日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
左副肝管を合併した胃開口型重複胆管の1切除例
佐藤 琢爾角 泰廣宮原 利行加藤 喜彦中野 良太
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2015 年 48 巻 6 号 p. 496-503

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Abstract

症例は59歳の女性で,胃癌検診の上部消化管造影検査で肝内胆管が造影され,消化管胆管瘻の疑いで紹介となった.上部消化管内視鏡で胃体中部小彎に胆汁が流出する開口部を認めた.MRCP,ERCPで左肝管から分岐する異所胆管像と総胆管内に陰影欠損像を認めた.以上から,重複胆管,総胆管結石症と診断し異所胆管切除,総胆管切開切石,胆囊摘出術を予定した.手術所見は異所胆管が小網内を左肝管から胃小彎へと走行していた.また,異所胆管に合流する2本の胆管を別に認めた.術中胆道鏡で2本の胆管は胆管正常粘膜を有し,走行から尾状葉胆管枝と考え,左副肝管と診断した.胆囊摘出,総胆管切開切石,胃部分切除を含めた異所胆管,左副肝管切除を行った.左肝管に近い副肝管は温存した.病理組織学的検査で異所胆管,副肝管ともに正常胆管壁で,悪性所見はなかった.重複胆管症と左副肝管を同時に認めた極めてまれな1手術例を経験したので報告する.

はじめに

重複胆管は2本の胆管が別々に消化管に開口する先天異常でまれな疾患である1).副肝管も胆道先天奇形であり,右側に多い2).この二つの胆管奇形が同時に存在する報告例はなく,極めてまれである.異なる胆管奇形を合併した1切除例を経験したので文献的考察を加え報告する.

症例

患者:59歳,女性

主訴:心窩部痛

家族歴:なし

既往歴:片頭痛で内服治療中である.

現病歴:2011年夏頃から繰り返す心窩部痛があった.同年秋,胃癌検診の上部消化管造影検査で異常があり精査目的で当院紹介となった.

現症:発熱なし.結膜に黄疸や貧血は認めなかった.腹部は平坦,軟で圧痛はなかった.

血液検査所見:総ビリルビン値が1.6 mg/dlと軽度上昇していた以外に異常値はなかった.

上部消化管造影検査所見:胃体中部小彎側から瘻管を経由して左肝管~総胆管へバリウムの流出を認めた.さらに,総胆管内に結石を疑う陰影欠損を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Upper gastrointestinal series from an annual medical check-up. Ductal structures with reflux of barium were found in the series, suggesting bile ducts. Inferior common bile duct is not delineated.

腹部CT所見:総胆管内に結石と思われる石灰化を2個認めた.肝内胆管拡張はなく,胆囊も萎縮していた.小網内を走行し,左肝管から胃体中部につながる拡張した脈管構造を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

CT. Ductal structure (arrows) bifurcates from the left hepatic duct and runs toward the stomach.

MRCP所見:総胆管内に結石による陰影欠損を認めた.肝内胆管拡張はなく,左肝管から胃へと連なる胆汁流出路があった(Fig. 3).

Fig. 3 

Preoperative MRCP. Thick ductal structure (arrow) bifurcates from the left hepatic duct and runs toward the stomach. Defects can be seen in the common bile duct.

上部消化管内視鏡検査所見:胃体中部小彎後壁に胆汁が流出する開口部があった.胃粘膜にはびらんや潰瘍を認めなかった(Fig. 4).

Fig. 4 

Gastrointestinal endoscopy. A small orifice (arrow) is detected at the lesser curvature of the stomach with a flow of bile juice, leading to the diagnosis of gastrocholedochal fistula.

超音波内視鏡検査所見:胃開口部から超音波内視鏡を挿入し観察すると正常胆管壁と同じ3層構造が確認でき,左肝管へと繋がっていた.

内視鏡下胆管造影検査所見:胃開口部からカニューラを挿入し造影すると左肝管から肝内胆管,総胆管,胆囊が描出された.主乳頭からの逆行性胆管造影でも,胃に開口する脈管が描出された.総胆管内に陰影欠損を認めたが,膵胆管合流異常はなかった(Fig. 5).

Fig. 5 

Endoscopic retrograde cholangiography from the orifice in the stomach. Ductal structure (arrow) diverges from the left hepatic duct (LHD) to the lesser curvature of the stomach, and is diagnosed as an ectopic bile duct. Common bile duct (CBD) shows filling defects.

以上から,胆汁流出路が本来の十二指腸乳頭部と胃開口部の2か所であり,総胆管結石を合併した重複胆管症と診断した.反復する心窩部痛の原因は総胆管結石,胆管炎によると考えられた.有症状の総胆管結石症および悪性疾患発生リスクを考慮し,手術の方針とした.

手術所見:上腹部正中切開で開腹した.小網内を走行する白色の異所胆管と思われる索状物があり,それに合流する細い索状物(左副肝管)が確認できた(Fig. 6).まず総胆管切開し,胆道鏡で内腔を観察すると黒色石があり除去した.肝側へすすめると左肝管へつながる異所胆管を認め,先の小網内索状物に一致した(Fig. 7a).さらに胃の開口部まで観察すると,内腔はほぼ正常胆管と同様の構造で一部に顆粒状粘膜を認めた.また,異所胆管に2か所で胆管の合流(1か所は左肝管近傍,もう1か所は小網内)を認めた.小網内を走向する胆管を肝臓側に剥離追跡したところ,Spiegel葉に達したため,Spiegel枝,左副肝管と診断した(Fig. 7a, b).異所胆管は左肝管近傍の1本の副肝管を温存する部位で切離し,胃側は開口部を含めた胃部分切除を行った(Fig. 8).逆行性経肝胆道ドレナージチューブを左肝管から総胆管に留置した.胆管造影で残存結石がないこと,胆汁漏がないことを確認し手術終了とした.

Fig. 6 

Intraoperative photography. An ectopic bile duct (arrowhead) is observed in the lesser omentum from the left hepatic duct to the middle body of the stomach. Another bile duct (arrow) joining into the ectopic bile duct is newly found, and is diagnosed as an accessory bile duct draining the caudate lobe.

Fig. 7 

Intraoperative cholangioscopy. (a) Ectopic bile duct bifurcates from the left hepatic duct, and the accessory hepatic duct joins it. Both ducts have normal mucosa of the bile duct. (b) Another accessory hepatic duct merges with the ectopic bile duct, during the cholangioscopy in the stomach.

Fig. 8 

Schema of operation. Resection of the ectopic bile duct and one accessory hepatic duct, with cholecystectomy and choledocholithotomy was performed (red circles), preserving an accessory hepatic duct near the left hepatic duct. Ectopic bile duct (arrow), and the accessory hepatic duct (arrowheads).

摘出標本所見:異所胆管を切開すると,異所胆管に合流する左副肝管の開口部があり,胃側の粘膜は顆粒状変化を呈していた(Fig. 9).

Fig. 9 

A fresh specimen of the ectopic bile duct. Granular mucosa (arrowhead) on the stomach side; accessory hepatic duct (arrow).

病理組織学的検査所見:切除した異所胆管は正常胆管壁構造を有していたが,括約筋は認めなかった.異所胆管内の顆粒状粘膜部には異型細胞は認めなかった.免疫染色検査でMUC5AC陰性,CD10陽性,MUC6陽性で幽門化生を認めた.合併切除した胃粘膜に悪性所見を含め異常はなかった.

術後心窩部痛は消失し,経過良好で第13病日に退院となった.現在まで症状は再燃していない.

考察

重複胆管(以下,本疾患と略記)は胆道の先天異常の一つで「2本のpatencyの保たれた胆管が別々に消化管に開口している先天奇形」と定義されるまれな病態である1).Boyden3)によれば,本疾患の原因は発生学的に将来肝細胞索や肝管を形成する頭側肝窩(pars hepatica)と,胆囊および胆囊管となるべき後側肝窩(pars cystica)の共通部分から発生する総胆管が発育段階で融合不全をおこし,それぞれ固有のdrainage routeが残存し2本の胆管が形成されると推測されている.さらに,胃と十二指腸の分離時期のずれによりdrainage routeが決定されるといわれており,十二指腸が最も多く,次いで胃,膵管の順である.1933年Boyden3),1972年Goorら4)が本疾患の詳細な報告を行い,その後本邦で寺尾ら5),齊藤ら6)が集計し四つの型に分類した齊藤分類が一般的に用いられている.4型はI型:中隔型,II型:分枝型,III型:分離型,IV型:混合型に分類され,さらにIII型は左右肝管の交通の有無でIII a型:交通のない分離型,III b型:交通のある分離型に亜分類されている.近年,画像診断の進歩にともないいずれの型にも分類できない症例の報告が散見されている.

医学中央雑誌(1983年~2014年3月,会議録除く)で「重複胆管」,「胃」をキーワードで検索すると重複胆管は40例の報告があり,そのうち胃開口型は自験例を含め10例であった(Table 11)7)~14).年齢は37歳~73歳(平均58歳)で,男性3例,女性7例であった.齊藤ら6)の分類に従い分類すると全例III型でIII a型3例,III b型7例と左右肝管に交通を認めるタイプが多かった.8例に胆石を認め,それによると思われる心窩部痛や右季肋部痛を認めることが多いが,自験例のように検診異常で偶然発見される例もある11).胆管結石の成因としては,異所胆管開口部に括約筋がないため消化液が逆流しやすいと同時に流出しやすく,繰り返す胆管内感染により胆管結石ができると考えられる.また,飯原ら1)は総胆管まで逆流した消化液は主乳頭括約筋により消化管への流出が遅延し,総胆管結石が生じると考察している.自験例も同様の理由で総胆管内に複数の結石を認めたと考えられた.

Table 1  Reported cases of the double bile duct draining into the stomach.
Case Author Year Age Sex Saito’s classification CBD stone location Place of orifice in stomach Gastric mucosa disorder Treatment
1 Sukigara7) 1984 61 F III b +
EBD
Upper body Lateral segmentectomy of the liver, Splenectomy
2 Ohzato8) 1987 60 F III b +
CBD
Lesser body Resection of EBD, Cholecystectomy
3 Iihara1) 1989 48 F III b +
LHD
Middle body Gastric ulcer Resection of EBD, Cholecystectomy, Left hepatic lobectomy
4 Takayama9) 1990 37 F III a +
EBD
Upper body Resection of EBD, Cholecystectomy, Left hepatic lobectomy
5 Shimakage10) 1993 68 M III b +
EBD
Middle body Erosion Choledocholithotomy
6 Furukawa11) 2004 59 M III a Middle body Follow up
7 Shiozaki12) 2006 73 F III b +
EBD
Middle body Resection of EBD, Cholecystectomy
8 Tamura13) 2007 71 F III b +
EBD CBD
Upper body Resection of EBD, Cholecystectomy
9 Fukuda14) 2008 51 M III a Lesser body Gastric ulcer Follow up
10 Our case 59 F III b +
CBD
Middle body Resection of EBD, Cholecystectomy, Choledocholithotomy

CBD: common bile duct, LHD: left hepatic duct, EBD: ectopic bile duct

胃開口部位は全例胃体部小彎側(体上部3例,体中部5例,体下部2例)であった.胃粘膜障害を認めたのは3例のみであったが,胆汁酸の慢性胃粘膜刺激が原因で幽門腺様腺管が発生し,これが胃癌発生母地となる可能性があるため胃癌のハイリスクグループと考えられている15).また,重複胆管内には常に消化液が逆流し慢性胆管炎を来しているため胆管癌のリスクとしても考えられる.したがって,10例中8例に手術治療が行われ,多くの症例で異所胆管切除,胃部分切除,胆囊摘出術が行われている.胆管結石合併例や胆管狭窄例に対しては切石や肝切除などを付加している報告1)9)もみられる.非手術例では合併症に対して,内視鏡的乳頭切開術16)が行われた症例や経過観察している症例もある11).自験例では異所胆管,胃粘膜ともに悪性所見はなかったが,切除した異所胆管粘膜の一部に顆粒状変化があった.同部位は病理組織学的検査所見から幽門腺化生を来していた.鬼島ら17)は,化生性変化が前癌病変の可能性を指摘しており,津留18)は化生性変化でも腸上皮化生が胆管癌の発生母地となりうると述べている.大里ら8)も同様に異所胆管の化生性変化を報告している.悪性所見を報告している例はないが自験例でも悪性疾患のリスクファクターである可能性は高く手術適応には問題ないと思われた.

最後に副肝管も胆道の先天奇形の一つで「肝領域を支配する肝内胆管が肝実質から出て肝外を走行し総肝管,総胆管,胆囊管,胆囊などに合流する走行変異」と定義され,胆道系に開口する点で本疾患とは鑑別される2).これまでの報告では副肝管の多くは右側に存在し,久次19)の分類が頻用されている.久次によると左副肝管はわずか1%であり,医学中央雑誌(1984年~2014年3月,会議録除く)で「左」,「副肝管」をキーワードに検索したところ,1例と非常にまれであった.自験例では術中胆道鏡で異所胆管に流入する胆管が2本確認され,ともに小網内を通って合流していた.2本ともその走行からSpiegel葉の胆管枝と思われ,左副肝管と診断した.その内1本は左肝管近傍に合流していたため温存可能であったがもう1本は遠位であり犠牲胆管とした.副肝管の臨床的意義は外科的切除の際の損傷であり,存在に気付いていなければSpiegel葉の胆管枝は切離され術後の胆汁漏の原因となった可能性があった.今回の左副肝管は胃開口型の重複胆管が存在していたため偶然Spiegel葉の胆管枝が残存し左副肝管となった可能性は否定できないが,このように重複胆管と副肝管が同時に存在した症例は検索したかぎり1例もなく極めてまれな症例であると考えられた.

本論文の要旨は,第67回日本消化器外科学会総会(2012.7月富山)において発表した.

利益相反:なし

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