本研究の目的は,倫理的罪悪感と道徳的誇りに焦点をあてて,日本の児童における道徳的な感情推測の発達的変化を探るとともに,感情推測と向社会的行動との関連を検討することであった。日本の小学校の低学年,中学年,高学年の児童(N=335)を対象として,倫理的罪悪感と道徳的誇りを測定するために感情推測課題を実施するとともに,向社会的行動の指標として分配課題を実施した。感情推測課題では,害や向社会に関する不道徳な行為(害:他者を作為的に害する盗み,向社会:向社会的不作為である独占)や道徳的な行為(害:自己利益を犠牲にして約束を遵守し,他者への害を避ける,向社会:自己利益を犠牲にして他者を援助する)に従事したときに,どのような感情をどの程度予期するかを尋ねた上で,その理由づけを求め,倫理的罪悪感と道徳的誇りの指標とした。結果として,作為的な加害である盗みにおいて低学年より高学年で倫理的罪悪感の予期が高かったが,有意傾向にとどまり,他では学年差は認められなかった。他方,倫理的罪悪感と道徳的誇りの予期は,害か向社会にかかわらず,双方が児童の向社会的行動の予測因子となることが示された。また,倫理的罪悪感の予期と道徳的誇りの予期は正相関を示した。さらに,日本の児童は欧米と異なり,道徳的行為に対して「普通」感情を予期する一方,向社会的不作為に対しては中・高学年も一部が「嬉しい」感情を予期することが示された。
【インパクト】
本研究では,これまでほとんど未検討であった日本の児童における倫理的罪悪感と道徳的誇りの予期を検討し,その発達的変化を明らかにするとともに,これらの予期が向社会的行動に正の影響を及ぼすことを示した。また,日本の児童における道徳感情推測は欧米とは異なることも示された。本研究の知見は,向社会性向上のための教育的働きかけやSEL(感情と社会性を育む学び)に対する基礎資料のひとつとなり得るものと考えられる。
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