抄録
症例は57歳の男性で,2007年9月,閉塞性黄疸で当院紹介,MDCTで膵頭部に境界不明瞭な腫瘍を認めた.ERCPで下部胆管の狭窄を認め,生検で腺癌と診断した.MDCT動脈相早期のvolume rendering再構築画像では,総肝動脈(common hepatic artery;以下,CHAと略記)が上腸間膜動脈と共通幹を形成するhepatomesenteric typeの分岐異常が存在し,膵頭部背側から頭側へ走行するCHAおよび門脈への浸潤を疑った.膵頭十二指腸切除,CHA・門脈合併切除再建を施行した.左胃動脈下行枝と固有肝動脈を端々吻合し再建した.病理組織学的検査ではpPV(+),pA(–)の膵癌T4N1M0 Stage IVaであった.S-1による補助化学療法を半年間行い,術後5年現在無再発生存中である.CHAに浸潤する膵頭部癌は標準的には手術適応外とされるが,本例は解剖学的走行変異に起因する動脈周囲浸潤であり,血行再建を伴う根治切除術を行い長期生存を得た.