発達心理学研究
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乳児院・養護施設の養育環境改善に伴う発達指標の推移 : ホスピタリズム解消をめざした実践研究
金子 龍太郎
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1993 年 4 巻 2 号 p. 145-153

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抄録
児童福祉施設の移転に伴う養有体制の改善により, 入所児の発達が移転前と移転後でどう変化したかを検討した。移転に伴う養育改善の要点は家庭的で小グループの落ち着いた雰囲気の中で, 養育担当者との深い継続的な愛着関係を確立して, 乳児期初期からの養育者と乳児との非言語的コミュニケーションを保証することにより, 全面的な発達を向上させることにあった。その結果, 移転前に入所した児と移転後の入所児における発達指標は次のように変化した。まず, 初語発現は約1か月半早く, 移転後では平均10か月5日となり, 2語文発現は約3か月早まり, 平均1歳7か月になった。また, 人見知りは移転後では約1か月早くなり, 平均6か月19日となった。そして, 事例で示されているように, 今日では子どもと担当者との絆が深まっており, 深い人間関係が形成されていた。施設という集団養育の場で, 交替制勤務や複数養育者体制から生じる問題が多く残されているものの, 諸発達は明らかに良くなっていた。以上の結果から, 施設の養育環境を改善すれば, 平均的家庭児に劣らない発達を示すことが, 本実践研究によって明確に示された。
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© 1993 一般社団法人 日本発達心理学会
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