食塩中毒は,頻度はまれであるが致死的な病態である。成人では,精神疾患の患者における食塩過剰摂取による自殺企図の結果として起こることが一般的である。剖検では,重篤な頭蓋内出血や脳浮腫が生じることが報告され,死因として考えられているが,臨床経過については不明な点が多い。症例は40歳代前半の女性で,自殺企図として200 gの食塩を摂取し救急搬送された。意識障害と高ナトリウム血症(155mmol/L)を認めたため,低浸透圧性の補液が開始された。翌日には意識は清明となり,高ナトリウム血症も補正された。入院6日目に突然,右椎骨動脈解離性脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症し,緊急コイル塞栓術が施行された。最終的には,わずかな神経学的な後遺症を除いて病前まで回復した。食塩中毒による高ナトリウム血症は,脳神経細胞の萎縮を引き起こし,このことがずり応力による脳血管の破綻を引き起こすと考えられている。ところが,本症例は血清ナトリウム値が正常化し,数日経過した後にくも膜下出血を発症した。食塩中毒の経過は不明な点も多いため,意識状態や血清ナトリウム値が正常化していたとしても,身体的に急変するリスクを重く見積もり,慎重な経過観察を行っていくことが必要であると考えられる。