2014 年 47 巻 1 号 p. 34-41
症例は75歳の男性で,検診の採血で肝機能異常を指摘され,前医で左肝管原発の肝門部胆管癌と診断されたため,当院紹介受診となった.造影CTでは,左肝管から左右肝管合流部にかけて造影効果を伴う壁肥厚と,左葉の肝内胆管の拡張を認めた.内視鏡的逆行性胆管造影では,左右肝管合流部に陰影欠損を認めた.肝門部胆管癌と術前診断し,肝左葉・尾状葉切除,肝外胆管切除再建術を施行した.切除標本では,左肝管から左右肝管合流部に発育する21 mm大の乳頭状腫瘍を認めた.組織学的には,一部扁平上皮癌成分を伴う腺癌成分と,紡錘形細胞の増殖および骨形成を認める肉腫成分が混在していた.免疫組織学的に,肉腫領域は上皮系マーカーであるAE1/AE3が陰性,間葉系マーカーであるvimentinが陽性であった.以上より,左肝管原発の真の癌肉腫と診断した.術後1年経過した現在,無再発生存中である.
癌肉腫は同一腫瘍内に癌腫と肉腫が存在する腫瘍1)であり,主に咽頭,乳腺,肺,胃,膀胱,子宮などで多く報告されている2).一方,肝外胆管原発癌肉腫の報告は散見されるが3)~15),いずれも総胆管原発であり,左肝管原発癌肉腫の報告は認められない.今回,我々は扁平上皮癌成分を伴う腺癌成分と,骨形成を含む肉腫成分からなる左肝管原発の真の癌肉腫を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
患者:75歳,男性
主訴:肝機能異常の指摘.
既往歴:19歳時に急性虫垂炎に対して虫垂切除術施行,20歳時に腸閉塞に対して開腹手術施行,70歳時に胆石症に対して腹腔鏡下胆囊摘出術施行.
現病歴:2011年9月,検診の採血検査で肝機能異常を指摘され前医を受診した.精査で左肝管を原発とする肝門部胆管癌と診断されたため,当院を紹介受診した.
入院時現症:身長168 cm,体重71 kg.眼球結膜に黄疸認めず,腹部は平坦軟,下腹部正中に切開創および腹腔鏡下胆囊摘出術の創の瘢痕を認めた.
入院時検査所見:血算では異常は認めなかった.生化学検査ではAST 45 U/l,ALT 52 U/l,ALP 536 U/l,γGTP 286 U/lと肝胆道系酵素の上昇を認めたが,T.Bilは1.2 mg/dlと正常値であった.腫瘍マーカーはCEA 2.2 ng/ml,CA19-9 6 U/mlと正常範囲内であった.
腹部超音波検査所見:左肝管に16×8 mm大の胆管内発育型の充実性腫瘍を認めた.
腹部造影CT所見:左肝管から左右肝管合流部にかけて,造影効果を伴う胆管壁肥厚を認めた(Fig. 1).周囲に明らかなリンパ節腫脹および肝転移は認めなかった.
Abdominal CT shows thickened bile duct wall of the left and common hepatic ducts (arrow).
内視鏡的逆行性胆管造影(endoscopic retrograde cholangiography;ERC)所見:左右肝管合流部の左壁に陰影欠損を認めた(Fig. 2).同部位からの生検では,胆管上皮片のみで悪性所見は認められなかった.
Endoscopic retrograde cholangiography reveals a filling defect at the hepatic duct confluence (arrow).
腫瘍部からの生検結果で癌の確定診断はできなかったが,悪性腫瘍の可能性が否定できず,2011年11月手術を施行した.
手術所見:上腹部正中切開にて開腹.腹膜播種・肝転移は認めなかった.肝十二指腸間膜と膵上縁および膵頭部背側のリンパ節郭清伴う肝左葉・尾状葉切除術,肝外胆管切除再建術を施行した.上流側胆管は右肝管で切離し,断端は一穴であった.
切除標本肉眼所見:左肝管から総肝管へ突出する有茎性の乳頭状腫瘍を認め,これが左肝管内腔を占居していた(Fig. 3).
A: Macroscopic examination of the resected specimen shows a papillary tumor (arrowhead) arising from the left hepatic duct. *: right hepatic duct margin, #: common hepatic duct margin. B: The cut surface of the resected specimen revealed a papillary tumor (arrowhead) filling the left hepatic duct.
病理組織学的検査所見:腫瘍表層から深部にかけて腺管形成を伴う異型細胞の増殖を認めた.腺癌成分の一部に扁平上皮癌成分が混在し,両者の間に移行像を認めた.腺癌成分は腫瘍全体の50%を,扁平上皮癌成分は10%を占めていた.一方,紡錘形細胞と骨形成で構成される肉腫成分が存在していた.肉腫成分は腫瘍全体の40%を占めていた.癌成分と肉腫成分は混在し,一部移行する部位も認めた(Fig. 4A).
Microscopic and immunohistochemical findings of the resected specimen. A: The tumor is composed of adenocarcinoma with a squamous cell carcinoma component and spindle-shaped sarcomatous cells with osteogenesis (H.E. stain: ×40). B: Carcinomatous cells show positive immunoreactivity for AE1/AE3, but sarcomatous cells are negative. C: The squamous cell carcinoma component shows positive immunoreactivity for p63. D: Sarcomatous cells are positive for vimentin.
免疫組織学的検査所見:腺癌細胞は上皮細胞マーカーであるAE1/AE3で染色され(Fig. 4B),扁平上皮癌部分は重層扁平上皮マーカーであるp63で染色された(Fig. 4C).腺癌細胞は他にも上皮細胞マーカーでcytokeratin 5/6,14,18も染色された.一方,紡錘形細胞は上皮細胞マーカーで染色されなかったが,間葉系マーカーであるvimentinとα-SMAで染色された(Fig. 4D).
以上より,本腫瘍は胆道癌取扱い規約に準ずると,癌肉腫Blc,その他の型(polypoid type),21×8×8 mm,ss,INFα,ly0,v0,pn0,pHinf1a,pGinf0,pPV0,pA0,pHM0,pDM0,pEM0,pN0,pT2N0M0 pStage IIであった.また,癌成分と肉腫成分に一部移行像を認める部位を認めたが,上皮成分が腺癌部分と扁平上皮癌成分を伴うことと,肉腫成分が紡錘形細胞と骨形成を伴うこと,免疫組織学的所見から肉腫成分が上皮性マーカーで染色されないことから,「真の癌肉腫」と診断した.
術後経過:術後経過は良好で術後16日で退院した.現在,補助化学療法は行わずに経過観察中で,術後1年無再発生存中である.
癌肉腫とは,上皮由来の癌腫と非上皮由来の肉腫が同時に混在する腫瘍である1).癌肉腫は泌尿器,消化器,呼吸器,乳腺など,癌が発生する全ての臓器で認められるが2),胆道原発癌肉腫の報告は比較的少なく,中でも肝外胆管原発癌肉腫の報告はまれである.医学中央雑誌で「胆管」,「癌肉腫」をキーワードに1983〜2012年で検索したところ,29例の症例報告(会議録を除く)が見出された.そのうち肝外胆管を原発とする報告はわずかに9例(他の20例のうち16例は胆囊原発,2例は肝原発,2例は十二指腸原発)で,この9例は全て中下部胆管を原発部位とする報告であった3)~11).また,PubMedで「carcinosarcoma」,「bile duct」をキーワードとして1950~2012年で検索すると,4例の症例報告を認めたが,同様に中下部胆管を原発とする報告のみであった(Table 1)3)~15).
No. | Author/Year | Age/Gender | Chief complaints | Location | Preoperative biopsy or cytology | Procedure | Gross findings | Size (mm) | Stage (UICC) | Recurrence | Prognosis |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | Loud12)/ 1997 |
35/F | Jaudice | Bm | – | BDR | Polypoid | – | – | – | – |
2 | Kobayashi3)/ 1997 |
74/M | Jaudice | Bi | ASC | PD | Nodular | 50 | – | – | Alive (30m) |
3 | Mori4)/ 2000 |
70/M | Jaudice | Bm | SCC | PD | Papillary | 28 | IIB | – | – |
4 | Serizawa5)/ 2001 |
60/F | Jaudice | Bm | – | PD | Papillary | 30 | – | Liver | Dead (3m) |
5 | Iida6)/ 2001 |
64/M | Jaudice | Bm | – | PD | Papillary | 40 | IB | – | Alive (6m) |
6 | Yoon13)/ 2004 |
78/M | Jaudice | Bm | – | PD | Infiltrative | – | – | – | – |
7 | Kadono7)/ 2005 |
75/F | Jaudice | Bm | – | PD | Nodular | – | – | Local | Dead (24m) |
8 | Sodergren14)/ 2005 |
64/F | Fatigue | Bm | – | BDR | – | – | – | – | Alive (60m) |
9 | Aurello15)/ 2008 |
73/F | Jaudice | Bi | – | PD | Polypoid | 26 | III | – | Alive (7m) |
10 | Yasumura8)/ 2008 |
69/F | Abdominal pain | Bi | – | PD | Nodular | 80 | – | Liver | Dead (6m) |
11 | Imai9)/ 2011 |
68/M | Jaudice | Bi | – | PD | Papillary | 22 | IIB | Liver | Dead (8m) |
12 | Shinozaki10)/ 2012 |
74/M | Hepatic dysfuncion | Bm | Spindle cell malignancy | BDR | Papillary | – | IIB | Liver | Alive (27m) |
13 | Sato11)/ 2012 |
60/F | Jaudice | Bm | Adenocarcinoma | ext-RHx, PD, PVR | Nodular | 50 | IIA | Liver | Dead (5m) |
14 | Our case | 75/M | Hepatic dysfuncion | Bl | – | LHx+C, BDR | Polypoid | 21 | IB | – | Alive (12m) |
Bm: middle bile duct, Bi: inferior bile duct, Bl: left hepatic duct, ASC: adenosquamous cell carcinoma, SCC: squamous cell carcinoma, PD: pancreaticoduodenectomy, BDR: bile duct resection, PVR: portal vein resection, ext-RHx: extended right hepatectomy, LHx+C: left hepatectomy and caudate lobectomy
これらの13例に自験例を加えた14例について検討すると,発見の契機は10例(71.4%)が黄疸であった.術前に行った組織診または細胞診で悪性細胞が検出されたのはわずかに4例であったが,いずれも癌肉腫と正確に診断はすることはできなかった.術前に悪性細胞が検出されなかった10例では癌の確定診断はつかなかったが,画像上悪性腫瘍が強く疑われ手術が行われた.腫瘍の肉眼所見は8例(57.1%)が乳頭型またはポリープ状であった.Loudら12)は,食道や膀胱原発の癌肉腫も乳頭状の形態を呈すると報告している.本症例も乳頭状の肉眼形態を呈しており,癌肉腫は乳頭型の形態を呈することが一つの特徴として考えられた.また,今回検討した14例のうち,再発は6例に認められた(Table 1).肉眼形態が乳頭状で再発したのは3例で,再発部位は全例肝臓であった.一方乳頭状でない症例で再発した3例の再発部位は2例が肝臓,1例が局所であった.胆管癌においては,乳頭状腫瘍は一般的に予後が良好なことが多いが,癌肉腫は乳頭型を呈しても特殊な組織型であり,肉眼型が乳頭型であるかどうかということと再発形式やその頻度に関連性は認められないと思われた.
肝外胆管原発癌肉腫に対する術式は,腫瘍の部位や進行度によりさまざまであるが,組織学的な根治を企図する術式を選択すべきである.過去の報告では,最小は肝外胆管切除が,最大は血管合併切除を伴う肝膵頭十二指腸切除術が行われていた(Table 1).本症例では,術前画像診断で腫瘍が左肝管に限局していると考えられたため,肝左葉・尾状葉切除術,肝外胆管切除術を施行し,癌の遺残なく切除することができた.
一般的に癌肉腫の予後は不良と考えられている.岡村ら16)は,35例の胆囊原発癌肉腫を検討し,4年以上生存した症例は5例のみで,一般的な胆囊癌と比較すると予後は不良と報告した.今回,我々が検索した肝外胆管原発癌肉腫症例のうち予後について記載があったのは11例で,このうち1年生存は5例,3年生存は1例のみであった.一般的な胆管癌の5年生存率は35~45%と言われており17)18),肝外胆管原発の癌肉腫は,胆囊原発の癌肉腫と同様に予後不良な腫瘍である可能性がある.
癌肉腫の組織発生上問題になるのは,癌と肉腫が同時に一つの腫瘍を形成したものなのか,癌の一部が肉腫様に変化したものなのかの鑑別である.前者を「真の癌肉腫」と呼び,後者を「いわゆる癌肉腫」と呼ぶ.これらの鑑別にはHE染色による組織学的所見のみならず,各種の免疫染色検査や電子顕微鏡所見を加味し検討する必要がある.Kijimaら19)は,癌腫と肉腫との間に比較的明瞭な境界を認める十二指腸乳頭部原発の癌肉腫に対して,免疫組織学的および電子顕微鏡的検討を行った.免疫組織学的検討では,肉腫成分の一部が上皮細胞マーカーであるAE1/AE3とCA19-9で染色された.電子顕微鏡的検討では,肉腫成分は未分化な細胞で構成され,肉腫細胞に筋繊維への分化が見出せず,「いわゆる癌肉腫」と診断した.水野ら20)は,HE所見で癌部と肉腫部に移行像のない胆囊原発の「真の癌肉腫」と診断された症例に対して,電子顕微鏡による超微形態観察を行ったところ,特徴的所見として,細胞境界で隣接する腫瘍細胞の間で細胞膜同士の陥入があり,接着装置も豊富に観察された.また,特定の分化を示す超微形態的所見も認められず,電子顕微鏡的には細胞境界で隣接する細胞同士が密接な関係にあり,上皮性の性格を示したため「いわゆる癌肉腫」であった症例を報告した.本症例では,HE所見で腫瘍内に上皮性腫瘍成分とともに,骨といった特異的間葉系腫瘍成分を認めたため,癌肉腫と診断できた.また,一部癌成分と肉腫成分との間に移行像を認めたが,免疫染色検査で紡錐型細胞が上皮系細胞マーカー陰性でかつ,間葉系マーカー陽性であったことから,「真の癌肉腫」と診断した.
癌肉腫の組織発生機序としては,①衝突腫瘍説:上皮組織と間質組織の同時悪性化(癌と肉腫の衝突),②偽肉腫様間質反応説:癌に対する間質の偽肉腫様反応,③上皮性腫瘍説:上皮性悪性細胞の肉腫様変化(化生,分化,脱分化),④幹細胞由来説:多分化能を持った未熟な幹細胞から癌と肉腫が同時発生,などが提唱されている2).また,癌肉腫の発生についてDNAクローナリティの見地から多クローン説と単クローン説が提唱されており,Thompsonら21)は癌肉腫の上皮性分と非上皮性分が単クローン性であることを報告している.本症例の場合,癌腫成分と肉腫成分に移行像や衝突像はなく混在していること,癌腫部分はAE1/3陽性の腺癌成分とその中にp63陽性の扁平上皮癌成分が存在しており癌腫部分が単一な腫瘍ではないこと,肉腫部分はvimentin染色陽性な紡錘形細胞だけではなく明らかな骨形成を認めることを考慮すると,癌腫と肉腫の衝突によるものや癌腫成分の脱分化によるものではなく,さまざまな腫瘍に分化できる多分化能を持った幹細胞から発生し,癌腫成分および肉腫成分両方に分化した腫瘍である可能性が推測された.
胆管原発の癌肉腫の術前診断は困難なことが多く,その予後も厳しい可能性がある.しかし,切除による長期生存例も認められることから,今後も積極的に切除していく必要があると考えられた.本腫瘍の組織発生や生物学的特性についてはいまだに不明なことが多く,さらなる症例の集積が必要である.
利益相反:なし