日本林學會誌
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トドマツ.クロエゾマツ,アカエゾマツ冬芽の解剖學的研究
田添 元
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1938 年 20 巻 4 号 p. 168-181

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抄録
(a) トドマツ,クロエゾマツ、アカエゾマツの各樹種に就て,冬季休眠期に於ける各芽の内部形態學的特長には大差なく,三樹種共同樣なる形態をとる。
(b) 生長圓錐體は外部が鱗片にて被はれたる當年生枝條の原始體にして,頂芽の圓錐體は扁平なるも,側芽の圓錐體は長圓錐形である。
(c) 鱗片の細胞の解剖學的形態は,外側のものは,内側のものより厚膜である,然し其の形態は等しく差異なし,即横斷面に於ては圓味を帶びたる多角形,縱斷面に於ては長方形にして切線方向に長き楕圓形をなす。冬芽の基部に於ては切線方向に稍長き楕圓形の大なる細胞をなし,外側のもの程厚膜となる。
(d) 生長點は細胞群からなる原始分裂層と,其の直後の初生分裂層とからなる。
初生分裂層は原初表皮,原初皮層,原初中心柱の三分裂層からなる。
(e) 初生維管束の發生の開始點は原始形成層の細胞群の縁端に位置し漸次發達して,先原生節管部が形成され,中心に近く原生木質部が次に發達して來る,而して原生木質部は全く完成されず,發達の途上に於て,休止し,且つ靜止のまゝにて,來る可き活動期を待て居る。
(f) 髓は初生分裂層の原初中心柱の組織から分裂形成されたるものにして,縱斷面に於て稍扁平横斷面に於て五乃至七角形の不等邊の細胞である。
而して細胞膜が他の細胞に比し厚膜である。
(g) 髓冠は圓錐體の基部に盤状をなしてる組織にして,生長圓錐體と前年度枝條の髓との界をなして居る。
細胞の形は縦繼面にては扁平なる楕圓形,横斷面に於ては圓味を帶びたる五乃至七角形である,而して細胞膜は著しく厚膜である。
(h) 髓冠の後方,前年度の髓中にLewis及Dowding兩氏は顯著なる腔状部を觀察し是を髓腔と稱せり,然し余のトドマツ,エゾマツに於ける觀察に於ては髓腔の實在は實驗操作上の破損に因て生ぜしものゝ如く思はれるも,尚是が決定は後日に讓る。
(i) 原始葉は原初表皮細胞より發生し一定の葉序の順に排列する,葉跡の發達の階段は生長圓錐體の初生維管束の發達の階段に等しきも,冬芽中に於ては其の發達の度圓錐體のそれよりも遙に遲れ,原生木質部を認めす。
初生葉跡は圓錐體の維管束と連絡して居る。
(j) 冬芽は枝條の第一次組織の短縮せるものが,鱗片にて被はれたるものゝ如く思はれる,而して冬芽中の既定の原始葉數即節の數は翌春の生長期に入りても更に増加する事なし而して各節間の細胞の分裂,伸長,成熟に因て各々伸長する,而して節間の伸長は一樣でなく中央部に於て最大にして基部と頂部に近づくに從ひ漸次伸長度を減退する。
從て枝條の伸長は各節間の伸長生長の總和であつて,冬芽の圓錐體の節の數即原始葉の數は生長期に於ける伸長生長を支配する一因子なりと云ふを得べし。
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