心臓血管外科手術を受けた患者では,周術期に受けた身体への侵襲がその後にも影響を及ぼし,術後せん妄を発症することが多い。臨床現場において,術後せん妄の発症はしばしば観察され,患者の苦痛と家族の精神的・身体的負担,医療費負担の増大,医療従事者の疲弊など,様々な問題を引き起こす。術後せん妄が遷延すると,患者の予後や死亡率にも大きく影響するが,せん妄の遷延への影響要因を示した文献は少ない。そこで今回,外科手術のなかでも侵襲の大きい胸部大動脈瘤の手術を受けた患者49例から術後せん妄の発症者21例を抽出し,せん妄期間が7日以上継続したものを遷延群,7日未満で回復したものを非遷延群として要因別に分析した。その結果,せん妄の遷延に優位に影響を与える臨床的要素は「術中の脳分離体外循環時間の延長」と「術前・術後のベンゾジアゼピン系薬剤の内服」であった。本研究の結果は,せん妄の遷延予防と対策に寄与するものと考える。