抄録
門脈左右分岐部の欠如は極めてまれな肝内血管の走行異常であり,この異常は重大な危険性を孕んでいる.肝右葉内を走行する右門脈と思われる血管が門脈本幹であり,肝右葉切除の際に,これを右門脈と誤認して結紮すると全肝の門脈血が遮断される.術前にこの血管異常を把握し,安全に肝切除術を施行しえた肝細胞癌の1例を経験したので報告する.症例は62歳の男性で,2003年に慢性C型肝炎を指摘され,2007年3月より当院内科にてインターフェロン治療を施行していた.9月腫瘍マーカーの上昇を認め,腹部CTにてS5に径6cm大の肝細胞癌を認めた.血管造影では門脈左右分岐は欠落しており,S5に6cm大の腫瘍濃染像を認めた.肝動脈造影では固有肝動脈が欠落する走行異常を認めたが,胆管系の走行は正常であった.術前肝動脈化学塞栓療法を施行した後,肝亜区域切除を行った.手術に際し,CTA再構築,術中USおよび色素注入が有用であった.