日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
皮膚瘻を合併した黄色肉芽腫性胆囊炎の1例
北山 紀州寺岡 均西村 潤也埜村 真也野田 英児西野 裕二平川 弘聖
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2016 年 49 巻 1 号 p. 8-14

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Abstract

症例は66歳の男性で,右季肋部の発赤・腫脹を主訴に当科外来受診となった.12年前の右腎臓癌の手術の際に留置したドレーンの創瘢痕周囲が発赤・腫脹し,腹壁膿瘍を来していた.精査の結果,腹壁膿瘍は腹腔内に達し,胆囊底部と連続していた.胆囊壁は肥厚し,頸部に結石像を認めた.周辺臓器への悪性浸潤を疑う所見に乏しく,胆石・慢性胆囊炎に伴う胆囊皮膚瘻と診断し,手術を施行した.胆囊底部から瘻孔が形成され皮膚瘻となっていた.十二指腸球部とは強固に癒着しており部分的に合併切除した.病理組織学的診断の結果は黄色肉芽腫性胆囊炎(xanthogranulomatous cholecystitis;以下,XGCと略記)であった.我々が検索したかぎりでは胆石症や胆囊癌から胆囊皮膚瘻を形成した報告は散見されるが,XGCから皮膚瘻を形成した報告例は認めなかったため,報告する.

はじめに

黄色肉芽腫性胆囊炎(xanthogranulomatous cholecystitis;以下,XGCと略記)は,胆囊炎の一亜型で炎症が隣接臓器へ浸潤性に波及する比較的まれな疾患である1).肝臓や横行結腸,十二指腸,総胆管,胃などに炎症性浸潤を来した報告例は存在するが,腹壁へ浸潤し皮膚瘻を来した報告例は検索したかぎり認めなかった.

症例

患者:66歳,男性

主訴:右季肋部の発赤・腫脹

既往歴:右腎臓癌にて右腎摘出(12年前).右季肋部に約5 cmの手術瘢痕を認めた.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:来院1週間前より右季肋部の発赤・腫脹が出現したため,当科外来受診し精査加療目的に入院となる.

入院時現症:血圧139/84 mmHg,体温35.1°C,脈拍67回/分,眼瞼および眼球結膜に貧血・黄疸を認めない.

腹部は平坦・軟であったが,右腎摘出の際に留置したドレーンの創瘢痕周囲が発赤・腫脹し腹壁膿瘍を来していた.圧痛は膿瘍部に限局し,Murphy徴候などの急性胆囊炎を示唆する所見は認めなかった.血液検査の結果から入院時より第3世代セフェム系抗生剤(2 g/day)の点滴投与を開始した.

入院時血液生化学検査:WBC 10,900/μl,CRP 2.16 mg/dlと炎症所見を認めた.軽度腎機能障害を認めたが腫瘍マーカー含めその他に特記すべき異常は認めなかった(Table 1).

Table 1  Blood biochemical examination on admission
WBC 10,900 ​/mm3 TP 8.5 g/dl
RBC 570 ×106​/mm3 Alb 4.7 g/dl
Hb 16.7 ​g/dl T-Bil 0.5 mg/dl
Ht 48.6 ​% BUN 11 mg/dl
Plt 33.6 ×104​/mm3 Cre 1.07 mg/dl
AST 37 ​IU/l Na 138 mEq/dl
ALT 58 ​IU/l K 4.6 mEq/dl
ALP 394 ​IU/l Cl 100 mEq/dl
LDH 188 ​IU/l BS 98 mg/dl
γGTP 60 ​IU/l CRP 2.16 mg/dl
CK 56 ​IU/l CEA 3.2
ChE 282 ​IU/l CA19-9 26

腹部超音波検査所見:胆囊壁は底部を中心に肥厚し,壁内に4.6 mmの囊胞性anechoic lesionを認めた.頸部に10 mmのhigh echoic lesionを認め,結石と考えられることから胆囊内圧上昇によるRokitansky-Aschoff sinusの開大が示唆された(Fig. 1A, B).

Fig. 1 

A, B: Abdominal ultrasonography. The gallbladder wall started thickening in the fundus, and a 4.6 mm intramural cystic anechoic lesion was observed in the gallbladder wall. Observation of the 10 mm gallstone in the cervical part of the gallbladder indicated the flaring of the Rokitansky-Aschoff sinus, triggered by rising intrabiliary pressure.

腹部造影CT/MRI所見:胆囊底部から腹壁へ瘻孔を認めた.胆囊粘膜は保たれ十二指腸や胆管への浸潤所見はなく胆囊癌を示唆する所見は認めなかった(Fig. 2A, B).

Fig. 2 

Enhanced abdominal CT (A) and MRI (B) scans. Fistulas were observed from the fundus of gallbladder through the abdominal wall, although signs of gallbladder cancer could not be recognized because the tunica mucosa vesicae biliaris remained and no infiltration was observed in the duodenum and biliary ducts.

以上より,胆石・慢性胆囊炎に伴う胆囊皮膚瘻と診断し手術を施行した.

手術所見:傍腹直筋切開で開腹した(Fig. 3).胆囊は前面で横行結腸と,頸部周囲で十二指腸球部と強固に癒着し,著明な壁肥厚を認めた.画像所見に一致して胆囊底部より瘻孔が形成され皮膚瘻となっていた.横行結腸との癒着は剥離可能であったが,十二指腸球部との癒着が激しく剥離は困難であったため合併切除を施行したところ十二指腸壁に母子頭大の欠損が生じ全層結節縫合で修復した.胆囊管および胆囊動脈は定型的に処理した.腹壁の膿瘍をくり抜くように瘻孔部も合併切除し,縫縮閉鎖した.Winslow孔にドレーンを留置した.

Fig. 3 

Positional relationship of the skin incision and fistula site.

手術標本所見:皮膚瘻は胆囊内腔と交通し,胆囊内に黒色結石を認めた.胆囊粘膜の正常網目様構造は消失していたが,壊死や潰瘍などの所見は認めなかった(Fig. 4).

Fig. 4 

Macroscopic view of the resected specimen. Communication between the cutaneous fistula and gallbladder lumen was observed, and black pigment gallstones were present in the gallbladder. Although the mesh structure on the tunica mucosa vesicae biliaris was not visible, there were no findings of mortification or ulcer.

病理組織学的検査所見:胆囊壁内に炎症細胞浸潤を伴った肉芽腫性病変を認めた.粘膜下には胆石成分(矢印)とともに泡沫細胞や異物型多核巨細胞の浸潤を認めた.悪性所見は認めなかった(Fig. 5).

Fig. 5 

Histopathological findings (HE staining, ×100 magnified). A granulomatous lesion with inflammatory cell infiltration was observed in the gallbladder walls. Furthermore, infiltration of foam cells and foreign multinucleated giant cells and the chemical composition of gallstones (indicated by arrows) were observed beneath the tunica mucosa vesicae biliaris. No signs of malignancy were observed.

術後経過:胆汁漏を認めたがドレーン排液は徐々に減少し,術後第9病日退院となった.

考察

XGCは胆囊壁の著明な肥厚を伴う亜急性胆囊炎の一亜型であり1948年Weismannら1)により胆囊内脂肪沈着を伴う胆囊炎として初めて報告された.

日本では島田ら2)によって報告されたが,その発生頻度は全胆囊摘出例の3~5%3)で50~60歳に好発する比較的まれな炎症性疾患で,男性にやや多い傾向にある.XGCでは胆囊結石の合併が多く約90%にみられ,その70~80%が胆囊頸部に陥頓している4)5).発生機序はまず,胆石や急性胆囊炎に起因する胆囊内圧の上昇により胆囊上皮が破綻し,胆汁が胆囊壁に漏出する.次にこの漏出胆汁に組織球が貪食し,胆汁に由来する脂質や黄色色素を含む泡沫細胞を主体とした肉芽腫が形成されることにより発症する6).一般的な症状は胆囊炎と同様,心窩部痛,右季肋部痛,発熱などであり特異的なものはないとされる.炎症が高度な場合は自験例の十二指腸への波及がそうであったように周辺臓器に炎症が波及するとされる7)が,他臓器に直接的に瘻孔を形成する例はまれである.「黄色肉芽腫性胆囊炎」,「瘻孔」をキーワードに1977年‍~2013年までの医学中央雑誌で会議録を除いて検索した結果,本邦報告例は胆囊十二指腸瘻3例8)~10),胆囊胃壁瘻1例11),胆囊結腸瘻2例12)13)のみであり,腹壁への瘻孔を来した例は自験例のみであった.また,自験例以外は全て女性であった.初発症状は一般的な胆囊炎と同様に右季肋部痛がほとんどであった(Table 2).手術は全て胆囊摘出および瘻孔臓器の部分切除が施行されていた.

Table 2  List of cases in which XGC has led to a fistula to other organs, including the present case
No. Author Year Age Sex Fistula organs First symptom
1 Okamoto12) 2000 69 F transvers colon right hypochondrium pain
2 Kusano8) 2002 83 F duodenum right hypochondrium pain
3 Matsutani11) 2007 55 F stomach fever, jaundice
4 Imai9) 2008 71 F duodenum epigastric pain
5 Saito13) 2009 82 F transvers colon right hypochondrium pain
6 Ishida10) 2012 72 F duodenum right hypochondrium pain
7 Our case 66 M abdominal wall right hypochondrium pain

また,胆囊皮膚瘻は,胆石症や胆囊癌などの胆道系疾患に起因して胆囊と直接皮膚に胆汁瘻を形成する外胆汁瘻で極めてまれな疾患である14).同様に「胆囊皮膚瘻」,「外胆汁瘻」をキーワードに検索した結果,本邦報告例は自験例を含めて17例のみであった(Table 315).発症年齢は43~94歳に分布し,平均年齢は69歳で,性別は男性7例,女性10例で女性に多かった.一般的に疼痛,発赤・腫脹,腫瘤触知を主訴に受診することが多く,基礎疾患としては胆石症10例,胆囊癌2例,総胆管結石症2例,XGC 1例(自験例のみ)であった.

Table 3  Reported cases of gallbladder fistula in Japan (17 cases, including the present case)
Sex M  7
F 10
Age average 69 (43–94)
Underlying disease cholecystolithiasis 10
gallbladder cancer  4
choledocholithiasis  2
XGC 1 (our case)
Opening of the fistula site right hypochondrium 11
right precordial  1
umbilical part  1
wound scar  4
Treatment fistula resection, cholecystectomy 15
drainage  2

成因は,胆囊炎などの炎症によって胆囊底部と腹壁が癒着した後,癒着部において胆囊壁が皮膚に穿通する場合16)と胆囊底部が腹腔内へ穿孔し限局性膿瘍を形成し,これが皮膚へ穿通する場合がある12).自験例では初診時に腹壁膿瘍を来していた.さらに,右腎臓摘出後であり胆囊底部を中心としてその周囲と腹壁との癒着が既に生じていた可能性が示唆される.したがって,これらのさまざまな要因が重なったことにより皮膚瘻が形成されたと推察される.さらに,腎臓癌術後のフォローも終了していたことが発見の遅れにつながった可能性もある.また,胆囊癌の場合は腫瘍の腹壁への直接浸潤などが考えられる.

瘻孔は胆囊底部に発生することが多く,これは腹壁に最も近接していること,胆囊動脈の末端であり虚血に至りやすいことが一因に挙げられる.自験例においても黒色結石が存在しており,頸部の閉塞に伴う急性閉塞性胆囊炎を発症したものと推察する.自験例では右腎臓摘出後に底部を中心として胆囊と腹壁が癒着し,さらにXGCに特徴的な全層性の炎症が進行することによって胆囊底部から腹壁への瘻孔が形成されたと考えられた.また,本疾患は7~14%に胆囊癌が合併する17)と報告されており,さらに周囲への炎症性浸潤が高度であるため,しばしば胆囊癌との鑑別が問題となる.今回,我々は画像所見,腫瘍マーカーなどから胆囊癌の可能性は低いと判断した.しかし,胆囊癌との鑑別が困難であったXGCの報告や術後摘出標本で胆囊癌と診断されたXGCの報告も散見されるため,可能ならば術中迅速病理組織学的診断を含めた総合的な診断が必要であると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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