2014 年 47 巻 9 号 p. 499-507
造影効果のある壁在結節を有する肝囊胞は,粘液性囊胞性腫瘍との鑑別が困難とされている.今回,我々はdynamic studyで壁在結節が特徴的な造影パターンを呈した出血性肝囊胞の3切除例を経験した.いずれも,MRI T1強調像高信号の囊胞内容,T2 star強調像での壁在結節内部の著明な低信号域,壁在結節の超音波,MRI所見とCT所見との乖離を認め,出血性肝囊胞を示唆する所見であったが,壁在結節内部にdynamic study早期相での点状濃染と後期相における造影範囲の遅延性拡大を認めた.粘液性囊胞性腫瘍の可能性を否定できず手術を施行したが,病理組織学的検査では3例とも壁在結節は凝血塊成分と新生血管の増生を伴う肉芽組織で構成されていた.Dynamic studyにおける所見は,肉芽組織内の新生血管から周囲間質への造影剤移行を反映したものと考えられ,本疾患に特徴的な所見である可能性が示唆された.
造影効果を伴う壁在結節を有する肝囊胞は,粘液性囊胞性腫瘍(mucinous cystic neoplasm;以下,MCNと略記)との鑑別が困難と報告されている1)~8).今回,我々はdynamic studyにおいて,壁在結節が特徴的な造影パターンを呈した出血性肝囊胞の3切除例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
症例1:65歳,女性
主訴:特になし.
現病歴:1997年頃より単純性肝囊胞の診断で経過観察されていた.2007年,腹部USで,肝囊胞内に壁在結節を指摘され,精査加療目的に当科紹介となった.
入院時現症:身長149 cm,体重53 kg.腹部平坦,軟.
血液生化学検査所見:貧血なく,肝機能正常.CEA 5.1 ng/ml(基準値3.4 ng/ml以下),CA19-9 5.1 U/ml(基準値37.0 U/ml以下).
腹部US所見:肝S4から前区域にかけて,径8 cm大の内部均一な低エコーの囊胞性腫瘤を認めた.囊胞背側壁に径10 mm大の結節を認めた(Fig. 1A).

Images obtained in case 1. (A) The ultrasound (US) image shows the mural nodule in the cystic mass (arrow, arrowhead). (B, C) The cystic fluid has hyperintensity on T1-weighted magnetic resonance imaging (T1-WI) (B) and strong hyperintensity on T2 weighted magnetic resonance imaging (T2-WI) (C) (arrows, arrowheads). The mural nodule shows hypointensity in T1-WI (B, arrowhead) and T2-WI (C, arrowhead). (D–G) Dynamic CT during hepatic arteriography (CTHA) (D, E) and T1-WI (F, G) show focal enhancement during the early phase (D, F), coupled with progressive centrifugal enhancement during the delayed phase (E, G) in the mural nodules (arrows). Arrowhead indicates the foci of hemorrhage. The insets show the magnified images of the enhanced mural nodules (D–G). (F) Gross specimens of the resected cystic lesions containing mural nodules (arrow) and blood clots (arrowhead).
腹部CT所見:肝S4から前区域にかけて径85 mm大の分葉状の囊胞性腫瘤を認めた.囊胞背側壁には内容液より高濃度を呈する境界不明瞭な結節陰影を認めた.CT during hepatic arteriography(以下,CTHAと略記)において,結節内部では早期相で点状の造影効果(Fig. 1D)を認め,後期相で造影効果が経時的に拡大する所見を認めた(Fig. 1E).
腹部MRI所見:囊胞内部はT1強調像(以下,T1WIと略記)で肝臓よりやや低信号(Fig. 1B),T2強調像(以下,T2WIと略記)で著明な高信号を呈し(Fig. 1C),血液もしくは蛋白成分を含んだ内容液と考えられた.また,T1WI,T2WI,ともに低信号を呈する径10 mm大の壁在結節を認めた(Fig. 1B, C).ガドリニウム(以下,Gdと略記)造影によるdynamic studyでは,結節内部に微小な造影効果を認め,遅延性に周囲に拡大する所見が認められた(Fig. 1F, G).
治療経過:以上の画像検査所見は出血性肝囊胞を示唆する所見であったが,壁在結節の一部に造影効果を認めたことから,肝MCNの可能性を否定できず,経皮経肝門脈塞栓術後に肝右三区域切除術を施行した.術後経過は良好で術後15日目に退院となった.
切除標本肉眼所見:血液成分を含んだ囊胞内容液と,凝血塊を伴う壁在結節を認めた(Fig. 1H).凝血塊を含む結節の最大径は11 mmであった.
病理組織学的検査所見:囊胞内腔は胆管上皮類似の一層の立方上ないしは扁平な上皮で覆われており,部分的に上皮が脱落して線維化を伴っていた.壁在結節は凝血塊成分と新生血管の増生を伴う肉芽組織からなっており,結節内部にヘモジデリン沈着を認めた(Fig. 2D, Berlin blue stain).悪性所見はなく,出血性肝囊胞と診断された.

Histological findings for the mural nodules (A, D: Case 1, B, E: Case 2, C, F: Case 3, A–C: hematoxylin-eosin stain, D–F: Berlin blue stain). Histological examination revealed that the mural nodules consisted of fibrous tissue with vascularization (arrows). Note the hemosiderin deposition as blue particles in the mural nodules (D–F). No evidence of malignancy was seen in the mural nodules or cystic wall.
症例2:69歳,女性
主訴:心窩部痛
現病歴:心窩部痛を主訴に近医を受診し,壁在結節を伴う肝囊胞性病変を認め,精査加療目的に当院紹介となった.
入院時現症:身長154 cm,体重71 kg.腹部平坦,軟.右季肋部に圧痛を認めた.
血液生化学検査所見:貧血なく,肝機能正常.CEA 2.2 ng/ml,CA19-9 0.6 U/ml.
腹部US所見:肝S4に径10 cm大の囊胞性腫瘤を認めた.囊胞内背側に11 mm大の壁在結節と隔壁様構造を認めた(Fig. 3A).

Images obtained in case 2. (A) US image shows the mural nodule in the cystic mass (arrow). (B, C) The cystic fluid has high intensity in T1-WI (B) and strong high intensity on T2-WI (C). The mural nodule shows hypointensity on T1-WI (B, arrow) and T2-WI (C, arrow). (D) T2 star-weighted sequences reveal extreme hypointense areas in the mural nodules (arrow). Arrowhead indicates the blood clots (B–D, G, H arrowhead). (E–H) Dynamic CTHA (E, F) and T1-WI (G, H) show focal enhancement during the early phase (E, G), coupled with progressive centrifugal enhancement during the delayed phase (F, H) in the mural nodules (arrows). The insets show the magnified images of the enhanced mural nodules (E–H). (G) Gross specimens of the resected cystic lesions containing mural nodules (arrow). Arrowheads indicate the blood clots.
腹部CT所見:肝S4に径10 cm大の境界明瞭な囊胞性腫瘤を認めた.内部濃度は水濃度より軽度上昇しており,囊胞壁の一部に径8 mmの結節状の高濃度域を認めた.CTHAでは壁在結節および隔壁様構造の一部に早期相で点状の造影効果を示し(Fig. 3E),後期相で経時的に拡大する造影効果を示した(Fig. 3F).
腹部MRI所見:囊胞内部はT1WI,T2WIとも高信号を呈し(Fig. 3B, C),血液または蛋白成分の内容物が疑われた.囊胞内部背内側に径12 mmの壁在結節とそこから連続する隔壁様構造を認め,さらにそれに沿って付着する小結節を認めた(Fig. 3B, C).T2 star強調像では,小結節は低信号を呈し,ヘモジデリンの沈着が疑われた(Fig. 3D).Gd造影によるdynamic studyでは,この小結節に造影効果は認めず,壁在結節に連続する隔壁様構造に点状の造影効果を認め(Fig. 3G),遅延性に拡大する所見を認めた(Fig. 3H).
治療経過:以上画像検査所見は出血性肝囊胞を示唆する所見であったが,壁在結節の一部に造影効果を認めたことから,肝MCNの可能性を否定できず,肝部分切除術(S4+S8腹側区域切除術)を施行した.術後経過はおおむね良好であったが,創部痛の遷延と本人の希望により入院期間はやや長期となり,術後23日目に退院となった.
切除標本肉眼所見:囊胞内容液は血液成分を含んでおり,内腔面には不規則な梁形成を認めた.この一部には凝血塊を伴う炎症性肉芽を認めた(Fig. 3I).
病理組織学的検査所見:囊胞内腔面はほぼ炎症性肉芽で覆われており,所々異型の乏しい一層の立方上皮で裏打ちされていた.壁在結節は凝血塊成分と新生血管の増生を伴う肉芽組織からなっており,結節内部にヘモジデリン沈着を認めた(Fig. 2E, Berlin blue stain).悪性所見はなく,出血性肝囊胞と診断された.
症例3:69歳,女性
主訴:特になし.
現病歴:2002年頃より肝囊胞を指摘され経過観察となっていた.2012年,肝囊胞に壁在結節を指摘され当科紹介となった.
入院時現症:身長150 cm,体重54 kg.腹部は平坦,軟.
血液生化学検査所見:貧血なく,肝機能正常.CEA 2.3 ng/ml,CA19-9 15.1 U/l.
腹部US所見:肝右葉に径15 cm大の囊胞性病変を認めた.囊胞腹側壁に径40 mm大の壁在結節を認めた(Fig. 4A).

Images obtained in case 3. (A) US image shows the mural nodule in the cystic mass (arrowheads). (B, C) The cystic fluid has high intensity in T1-WI (B) and strong high intensity on T2-WI (C). The mural nodule shows hypointensity in T1-WI (B, arrowheads) and mosaic heterogeneous hyperintensity in T2-WI (C, arrowheads). (D) T2 star-weighted sequences reveal extreme hypointense areas in the mural nodules (arrow). (E–H) Dynamic CT (E, F) and dynamic T1-WI (G, H) show focal enhancement during the early phase (E, G, arrows), coupled with progressive centrifugal enhancement during the delayed phase (F, H, arrows) in the mural nodules (arrows). The insets show the magnified images of the enhanced mural nodules (E–H). Non-enhanced lesion is seen around the mural nodule (G, H, arrowheads). (I) Gross specimens of the resected cystic lesions containing mural nodules (arrowheads).
腹部CT所見:肝右葉に径17 cm大の囊胞性病変を認め,囊胞内は水濃度よりやや高濃度であった.囊胞壁腹側に内腔へ隆起する径約10 mm大の境界不明瞭な結節性病変を認めた.造影CTにおいて,この結節内部では早期相で点状の造影効果を示し(Fig. 4E),後期相で経時的に造影効果が周囲に拡大する像を示した(Fig. 4F).
腹部MRI所見:囊胞内部はT1WIおよびT2WIとも高信号を示した.囊胞腹側壁に,CTで描出された結節よりも明らかに大きな径45 mm大の壁在結節が描出され,T1WIおよびT2WIで不均一な低信号を呈した(Fig. 4B, C).T2 star強調像にて,結節内部に著明な低信号域を認め,ヘモジデリンの沈着が疑われた(Fig. 4D).Gd造影によるdynamic studyでは,結節の大部分には造影効果を認めなかったが,基部において早期相で点状の造影効果を示し(Fig. 4G),遅延相で経時的に造影効果が周囲に拡大する像を示した(Fig. 4H).
治療経過:以上画像検査所見は出血性肝囊胞を示唆する所見であったが,壁在結節の一部に造影効果を認めたことから,肝MCNの可能性を否定できず,肝拡大右葉切除術を施行した.術後経過は良好で術後14日目に退院となった.
切除標本肉眼所見:血液成分を含んだ囊胞内容液を認め,囊胞内腔の腹側壁には最大径6 cmの分葉状発育を示す隆起性結節を認めた(Fig. 4I).
病理組織学的検査所見:囊胞壁は硝子化した線維性結合組織からなり,内腔側は被覆上皮を欠き,組織球の集簇を伴う肉芽組織の形成を認めた.壁在結節は凝血塊成分と,新生血管の増生を伴う肉芽組織からなっており,結節内部にヘモジデリン沈着を認めた(Fig. 2F, Berlin blue stain).悪性所見はなく,出血性肝囊胞と診断された.
出血性肝囊胞の頻度は肝囊胞の10%以下9)とされており,囊胞内圧の上昇に伴う壁の破綻が原因の一つと考えられている10).画像所見上,凝血塊や肉芽組織が壁在結節,囊胞壁肥厚像,あるいは隔壁様構造として描出されることがあるため11),MCNとの鑑別が問題となる.特に,壁在結節に造影効果を認める場合には,両疾患の鑑別は困難とされている1)~8).
自験例では,いずれの症例も術前画像検査で,以下のような共通した画像検査所見を認めた.
①MRI T1WIにおける高信号の囊胞内容(Fig. 1B, 3B, 4B)MRI T1WIにおける高信号の囊胞内容は出血の既往を示唆する所見であると報告されている12).実際,自験例でも血液成分を含む囊胞内容液を認めた.一方,ムチンやメラニン,脂肪成分を含む場合でもT1WIで高信号として認められる13)ため,本所見が出血に特異的なものではないことに留意する必要がある.
②MRI T2 star WIにおける壁在結節内部の著明な低信号域(Fig. 3D, 4D)自験例2,3において,T2 star WIで壁在結節内部に著明な低信号域を認め,病理組織学的に同部へのヘモジデリン沈着が確認された(Fig. 2D~F).T2 star WIは,超磁性体の一つであるヘモジデリンを著明な低信号として描出するため,出血性病変の検出において最も鋭敏とされている14).
③壁在結節の描出におけるUS/MRI所見とCT所見の乖離自験例において壁在結節の画像所見と病理組織学的検査所見と比較すると,自験例1ではUSで高エコー域,MRIで低信号域として描出され,CTでは描出されなかった部分が凝血塊(Fig. 1A~C, F~I,矢頭)であった.自験例2ではMRIで描出され,CTで描出されなかった壁在結節先端に付着した結節様構造が凝血塊であった(Fig. 3B~D, G~I,矢頭).これはUSにおいても描出されなかった(Fig. 3A)が,MRI所見と摘出標本における凝血塊(Fig. 3I)とも形状が異なるため,凝血塊の形状に経時的な変化があったことが考えられる.自験例3においてはUSで低エコー域,MRI上造影されないT1WIで低信号,T2WIで不均一な高信号域として描出され,その大部分はCTでは全く確認できない壁在結節を認めた(Fig. 4A~H)が,摘出標本でこの部分は凝血塊であることが確認された(Fig. 4I).このようなUS,MRI所見とCT所見との乖離は,出血性肝囊胞に関する過去の論文でも報告されている所見11)15)~17)であり,一般に凝血塊の描出能がUS,MRIに比べCTで低いことが原因とされる.大平ら11)は,本所見が胆管囊胞腺癌との鑑別上,重要であると報告している.
④Dynamic studyにおける壁在結節の造影所見出血性肝囊胞のdynamic study所見に関しては,これまで詳細な検討はなされていない(医学中央雑誌において1983年から2012年まで「肝囊胞」,「囊胞内出血」で検索,会議録を除く).自験例では3例とも,dynamic study早期相における壁在結節内の点状濃染と,後期相での造影範囲拡大を認めた(Fig. 1D~G, 3E~H, 4E~H).これらは,病理組織学的検査所見との対比から,器質化した肉芽組織内に増生した新生血管(早期相における点状濃染)から周囲間質への造影剤移行(後期相での造影範囲の拡大)を捉えた所見と考えられた.造影範囲の遅延性拡大は,線維間質に富んだ細胞成分の少ない組織でも一般的に認められる所見である18)が,早期相での点状濃染と併せて,出血性肝囊胞に特徴的な所見である可能性が示唆された(Fig. 5).

Illustration of enhancement patterns of the mural nodule in the early phase (B) and the delayed phase (C). Note the focal enhancement during the early phase (B), coupled with progressive centrifugal enhancement during the delayed phase (C) in the mural nodules. (A) Noncontrast-enhanced CT imaging.
前記①~③の共通所見により,出血や凝血塊があることが明らかにはなるが,自験例3例全てに認められるように,CTで描出される造影効果のある壁在結節が併存している場合,MCNを否定できない.④のdynamic study早期相における壁在結節内の点状濃染と,後期相での造影範囲拡大の所見がMCNでも認められるかどうかが鑑別診断,および手術適応の決定のためには特に重要である.医学中央雑誌で1983年から2012年まで「肝」,「mucinous cystic neoplasm」,または「肝囊胞腺癌」,または「胆管囊胞腺癌」(会議録を除く)で検索したところ,造影所見の経時的変化について確認できた報告は7例あり,造影早期から腫瘍が濃染するとした報告が6例19)~24),経時的に造影効果が増強し,遷延するとした報告が1例25)であった.これらの報告では“早期相における壁在結節内の点状濃染と,後期相での造影範囲拡大”の所見は認められなかった.したがって,この所見が出血性肝囊胞に特徴的な所見である可能性が考えられる.
肝MCNにおけるdynamic studyの報告が少ないことから,“壁在結節内の点状濃染と,後期相での造影範囲拡大”の所見を根拠に悪性腫瘍を完全に否定することは現時点ではできない.しかしながら,近年のCT,MRIにおける空間分解能や高速撮影能力の向上に伴い,組織所見を反映した,結節内部の詳細な造影パターンが比較的容易に検討可能となってきており,今後“早期相における壁在結節内の点状濃染と,後期相での造影範囲拡大”の所見に注目して症例を積み重ね,この所見が真に鑑別に有用であるかどうかを検討する価値はあると考えられる.
利益相反:なし