林學會雑誌
Online ISSN : 2185-8187
ISSN-L : 2185-8187
木材の成分と強さとの關係(第二報)
辻 行雄
著者情報
ジャーナル フリー

1928 年 10 巻 8 号 p. 422-434

詳細
抄録

第一報及本報に於て論述したる所に據り、其の成績を摘録すれば次の如し。
(一)「ベンゼン」、「アルコール」水及一%苛性曹達等による抽出物たる樹脂質、精油類、色素、單寧、糖類及僞繊維素類等の含有量は、何れも針葉樹より濶葉樹に多き傾向あり。
(二)繊維素含有量は濶葉樹と針葉樹とによりて大差なく、僅に濶葉樹に多く、濶葉樹の含有量平均五一・六二%、針葉樹の含有量平均五〇・四一%なり、而して製紙業其の他繊維素工業に於て、繊維素の應用上の價値を判定せんとする場合に於て、此の繊維素の含有量は最重要なるものなれども、更に單繊維の長さと幅の比及前項に於て述べたる「ベンゼン」、「アルコール」、水及一%苛性曹達抽出物の含有量をも併せ考察することを要す。
(三)繊維素中のα繊維素含有量は、濶葉樹と針葉樹とによりて大差なし、然れどもβ繊維素の含有量は濶葉樹に少く、濶葉樹平均八・八〓%、針葉樹平均一七・一四%にして、濶葉樹の含有量は針葉樹の約二倍に及べり。
(四)「リグニン」含有量は、濶葉樹よりも針葉樹に多く、濶葉樹平均二〇・六一%、針葉樹平均二九・八九%なり。
(五)灰分含有量は針葉樹平均〇・一四%、濶葉樹平均〇・三三%にて、濶葉樹の含有量は、針葉樹の約二倍に及び、粗蛋白質の含有最亦濶葉樹の含有量は針葉樹の含有量より遙に大なり。
(六)「フルフラール」含有量は、濶葉樹平均一一・九九%、針葉樹平均四・九三%、「ペントーザン」含有量は濶葉樹平均二〇・五〇%、針葉樹平均八・四八%にして「フルフラール」及「ペントーザン」含有量は、何れも濶葉は針葉樹の約二倍に及べり。
(七)濶葉樹には「マンナン」を含有せず、然るに針葉樹には平均六・一四%を含有す、即ち濶葉樹と針葉樹とにより材質に差異を生ずるは、此の「マンナン」を含有するに因るものと謂ふことを得べく、又「ガラクタン」の含有量は濶葉樹に多く、針葉樹の含有量の約二倍に達す。
(八)供試材料の近似的分析の結果により、是等成分を供試材一竓中の含有重量(瓦)に換算したる結果と木材の強さとの關係を考察するに、供試材の單位體積中に含有せらるる繊維素の量と、木材の破壞負擔強とは、大體に於て正比例の傾向あると共に、濶葉樹五十一種及針葉樹十二種に就て屬を同しくする供試材の單位體積中に含有せらるるα繊維素の量と、木材の破壞負擔強と亦正比例の傾向を有す、而して是等の傾向は從來認められたる木材の比重と強さとの關係よりも更に濃厚なるものの如し。
(九)木材の強さと繊維の形態との關係に就ては、著しき傾向を認め難しと雖、單繊維の長さと幅の比は、針葉樹より濶葉樹に於て小なり、而して濶葉樹中其の比の大なるものは、概して硬材樹種に屬するものなり。
要之本試驗の結果に據れば、「リグニン」の含有量は針葉樹に多く、「フルフラール」及「ペントーザン」の含有量は濶葉樹に多く、且濶葉樹五十一種及針葉樹十二種にありて屬を同しくする樹種に於ては、「木材の破壞負擔強と供試材の單位體積中に含有せらるる繊維素の量(瓦)とは、正比例の傾向あり」と謂ふ第一報の結果が正確なることを、一層明瞭ならしむるものなりと信ず。

著者関連情報
© 日本森林学会
前の記事 次の記事
feedback
Top