日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
Mesodiverticular bandによる内ヘルニアが起因となったMeckel憩室茎捻転の1例
松本 敏文平下 禎二郎原 貴生久保 信英廣重 彰二折田 博之
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2014 年 47 巻 12 号 p. 783-789

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Abstract

症例は34歳の男性で,突然の臍周囲痛を主訴に当科受診した.右下腹部に圧痛と筋性防御を認め,腹部CTで臍部右側に鏡面像を有する5 cm大の液体貯留像を認めた.腹腔内膿瘍もしくは小腸の絞扼を疑い緊急開腹手術を施行した.手術所見ではバウヒン弁から90 cmの回腸腸間膜対側に存在する憩室の頂部に索状物を有し,腸間膜とブリッジを形成し口側小腸が内ヘルニアを形成していた.索状物を切離すると内ヘルニアは容易に解除でき憩室のみが基部で捻転し壊死に陥っていたために,憩室を含む回腸部分切除を施行した.病理組織学的には真性憩室でMeckel憩室と診断し,索状物はmesodiverticular bandと判断した.Mesodiverticular bandによる内ヘルニアが起因となり嵌入する小腸に伴ってMeckel憩室茎捻転を来した1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

はじめに

Meckel憩室は,胎生期の卵黄腸管の遺残による先天性の消化管奇形である1).Meckel憩室の合併症としては腸閉塞,憩室炎,出血などが知られている2)3)が,憩室捻転の頻度は少なく中でも憩室の基部で捻転する茎捻転の報告は少ない.今回,我々はMeckel憩室頂部のmesodiverticular bandにより生じた内ヘルニアに伴ってMeckel憩室茎捻転を来した1例を経験したので文献的報告を加えて報告する.

症例

患者:34歳,男性

主訴:臍周囲痛

既往歴:25歳時,虫垂切除術

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2012年6月に,突然の臍周囲の痛みを自覚し,当科受診した.

入院時現症:身長173 cm,体重69 kg,体温36.4°C,血圧113/73 mmHg,脈拍62回/分.腹部は平坦で臍周囲部から右下腹部に圧痛と筋性防御を認めたが,腸雑音は正常であった.

入院時血液検査所見:白血球数11,820/μl,CRP 0.03 mg/dlと炎症反応は軽度であった.貧血,肝・腎機能異常を認めなかった.

腹部CT所見:臍部右側の腹腔内に径5 cmの鏡面像を形成する液体貯留像を認め,小腸と接していたが連続性は不明で口側小腸の拡張を認めなかった(Fig. 1).

Fig. 1 

a; horizontal images, b; cranial images. Abdominal CT scan shows an encapsulated fluid collection with internal gas without a whirl sign of the mesenterium (arrows).

以上より,腹腔内膿瘍もしくは小腸の限局的な絞扼を疑い緊急開腹手術を施行した.

手術所見:開腹すると腹腔内に少量の黄色漿液性腹水を認めた.下部小腸がやや拡張し,比較的太い捻じれた索状物で内ヘルニアを形成していたが血流障害の所見は認めなかった(Fig. 2).索状物をたどると憩室頂部に達し憩室全体が約360°時計方向に捻転しうっ血,壊死の状態にあった(Fig. 3).捻転を解除し索状物を結紮切離すると内ヘルニアは容易に解除でき,バウヒン弁から90 cmの回腸腸間膜対側に形成されたMeckel憩室が茎捻転していたことが判明した(Fig. 4).基部まで壊死になっていたため憩室を含む回腸部分切除を施行した.摘出した憩室は7.5×4.5 cmの大きさであった.

Fig. 2 

Operative findings. An internal hernia is created by the cord between the mesenterium and diverticulum.

Fig. 3 

Schema. Meckel’s diverticulum is twisted at its neck (black arrow) accompanied with trapping of the ileum under mesodiverticular band (gray arrow).

Fig. 4 

The diverticulum is necrotic.

病理組織学的検査所見:腸間膜対側に存在する粘膜と固有筋層を有する真性憩室でMeckel憩室と確定診断した.全層にわたって壊死を来していたが異所性組織を認めなかった.

術後経過:経過は順調で術後7日目に退院した.

考察

Meckel憩室は1598年のFabricius Hidanusによる記述が最初で1809年にその発生起源を最初に発表したドイツの解剖学者Johann Friedrich Meckelに因んで命名された1).その頻度は剖険症例の検討から全人口の約1~3%でほとんどは発見されることなく無症状で経過する.症状を伴う合併症の発生率は4.2%と低くその発生頻度は年齢とともに減少するといわれている2).Meckel憩室の合併症はその病態生理から,①解剖学的変異にともなうもの,②憩室内に迷入した組織によるもの,③憩室内に新たに発生した病変によるもの,の三つがある.合併症の頻度としては,出血,穿孔,腸閉塞,憩室炎などが多く報告され,欧米では憩室内に迷入した異所性胃粘膜からの潰瘍による出血が多いが本邦では腸閉塞の頻度が高い4)5).Meckel憩室に起因した腸閉塞の原因は,Rutherfordら6)の検討が有名である.①卵黄臍管遺残による索状物を起因とするvolvulus,②憩室を先進部とした腸重積,③mesodiverticular bandによる絞扼,④憩室炎による癒着,⑤ヘルニア囊内への憩室の嵌頓(Litteres hernia)の五つに分類しており,このうち本邦ではmesodiverticular bandによる絞扼が原因とした腸閉塞が多いとされる7)

本邦におけるMeckel憩室の集計報告4)5)によると,捻転の発生頻度は約3%で合併症の中では比較的少ない.捻転の機序は憩室付着部を中心に回腸が捻転を起こす,“いわゆる軸捻転”と,憩室自体が頸部で捻転を起こす,“いわゆる茎捻転”とがある.いずれの機序も報告例の多くが大きな憩室であり,憩室の長軸を中心に捻じれた憩室そのものの捻転を軸捻転として報告しているものもある.Yamaguchiら5)は本邦19例を集計し発生率を3.2%と報告しているが,ほとんどが憩室付着部を中心に小腸が捻転したもの(軸捻転)であった.我々が1983年~2012年12月の間で,医学中央雑誌で「Meckel憩室」,「捻転」のキーワードで検索しえたかぎりで自験例を含めて憩室単独の茎捻転の報告は28例であった(Table 18)~33).男女比は23:5と男性に多く平均年齢は25.2歳(3~77歳)で,回腸末端からMeckel憩室までの平均距離は63.9 cm(30~100 cm)であった.憩室の大きさは平均8.8×4.7 cm(長径:6~14.2 cm)で,索状物や癒着を有するものは11例(39%)であった.茎捻転の機序に関して,福田ら14)の検討では索状物や癒着によりブリッジを形成することから生じるものと憩室頸部が自然に捻転して起こるものとがあると報告している.さらに,頸部で捻転した憩室は長径が6 cm以上あり,長さに比較して頸部が狭小であることを特徴としている.しかし,今回の検討では索状物や癒着がなく憩室自体が単独で捻転した17例(61%)の基部径は2~10 cm(平均4.7 cm)と多様であることから,茎捻転の第一要因は憩室そのものの大きさであると思われた.

Table 1  Reported cases of Meckel’s diverticulum with torsion in Japanese literatures
No. Author Year Age Sex Preoperative diagnosis Distance from the
ileal end (cm)
Size (cm) Torsion Band or Cord Internal hernia Operation
Direction Degrees
1 Nagasima8) 1985 17 M Strangulation ileus 80 11×10 counterclockwise 360° Diverticulectomy
2 Nakata9) 1986 77 F NS 60 ND clockwise 360° + + Ileal resection
3 Nakano10) 1987 3 M Acute peritonitis 35 12×6 ND 540° Ileal resection
4 Tsushima11) 1988 19 F Acute appendicitis 50 11×3 counterclockwise 540° Diverticulectomy
5 Kimura12) 1991 27 M Perforated appendicitis 40 7×2 counterclockwise 360° + + Diverticulectomy
6 Morikane13) 1993 4 M Acute appendicitis 80 6×3 ND 360° Ileal resection
7 Fukuda14) 1995 32 M Acute peritonitis 50 8.5×5 clockwise 360° Ileal resection
8 Kitahara15) 1995 38 M Acute appendicitis or Strangulation ileus 80 16×4 clockwise 1080° Ileal resection
9 Sekiyama16) 1997 64 M Adhesional ileus 45 8×6 clockwise 540° Ileal resection
10 Hayashi17) 1997 21 F Strangulation ileus 70 8.5 ND 540° + + Diverticulectomy
11 Matsutomo18) 1998 35 M Perforated appendicitis 50 7×4 counterclockwise 360° Diverticulectomy
12 Tokuka19) 1999 17 M Acute appendicitis or Strangulation ileus 80 8×1.5 counterclockwise 180° (Adhesion) + Ileal resection
13 Ando20) 2001 7 M Acute appendicitis 70 9×5 clockwise 360° Diverticulectomy
14 Miyamoto21) 2001 20 M Acute peritonitis 70 14.2×7.8 clockwise 360° + Diverticulectomy
15 Kii22) 2001 23 M Strangulation ileus 60 6 ND 360° (Adhesion) Diverticulectomy
16 Waku23) 2002 25 M Strangulation ileus or Intussusception 100 9×4 counterclockwise 360° Diverticulectomy
17 Waku23) 2002 24 M Strangulation ileus 75 10×4 clockwise 360° Diverticulectomy
18 Sato24) 2004 34 F Ileus 50 ND clockwise 360° + Ileal resection
19 Ando25) 2005 9 M Ileus 60 6.5×5 ND ND + Ileal resection
20 Kajiwara26) 2007 7 M Strangulation ileus 40 10×2 ND ND Diverticulectomy
21 Ogata27) 2008 6 M Strangulation ileus 60 9×6 clockwise 360° Diverticulectomy
22 Okuma28) 2008 15 M Acute appendicitis 100 11.5×3.2 ND ND + Diverticulectomy
23 Kusumoto29) 2008 36 M Ovarian cyst torsion 70 5 ND 270° + Ileal resection
24 Yasuda30) 2009 47 F Strangulation ileus by Meckel’s diverticulum 70 5.4×6.8 ND 720° Diverticulectomy
25 Takata31) 2010 11 M Perforated appendicitis 30 6.2×3.6 ND 180° Ileal resection
26 Hiraki32) 2012 49 M Ileus 75 11×10 counterclockwise 360° Diverticulectomy
27 Mitani33) 2012 4 M Perforated appendicitis 50 6×2 ND 540° Diverticulectomy
28 Our case 34 M Intraabdominal abscess or Strangulation ileus 90 7.5×4.5 clockwise 360° + + Ileal resection

ND; not described

Meckel憩室頂部に付着する索状物としてのmesodiverticular bandは卵黄動静脈および臍腸間膜の遺残物である.Rutherfordら6)によれば胎生期の卵黄腸管は大動脈から分岐した左右の卵黄動脈に栄養されるが,胎生期8週頃までに右側は上腸間膜動脈となり左側は卵黄腸管とともに退縮する.しかし,その末梢が遺残する場合,mesodiverticular bandとなることを示している.組織学的に索状物内に血管構造の遺残を確認できればmesodiverticular bandと証明できるが,結合織のみであったとの報告もある30).本症例は組織学的に血管構造を証明していないが,憩室の頂部から連なる比較的太い索状物であったことからmesodiverticular bandと診断した.このbandによるブリッジに口側回腸が嵌入し,憩室がその嵌入に伴い捻転していったものと推察され,この機序による茎捻転は28例中4例のみであった.本症例以外は腹痛が主訴であるものの腸閉塞症状が出現した1~2日後に受診し緊急手術となっている.このbandによるブリッジから形成されるヘルニア門が比較的大きかったことから,陥入した小腸自体は緊縛されずに小腸の陥入に伴いMeckel憩室が徐々に捻転していった結果,壊死となり症状の増悪がじゃっ起されたと考えられる.

若年者での急性腹症の原因としてMeckel憩室は念頭に置くべき疾患であるが,Meckel憩室による合併症を術前に診断することは困難である.茎捻転28例中,術前にMeckel憩室の存在を指摘できたのは1例のみであり,特に捻転を来した場合には病状が急激に進行することから穿孔性虫垂炎や絞扼性イレウスの術前診断で緊急手術を施行されていた.本症例も以前に虫垂切除術を受けていたことからCT所見から腹腔内膿瘍もしくは小腸の限局的な絞扼を疑い緊急手術を選択した.最近はMeckel憩室の診断治療の目的に腹腔鏡が有用であるとの報告34)もなされ,腸閉塞症状があったとしても十分に腸管の減圧が得られ,画像所見などから責任病巣がある程度推定できるのであれば腹腔鏡下手術は適応になるとしている.原因不明の限局した腸管の拡張のみであればMeckel憩室を念頭に腹腔鏡下手術の意義は高まるものと思われ,症例の蓄積が望まれる.

茎捻転を来したMeckel憩室の治療の基本は外科的切除であると思われる.自験例では憩室基部まで壊死を認めたため憩室を含めた回腸部分切除を施行したが,壊死が憩室基部に及んでいなければ憩室のみの切除でよいとされる.茎捻転の報告28例中,憩室のみを切除したものは15例(54%)であった.しかし,Meckel憩室においては異所性胃粘膜による潰瘍発生が回腸との境界に多いとされることから楔状に切除することが推奨されている4).したがって,茎捻転の場合でも安易に自動縫合器による憩室基部での切除に関しては注意を要すると思われる.

利益相反:なし

文献
 

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