あや子
    2025 年36 巻4 号 p. 194-202
    発行日: 2025/12/20
    公開日: 2025/12/20
    [早期公開] 公開日: 2025/12/10
    ジャーナル 認証あり

    自閉スペクトラム症(ASD)のある女性の生きづらさの背景には,ASDという障害に対するジェンダー・バイアスがあると指摘されている。幼児期から適切に支援されることが重要だが,自閉スペクトラムの特性(AS特性)があったとしても,女児の行動面での表し方は男児と違うため,周囲からはわかりにくい。そのため,まずはAS特性がある女児の困難の表現を知り,環境を整える支援が必要である。本研究では,トイレの困難を示したASD女児の発達プロセスの縦断的データを,後方視的にナラティブ的探究の枠組みで分析した。その結果,対象女児には「トイレに絶対行かない」「変わりたくない」という「秘密のストーリー」と「本当はトイレに行ける」という「支えとするストーリー」があり,対立するストーリーを生きていたことが見えてきた。大人のストーリーも自覚しつつ,子どものストーリーに大人がどのように向き合うかを考察し,支援の在り方を提案した。

    【インパクト】

    AS特性がある幼児期女子の行動に関する研究が十分ではないため,家庭や集団生活で彼女らの困難が理解されにくいことを本論文では問題視する。一事例を深く知ろうとすることで普遍性をもった仮説につながると考え,ある女児の縦断的データをナラティブ的探究の枠組みで分析した。その結果,一見AS特性とは関係ないと思われるトイレ困難が,AS特性と関連しているという仮説を立て,支援の在り方を提案した。

  • 五十嵐 元子, 林 恵
    2025 年36 巻4 号 p. 203-214
    発行日: 2025/12/20
    公開日: 2025/12/20
    [早期公開] 公開日: 2025/12/10
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,性的マイノリティの保育者2名のライフストーリーを通して,彼らのセクシャリティへの意識と保育実践の考え方がどのように関わっているのかを描き出した。日本の保育職は女性が9割を超え,男性は少数派である。そのため「保育は女性の仕事」と見なされやすく,そうしたジェンダー・ステレオタイプを乗り越え,保育者としての専門性を高めていくことが課題とされてきた。本研究は,男女二元論と異性愛主義の枠で括られない性的マイノリティの保育者に注目し,保育職におけるジェンダーの向き合い方について考察した。バイセクシャルのAさんはジェンダー・ステレオタイプが子どもに非対等な関係を生むことを危惧し,それを意識的に取り入れない保育実践を展開した。一方,ゲイのBさんは自身の内にもある種の思い込みがあることに気づき,それを手放していく過程で保育への考え方と自己理解を深めていった。両者の違いは職場文化や人間関係の在り方に密接に関係していたと考えられる。また,二人は自身の当事者性を通して,男女二元論と異性愛主義に基づくジェンダー・ステレオタイプと距離をとり,伝統的なジェンダー観を別の角度から捉えることで,その内容が変化し得る可能性を示唆していた。

    【インパクト】

    本研究は,性的マイノリティの保育者のライフストーリーから,男女二元論と異性愛主義を乗り越える観点を描き出し,保育職におけるジェンダーと保育実践との関係について明らかにした。このことにより,保育現場に根強く存在する性役割観を広げ,性の多様性を前提とした保育職の在り方への示唆となると考えられる。

  • 佐藤 奈月
    2025 年36 巻4 号 p. 215-226
    発行日: 2025/12/20
    公開日: 2025/12/20
    [早期公開] 公開日: 2025/12/10
    ジャーナル 認証あり

    青年期の女性のネットを通した交流は,事件・犯罪や一時的な関係などのリスクがあるにもかかわらず,そうした関係に固執することが問題とされていた。しかし,ネット上の他者と会ってもいいと思うほど親密になるプロセスや,関係が一時的になりうることの発達への影響については不明である。そこで,本研究は,インターネットを通して見知らぬ他者と親密な関係を形成する青年期の女性8名の語りをM-GTAで分析し,親密な関係を形成するプロセスと,その関係性の意味づけを検討した。本研究の結果から,危険であることを自覚しながらも相手を選別しながら親密になる過程が明らかになり,対面の友人と同じくらい親密な関係を形成していることが分かった。しかし,こうしたネット交流によって得られた親密な関係を維持することは,「依存なのか」という考えに帰結していた。このことから,ネット上で親密な関係を形成し,維持しようとする青年期の女性は,「被害者表象」のみならず「ネット依存」表象を内面化している可能性が示唆された。本研究は,そうした葛藤の背景に男性中心的な発達観が影響を与えている可能性があることを指摘するとともに,青年期の女性がネット上の親密な関係を維持しようとすることを問題として扱う言説を捉え直し,当事者の視点を取り入れた新たな教育的支援の方向性を示した点に意義がある。

    【インパクト】

    青年期の女性のネットを通した交流は,主に被害や問題に焦点が当てられてきた。一方で本研究は,青年期の女性にとっての意味づけに着目し,相互的に頼り合う関係の形成が「問題」として内面化されることを議論した。さらに,これまで前提とされてきた男性中心的な発達観の再考を促した点においてインパクトがある。

実践(依頼)
  • 鈴木 育美
    2025 年36 巻4 号 p. 227-236
    発行日: 2025/12/20
    公開日: 2025/12/20
    [早期公開] 公開日: 2025/12/10
    ジャーナル 認証あり

    ジェンダー化された犯罪として位置づけられる女性の非行は,社会構造の影響を強く受けるものである。本研究は,文化や制度の中で特権集団の価値観が「ふつう」として支持される社会の構造を踏まえ,少年院に送致された女子少年と職員を対象に,女子少年が非行に至った背景や体験世界を描出するとともに,少年院内での職員との関係性がどのように形成・変化するかについて,資料分析を実施した。その結果,家庭内暴力や疎外感,学校での不当な扱いからくる苦しみを含む女子少年の経験を通して形成された価値観は,「ふつう」でない自分を否定的に捉える原因となっていた。女子少年はSNSに居場所を求め,自分の存在や価値を見出そうと性非行に至っていた。少年院で女子少年と職員の双方の価値観を差し合わせ,関係性を構築していった。そのことと並行して,女子少年は自分で選択したと思っていた性非行が男性の謀りごとであったと気が付くなどして,身体化症状に遭いながら非行前から少年院在院までの体験を統合していく過程があった。これらの結果から「ふつう」の価値観が女子少年の体験世界に与える影響と支援者の課題を挙げ,ジェンダー視点から見る性非行の背景と更生プロセスの意義について言及した。

    【インパクト】

    以前から少年院に送致された女子少年には,虐待経験など不適切な養育環境で育ったケースが多いと知られている。本研究では,女子少年の体験から非行に至る流れや気持ちが描出されており,更生に向かう過程では,女子少年と職員の関係性の相互作用とともに,女子少年の価値観が変容していく様子が捉えられる点が,非行臨床の実証研究として画期的である。

原著
  • 越中 康治, 長谷川 真里
    2025 年36 巻4 号 p. 237-250
    発行日: 2025/12/20
    公開日: 2025/12/20
    [早期公開] 公開日: 2025/10/24
    ジャーナル 認証あり

    本研究の目的は,倫理的罪悪感と道徳的誇りに焦点をあてて,日本の児童における道徳的な感情推測の発達的変化を探るとともに,感情推測と向社会的行動との関連を検討することであった。日本の小学校の低学年,中学年,高学年の児童(N=335)を対象として,倫理的罪悪感と道徳的誇りを測定するために感情推測課題を実施するとともに,向社会的行動の指標として分配課題を実施した。感情推測課題では,害や向社会に関する不道徳な行為(害:他者を作為的に害する盗み,向社会:向社会的不作為である独占)や道徳的な行為(害:自己利益を犠牲にして約束を遵守し,他者への害を避ける,向社会:自己利益を犠牲にして他者を援助する)に従事したときに,どのような感情をどの程度予期するかを尋ねた上で,その理由づけを求め,倫理的罪悪感と道徳的誇りの指標とした。結果として,作為的な加害である盗みにおいて低学年より高学年で倫理的罪悪感の予期が高かったが,有意傾向にとどまり,他では学年差は認められなかった。他方,倫理的罪悪感と道徳的誇りの予期は,害か向社会にかかわらず,双方が児童の向社会的行動の予測因子となることが示された。また,倫理的罪悪感の予期と道徳的誇りの予期は正相関を示した。さらに,日本の児童は欧米と異なり,道徳的行為に対して「普通」感情を予期する一方,向社会的不作為に対しては中・高学年も一部が「嬉しい」感情を予期することが示された。

    【インパクト】

    本研究では,これまでほとんど未検討であった日本の児童における倫理的罪悪感と道徳的誇りの予期を検討し,その発達的変化を明らかにするとともに,これらの予期が向社会的行動に正の影響を及ぼすことを示した。また,日本の児童における道徳感情推測は欧米とは異なることも示された。本研究の知見は,向社会性向上のための教育的働きかけやSEL(感情と社会性を育む学び)に対する基礎資料のひとつとなり得るものと考えられる。

  • 瓜生 淑子
    2025 年36 巻4 号 p. 251-264
    発行日: 2025/12/20
    公開日: 2025/12/20
    [早期公開] 公開日: 2025/11/14
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    早期保育については,母親との関係性を重視する立場からの懸念や批判(いわゆる「3歳児神話」)が,実証的研究に裏付けられたわけではないものの,強くあった。そこで,本研究は,厚生労働省が実施した大規模コホート調査の3歳半児のデータをもとに,パーソナリティをタイプとして全体的に捉え,得られたタイプと早期保育経験の関係を実証的に検討した。その結果,潜在クラス分析によって3つのクラス,活発・やんちゃ・控えめが抽出された。活発クラス(54.6%)を基準クラスとした多項ロジスティック回帰分析では,早期保育経験がないことが,内気でおとなしく自己主張の少ない控えめクラス(31.4%)を予測した。活発なだけでなく多動傾向もあるやんちゃクラス(13.9%)は,収入面や体罰傾向など,家庭要因の厳しさから予測されたが,早期保育経験の点では,活発クラスとの違いは示されなかった。衝動性など,特定の否定的な特性だけに注目せず,子どものパーソナリティをタイプとして全体的に捉えたことで,早期保育の経験が,活発・やんちゃクラスに共通する活発・好奇心旺盛・人見知りしないといった外向的で活動的な傾向を高めている可能性が示唆された。

    【インパクト】

    本研究は,大規模なデータを用いた潜在クラス分析によって幼児をタイプに分類した上で,保育経験の影響を分析した。従来にない分析枠組みを取ったことで,早期の保育経験が,外向性・活動性などのポジティブな特徴と関連している可能性を示した。この結果は,早期保育を懸念する「3歳児神話」の是非の議論を超え,少子化社会での乳幼児の育ちに必要な環境を考えるという現代的課題に対しても新たな示唆となった。

  • 浜名 真以, 西田 季里, 則近 千尋, 平田 悠里, 大久保 圭介, 野澤 祥子, 遠藤 利彦
    2025 年36 巻4 号 p. 265-278
    発行日: 2025/12/20
    公開日: 2025/12/20
    [早期公開] 公開日: 2025/12/15
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    幼児期における非認知能力育成の重要性に関する認識は,学術領域にとどまらず,政策や実践の場においても広がっており,調査研究も進められつつある。保育・幼児教育においては,幼児の非認知能力の総合的な育成を意図した実践が行われているものの,幼児期の非認知能力を幅広く測定できる尺度は十分ではない。特に,子どもの非認知能力の縦断的な変化を把握するために,保護者評定に基づく尺度の整備が不可欠である。本研究では,幼児期の非認知能力を自己と社会性の観点から幅広く測定するための保護者評定尺度を作成し,信頼性と妥当性を検討する。研究1では,幼児の自己と社会性に関わる非認知能力尺度を作成し,3~5歳児の保護者を対象に調査を実施した。因子分析の結果,自己に関わる心の力と社会性に関わる心の力において,それぞれ3因子構造が抽出され,十分な内的一貫性を有する尺度であることが示された。さらに,多母集団同時分析により,年齢群を超えて得点の平均比較が可能な尺度であること,高次因子分析により,自己に関わる心の力と社会性に関わる心の力をそれぞれ高次因子として統合する構造の妥当性も確認された。加えて,測定される非認知能力と他変数との関連も明らかとなった。研究2では,5歳児の保護者を対象に調査を行い,非認知能力と子どもの適応との関連から一定の妥当性が示された。

    【インパクト】

    幼児の自己と社会性に関わる非認知能力を測定するためのツールとして,比較的少数の項目で幅広い非認知能力を測定可能な保護者評定尺度を開発した。幼児期の非認知能力を簡便に評価することが可能となったため,調査研究など大規模なデータ収集での活用が期待される他,家庭や保育・幼児教育現場で活用することで,保護者や保育者による子ども理解が深まることが期待される。

実践
  • 高倉 智子, 細谷 里香
    2025 年36 巻4 号 p. 279-293
    発行日: 2025/12/20
    公開日: 2025/12/20
    [早期公開] 公開日: 2025/12/15
    ジャーナル 認証あり

    本研究の目的は,効果的なほめ方とされるBehavior-Specific Praise(BSP)を中心としたほめに関する研修を教師対象に実施し,教師のほめの増加と教師自身の情動,ほめに関する教師の考え方に与える影響を検証することである。公立小学校の教師4名を対象者とした。ABデザインを用いて,研修前後における授業中のほめと叱責回数の変化を検討した。さらに,ほめと叱責回数の変化と,教師の情動経験,情動知能,ほめに関する考え方との関連について検討した。研修とフィードバックにより,対象者のBSP回数は増加し,叱責回数は減少した。また,授業直後における対象者のポジティブ情動の増加とネガティブ情動の減少が認められた。Emotional Intelligence Scale(EQS)の変化からは,他者の変化に対して共感的かつ適切な反応を示す能力が促進されたことが示唆された。半構造化面接の質的分析からは,各対象者が介入前にほめに関してそれぞれ異なる認識や考えを持ち,介入後のほめについての考え方の変化の内容は対象者により多様であることが示唆された。本研究により,教師のBSPの増加と叱責の減少は,教師の情動・ほめに関する考え方と相互に影響し合い変化することが示唆された。

    【インパクト】

    本研究は,BSP(行動に着目したほめ)に関する研修とフィードバックを実施し,授業中の教師のほめと叱責の変化,情動とほめに関する考え方の変化との関連を検討したものである。教師のBSPの増加,叱責の減少と,教師の情動経験は互いに影響し合い,共感性を含む情動的関わりの能力やほめに関する考え方に変化をもたらした。BSPを用いる教師側の情動・認識の変化について示した本論は稀少な研究といえる。

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