森林変化や土地被覆変化マップなどの主題図には現実との相違がある程度含まれる。主題図を効果的に利用するためには,マップ分類がどの程度正しいかを表す精度を評価することが重要になる。本総説では,衛星データを用いて作成した森林変化マップの面積推定と精度評価における基本的な原則を整理し,精度評価の構成要素をSampling design,Response design,Analysisにわけ,それぞれで基準と推奨される手法を示した。また,精度評価を実施する上での留意点についても記述した。統計的に厳密な精度評価では,無作為抽出を基本とした確率抽出によりサンプルを抽出し,リファレンスデータとの相違を解析して,マップ分類の精度を推定する。精度評価と面積推定では,母集団誤差行列が中心的な役割を担う。サンプル抽出に対応した不偏推定量もしくは一致推定量を利用することで,精度と面積の推定値と信頼区間を算出し不確実性を示すことができる。精度評価の基本的な手法は確立されているが,より新しい手法も提案されている。精度評価では全てに対応する単一の手法はなく,目的に応じて適切かつ基準を満たす手法を選択する必要がある。
令和5年(2023年)日本森林学会誌論文賞リモートセンシングにおける解析精度の判定方法の適否は重要な問題であり古くから議論が重ねられてきたものの、日本では精度の評価方法についての学術的な論文・総説がこれまでなかった。志水会員の論文は、精度評価に関する数多くの国際誌を参照して、その問題点と国際的に標準とされる精度評価方法について体系的にまとめ、森林リモートセンシング分野における学術的発展性への貢献が非常に大きい、完成度の高い総説である。海外では違法伐採の監視、国内では伐採届等との突合といった目的でその技術の需要が高まりつつあることを踏まえ、評価に利用したRのモデルを公開することでリモートセンシングの解析において適切な精度評価方法の普及に貢献しうること、森林変化マップを作成する場面で本論を参考に適切な精度評価が実施されるようになることが期待されることなどの波及性が期待される。さらには、和文誌での発表により国内における技術水準の向上に寄与した点はおおいに評価される。
本研究では,立木を叩いた際に発生した音を画像化し深層学習を用いて樹高,材積を推定した。立木20本の樹幹を1本につき100回打撃した際に発生した音を録音,0.6秒間における各周波数の音圧を表したスペクトログラムを10,000枚作成し入力画像とした。深層学習システムはNNCを,深層学習アルゴリズムは出力層を回帰層としたLeNetを用いた。学習用データを5セットに分割し,三つの学習パターン(LP-Ⅰ:訓練事例8割,未知事例2割,LP-Ⅱ:大中小三区分から1本ずつ抽出した木を未知事例,LP-Ⅲ:2本ずつ抜出した木を未知事例)の樹高,材積を推定した。推定精度の検証には平均絶対誤差,平均絶対パーセント誤差および決定係数を用いた。その結果,各学習パターンの未知事例に対するR2値は,LP-Ⅲの樹高(0.3672)を除き,非常に高い値(0.9192から0.9996)を示した。LP-Ⅲの樹高では,30 m以上が過小に,30 m以下が過大に推定される傾向を示した。一方,材積はどの学習パターンにおいても全体的に偏りのない推定を行うことができたことから,本手法は材積推定において有効であることが示唆された。
令和4年(2022年)日本森林学会誌論文賞この論文は、立木を打撃すれば樹高が推定できそうだという素朴なアイデアを、音情報の画像化と深層学習によるスペクトログラム画像解析といった今日的な技術を組み合わせることで実装したもので、新規性という点で高く評価できる。また、近年の森林計測分野ではレーザー測量や写真測量によって樹木サイズを計測する試みが多くなされているが、本論文ではレーザーや写真以外の情報源として打撃音が有効であることを示した点で、学術的発展性を有するものと高く評価できる。さらに、著者らは今後に取り組むべき課題を複数提示しており、これらを一つずつ解決することにより、将来的には、測定対象木を数回打撃してその場でスマートフォンに録音するだけで樹高や材積が推定可能なシステムが開発される可能性があり、高い社会的波及性のほか進歩性も期待できる。
世界の森林面積が減少を続ける中で,中国の森林面積は1980年代から一貫して増加している。本研究では,何がその原動力となったのかを社会経済要因に注目して明らかにする。森林資源と社会経済との関係性については多くの先行研究がある。この分野の研究に用いられる手法はパネルデータ分析を主にし,時系列データに対して単位根,共和分といった検定を行った研究蓄積は限定的である。そこで,本研究では中国の森林面積と社会経済要因に関する直近40年分の時系列データを用い,変数の定常性や共和分関係も考慮しながら自己回帰分布ラグモデルによる分析を行った。単位根検定の結果,すべての変数はI(0)過程またはI(1)過程であった。また,推定の結果,1人当たりGDP変化率は森林面積変化率に対して短期で正の影響を与えるが,長期では負の影響を与えること,農村人口変化率は短期でも長期でも負の影響を与えること,都市人口変化率と中国に対する海外直接投資については短期に正の影響を与えることがわかった。
令和4年(2022年)日本森林学会誌論文賞この論文は、中国の森林資源動態を対象として、経済水準が森林面積に与える影響を、これまで試みられていなかった長期と短期の双方の視点を取り入れて、自己回帰分布ラグ(ARDL)モデルを導入して分析したものであり、この点に新規性と独創性が認められる。また、分析においては、丁寧な検討をした上で、計量経済学的に適切なモデルと検定を用いており、進歩性が認められるほか、このような長期と短期の双方の視点を取り入れたARDLによる解析は、将来的に学術分野の発展に多大な貢献をもたらすという点で高く評価できる。さらに、脱炭素社会に向けて森林動態の研究が国際的に注目される中で、中国を事例にして森林面積に対する複数の社会経済要因の影響を明らかにしたという点で社会的波及性もあり、将来的に持続的森林管理に向けた政策や投資などに関する一層の重要な知見をもたらすことが期待できる。
スギ人工林の下刈り要否の判断基準を提示することを目的に,福岡県八女市において毎年下刈りが行われた競合植生の異なる林地の植栽木と競合植生を多点調査した。その結果,下刈り1年後の競合植生の再生高は優占する植物タイプにより異なり,ススキタイプの再生高が他の植物タイプより高かった。一方,出現頻度の高かった3種(ススキ・ヌルデ・アカメガシワ)では,各々下刈りの累積回数による再生高の変化は認められなかった。スギ樹冠の梢端部が競合植生による被覆から抜け出すスギ樹高は競合植生の類型によって異なり,ススキが優占する植生類型よりもその他の方が低かった。以上より,毎年下刈りによる競合植生の再生高の低下はほとんどなく,植物タイプごとの再生高の違いが要因で,植生類型ごとに下刈り要否の判断基準は異なることが明らかになった。下刈り直前に林分内のスギ植栽木の本数割合90%以上が競合植生より高くなるには,前年の成長休止期のスギ樹高が,ススキが優占する植生類型で2.2 m以上,それ以外で1.4 m以上必要と評価された。スギの多くが競合植生に覆われない状況を維持するためには,目安としてこの樹高まで毎年下刈りが必要と考えられる。
令和3年(2021年)日本森林学会誌論文賞この論文は、九州北部のスギ造林地を対象に、様々な植生タイプを網羅する44林分100プロットにおいて2,765本のスギが調査し、その結果、成長休止期の時点で次回の下刈り要否をスギ植栽木の樹高に基づいて判断する基準を植生タイプごとに示したものである。下刈りコストの削減は,我が国の再造林,ひいては持続的な森林経営の実現のために必要不可欠なテーマであるが、その点に関して重要かつ具体的な提言を行っていることから、高い社会的波及性を認めることができる。調査のサンプリングは綿密に計画され,種に特有な空間獲得・空間修復能力に着目して種間競争を評価し,最終的に下刈り要否の判断基準における種組成の重要性に言及した点は高い新規性・進歩性を有する。また、データの重厚さ,論点の簡潔性,科学的手法への重要な提言など、今後の当該分野の研究の発展につながりうるものであることから、学術的発展性も高いもとと認められる。
熱帯林減少の原因と解決策
公開日: 2023/02/17 | 105 巻 1 号 p. 27-43
宮本 基杖
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日本の主要樹種75種の樹高と胸高直径の関係
公開日: 2021/06/26 | 103 巻 2 号 p. 168-171
小林 勇太, 堀内 颯夏, 鈴木 紅葉, 森 章
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林業・緑化分野における高吸水性高分子樹脂の利用
公開日: 2019/02/01 | 100 巻 6 号 p. 229-236
高橋 正通, 柴崎 一樹, 仲摩 栄一郎, 石塚 森吉, 太田 誠一
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簡易なチェックシートによるエゾシカの天然林への影響評価
公開日: 2013/11/13 | 95 巻 5 号 p. 259-266
明石 信廣, 藤田 真人, 渡辺 修, 宇野 裕之, 荻原 裕
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熱帯における森林減少の原因
公開日: 2010/10/05 | 92 巻 4 号 p. 226-234
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林學會雑誌
日本林學會誌
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