日本林學會誌
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種々の發根促進物質とその適用方法とが挿木に及ぼす効果の比較研究
石井 盛次
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1941 年 23 巻 2 号 p. 79-87

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抄録
發根促進物質を,比較的稀薄な溶液 (1~80mg/l) として挿木に適用する場合も,濃厚液 (1~20mg/cc) として適用する場合も,又粉劑 (0.5~50mg/g) として適用する場合にも,本質的には,全く同様なる發根反應を惹起せしめる。最適發根を得るに必要なる該物質の濃度は,適用促進物質の種類,化合物としての形,媒劑の種類,被適用植物の種類,挿穗の年齡並びに比較活動力,處理の季節及び處理の方法によつて左右される。
又粉劑塗抹法による處理に於ては,媒劑として使用せる粉末の物理的性質が,有效濃度限界を決定する主なる因子であると考へられる。例へば今囘の試驗で,細粒の滑石粉末を用ひるときは4~50mg/gの濃度が適當と認められたのに對し,細粒の粉末では,0.5~12mg/gを適當としたるが如きである。濃液塗布 (1~20mg/cc) と,粉劑塗抹法 (0.5~12mg/g) とは,發根促進物質の重量の點からすれば,略々同樣の有效性を示した。が併し,この方法を溶液浸漬標準法 (1~80mg/l) のに比較すると,前2者は後者の濃度の,凡そ10~1000倍程度の該物質を,必要とすることが分る。
加里鹽の形は,インドール醋酸,インドール酪酸及びナフタレソ醋酸の酸そのまゝの形よりは,常に有效であつた。このことは,少くともその原因の一部を,加里鹽の良好なる溶解性に歸せしめることが出來ると思ふ。
インドール酪酸と,その加里鹽とは,他の促進物質より,多くの植物に對し,遙かに有效に作用した。故にインドール酪酸の加里鹽に對しては,將來相當の實用的重要性が懸けられてよいと信じられる。
滑石のみでの標準處理區は,無處理對照區若くは水により處理せる對照區よりは,常に良好なる發根成績を示した。滑石の好影響は,少くともその一部は,挿木の水分生理に基づくものであらう。といふのは,滑石單獨の處理區に於ては,常に,挿木が,他の對照區に比し,水分の缺乏による凋萎を示す例が少なかつたからである。
發根容易なもの,發根中庸なるもの及び,發根困難なるものを引くるめて,70種ばかりの植物につき,發根促進物質處理試驗を行つたのであるが,この内特筆すべきは,從來挿木不能と見做されて居つたライラツクの種々の品種が,インドール酪酸の粉劑塗抹處理の方法によつて24乃至39日間で,50乃至100%の發根を示し,最早接木繁殖の煩瑣な手數が,全く不用になつたといふ一事である。(表2, 3, 8及び圖は之を省略せり)。
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