抄録
胸腹部大動脈瘤手術の体外循環に伴う合併症として脊髄麻痺,腎機能不全に主点をおき,その原因と対策について検討した。Crawford分類ではI型9例,II型9例,III型9例,IV型3例であった。体外循環回路は前半21例目までは低濃度ヘパリン閉鎖回路,後半9例は高濃度ヘパリン閉鎖回路を用いた。術後脊髄麻痺になった2例はいずれもCrawford II型,大動脈遮断時間2時間以上,瘤内開存肋間動脈8レベル以上,低灌流圧,SEP消失があった。また2例とも低濃度ヘパリン閉鎖回路を用いた症例であった。術後血液透析を行った6例とも術前GFR値は正常値以下で,体外循環中出血による低灌流圧があった。6例中4例がCrawfordII型で,低濃度ヘパリン閉鎖回路を用いた症例であった。この結果,体外循環中に出血が予想され,脊髄障害や腹部臓器障害が発生し易いCrawfordII型の体外循環には,迅速な血液回収が可能な高濃度ヘパリン閉鎖回路が有用であると考えられる。