日本林學會誌
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架空索道主索の荷重點に於ける強度に就て
苫名 孝太郎
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1942 年 24 巻 9 号 p. 445-463

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抄録
(1) 索道主索の荷重點に於ける強度問題は純張力問題と同様に重要な問題である。
(2) 之等2つの問題は何れも主索の直徑を決定する計算に使用されて居るが,本邦に於て工學系統の人は前者のみを又林學系統の人は主として後者だけしか取扱つて居ないことは何れも當を得たものでない。
(3) 前者に属する太々は何れもG. Ceretti氏説を襲用して居るものと考へられるが,此説を全面的に採用することは筆者の首肯し得ない所である。
(4) C氏は荷重點に於ける應力關係を示すものとして下式(8)及(9)を誘導した。
(8), (9)
茲にσ=眞の應力度, σt=純伸張應力度, N=σに對する安全係數, Na=σtに對する安全係數,μ=索の品質及撚方たより一定する係數,Ω=索の有效斷面積, Q0=搬器各車輪にかかる荷重
(5) 上式に於てσt又はNtだけをσ又はNに對する變數とすればNmaxの條件式としてNt=3Nを得る。依つて與へられたNに對するΩminも亦此條件下に起る。故にC氏は之を以て索の直徑を決定する條件としたのである。
(6) 然しながらNtは荷重點の移動と共に變化するから,或點に於けるNmaxを採用すれば他の荷重點のNは皆之より小さくなり隨つて其Ωでは不充分となる。其程度は定張力式索道では實際上無視し得るとしても,定索長式索道では必ずしも無視し得ない。但これは未だ枝葉の問題に過ぎない。
(7) C氏解法の根本的な缺點は索道の使命に重大關係のある純張力關係の要求を滿たし得ないことである。即ち同法ではNとQ0とが與へられただけでΩ・Nt及Tが確定しNmaxの條件を維持するためには此Tだけの張力を與へねばならぬから,張力に對する他の要求を容れる餘地は無いこととなるのである。換言すればC氏解法ではNを決めただけで索の張り方までが決定してしまうのである。
(8) C氏解法に於て此缺點に對處する方法としては, Nmax附近ではNtを多少小さくしてもNが殆んど減少しないことを利用する策と, Nを小さく取ることによのNtを小さくすることとが考へられるが,前者は畢竟或程度の緩和策に過ぎず,後者は安全度を犠牲にするもので絶對に採用すべき策ではない。
(9) C氏解法の根據たるΩminはNtとΩとのみを變數と考へた場合のΩminに過ぎないから,他の因子例へばQ0をも變數と考へた場合には此Ωminは存在しなくなる。而してQ0=Q/nはnを増加することにより實際にも容易に變數とすることめ出來るものである。郎ちφ(Ω, Nt)=0の形ではΩminは存在するがφ(Q0, Ω, Nt)=0の形では前記Ωminは存在せずNtの如何に拘らずQ0に正比例してΩを幾らでも小さくすることが出來るのである。
(10) 筆者の解法は此理に基き,先づNとの關係からNtの値を適當に定め,之を用ひて純張力關係からΩを求め,次に之等のNt及Ωを用ひてNに關する計算を行ひQ0隨つてnを決定するのである。而してQ0の計算には式(9)の變形を使用する。
(11) 此筆者の解法ではΩは純張力關係だけで決まるから,Ntを小さく取る程Ωを小さくし得るも其代りnを増加する必要とNtの少しの變化がNに大きく影響するといふ不利を生する故, Ntには實際上或最小限度を決めて置く必要がある。而して筆者はNt=2Nを以て其適當な限度とする。尚Nの値についてはC氏は3.5~4を主張せるも筆者は一般工作物の例に準じてN=3~6とすべしと考へる。然るときはNtの最低限は6~12となる。
(12) Tに變化なしと見做し得る場合に於てNt=2Nとすれば最も小さいΩで足りることとなる。又Tに攣化ある場合に於てTmaxに對するNtを2Nに等しく取れば其約3倍のNtまでは同じQ0で充分だから, Tmax>3Tminの範圍ではnを變更する必要はないこととなる。
(13) N及Ntの實用範圍を上の如く定むれば, Ntの大小は殆んどQ0に影響せぬこととなり, Q0に大きく影響するものはNとΩとの2つとなる。即ち大勢としてはNの大なる程又Ωの小なる程Q0を小にし隨つてnを増加する必要が生じる。
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