教育・社会心理学研究
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キリスト教的実存と一般的実存の差異とその欲求不満についての比較研究
特に神学生と一般大学生の人生意識注1を中心とした調査を手がかりとして
小助川 次雄
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1968 年 7 巻 2 号 p. 195-208

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抄録

人間の心理学的研究で, いわゆる「人間らしさ」を見るために, 「実存」という側面に目を向けてきた。「実存」とは, 人生の意味, 生き甲斐, 喜びを持って生きることである。この研究のためのPurpose-In-Life Test (PIL) 日本語試訳を使用し, さらにこれまでの著者の他の研究を加味しながら, 実存的欲求の充足性について, 信仰者 (神学生) と一般群 (一般大学生) とを比較検討した。その結果, 信仰者の実存的欲求の充足牲は, 無作為抽出の一般群より高く, 一般群の最高得点者群とほとんど同等であることが分った。同時に一口に実存と云っても, キリスト教的実存と一般的実存とは質的に, また, 意識構造的に相違があるのではないかという仮説は支持された。ただ, PILの評定の表面的数的処理で得られた実存性は, そのままでは, この両者の区別を十分には表わしていない。このような両実存の相違は, PILの潜在的内容の分析によって明確にされた。このために, 手記や他のパーソナリティテストなどを併用してその内容の補足を行なった。この結果, 二つの実存は, この世に対するかかわり方, 生活意識の中心および指向方向, 自己の評価などにおいて異なることが分った。一口でいえば, 一一般的実存は自己実現であり, キリスト教的実存とは, 自己犠牲を含む, 神の価値の実現である。また, 宗教は, 人間の人格的成長をがめゆるという批判は, この実験群については当らない, むしろ逆の結果が事実であることをパーソナリティテストが示した。いずれにしても, PILは, 実存的欲求の充足性を大体において知るためには有効であると思われる。
今後さらに対象を多くし, 資料の量的, 質的不十分さを補って実証性を吟味しながら, 残されている問題の解決に努めたい。なお, 本論文に関する神学的問題については, 別の機会に論ずることにする。

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© 日本グループ・ダイナミックス学会
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