日本消化器外科学会雑誌
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原著
85歳以上の超高齢者胃癌手術症例の検討
山川 雄士坂東 悦郎川村 泰一谷澤 豊徳永 正則杉沢 徳彦金本 秀行絹笠 祐介上坂 克彦寺島 雅典
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キーワード: 超高齢者, 胃癌, 他病死
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2014 年 47 巻 1 号 p. 1-10

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Abstract

目的:85歳を超える超高齢者に対する消化管癌治療法の選択にあたっては,根治性のみならず患者の耐術能や社会的背景などを考慮に入れた総合的な判断が必要となる.75歳から84歳までの高齢者(elderly people;以下,EPと略記)と85歳以上の超高齢者(very elderly people;以下,VEPと略記)の胃癌手術症例を比較検討し,VEP群に対する胃癌手術の安全性,死亡原因に関して検討した.方法:2002年10月から2011年10月に当院で行われた胃癌手術症例のうち,R0手術を施行された75歳以上557例を,EP群515例とVEP群42例に分類し,両群における周術期因子,生存転帰を後ろ向きに比較検討した.続いて,VEP群の術後の死亡原因を解析し,他病死の予測因子を抽出した.結果:術前BMI値,血清Alb値はVEP群において有意に低値であった.両群間で術前Stageと術後合併症には差を認めなかったものの,郭清範囲はVEP群において有意にガイドライン推奨郭清度未満の手術が多かった(P=0.012).Overall survivalはVEP群で有意に不良であった(P=0.034)が,disease-specific survivalにおいては両群間において差を認めなかった(P=0.304).VEP群では術前BMI 20未満,術前血清Alb値低値,独居,術後在院日数15日以上で有意に他病死症例が高率であった.結語:VEP群はEP群と同様に安全な手術が可能であった.VEP群の治療成績の向上には,術前の栄養管理と術後の在宅支援が重要である.

はじめに

高齢者では各種臓器の生理的な機能が低下し,多くの併存疾患を有することなどから耐術能が低下しており,術後合併症の発生頻度が高率で,手術のリスクが高いと報告されている1).しかしながら,患者の高齢化とそれに伴う周術期管理の進歩により,胃癌領域においても高齢者に対する手術適応が拡大傾向にある2)

高齢者胃癌の治療法の選択には,定型手術を行うことで得られるであろう根治性の向上と,侵襲に伴う合併症発生率の上昇やQOLの低下,という相反する側面からの判断が必要である.さらに,施設入所や独居,認知症といった社会的因子を伴っていることもあり,高齢者に対する手術の適応や至適術式の選択をより困難にしている.特に至適術式の選択に際しては,他病死の問題も考慮しなければならない.

後期高齢者医療制度では,被保険者を75歳以上の高齢者と定めており,75歳以上では老化に伴う生理機能の低下により,治療の長期化,複数疾患への罹患,特に慢性疾患が見られること,また症状の軽重は別として認知症の問題が見られるとしている.老年医学では75歳以上を後期高齢者,85歳以上を超高齢者としている.

過去に75歳以上や,80歳以上の高齢者胃癌患者の臨床病理学的特徴や術後合併症,手術の安全性を検討した報告は多く見られるが1)3)~11),85歳以上の超高齢者を対象とした報告は少ない12)~15)

しかしながら,平成22年簡易生命表によると,男女の平均寿命はそれぞれ79.64年,86.39年であり,85歳時の平均余命は男性で6.18年,女性で8.30年と発表されており,平均寿命の延長に伴い,85歳以上の超高齢者に手術を行う機会が増加してきている.

今回,75歳から84歳の高齢者(elderly people;以下,EPと略記)と85歳以上の超高齢者(very elderly people;以下,VEPと略記)に分類し,この両群において,胃癌の臨床病理学的特徴,術式,合併症や生存転機について検討した.また,VEP群において日常臨床で問題とされる,他病死の要因についても検討を加えた.

対象と方法

2002年10月から2011年10月に当院でR0手術が行われた75歳以上の胃癌症例557例を対象とした.これらの症例を,EP群515例とVEP群42例に分け,患者・腫瘍因子(性別,BMI,心機能,呼吸機能,ASAスコア,ECOG-PS,併存症,術前血清Alb,術前進行度),手術因子(切除術式,郭清範囲,手術時間,出血量),術後因子(術後合併症率,在院日数,術前と術後1年経過時の体重と血清Albの変化率)を比較検討した.両群間の有意差の検定にはχ2検定,t検定を用いた.さらに,両群間のoverall survival,disease-specific survivalをKaplan-Meier法で算定しlog-rank testにて検定を行った.危険率5%未満を有意差ありとした.

続いて,VEP群の術後の他病死症例を解析し,他病死の予測因子を抽出した.統計解析にはSPSS(version 19.0)を用いた.

結果

EP群とVEP群における患者・腫瘍因子の比較では,性別,ASAスコア,ECOG-PS,併存症の有無に関しては差を認めなかったが,VEP群では,術前Alb,BMIが有意に低値であった(Table 1).手術因子の比較では術式は両群間で差を認めなかったが,VEP群では噴門側胃切除術や幽門保存胃切除術などの機能温存手術は1例も行われていなかった.胃全摘術,幽門側胃切除術,噴門側胃切除術の再建方法についても比較検討したが,両群間で差を認めなかった.郭清範囲の比較では,ガイドライン推奨郭清度未満の手術施行率がEP群9.7%に対し,VEP群45.2%であり,VEP群において有意に高率であった(Table 2).平均手術時間は,VEP群において有意に短く,平均出血量が少ない傾向が認められた.

Table 1  Patient background
EP (n=515) VEP (n=42) P
Age (range) 87.3±3.1 (85–90) 78.3±5.2
Sex (Male : Female) 367 : 148 26 : 16 0.109
BMI (kg/m2) 22.0±3.2 20.5±2.6 0.013
EF (%) 65.0±7.3 65.7±8.2 0.566
VC (%) 97.3±17.8 93.8±14.2 0.229
FEV1.0 (%) 73.6±10.8 72.9±10.5 0.663
ASA score 0.966
 1  79  0
 2 354 37
 3  82  5
ECOG PS 0.319
 0 262 26
 1 208 12
 2  45  4
Comorbidity (+ : –) 453 : 62 35 : 7 0.381
Alb (g/dl) 4.35±0.18 3.96±0.45 0.005
Preoperative Stage 0.57 
 I 301 21
 II 113 11
 III  94 10
 IV   7  0

BMI: body mass index, EF: ejection fraction, VC: vital capacity, FEV: forced expiratory volume, ASA: American Society of Anesthesiologists, ECOG: Eastern Cooperative Oncology Group, PS: performance status

Table 2  Surgical procedure and data of patients
Total (n=557) EP (n=515) VEP (n=42) P
Gastrectomy ​0.09
 Total 184​ 171​ 13​
  Distal 320​ 282​ 28​
  Proximal 33​ 32​ 1​
  PPG 24​ 24​ 0​
  others 6​ 6​ 0​
Reconstruction
 Total ​0.69
  R-Y 182​ 169​ 13​
  Double tract 2​ 2​ 0​
 Distal ​0.72
  B-I 140​ 126​ 14​
  B-II 22​ 21​ 1​
  R-Y 148​ 135​ 13​
 Proximal
  EG 28​ 27​ 1​ ​0.66
  Jejunal interposition 3​ 3​ 0​
  Double tract 2​ 2​ 0​
 LN dissection ​0.012
  D1 99​ 81​ 18​
  D1+ 238​ 223​ 15​
  D2 205​ 196​ 9​
  D2+ 15​ 15​ 0​
Operation time (min±SD) 210±​79 213±​79 166±​47 ​0.002
Bleeding (ml±SD) 438±​436 447±​442 305±​322 ​0.087
Less than GL (%) 14.1% 9.7% 45.2% <​0.001
Adjuvant chemotherapy (%) 71 (12.7%) 71 (13.8%) 0 (0%)

PPG: pylorus-preserving gastrectomy, R-Y: Roux-en-Y, B-I: Billroth-I, B-II: Billroth-II, EG: esophagogastrostomy, LN: lymph node, GL: guide line

VEP群をガイドライン推奨郭清度未満群19例と定型手術群23例に分け,術前因子を比較すると,BMIやEF,呼吸機能は差を認めなかったものの,ガイドライン推奨郭清度未満群ではASAスコアやECOG-PSが高値であり,よりStageが進行した症例が有意に多かった(Table 3).また,再建方法に関しては,有意差は認めなかったものの,ガイドライン推奨郭清度未満群と比較し,定型手術群では幽門側胃切除術後の再建方法はRoux-en-Y(R-Y)法が選択される傾向にあった.術後合併症の発生率は両群間で差を認めなかった.

Table 3  Patient background and postoperative complications of VEP
Less than GL (n=19) GL (n=23)
Sex (Male : Female) 11 : 8 15 : 8 ​0.75
BMI (kg/m2) 20.3±2.6 20.8±2.6 ​0.82
EF (%) 65.3±10.0 66.2±6.3 ​0.5
VC (%) 91.2±13.9 95.4±14.5 ​0.23
FEV1.0 (%) 70.7±13.0 75.0±7.3 ​0.39
ASA score ​0.008
 1 0​ 0​
 2 14​ 23​
 3 5​ 0​
ECOG PS ​0.007
 0 7​ 19​
 1 8​ 4​
 2 4​ 0​
Comorbidity (+ : –) 5 : 14 2 : 21 ​0.13
Alb (g/dl) 3.92±0.45 4.00±0.41 ​0.83
Preoperative Stage ​0.007
 I 5​ 16​
 II 9​ 2​
 III 5​ 5​
 IV 0​ 0​
Gastrectomy ​0.088
 Total 9​ 4​
 Distal 10​ 18​
 Proximal 0​ 1​
Reconstruction
 Total
  R-Y 9​ 4​
 Distal ​0.067
  B-I 7​ 7​
  B-II 1​ 0​
  R-Y 2​ 11​
 Proximal
  EG 0​ 1​
Postoperative complications (+ : –) 2 : 17 5 : 18 ​0.33

BMI: body mass index, EF: ejection fraction, VC: vital capacity, FEV: forced expiratory volume, ASA: American Society of Anesthesiologists, ECOG: Eastern Cooperative Oncology Group, PS: performance status

術後合併症の比較では,VEP群で合併症発生率が低率であったが,有意な差は得られなかった.術後合併症の内訳では,VEP群では肺炎,創感染が多く,縫合不全,吻合部狭窄,膵液瘻,術後出血は1例も認めなかった(Table 4).

Table 4  Postoperative complications
Complication EP (n=112) VEP (n=7)
% %
Cardiovascular 0​ 0​ 1​ 2.4​
Pneumonia 7​ 1.4​ 2​ 4.8​
Wound infection 11​ 2.1​ 2​ 4.8​
Ileus 11​ 2.1​ 1​ 2.4​
Anastomostic leakage 17​ 3.3​ 0​ 0​
Anastomostic stenosis 12​ 2.3​ 0​ 0​
Hemorrhage 7​ 1.4​ 0​ 0​
Pancreastic fistula 14​ 2.7​ 0​ 0​
Abdominal abcess 10​ 1.9​ 1​ 2.4​
Others 23​ 4.1​ 0​ 0​
Total 112​ 21.3​ 7​ 16.6​

全症例におけるoverall survivalはVEP群で有意に不良であったが(Fig. 1A),ガイドライン推奨郭清度未満の手術が施行された症例のoverall survivalは両群間で差を認めなかった(Fig. 1B).全症例,または,ガイドライン推奨郭清度未満の手術が施行された症例におけるdisease-specific survivalでは,両群間で差を認めなかった(Fig. 2A, B).観察期間中の全死亡に占める他病死の割合は,VEP群で高い傾向が認められたが,有意な差は得られなかった(Table 5).他病死の内訳としては,両群で肺炎,脳梗塞,肝不全は同程度に認めた.EP群では他癌死を7例に認めたが,VEP群では他癌死症例を認めなかった.

Fig. 1 

A: Overall survival of patients in the VEP group and the EP group are shown using Kaplan-Meier curves. There was a significant difference between the two groups (P=0.034). B: Overall survival of patients who underwent limited surgery in the VEP group and in the EP group are shown using Kaplan-Meier curves. There was no significant difference between the two groups (P=0.664).

Fig. 2 

A: Disease-specific survival of patients in the VEP group and in the EP group are shown using Kaplan-Meier curves. No significant differences were found between the two groups (P=0.304). B: Disease-specific survival of patients who underwent limited surgery in the VEP group and the EP group are shown using Kaplan-Meier curves. There was no significant difference between the two groups (P=0.832).

Table 5  Cause of death
EP (n=142) VEP (n=10)
Die of gastric cancer 104​ 5​ P=0.10
Die of other cause 38​ 5​
 Pneummonia 7​ 1​
 Cerebral infarction 7​ 1​
 Liver failure 4​ 1​
 Heart failure 4​ 0​
 Myocardial infarction 2​ 1​
 Other cancer 7​ 0​
 Others 7​ 1​

VEP群の他病死症例(他病死群)と非他病死症例(非他病死群)の周術期因子を比較したところ,術前BMI 20未満,術前血清Alb低値,独居,術後在院日数15日以上が他病死群において有意に高率であった(Table 6).

Table 6  Comparisons of perioperative factors between patients died of other causes and the others
Die of other causes (n=5) Others (n=37) P
Sex (male : female) 0.109
 Male 3​ 23​
 Female 2​ 14​
BMI 0.007
 <20 5​ 12​
 ≧20 0​ 25​
Comorbidity 0.381
 Yes 5​ 30​
 No 0​ 7​
ASA score 0.966
 2 4​ 34​
 3 1​ 3​
Preoperative TP (g/dl±SD) 6.66±0.42 6.90±0.46 0.134
Preoperative Alb (g/dl±SD) 3.68±0.40 4.01±0.3  0.046
Postoperative TP (g/dl±SD) 6.73±0.30 6.92±0.37 0.400
Postoperative Alb (g/dl±SD) 3.63±0.18 3.93±0.32 0.131
No. of HM 0.012
 One 3​ 5​
 Two or more 2​ 32​
Preoperative rihabilitation 0.925
 Yes 3​ 23​
 No 2​ 14​
Gastrectomy 0.572
 Total 1​ 12​
 Others 4​ 25​
LN dissection 0.280
 <D2 3​ 30​
 ≧D2 2​ 7​
Discharge (POD) 0.012
 ≧15 5​ 15​
 ≦14 0​ 22​
Complications 0.697
 Yes 1​ 5​
 No 4​ 32​

BMI: body mass index, ASA: American Society of Anesthesiologists, No. of HM: Number of household member(s), LN: lymph node, POD: post operative day, Postoperative TP: total protein level of 6 months after operation, Postoperative Alb: albumin level of 6 months after operation

考察

今回の検討では後期高齢者胃癌切除症例を75~84歳のEP群と85歳以上のVEP群の2群に分類して検討を行った.

患者・腫瘍因子の検討では術前併存症率において両群に差を認めなかった.一般的に高齢者の呼吸機能は,全肺活量が70歳では20歳時より約10%低下し,1秒量が約30%低下し,その後も低下していくと報告されている4)16)17).しかし,今回の検討では呼吸機能はVEP群ではEP群と同等であった.

患者・腫瘍因子の検討において両群間で差を認めたものは,術前BMI値と術前血清Albであった.佐藤ら18)は,食道癌患者において70歳以上群では70歳未満群に比較し術前の血清Alb,術前BMI値,筋肉量が低下していたと報告しており,こういった変化は加齢とともにさらに進行していくと考えられ,我々の結果ではVEP群でEP群に比べ,有意に術前栄養指標が不良であった.

手術因子の検討では,VEP群においてはガイドライン推奨郭清度未満の手術が施行された割合が有意に高率であったが,両群間の生存転帰では差を認めなかった.高齢者であっても予後に影響を与えるのは癌進行度であるため,積極的な根治手術を推奨する報告19)20)と,術後合併症の予防など,手術の安全性を重視して侵襲の低い術式を勧める報告4)9)10)がある.再建方法に関しては,VEP群とEP群間で差を認めなかった.ただし,VEP群における幽門側胃切除術の再建方法に関しては,ガイドライン推奨郭清度未満群と比較し,定型手術群ではR-Y法が選択される傾向にあった.

術後合併症率に関してはEP群が21.7%であったのに対し,VEP群は16.6%であり,両群間で差を認めず,VEP群という理由のみで手術を縮小することは避けるべきと思われる.渡辺ら9)は,縮小した手術を行ったにもかかわらず術後合併症の発生が多かったこと,他病死,合併症死が多かったことから一層の縮小化を徹底すべきと報告している.浅海ら15)は80~84歳の高齢者群と85歳以上の超高齢者群に分け,検討を行った結果,超高齢者群で肺炎を5例認めたが,術後合併症発生率は両群で差を認めず,超高齢者群においても比較的安全に治療は行われたと報告している.今回検討のEP群のうち,80~84歳を抽出し,術後合併症発生率を検討した結果,23.0%であり,浅海ら15)の報告と同様に,VEP群との間で,術後合併症発生率に差を認めなかった.

今回の結果では,EP群とVEP群間で術後合併症の発生率には差を認めず,むしろ,VEP群では縫合不全,膵液瘻,吻合部狭窄など,手術に直接起因する合併症の発生を認めず,VEP群において,全身状態が不良な症例に対してはガイドライン推奨郭清度未満の手術が選択されており,合併症の発生率の低下につながったと思われる.VEP群では45%の症例にガイドライン推奨郭清度未満の手術が行われており,定型手術を行った55%の症例との間に術後合併症率に差を認めなかった.しかし,両群間の背景因子でASAスコアやECOG-PSにおいて差を認めており,より状態の良い症例に対して定型手術が施行されていたためと思われる.当科ではVEP群において定型手術を行うか,ガイドライン推奨郭清度未満の手術を行うかの選択基準は明確には設けておらず,ASAスコアやECOG-PS,術前合併症などの耐術能を総合的に判断したうえで術式が選択されていた.

一般的に高齢者において最も発生頻度の多い合併症は肺炎で,術後合併症の発生率は10~30%程度3)21)と報告されており,今回の検討でも術後合併症として肺炎が最も多く,過去の報告と一致した結果が得られた.

また,認知症を有する高齢者に対する手術も大きな問題の一つである.Hallら22)は80歳以上の高齢者の認知症年間発症率は約8%であり,85歳を超えると急激に増加すると報告している.北川ら23)は認知症を有する患者では認知症のない患者に比較し,肺炎の割合が有意に高率であるが,十分な術前評価を行い手術適応と術式を決定することで死亡例は増加せず,認知症を有することのみでは手術阻害要因とはならないと報告している.今回の検討でも認知症を有する症例をEP群で6例(1.2%),VEP群で2例(4.8%)に認めた.これらの症例では特に合併症の発生率が高率であるということはなかったが,術後はクリニカルパスなどにとらわれずに,医療チームにおける連携を密にした個々の患者の状態に応じた管理が重要と思われる.

高齢者に対する胃切除術後の補助化学療法に関しては,当院ではACTS-GCの適格基準から,原則として対象を80歳までとしており,VEP群では術後補助化学療法を行った症例は1例もなかった.また,再発後の治療に関してもVEP群では化学療法が施行された症例は1例もなかった.

EP群とVEP群のoverall survivalでは,VEP群で有意に生存転帰が不良であったが,他病死を除いた検討では両群間で差を認めなかった.下松谷ら4)は,60歳代と80歳以上群の生存率を比較し,overall survivalは有意に60歳代が良好であったが,他病死を除く相対生存率は差を認めなかったと報告しており,今回の結果と一致していた.また,中根24)も同様に60歳代と80歳以上の生存転移を比較したところ,相対生存率に差を認めず,80歳以上の高齢者でも若年者と比較し,癌の進行には差がないと報告している.また,竹内ら25)も70歳以上の高齢者の胃癌は40~60歳のものと比較し,生物学的悪性度は変わらないと報告している.今回検討を行ったEP群とVEP群の間でも,両群間でdisease-specific survivalは差を認めず,癌そのものの進行には差がないと考えられる.高齢者胃癌では死亡原因として他病死の占める割合が多く,浅海ら15)は,85歳以上の超高齢者群で死亡した27人中13人と約半数が他病死していたと報告しており,今回の検討でも,同様にVEP群では50%の症例が他病死であった.そこで,さらにVEP群における他病死の危険因子について検討したところ,術前BMI 20未満,術前血清Alb低値,家族の同居なし,術後在院日数15日以上が他病死と関連する因子として抽出された.

80歳以上高齢者胃癌手術の他病死と周術期因子の関係であるが,唐崎ら10)は,他病死と術前併存症や,リンパ節郭清度の間に関連は認めず,他病死と関連する因子は術後合併症であると報告している.今回の検討では術前併存症の有無,リンパ節郭清度,術後合併症の有無,術後血清TP,Albは他病死と関連を認めず,むしろ術前の栄養状態や退院後の在宅支援が他病死と関連していた.

今回,VEP群における他病死例が5例と少ないことから多変量解析を行わなかったが,単変量解析により抽出されたこれらの因子はVEP群に対して胃癌治療を行う上で重要であると思われる.

今回の我々の検討では,VEP群はEP群と同様に安全な手術が可能であった.

VEP群の術後死亡の半数が他病死であり,手術の可否や術式を決定する際には他病死のリスクを考慮する必要がある.VEP群の胃癌患者の治療成績の向上には,術前の栄養管理と,さらには退院後の在宅支援が重要である.

なお,本文の要旨は第67回日本消化器外科学会総会(2012年7月富山)において発表した.

利益相反:なし

文献
 

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