日本消化器外科学会雑誌
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原著
大腸癌肝転移切除後無病生存の予測ノモグラムの外的妥当性の検証
奥野 将之波多野 悦朗中村 公治郎笠井 洋祐西尾 太宏瀬尾 智田浦 康二朗森 章海道 利実上本 伸二
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2014 年 47 巻 9 号 p. 467-476

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Abstract

目的:全国11施設の2000~2004年の症例を対象とした再発予測因子の検討から,大腸癌肝転移切除後の無病生存を予測するノモグラムが報告された.この外的妥当性をFOLFOXなどの新規化学療法が一般化された2005年以降の症例で検証した.方法:2005年1月から2009年11月までに当院で初回肝切除を施行した大腸癌肝転移症例50例を対象とした.結果:全切除症例の3年無病生存率は48.0%,無病生存期間は中央値25.9か月であった.Concordance index(C-index)は0.54であった.再発群(n=27)と非再発群(n=23)の比較ではスコアは平均6.96対5.26(P=0.25),スコア5点以下と6点以上の比較では無病生存期間は中央値51.2か月対21.7か月(P=0.43)と有意差を認めなかった.術前にFOLFOXまたはFOLFIRIを施行した症例を,その効果により奏効群(n=10)と非奏効群(n=14)に分けて比較すると術前スコアは平均7.40対7.92(P=0.84)と有意差を認めなかったが,3年無病生存率は70.0%対28.6%(P=0.02)と有意に奏効群で良好であった.結語:本検討から周術期補助療法施行例へのノモグラムの応用は慎重にあるべきと考えられた.周術期の新規化学療法が肝切除後の無病生存に影響している可能性があり,新たなノモグラムの必要性が示唆された.

はじめに

大腸癌における遠隔転移は肝臓に最も多く,最大25%の症例で診断時に同時性肝転移を有し,さらに25~50%で後に肝転移が出現すると報告されている1)2).肝切除は大腸癌肝転移を治癒させる可能性のある唯一の治療法であり,肝切除後の5年生存率は31~47%と報告されている3)~6).しかしながら,肝転移を有する症例のうち切除可能なものは20~30%であり7),根治的肝切除後の再発率は50%を超える5)ことから,化学療法を組み合わせた集学的治療が必要である.

近年,大腸癌化学療法の進歩により,切除可能肝転移に対する周術期化学療法が手術単独と比較して無再発生存率を改善させるといった報告や8),切除不能肝転移を切除可能とするといった報告がある9)~11).一方で肝転移に対する術前化学療法は術後合併症を増加させるとの報告もあり8),その安全性は確立しておらず,どのような症例に術前化学療法を施行するべきかについては一定の見解が得られていない.

ノモグラムは個々の症例において臨床的・腫瘍学的特徴から予測される予後を示す統計学に基づいた手法である12).2012年にBeppuら13)は当院を含む本邦11施設の2000~2004年の症例を対象とした再発予測因子の検討から,大腸癌肝転移切除後の無病生存を予測するノモグラムを報告した.これは術前の六つの患者因子(CA19-9値,肝転移の個数,肝転移の最大径,肝転移が同時性発生か異時性発生か否か,原発巣のリンパ節転移の有無,肝外転移の有無)をスコア化し,スコアに基づいて肝切除後の3年無病生存率,5年無病生存率,無病生存期間を予測するものである.このノモグラムを用いて個々の症例における再発リスクを予測し,リスクの高い症例に術前化学療法を施行するという治療戦略が考えられる.ただし,このノモグラムは対象が2004年までの症例であるため,FOLFOX療法が本邦で一般化された2005年以降の症例では適用可能か否かは明らかでない.今後このノモグラムを使用するには,その妥当性を評価する必要がある.

目的

当院における2005年以降の大腸癌肝転移に対する切除症例を用いて,このノモグラムの外的妥当性を検証する.

方法

2005年1月から2009年11月までに当院で結腸直腸癌の肝転移に対して根治的切除を受けた患者69人のうち,術中マイクロ波凝固療法を行った1例,肝転移に対する肝切除後の残肝再発の13例,評価項目のdataが不明な5例を除く50例で検討を行った.術中ラジオ波焼灼療法を行った症例は含まれていない.

ノモグラムの予後因子である肝転移出現時期,原発巣リンパ節転移の有無,肝転移個数,肝転移の最大径,肝切除時肝外転移の有無,CA19-9値および術前・術後化学療法の有無・レジメン・臨床的治療効果,再発の有無,無病生存期間,全生存期間について検討した.ノモグラムの評価項目は全て肝切除直前の画像検査・血液検査で評価し,ノモグラムを用いて予測3年無病生存率・予測5年無病生存率・予測無病生存期間を算出した.

統計解析方法に関しては,生存期間はKaplan-Meier法にて算出し,有意差検定はlog-rank検定で行った.患者背景に関して連続変数はt検定,名義変数はχ2検定にて行い,P値0.05以下を統計学的有意とした.

ノモグラムの妥当性の検証についてはcalibrationとdiscriminationを行った.Calibrationについては3年無病生存率を用いたcalibration plotおよびノモグラムスコアによって患者を複数の群に分け,無病生存期間のKaplan-Meier曲線を群間比較することで行った.DiscriminationはConcordance index(以下,C-indexと略記)を算出することで行った.C-indexはノモグラムの妥当性を評価する指標であり,ROC曲線におけるAUCと同等の意味をもつ.

統計ソフトは,JMP10.0(Cary,NC)を使用した.

結果

ノモグラム作成に用いられた症例と妥当性の検証に用いた当院の症例の患者背景をTable 1に示す.当院の症例では他臓器転移を有する症例が有意に多く,CA19-9が100 U/mlを超える症例が有意に少なかった.

Table 1  Clinical characteristics of the patient cohorts from nomogram development set and external validation set
Nomogram validation set n=727 External validation set n=50 P
Timing of metastasis, n (%) 0.13
 Metachronous (0) 359 (55.0) 33 (66.0)
 Synchronous (3) 294 (45.0) 17 (34.0)
Primary tumor LN status, n (%) 0.1
 Negative (0) 210 (32.7) 22 (44.0)
 Positive (3) 432 (67.3) 28 (56.0)
Number of tumors, n (%) 0.41
 1 (0) 321 (49.5) 28 (56.0)
 2–4 (4) 234 (36.1) 18 (36.0)
 5≤ (9) 94 (14.5) 4 (8.0)
Largest tumor diameter, n (%) 0.1
 ≤5 cm (0) 485 (75.9) 43 (86.0)
 >5 cm (2) 154 (24.1) 7 (14.0)
Extrahepatic metastatic disease, n (%) (at hepatectomy) 0.047
 No (0) 595 (90.7) 41 (82.0)
 Yes (4) 61 (9.3) 9 (18.0)
CA19-9 level, n (%) (before hepatectomy) 0.008
 ≤100 (0) 478 (75.6) 46 (92.0)
 >100 (4) 154 (24.4) 4 (8.0)

当院の全50症例の3年無病生存率は48.0%,無病生存期間の中央値は25.9か月であった.

C-indexは0.54であった.Calibration plotはノモグラムで予測される予後と実際の予後との解離の度合を示すものであり,当院の症例をノモグラムスコアに基づいて5群に分け,それぞれの群での予測3年無病生存率の平均を横軸に,実際の3年無病生存率を縦軸として描出した(Fig. 1).ノモグラムによる予測3年無病生存率が正確であればグラフ中の折れ線が青線に一致するが,折れ線は概ね青線よりも上方に位置し,全体にノモグラムの予測値よりも実際の3年無病生存率が良好である傾向にあった.また,患者を再発群と非再発群に分けて検討すると,ノモグラムの各予測因子に両群間で有意差を認めず(Table 2),ノモグラムスコアの平均は再発群で高い傾向にあったものの有意差を認めなかった(6.96±5.63対5.26±4.52,P=0.25).さらに,ノモグラムスコア5点以下の低リスク群と6点以上の高リスク群に分けて無病生存を検討したところ,低リスク群で無病生存が良好な傾向にあったものの有意差を認めなかった(中央値:51.2か月対21.7か月,3年無病生存率:53.9%対41.7%,P=0.43)(Fig. 2a).ノモグラムスコア10点以下と11点以上の2群での検討およびスコア0点・1から5点・6から10点・11から15点・16点以上の5群での検討でも無病生存に有意差を認めなかった.また,ノモグラムスコア5点以下の低リスク群と6点以上の高リスク群に分けて全生存についても検討したが,両群間で有意差を認めなかった(3年全生存率:83.9%対74.2%,P=0.70)(Fig. 2b).

Fig. 1 

Calibration plot in which the horizontal axis indicates the nomogram-predicted 3-year DFS rate and the vertical axis shows the observed 3-year DFS rate. Patients were divided into 5 groups according to the nomogram score. The vertical bars represent the 95% CI of the observed 3-year DFS rate.

Table 2  Comparison of clinical characteristics between recurrence group and non-recurrence group
Recurrence n=27 Non recurrence n=23 P
Timing of metastasis, n (%) 0.91
 Metachronous (0) 18 (66.7) 15 (65.2)
 Synchronous (3) 9 (33.3) 8 (34.8)
Primary tumor LN status, n (%) 0.1
 Negative (0) 9 (33.3) 13 (56.5)
 Positive (3) 18 (66.7) 10 (43.5)
Number of tumors, n (%) 0.48
 1 (0) 16 (59.3) 12 (52.2)
 2–4 (4) 8 (29.6) 10 (43.5)
 5≤ (9) 3 (11.1) 1 (4.3)
Largest tumor diameter, n (%) 0.86
 ≤5 cm (0) 23 (85.2) 20 (87.0)
 >5 cm (2) 4 (14.8) 3 (13.0)
Extrahepatic metastatic disease, n (%) (at hepatectomy) 0.11
 No (0) 20 (74.1) 20 (91.3)
 Yes (4) 7 (25.9) 1 (8.7)
CA19-9 level, n (%) (before hepatectomy) 0.38
 ≤100 (0) 24 (88.9) 22 (95.7)
 >100 (4) 3 (11.1) 1 (4.3)
Nomo score 0.25
 Mean (range) 6.96±5.63 (0–22) 5.26±4.52 (0–15)
Fig. 2 

Comparison of Kaplan-Meier DFS curve (a) and OS curve (b) between the high risk group (nomogram score ≥6) and low risk group (nomogram score ≤5).

大腸癌肝転移に対する肝切除後の予後にFOLFOXやFOLFIRIといった新規化学療法を用いた周術期化学療法が与えた影響について検討するため,肝切除前および肝切除後にFOLFOXまたはFOLFIRIを施行した患者と施行していない患者に分けて検討した.周術期化学療法の施行の状況をTable 3に示す.術前化学療法の施行の有無による比較では両群間で個々のノモグラム予測因子には有意差を認めなかったが(Table 4),ノモグラムスコアはFOLFOXまたはFOLFIRIを施行した群で有意に高く(7.71±6.29対4.77±3.44,P=0.04),高リスク群とされる患者に術前FOLFOXまたはFOLFIRIが施行されていると考えられた.その一方で,両群間の無病生存には有意差を認めなかった(中央値:18.5か月対39.5か月,3年無病生存率:45.8%対44.4%,P=0.66)(Fig. 3).術前にFOLFOXまたはFOLFIRIを施行した患者を,RECISTに基づく治療効果により奏効群(complete response,partial response)と非奏効群(stable disease,progressive disease)に分けて検討した.その結果,ノモグラムスコアは両群間で有意差がなかったものの(7.40±6.08対7.92±6.65,P=0.84),無病生存は奏効群で有意に良好であった(3年無病生存率:70.0%対28.6%,P=0.02)(Fig. 4).FOLFOXまたはFOLFIRIを用いた術後補助化学療法の有無による検討では,ノモグラムスコアはFOLFOXまたはFOLFIRIを施行した群で有意に高く(7.27±5.46対4.88±3.72,P=0.04),術前化学療法と同様に高リスク群とされる患者に術後FOLFOXまたはFOLFIRIが施行されていると考えられた.一方で,両群間の無病生存には有意差を認めなかった(3年無病生存率:58.3%対46.7%,P=0.49)(Fig. 5).

Table 3  Patients status of pre and post operative chemotherapy
Neo adjuvant chemotherapy Adjuvant chemotherapy
FOLFOX and/or FOLFIRI, n (%) 24 (48)
FOLFOX or FOLFIRI, n (%) 10 (41.7)
Other regimen, n (%) 7 (29.2)
Non chemotherapy, n (%) 2 (8.3)
Unknown, n (%) 5 (20.8)
Other regimen, n (%) 8 (16)
FOLFOX or FOLFIRI, n (%) 2 (25.0)
Other regimen, n (%) 0 (0)
Non chemotherapy, n (%) 2 (25.0)
Unknown, n (%) 4 (50.0)
Non chemotherapy, n (%) 18 (36)
FOLFOX or FOLFIRI, n (%) 3 (16.7)
Other regimen, n (%) 9 (50.0)
Non chemotherapy, n (%) 4 (22.2)
Unknown, n (%) 2 (11.1)
Table 4  Comparison of clinical characteristics between patients received FOLFOX and/or FOLFIRI as a neoadjuvant chemotherapy and patients received other regimen or no chemotherapy
FOLFOX and/or FOLFIRI n=24 Other or non n=26 P
Timing of metastasis, n (%) 0.09
 Metachronous (0) 13 (54.2) 20 (76.9)
 Synchronous (3) 11 (45.8) 6 (23.1)
Primary tumor LN status, n (%) 0.37
 Negative (0) 9 (37.5) 13 (50.0)
 Positive (3) 15 (62.5) 13 (50.0)
Number of tumors, n (%) 0.13
 1 (0) 10 (41.7) 18 (69.2)
 2–4 (4) 11 (45.8) 7 (26.9)
 5≤ (9) 3 (12.5) 1 (3.9)
Largest tumor diameter, n (%) 0.27
 ≤5 cm (0) 22 (91.7) 21 (80.8)
 >5 cm (2) 2 (8.3) 5 (19.2)
Extrahepatic metastatic disease, n (%) (at hepatectomy) 0.22
 No (0) 18 (75.0) 23 (88.5)
 Yes (4) 6 (25.0) 3 (11.5)
CA19-9 level, n (%) (before hepatectomy) 0.93
 ≤100 (0) 22 (91.7) 24 (92.3)
 >100 (4) 2 (8.3) 2 (7.7)
Nomo score 0.04
 Mean (range) 7.71±6.29 (0–22) 4.77±3.44 (0–15)
Fig. 3 

Comparison of Kaplan-Meier DFS curve between patients who received FOLFOX and/or FOLFIRI as neoadjuvant chemotherapy and patients who received some other regimen or no chemotherapy.

Fig. 4 

Comparison of Kaplan-Meier DFS curve between patients stratified with two groups depending on their response to neoadjuvant chemotherapy.

Fig. 5 

Comparison of Kaplan-Meier DFS curve between patients who received adjuvant chemotherapy using FOLFOX or FOLFIRI and patients who received some other regimen or no chemotherapy.

考察

ノモグラムとは個々の症例の予測される予後を示す統計学に基づいた手法である12).肝転移を有する大腸癌はUICCのステージ分類および大腸癌取扱い規約のいずれにおいてもstage IVであるが,その中でも症例によって予後はさまざまであり6),個々の症例に応じた適切な治療の選択に悩むことも多い.腫瘍の特徴だけではなく,患者の状態なども考慮することで再発リスクを細分化するスコアリングシステムや,予後を予測するノモグラムは治療方針決定の一助となる可能性がある.これまでに大腸癌肝転移に対する肝切除後の再発リスクを示すスコアリングシステムとしてNordlingerら14)やFongら15)の報告があり,肝切除後の予後を予測するノモグラムとしてKattanら16)やReesら17),Kanemitsuら18)の報告がある.Beppuら13)の報告したノモグラムは,肝転移出現時期,原発巣リンパ節転移の有無,肝転移個数,肝転移の最大径,肝切除時肝外転移の有無,CA19-9値という六つの術前因子のみで肝切除後の無病生存が予測できるため,シンプルで使用しやすいのが特徴である.これらのスコアリングシステムやノモグラムは限られた症例を基に作成されており,他の患者群において適用するためにはその外的妥当性を検証した後に使用する必要がある19)

今回,我々は当院における2005年以降の大腸癌肝転移切除症例を用いて,Beppuら13)のノモグラムの外的妥当性を検証した.このノモグラムの外的妥当性を検討した報告はこれまでになく,またこのノモグラムは対象が2004年までの症例であるため,FOLFOX療法やFOLFIRI療法が本邦で一般化された2005年以降の症例では適用可能か否かは明らかでなかった.本検討におけるC-indexは0.54であった.C-indexは無作為に抽出した2人の患者においてノモグラムスコアの低い症例の方がノモグラムスコアの高い症例と比較して実際に無病生存期間が長い可能性を示すものであり,本検討ではこの正確性が54%であることを意味する.Nathanら6)は複数のスコアリングシステムとノモグラムの外的妥当性を肝切除後の全生存について検討した結果,C-indexはNordlingerらのスコアリングシステムで0.57,Fongらのスコアリングシステムで0.56,Kattanらのノモグラムで0.58であったと報告しており,本検討の結果はこれらに優るものではなかった.また,再発群と非再発群に分類した検討では両群間でノモグラムスコアの値に有意差を認めず,ノモグラムスコアによって低リスク群とハイリスク群に分けた検討でも両群間で無病生存に有意差を認めなかった.以上より,当院の症例を用いた外的妥当性の検証において,Beppuら13)のノモグラムの予後予測能はノモグラム作成時よりも劣っていると考えられた.Calibration plotを用いて検討すると,ノモグラムスコアによって5群に分類したうちの4群で予測3年無病生存率よりも実際の3年無病生存率が良好であった.また,ノモグラム対象患者全体での3年無病生存率が31.2%13)であったのに対して,本検討では48.0%であり近年の化学療法の進歩などによる治療成績の向上が寄与しているものと考えられた.

近年,大腸癌肝転移に対する術前化学療法の有効性を示唆する複数の報告がなされている.切除可能肝転移に対しては,FOLFOX4を用いた周術期化学療法が手術単独と比較して無再発生存期間を延長すると報告されている8).切除不能肝転移に対しても,術前化学療法は切除不能病変を切除可能とし,肝切除が行えれば予後は当初から切除可能であった症例と遜色ないと報告されている9)~11).一方で,切除可能な大腸癌肝転移に対する術前化学療法は肝切除後の無病生存を改善しないという複数の報告もあり20)~22),術前化学療法の有用性はいまだ明らかではない.今回の検証ではノモグラムの予後予測能力が作成時よりも劣っていると思われたが,その原因としてFOLFOXまたはFOLFIRIを用いた術前・術後化学療法が予後に影響を与えた可能性が考えられた.そこで,術前化学療法としてFOLFOXまたはFOLFIRIを施行した群と施行していない群で検討すると,ノモグラムスコアは施行群で有意に高かったものの,両群間の無病生存には有意差を認めなかった.術前化学療法施行患者で化学療法が奏効した群では非奏効群と比較して無病生存が有意に良好であった.また,術後補助化学療法としてFOLFOXまたはFOLFIRIを施行した群と施行していない群で検討すると,術前化学療法の有無での検討と同様にノモグラムスコアは施行群で有意に高かったものの,両群間の無病生存には有意差を認めなかった.以上の結果から,周術期の新規化学療法が肝切除後の無病生存を改善し,ノモグラムの予測能に影響を与えた可能性が考えられた.

当院の2005年以降の大腸癌肝転移切除症例を用いてBeppuら13)のノモグラムの外的妥当性を検討したところ,予後予測能はノモグラム作成時よりも低下していると考えられた.FOLFOXやFOLFIRIなどの新規抗癌剤に加えて,分子標的治療薬の併用により大腸癌肝転移に対する化学療法の奏効率は向上している.これらを用いた周術期化学療法が予後に影響を与えている可能性があり,周術期化学療法施行例へのノモグラムの応用は慎重であるべきと考えられた.また,新規抗癌剤を用いた周術期化学療法が一般化している現在では周術期化学療法の効果が予後規定因子となっている可能性があり,これを考慮した新たなノモグラムを作成する必要性が示唆された.一方で,本検討は症例数が50例と少なく,ノモグラムの妥当性を検証するには不十分であることに注意が必要である.より精度の高い検証のため多施設における多数の症例を用いた更なる検証が必要と考えられる.

利益相反:なし

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