日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
胆囊十二指腸瘻を併存した胆石イレウスを契機に診断された早期胆囊癌の1切除例
市川 剛小川 雅生川崎 誠康出村 公一堀井 勝彦亀山 雅男吉村 道子上西 崇弘竹村 茂一久保 正二
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2012 年 45 巻 12 号 p. 1186-1193

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Abstract

症例は71歳の女性で,嘔吐を主訴に来院した.血液検査でCRPおよび肝・胆道系酵素の上昇が見られた.腹部CT像上,回腸内に3 cmの結石と口側小腸の拡張および胆管内気腫が見られた.イレウス管挿入時に十二指腸から胆囊が造影され,胆囊十二指腸瘻を伴う胆石イレウスと診断した.開腹所見で胆囊十二指腸瘻と回腸への結石嵌頓が見られた.嵌頓結石の摘出と胆囊摘出を試みたが,炎症性に胆囊管の同定が困難であったため胆囊を頸部で離断し瘻孔を含め摘出した.遺残胆囊頸部断端は結節縫合閉鎖した.摘出胆囊粘膜内には一部に異型腺管が散在し,抗p53抗体およびMIB-1陽性細胞が見られたため胆囊上皮内癌と診断された.非癌部粘膜には偽幽門腺化生が見られた.瘻孔への癌浸潤は認めなかったが切除断端が陽性であったため,初回手術から2か月後に根治切除を行った.内胆汁瘻を有する症例は胆囊癌の合併を念頭に置いて治療を行うべきと考えられた.

はじめに

胆石イレウスは高齢者に多く発症する比較的まれな疾患であり,その発症機序については内胆汁瘻の関与が重要視されている.さらに,内胆汁瘻と胆道悪性腫瘍の発現には関連があるとの報告が散見される1)2)

今回,著者らは胆囊十二指腸瘻を有する胆石イレウスを契機に発見された早期胆囊癌の1切除例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:71歳,女性

主訴:嘔吐

家族歴,既往歴:特記事項なし.

現病歴:2009年10月,数日前からの嘔吐を主訴に当院を受診した.なお,過去に胆石症は指摘されていなかった.

入院時身体所見:身長148 cm,体重54 kg.貧血,黄疸なし.腹部はやや膨隆,軟であり,下腹部正中に軽度の圧痛が認められた.全身の体表リンパ節は触知しなかった.

入院時血液生化学検査:白血球数7.9×103/mm3であったが,CRPが21.97 mg/dlと上昇していた.ASTが41 IU/l,ALTが53 IU/l,ALPが339 IU/l,γ-GTPが192 IU/lと上昇していた.また,BUNが73.7 mg/dl,creatinin(Cr)が5.5 mg/dlと腎機能低下が認められた.さらに,HbA1cが9.6%と耐糖能異常が認められたためインスリン治療を要した.Carcinoembryonic antigen(CEA)は1.6 ng/ml,carbohydrate antigen19-9(CA19-9)は13 U/mlと基準値内であった(Table 1).

Table 1  Preoperative laboratory findings
 WBC 7.9×103 /mm3 AST 41 IU/l PT % 114 %
 Hb 14.1 g/dl ALT 53 IU/l PT-INR 0.86
 Ht 42.0% ALP 339 IU/l APTT 24.7 sec
 Plt 22.8×104 /mm3 γ-GTP 192 IU/l
BUN 73.7 mg/dl CEA 1.6 ng/ml
 TP 8.8 g/dl Cr 5.5 mg/dl CA19-9 13 U/ml
 Alb 4.0 g/dl BS 439 mg/dl
 T. Bil 0.8 mg/dl HbA1c 9.6 %

腹部単純CT所見:小腸内に最大で長径3 cmの石灰化を伴う腫瘤性病変が2個認められ,それより口側小腸の拡張が認められた(Fig. 1).また,胆囊は萎縮,肥厚しており,胆囊内および胆管内に気腫像が認められた.

Fig. 1 

Computed tomography image shows a 3-cm calcified gallstone in the small intestine, and oral side of the small intestine is dilated.

イレウス管造影検査所見:イレウス管から造影すると,十二指腸球部から胆囊内への造影剤の流入像と,総胆管から肝内胆管にかけて気腫像が認められた.閉塞部位の同定は困難であったが,小腸内に径2 cmと1 cmの胆石と思われる造影欠損像(矢印)が2個認められた(Fig. 2A, B).

Fig. 2 

Gastrointestinal images show cholecystoduodenal fistula (arrow), aircholangiogram (arrowheads) (A), and gallstones in the ileum (arrows) (B), although it is difficult to detect the obstructive point of the bowel.

以上の所見より,胆囊十二指腸瘻を伴う胆石イレウスと診断した.腎機能低下が認められたためイレウス管による腸管減圧を行いつつ,腎庇護療法を行い腎機能が改善したのち開腹した.

手術所見:腹腔内に播腫,リンパ節腫脹は見られなかった.回腸末端から100 cm口側の小腸に径3 cmの結石が嵌頓しており閉塞機転となっていた(Fig. 3).その口側小腸は拡張しており,拡張した小腸内に径2 cmと1 cmの結石が触知できた.嵌頓部の肛門側で小腸を切開し,嵌頓結石およびその口側の結石を全て摘出した.切開部は4-0マルチフィラメント吸収糸を用い連続縫合閉鎖した.

Fig. 3 

Operative view shows that the largest gallstone is located at the ileum 100 cm in an oral direction (arrow) from the ileocecal valve.

胆囊は萎縮しており,十二指腸との瘻孔が認められた.Calot三角部が炎症性に一塊となっていたため,瘻孔部で胆囊と十二指腸を離断したのち,胆囊頸部で切断し摘出した.遺残胆囊頸部粘膜を電気メスで焼灼したのち断端部で結節縫合閉鎖した.十二指腸の瘻孔切除部は吸収糸を用い結節縫合閉鎖を行った.

切除標本肉眼所見:小腸内には最大で3 cmの結石を含む計3個の結石が認められた.結石分析ではコレステロール成分92%,ビリルビンカルシウム成分8%の混合石であった.

摘出胆囊は肥厚,萎縮が認められたが,肉眼上,粘膜面に明らかな腫瘍性病変は確認できなかった(Fig. 4).

Fig. 4 

Resected gallbladder shows atrophic change, and the arrow shows the resected cholecystduodenal fistula. Macroscopically, the tumor cannot be found in the mucosal surface of the gallbladder. Circles show the area in which cancer cells were found.

病理組織学的検査所見:摘出胆囊粘膜には炎症細胞浸潤と出血が混在し,肉芽組織形成とコレステリンの析出が認められ,黄色肉芽腫性胆囊炎と診断された.粘膜は大半が脱落していたが残存粘膜に異型腺管が散在し(Fig. 5A, B),免疫組織染色検査では抗p53抗体とMIB-1陽性細胞(陽性率57.6%)が認められ胆囊粘膜内癌と診断された(Fig. 5C, D).異型細胞の瘻孔部への浸潤所見は認められなかった.なお胆囊粘膜は大部分脱落していた.非癌部残存粘膜面に偽幽門腺化生は認められが腸上皮化生所見は認められなかった.

胆囊頸部断端にも異型腺管が見られたため,一旦退院したのち初回切除から2か月後に遺残胆囊管切除を行った.術中迅速病理検査で追加切除した胆囊管断端に癌の浸潤所見を認めなかったため,拡大切除や所属リンパ節郭清は行わなかった.また,炎症性変化のためセンチネルリンパ節の存在が不明瞭であり生検は施行しえなかった.

Fig. 5 

Microscopically, the resected gallbladder shows lymphocyte infiltration, granulation and cholesterin deposition in non-tumorous tissue. Partially intramucosal carcinoma can be seen (A: H. E. staining ×100, B: H. E. staining ×400). Immunohistochemically, most of the cancer cells are positive for p53 antibody (C: ×200) and MIB-1 antibody (D: ×200) respectively.

追加切除した標本には上皮細胞の残存や癌細胞は認められず,粘膜の自然脱落もしくは初回切除時に残存粘膜を焼灼したために脱落したものと考えられた.最終的に胆囊癌取扱い規約上,平坦型,S0,Hinf0,H0,Binf0,PV0,A0,P0,N0,M(–),St(+)-chol,T1N0M0 p-stageⅠ,D0,BM0,HM0,EM0,fCurAであった.

術後経過に特記事項なく根治術後11日目に退院し,26か月経過した現在,再発徴候なく外来通院中である.

考察

胆石イレウスは胆石が胆管もしくは瘻孔を介して消化管内に自然逸脱し,腸管に嵌頓して発症するイレウスで,比較的まれな疾患である.その発生頻度はイレウス全体の0.05%,胆石症全体の0.5%とされている3).比較的高齢者に多く見られ,性別では女性に多いとされている4)5)

胆石の排出経路として内胆汁瘻を介する症例が大多数を占め,その中でも胆囊十二指腸瘻が最多(84%)であり,胆囊胃瘻(1.5%),総胆管十二指腸瘻(1.5%)などが報告されている6).瘻孔形成の原因は胆石胆囊炎(91%)が最多で,ついで十二指腸潰瘍の胆囊穿通(4%),胆囊癌の十二指腸浸潤(4%)とされている7).胆囊癌が一次的原因となるには癌が漿膜を越えて進展している場合に限られるが,自験例においては術後に診断された胆囊癌は粘膜内癌であり瘻孔への浸潤も見られなかった.したがって,胆囊癌浸潤が自験例での瘻孔形成の原因とは考えにくく,最大3 cmで複数の胆石が見られたことから胆石胆囊炎が原因と推測された.

内胆汁瘻を有する症例における胆道癌発癌の可能性に関してはこれまでも諸家から報告されており1)2),術前に瘻孔の存在を評価することは治療方針決定において重要である.自験例では消化管造影により比較的容易に診断がついたが,瘻孔が無症状に形成される場合もあることや8),イレウスの原因として,腸管内胆石が画像上同定できず内胆汁瘻の存在を術前評価しえない症例もある.

発癌の機序は諸説があるが,消化管内容物が胆囊内へ逆流することで慢性炎症を来し腸上皮化生から胆囊癌が発生するという説が有力視されている2).しかし,自験例のごとく胆囊粘膜に腸上皮化生を伴わなかったとする報告も見られる9)~11).また,松峯ら2)は偽幽門腺化生は発癌の危険性を提示するものではないとしているが,近年,胆囊癌症例における化生性変化の病理学的検討から偽幽門腺化生と胆囊癌の発現には因果関係が深いとする報告も多い12)13).さらに,大和14)は免疫組織学的検討から偽幽門腺化生が胆囊癌の発生母地となっている可能性を指摘している.自験例においても残存非癌部胆囊粘膜に偽幽門腺化生所見が見られたことより,偽幽門腺化生変化が発癌の母地となった可能性は高いと考えられる.

しかし,化生性変化は一般的に粘膜の再生変化としてみられるものであり,胆石による炎症性変化か内胆汁瘻を介した腸液流入による変化かは判別が困難である.武藤15)は内胆汁瘻症例の胆囊癌発現率は胆石による胆囊癌の発現率と差がなく,瘻孔の存在と癌の発生は無関係と報告している.自験例においては胆石も認められており内胆汁瘻の存在だけが発癌に影響したものとは断定できないが,内胆汁瘻が胆囊上皮の化生性変化に影響を及ぼした可能性は高く発癌に強く影響したものと考えている.しかし,その詳細な発癌機序には更なる検討の余地があるものと考えられる.

先述したように胆囊十二指腸瘻と胆囊癌の併存症例においては,胆囊癌が一次的原因の瘻孔形成と,瘻孔が原因で胆囊癌が発症する場合は臨床的意義が異なる.そこで医学中央雑誌を用い,「内胆汁瘻」,「胆囊十二指腸瘻」,「胆道悪性腫瘍」をキーワードとして検索し,さらにそれら報告例中の参考文献をもとに検索した結果,1983年以降2011年末までの邦文報告として,内胆汁瘻が胆道癌の発現に影響を及ぼしたと考えられる報告のうち詳細な記載が得られた報告は自験例を含め11例であった(Table 29)~11)16)~22).それら報告例をみると,年齢は70~80歳代と高齢者が多く,男女比は5:6であった.虚血性心疾患や脳血管障害,糖尿病などの全身状態に影響を及ぼす合併症を有する症例が比較的多く見られた.一旦,瘻孔が形成されると胆囊内圧低下にともない症状が軽減されるとされているが,自験例の如く先行する胆囊炎症状を欠く症例も多い.なお,同時性もしくは異時性に胆石イレウスを併発した報告が6例見られた.

Table 2  Clinicopathological findings of 11 cases of gallbladder carcinoma associated with internal biliary fistura in Japanese literatures
Author/Year Age (y.o) Gender Observation period (year) Fistura Operative procedure Intestinal metaplasia Depth of invasion Prognosis (month)
Maruyama11)
1988
72 M 30 Stomach Chol, Fist mp ND
Ohnuma16)
1988
76 M 15 Colon Chol, Fist + ss ND
Watanabe17)
1991
72 M ND Stomach None ND ND 2, dead
Shigemitsu18)
1994
55 M 29 Duodenum ND ND ND ND, dead
Kawamura19)
1996
73 M 20 Duodenum Chol, Duod ND ss 32, dead
Hasumi20)
2002
71 M 15 Stomach Chol, Fist ND ss 3, alive
Tanaka10)
2002
74 F ND Stomach Chol, Fist ss 18, dead
Nakamura9)
2005
79 F ND Duodenum Chol, Fist ss 20, alive
Haruta21)
2006
86 M 3 Duodenum Chol, Fist ND si 15, dead
Hatakeyama22)
2011
63 M 10 Duodenum Ex. Chol, Fist ND m ND
Our case 71 F unknown Duodenum Chol, Fist m 18, alive

M; male, F; female, Chol; Cholecystectomy, Fist; fistulectomy, ND; Not described, Duod; Duodenectomy, Ex. Chol; Extended cholecystectomy

11例中10例に胆石が確認されており,胆石発作を疑う腹痛の既往や胆石の存在,あるいは瘻孔形成が確認されてから癌が証明されるまでの観察期間は平均17.4年(3~30年)と長く6例で10年以上の観察期間があった.癌の存在部位は全て胆囊であり,その他の胆道癌の報告は見られなかった.進行度は11例中10例が胆囊に限局していたが,その後再発している症例が予後に関して記載のあった8例中4例に見られた.術前に胆囊癌と診断された症例は4例あり,いずれも瘻孔を介した胆囊粘膜の生検によって診断されているが,選択術式は年齢,合併症,全身状態などを鑑みて胆囊摘出と瘻孔切除にとどまる場合が多い.さらに,最終的にss以深と診断されているにもかかわらず追加の拡大切除が施行された症例は1例も見られなかった.術後に発見される胆囊癌では再手術が必要であり,患者の身体的負担に加え精神的な負担も大きく手術拒否症例も考えられ,実際今回の検討でも追加切除拒否の症例が1例見られた.このように本疾患が比較的併存疾患の多い高齢者に多いこと,術前に胆囊癌が同定されていない場合が多いことが,病変が胆囊に限局した症例の割に再発率が高い一因ではないかと考えられた.

通常,胆囊癌は発見時すでに進行癌であることが多く早期発見は困難である.粕谷ら23)は胆囊の術中迅速病理検査が偶発胆囊癌(incidental gallbladder cancer)の発見に有用であり,それに基づいた一期的な術式変更で予後改善が期待できるとしている.しかし,その検出頻度や病理医の労力を考慮すると安易な検査は避けるべきであり,有用で効率的な迅速検査のためには外科医が適切に症例を選択すべきであるとしている.しかし,摘出標本の状態によっては粘膜脱落により診断が困難な場合も予想されるため,術中に迅速検査を提出する際は摘出胆囊全体を病理医へ提出し癌の存在,深達度および切除断端の評価を依頼する必要があると考えられる.

内胆汁瘻症例はその頻度や発癌の可能性を考慮すると,術前に胆囊癌を疑っていなくとも術中迅速検査による癌合併の確認が必要な病態であると考えられた.以上より,内胆汁瘻を有する胆石症においては,たとえ無症状であっても胆囊癌の合併を念頭に置いて積極的に外科治療をすべきであると考えられた.

利益相反:なし

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