2015 年 48 巻 1 号 p. nm1-nm4
昨年5月から本委員会はWeb会議へ移行した.学会事務局の尽力によりインフラが整い,当初危惧されたような会議中のトラブルはほとんどみられていない.査読委員の先生がたの熱い意見がWeb会議でも飛び交っている(表1).ただ一つだけWeb会議が実際に会議室に集合する通常会議に劣る点として微妙なニュアンスが委員全員に届きにくいという点が挙げられる.例えば,採用・不採用の当落線上にある論文の審査の際に,全員に意見を求めると通常会議では目と目が合って首を傾げたり,頷いたりする仕草で意思表示をされることがある.しかしWeb会議では全員の顔は同時にモニター上に現れないので,会議の雰囲気,審査結果に対する委員同士の顔色を察しにくい.よって,Web会議で意見をまとめるには通常会議よりも若干時間を要している.しかし,その欠点を割り引いても学会事務局までの往復交通にかかる時間がなくなるというのは本当に大きなメリットである.
委員長 | 遠藤 格 | |||
委 員 | 池内 浩基 | 伊佐地秀司 | 石田 秀行 | 上坂 克彦 |
宇山 一朗 | 太田 哲生 | 大辻 英吾 | 大坪 毅人 | |
掛地 吉弘 | 加藤 広行 | 河原秀次郎 | 新地 洋之 | |
関本 貢嗣 | 瀬戸 泰之 | 竹之下誠一 | 竹山 廣光 | |
田中 淳一 | 猶本 良夫 | 永野 浩昭 | 橋口陽二郎 | |
長谷川博俊 | 比企 直樹 | 福島 亮治 | 正木 忠彦 | |
八尾 隆史(病理学) | 赤澤 宏平(統計学) | |||
English language editor | J. Patrick Barron | 小島多香子 | ||
編集幹事 | 秋山 浩利 | 田中 邦哉 |
本誌の採用論文数の年次推移を,表2に示す.昨年の年頭報告でも述べたようにここ20年で原著論文が減少している.これらの多くはステップアップし,英文雑誌に投稿されているものと思われ,本学会員の優れた研究が英文誌で発表されるのは大変喜ばしいことである.一方,症例報告は20年前からほぼ変化なく年間130~180編である.理事会では,本学会誌への投稿に対するインセンティブをつけるため学会評議員選出の際の評価点に本学会誌の重みをつけている.それにもかかわらず近年その数が減少しつつある.2014年度の掲載論文数をみると,当初は月10編を割ってしまっていた(表3).
年度 | 編数 | 原著論文 | 症例報告 |
---|---|---|---|
1990年度 | 260 | 130 | 130 |
2000年度 | 194 | 54 | 140 |
2009年度 | 201 | 20 | 174 |
2010年度 | 203 | 15 | 175 |
2011年度 | 218 | 22 | 188 |
2012年度 | 140 | 6 | 129 |
2013年度 | 113 | 8 | 101 |
第47巻第5号 | 原著0,症例報告6 |
第47巻第6号 | 原著1,症例報告7 |
第47巻第7号 | 原著1,症例報告6 |
第47巻第8号 | 原著1,症例報告5 |
第47巻第9号 | 原著1,症例報告11 |
第47巻第10号 | 原著1,症例報告11 |
第47巻第11号 | 原著1,症例報告11 |
第47巻第12号 | 原著1,症例報告12 |
編集委員会に限らず,多くの会議において,『厳しい意見(理想論)』と『優しい(甘い)意見(現実論)』が出たときに,会議の流れは『厳しい意見』に傾くのが常である.現実に則した優しい(甘い)意見を言うと,『情けない』とか『軟弱だ』とか『日和っている』と批判されてしまうからである.だからといって,どんどん厳しい基準にしてしまうと少数の人しかついてこられないものになってしまう.どんな組織でも若い人が続くから成立するものである.
査読にしても以前は,光るところ(新知見)がないものは比較的あっさりと不採用になることがあったが,少々勿体なく思う論文もあった.そのような論文に対して単に査読者が基準を甘くして採用することを続ければ,採用論文数は増えるかもしれないが,本誌が目指してきた『和文誌最高峰』という学術的価値を落とすことになってしまう.しかし前述したように,高い理想を持つことは大切であるが,厳しすぎる基準では少数の若い人しかついてこられない.この理想と現実の間隙を埋める解決策は手間暇かけて論文に磨きをかける努力であると思っている.すなわち,簡単に不採用にせずに従来の採用論文と同じレベルまで引き上げられる可能性の有無を検討していただいている.もしもその可能性が残されているならば,論文の価値を高めるために考察を深めるしかない.その責任は著者が大部分を負うことはもちろんであるが,その一方で査読者の先生方の労力もかなりのものである.最近はR3(三度目の修正論文),R4(四度目の修正論文)が増えたことがその証拠である.それは査読者の先生方が費やされた時間を物語っている.第48巻の予定は,1号11編,2号13編,3号13編であり,2014年度の掲載論文数はおそらく130編前後に復活するものと予想している.若手消化器外科医を査読委員全員で育てようという熱い思いを持って取り組んでいただいている先生方ばかりであり,本当に心から感謝している.
国際的には国際医学雑誌編集者委員会(International Committee of Medical Journal Editors;ICMJE)による統一規程が存在するが,本邦には存在せず,利益相反やミスコンダクト(科学における不正行為)に関してある程度統一した対応すなわちガイドライン策定の必要性が高まりつつある.投稿規程についても,各学会機関誌は独自のローカルルールを用いているが,これを合理的な範囲で標準化することができれば,医学雑誌の質の向上につながり,投稿者・査読者とも負担軽減され,校正作業の標準化による費用削減も図ることができると考えられる.そのような趣旨も含めて,日本医学会は,昨年11月5日に,第7回日本医学雑誌編集者会議(Japanese Association of Medical Journal Editors;JAMJE)総会・第7回シンポジウムを開催し,「日本医学会 医学雑誌編集ガイドライン(案)」を提示した.当編集委員会でもこのJAMJEガイドライン(案)の検証を進めている.
理化学研究所のSTAP細胞論文の件や,ノバルティス社が関与したとされるディオバン論文の件で研究倫理問題が大きく世間を騒がせている.学会機関誌の編集に携わる一員として無関心でいられない問題である.本誌に関連する点としては,まず原著論文として投稿される症例集積研究が挙げられる.特に前向き研究であれば,倫理指針にのっとり自施設のIRB(Institutional Review Board)を通過し,臨床試験を公的機関(UMIN臨床試験登録システム,日本医師会治験促進センター臨床試験登録システム,日本医薬情報センターなど)に登録することが遵守されるべきである.前述したJAMJEのガイドライン(案)でも査読委員はWHO国際臨床試験登録プラットフォームから検索できるような登録システムに登録されているか否かをチェックすることが求められている.さらに昨年パブリックコメントが募集されていた『人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(案)』によれば,今後は,侵襲(軽微な侵襲を除く)・介入を伴う研究について,研究責任者に対し,モニタリングや第三者的な立場の者による監査の実施が新たに義務付けることも予定されている(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/08/1350816.htm).編集委員会としても対応していく必要がある.
本誌の掲載論文の大半を占める症例報告で問題となるのは多重投稿や保険適応外診療についてである.多重投稿に関しては,同じ症例に関する報告であっても,異なる視点で書かれており,ちゃんと元論文が引用されていれば,投稿すること自体は問題がない.しかし多くの事例において,著者からみれば『異なる視点』と主張されても,査読者からは結局同じ論点になっていると評価されることが多い.多重投稿に関する対応は,COPE(Committee On Publication Ethics:http://publicationethics.org/)のフローチャートに従って対応することとしている.本編集委員会の一人でもあるJPバロン先生が監修をされているサイトにCOPEのフローチャートの日本語版が掲載されている.最近問題となることの多い研究計画の倫理,あるいは多重投稿に関する問題などが丁寧かつわかりやすく書かれている.著者の先生方にも『出版倫理』のページをぜひ参考にしていただきたい.
http://www.ronbun.jp/ethic/index.html
保険適応外の診療に関して症例報告する場合は,当該診療(臨床研究)内容が当該施設の倫理委員会に承認されていること,診療費用を病院が全額負担することが明言されていることが必要になろう.注意を喚起していきたい.
以前より少なくなってきたとはいえ,いまだに指導者が校閲しているとは思えない誤字・脱字や意味不明の言い回しが含まれる原稿が投稿されてくる.前述したように,これから若い消化器外科医を育成するには丹念な指導が必須であり,査読委員は覚悟をもって臨んでいる.しかし若手育成の第一責任者は当該施設における指導責任者であろう.従来からお願いしてきたが,投稿の際に今一度,共同著者全員が校閲し,内容はもちろんであるが投稿規程がしっかりと遵守されていることをご確認いただきたい.
前述したJAMJEガイドライン(案)では,著者資格(オーサーシップ)について,以下のように記されている.『著者とは,論文の根幹をなす研究において多大な知的貢献を果たした人物である.研究組織の仲間や長というだけで,実質的な貢献のない人を著者に入れるのは誤りである.一方,投稿原稿では著者資格を満たす人物はすべて著者として列挙されてなければない.全員に言及しないとゴーストオーサーが生じる』.
ICMJEのRecommendations(August 2013)では,著者資格の基準として以下4点を挙げている.著者資格の基準を満たさない研究貢献者[contributor]は,謝辞に列挙する.
① 論文の構想,デザイン,データの収集,分析及び解釈において相応の貢献をした.
② 論文作成または重要な知的内容に関わる批判的校閲に関与した.
③ 出版原稿の最終承認をした.
④ 論文のいかなる部分においても正確性あるいは公正性に関する疑問が適切に調査され,解決されることを保証する点において論文の全側面について責任があることに同意する.
今後,論文の評価にあたっては筆頭著者だけでなく,直接の指導者の責任が重視される方向となることは間違いない.JAMJEガイドライン(案)でも,『連絡責任著者[corresponding author])は各著者がどの部分について責任があるかを明確にし,正確性や倫理面での問題が生じた際にどの著者が説明できるかを特定できるようにする.』とされており,『編集者は,著者資格の基準を定めるとともに,研究貢献者[contributor]や投稿原稿全体の公正性に関して責任を持つ保証者[guarantor]を特定する方法を定める必要がある.保証者[guarantor]の役割は,原稿を送付し,査読結果を受け取る連絡責任著者[corresponding author]が担ってもよい.』と規定されている.今後,本学会の取り組みとして,投稿に関して,『著者全員の貢献度を表明するシート』の提示を求めるとともに,『連絡責任者』と『保証者』を設ける方針としている.
以上,日本消化器外科学会会誌編集委員会の,2015年年初における基本的姿勢と今後の予定について記した.本学会誌の基本理念「和文誌の最高峰を維持する」「若手消化器外科医の登竜門」という理念を堅持し,委員一同精励してまいりたい.
(文責:日本消化器外科学会会誌編集委員会委員長 遠藤 格)
(2015年1月)