日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
門脈内腫瘍塞栓を伴った胃癌膵転移の1切除例
渡邊 真哉山口 竜三伊藤 哲笹本 彰紀會津 恵司林 友樹井田 英臣金井 道夫立山 尚
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2014 年 47 巻 12 号 p. 755-761

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Abstract

症例は75歳男性で,4年前にstage IIIAの進行胃癌に対し胃全摘術を施行した.術後4年目のCTで膵体部近傍の脾静脈に約1.5 cmの陰影欠損像が出現し,術後4年7か月のCTで門脈本幹まで進展した.腫瘍性病変も否定できずFDG-PETを施行したところ膵体部に異常集積を示した.CT,MRIでは膵臓には明らかな腫瘍影を指摘できなかった.また,MRCPでは脾静脈内の陰影欠損近傍の主膵管に2 cmの狭窄像を認めた.門脈内腫瘍塞栓を伴う膵癌または胃癌膵転移を疑い胃癌術後4年8か月目に膵体尾部脾合併切除,門脈内腫瘍塞栓摘出術を施行した.膵体部に門脈内腫瘍塞栓と連続した3 cmの腫瘍を認め,胃癌と同様の中分化型腺癌で胃癌膵転移と診断した.また,胃癌と膵腫瘍の免疫染色検査でも胃癌膵転移として矛盾しない所見であった.術後S-1で補助化学療法を行い,7か月経過しているが再発を認めていない.

はじめに

転移性膵腫瘍のうち胃癌原発は剖検例では12~20%と比較的高率であるにもかかわらず1)2),発見時には同時に多臓器に転移を伴うことが多く,切除の対象となることはまれである.さらに,門脈内腫瘍塞栓を伴うものは検索しえたかぎりでは報告がない.今回,我々は胃癌術後4年目で脾静脈の陰影欠損を契機に発見された門脈内腫瘍塞栓を伴った胃癌膵転移を経験したので報告する.

症例

症例:75歳,男性

主訴:なし

既往歴:44歳,腸閉塞手術,62歳,心筋梗塞,肺気腫

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:4年前に胃癌(胃体上部3型進行胃癌および体中部1型早期胃癌)に対しD2郭清を伴う胃全摘術を施行した.術前腫瘍マーカー(CEA 2.8 ng/ml,CA19-9 6.3 U/ml)は正常範囲内で術前CTや術中所見では明らかな遠隔転移は認めなかった.病理組織学的検査所見では体上部は中分化型腺癌,T3(SS),ly0,v2で体中部1型は高分化型腺癌,T1b(SM),ly0,v0で,N2(No. 3,7に転移あり),stage IIIAであった(Fig. 1).術後は補助化学療法としてS-1(100 mg/body)の投与を1年間施行した.その後定期的に外来通院し3か月毎の診察と腫瘍マーカーの測定,6か月後毎の造影CTで経過観察していたが,術後4年目のCTで膵体部背側の脾静脈に1.5 cmの陰影欠損が出現した(Fig. 2).術後4年7か月では門脈本幹にまで進展した.FDG-PETで脾静脈陰影欠損の近傍の膵体部に異常集積あり(Fig. 3),腫瘍性病変を疑い,手術目的で入院となった.

Fig. 1 

The macroscopic findings of the resected specimen show two tumors. One is a type 3 cancer in the lesser curvature of the upper part of the stomach (arrow) and the other is a IIc type cancer of the middle part of the stomach (arrowhead).

Fig. 2 

Abdominal contrast-enhanced CT scan reveals a 1.5 cm thrombus (arrow) in the splenic vein.

Fig. 3 

FDG-PET shows an increased focal uptake of 18-FDG at the pancreas body (arrow).

入院時現症:腹部平坦.軟.腹部腫瘤触知せず.

血液検査所見:CEA 2.4 ng/ml,CA19-9 4.5 U/mlと正常範囲内で,DUPAN-2,SPAN-1も正常範囲内であった.

腹部造影CT所見:脾静脈から進展した陰影欠損が門脈本幹に進展していたがFDG-PETで異常集積を示した膵体部には腫瘍影を指摘できなかった(Fig. 4).それ以外の臓器には所見を認めなかった.

Fig. 4 

Abdominal contrast-enhanced CT scan revealed a thrombus in the portal vein (arrow). Tumor was not detected at the pancreas body (arrowhead).

MRCP所見:膵体部での主膵管の狭小化と尾側膵管の軽度の拡張を認めた(Fig. 5).

Fig. 5 

MRCP showed stricture of the main pancreatic duct at the pancreas body (arrow).

体外式腹部超音波検査所見:胃全摘術後で膵臓は描出不能で門脈の陰影欠損のみが描出された.

胃全摘後でEUSは施行不能であった.

以上より,CT,MRIでは指摘できないがFDG-PETで膵体部に異常集積を認めることから膵体部の腫瘍性病変の存在を疑うこと,また脾静脈の陰影欠損は今回のFDG-PETで異常集積を呈した膵体部の近傍に出現し経時的に門脈本幹まで進展していること,膵体部での主膵管の狭窄像を認めること,より門脈内腫瘍塞栓を伴った膵癌を第一に考えたが,リンパ節転移を伴った進行胃癌の術後であり胃癌再発(局所再発または膵転移)も否定できなかった.胃全摘術後であり超音波内視鏡などは不能で精査が困難であったことや,CTおよびFDG-PETで膵臓以外の臓器に異常を認めなかったことより手術治療を選択し,胃癌術後4年8か月で手術を施行した.

手術所見:膵体部に約3 cmの弾性硬の腫瘍を触知したが膵漿膜面には変化を認めなかった.術中超音波検査では腫瘍自体の確認は困難であったが,脾静脈から門脈にかけての腫瘍塞栓は確認できた.膵体尾部切除脾合併切除,門脈内腫瘍塞栓摘出術を施行した.

切除標本肉眼所見:膵体部に30×27×18 mmの白色充実性の腫瘍を認めた(Fig. 6).

Fig. 6 

The resected specimen showed a solid tumor (arrowheads) with portal tumor thrombus (white arrow) at pancreas body. The main pancreatic duct is not invloved by the tumor (black arrow).

病理組織学的検査所見:膵体部腫瘍の病理組織像は中分化型腺癌の所見で(Fig. 7),前回の胃体上部の進行癌の組織型と一致した.腫瘍の中心には主膵管が存在したが主膵管には悪性所見を認めなかった.以上より,胃癌膵転移と診断した.また,腹腔動脈周囲神経叢に浸潤を認め,ly0,v1,ne3,N0であった.補助診断として免疫染色検査を施行した.胃癌組織と膵腫瘍組織の染色パターンが一致していた(CK7(+),CK20(–),villin(+),CDX2(–),CA19-9(–),AFP(–)).

Fig. 7 

Histological examination of the pancreatic tumor showed moderately differentiated adenocarcinoma (a) compatible with pancreatic metastasis from gastric cancer (b) (HE stain a/b: ×100/×100), immunostaining for cytokeratin 7 was strongly expressed in pancreatic tumor (c) and gastric cancer (d) (c/d: ×20/×20).

術後経過:術後は呼吸不全とgrade Aの膵瘻を認めたが改善し12PODで退院した.

術後S-1(100 mg/body)による補助化学療法を施行し,術後7か月経過しているが再発なく生存中である.

考察

転移性膵腫瘍は剖検例では膵悪性腫瘍の3~12%に認め3),臨床では4~17%と報告にばらつきがある1)4)5).胃癌の膵転移は剖検例では12~20%と比較的高率であるにもかかわらず1)2),切除例を集計した報告では胃原発は極めてまれであり,原発巣として挙げられる臓器としては腎臓,肺,卵巣,乳腺などであった6)~8).剖検例で比較的多い胃癌からの膵転移が,外科的治療の集計報告では認められない理由として膵臓は胃癌の転移臓器としてはまれではないが切除対象となるような単独転移が極めてまれであることが考えられる.胃癌膵転移に対する切除の報告は症例報告が散見されるのみであり,医学中央雑誌で「胃癌」,「膵転移」のキーワードで1985年~2013年まで検索したところ本邦では自験例を含め6例のみであった(Table 19)~13).平均年齢69歳(50~77歳).男性5例,女性1例.転移時期は異時性5例,同時性1例であった.異時性症例では原発手術から転移までの時期は平均3.4年(1~8年)であった.残胃癌が原発であった症例9)以外はリンパ節転移を伴う進行癌であった.小塚ら14)は膵臓への転移経路として1)近接臓器からの連続的波及,2)膵周囲リンパ節へのリンパ行性転移を経て膵実質に進入,3)癌性腹膜炎,4)血行性転移を挙げているが,自験例を含め5例でリンパ節転移を認めていることから転移の機序としてはリンパ行性の可能性が高いと考えられた.

Table 1  Reported cases of pancreatic metastasis from gastric cancer in Japan
No Author Year Age/Gender Primary gastric cancer Pancreatic metastasis Sugery Recurrence Prognosis
Depth n Histology Duration Size (cm) Location
1 Kondo9) 2007 72/M SS (–) mod 7M 3 body PS+patial duodenctomy liver, local, lung 72M dead
2 Hashimoto10) 2007 77/M SE (+) ud 10M 6 tail PS+colectomy local 14M alive
3 Teshima11) 2008 68/M SS (+) mod synchronous 1.5 tail total gastrectomy+PS none 14M alive
4 Nakae12) 2010 50/F MP (+) mod 12M 1.4 head partial resection none 48M alive
5 Matsumoto13) 2012 72/M SS (+) por 46M 3 tail PS none 12M alive
6 Our case 75/M SS (+) mod 48M 3 body PS+tumor thrombectomy none 7M alive

mod: moderately differentiated adenocarcinoma, ud: undefferentiated adenocarcinoma, por: poorly differentiated adenocarcinoma, PS: distal pancreatectomy with splenectomy

術前の画像所見については同時性転移症例11)と自験例を除く4例はCTでlow densityとして描出された.MRIについては記載が明らかなものは2例のみであった9)10).Tsitouridisら15)は転移性膵腫瘍のCTとMRI所見について原発巣と同様の画像所見を呈し,造影パターンが診断に有用であり,造影効果がないまたは乏しい原発性膵癌との鑑別が可能としている.一方Merkleら16)は転移と他の膵病変を鑑別する特異的な画像所見はなく,CTガイドによる穿刺吸引生検を推奨している.自験例を含む6例の術前診断は膵転移と原発性膵癌,リンパ節転移,膵管内乳頭粘液腺癌などの鑑別が困難で,膵転移と術前に確定した症例はなかった.同時性症例を除く5例では画像確認から手術治療までの平均期間は9.6か月(1~22か月)と経過観察をおいており発見時の画像所見のみでは診断が困難で腫瘍増大を確認してから手術治療を行う症例がほとんどであった.穿刺吸引生検が施行された症例はなかった.自験例では膵実質にCT,MRIで腫瘍を指摘できず,脾静脈から門脈本幹に進展する陰影欠損のみが術前指摘できた所見であった.FDG-PETで脾静脈陰影欠損部近傍の膵体部が陽性となったため,初めて膵腫瘍の存在を疑った.術前腫瘍を画像で指摘できなかったが,retrospectiveに再検討すると腫瘍が存在した部位と他の膵実質のCT値は同様であったが,腫瘍の存在部位には膵臓の分葉状構造の消失を伴った膵体部の限局的肥厚を認めた.また,腹腔動脈にむかって蟹の爪様に伸びる軟部組織陰影の増強は神経周囲浸潤として矛盾しない画像所見であった.画像読影の際にCTのdensityの違いだけでなく,周囲構造の変化の読影にも留意すべきであった.MRCPでは膵体部の主膵管に軽度の狭窄像を認めたが膵転移に特異的な所見ではなく膵癌との鑑別は困難であった.胃全摘術後で体外式腹部超音波検査でも腸管ガスなどで膵臓の描出は不能で,超音波内視鏡も不能であった.得られた画像所見より第一に膵癌の門脈内腫瘍塞栓を疑ったが胃癌の既往もあることから胃癌膵転移も否定できないと考え,診断と治療を兼ねて手術を施行した.

転移性膵腫瘍に対する手術適応で明確なものはないが,膵臓以外に転移を認めず根治術が施行可能であれば積極的に手術を推奨している報告が多い6)~8)17).胃癌膵転移においては術前診断が困難なことが多く,自験例や他の報告例のように原発性膵癌など他の膵腫瘍との鑑別が不能で診断的治療目的で手術が施行されることが多いと考えられる.

胃癌転移性膵腫瘍6例の局在は頭部1例,体部2例,尾部3例であった.全例単発例で多発例はなかった.腫瘍の大きさは平均約3 cm(1.4~6 cm)であった.2例に他臓器浸潤あり(横行結腸1例,十二指腸1例),門脈腫瘍塞栓を伴うものは自験例のみであった.転移性膵腫瘍に対する術式については術後合併症や局所再発の観点から,非定型的な手術よりも定型的な膵切除が望ましいとされており6),胃癌膵転移6例の術式については,膵頭部の転移に対し非定型的な部分切除を施行した1例12)を除いて全例膵体尾部切除脾合併切除術が施行されている.また,門脈内腫瘍塞栓を伴い,摘出を施行した症例は自験例のみであっ‍た.

病理組織学的診断は全例胃癌との組織像の比較でなされていた.自験例では免疫染色検査を施行し染色パターンが原発巣と同一であることを確認し補助診断とした.免疫染色検査を施行した例は自験例以外には1例のみ13)であった.

転移性膵腫瘍の予後についてはCrippaら6)が文献的考察も含めて詳細に検討している.原発臓器として腎と腎以外の臓器を比較検討すると腎原発の場合の膵転移切除後の中間生存期間は40か月に対し,腎以外では23か月で,腎原発の膵転移のほうが切除後の予後が良好であると報告している.Konstantinidisら8)も腎が原発の場合,予後良好と報告している.またZgraggenら7)は原発巣切除から膵転移発症までの期間が長期な場合に予後が期待できるとしている.自験例を含む胃癌膵転移6例のなかでは膵転移術後6年と長期生存を得ている症例もあるが,症例数が少なく,経過観察期間が短期の症例が多く予後についての評価は困難である.今後の症例の蓄積を待ちたい.自験例も原発巣切除から膵転移までの期間が4年と長期であるが今後も再発についての十分な注意が必要と考えている.

利益相反:なし

文献
 

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