2015 年 48 巻 7 号 p. 628-635
症例は84歳の男性で,60歳時より痔瘻を発症していた.近医で3度の痔瘻根治術を施行されたが症状改善なく当科紹介となった.CT,MRIで肛門管背側に30 mm大の隔壁を有する囊胞性病変を認めた.生検などで悪性所見はなく経過観察中腫瘍が増大傾向を示したため経肛門的に摘出したが病理組織学的検査では悪性像は認めなかった.術後半年で囊胞性病変の再発・増大傾向を認めた.囊胞内粘液の穿刺細胞診で悪性所見は認めずPET-CTでも有意な集積を認めなかったが血清CEAが10.0 ng/mlと上昇傾向にあり,囊胞内粘液のCEAが異常高値であり,リスクを踏まえたうえで十分なinformed consentを行い,腹会陰式直腸切断術+D2郭清を施行した.術後病理組織学的検査で痔瘻癌と診断した.痔瘻癌の診断は困難であることが多いが,今回画像検査,度重なる生検では診断がつかず病変内粘液によるイムノクロマトグラフィー法が診断の一助となった症例を経験した.