日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
術後6か月で転移再発した十二指腸未分化多形肉腫の1例
遠藤 裕平小林 隆入江 彰一森 和彦南村 圭亮平田 泰真船 健一森 正也
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2016 年 49 巻 10 号 p. 989-996

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Abstract

未分化多形肉腫は,組織学的に特定の分化傾向を示さず,多形性を呈する腫瘍として悪性線維性組織球腫が再分類されたものである.成人軟部肉腫の中で最も頻度が高いが,消化管原発例は極めてまれで,十二指腸原発のものはこれまでに6例が報告されているのみである.今回,我々は十二指腸原発未分化多形肉腫の1例を経験したので報告する.症例は69歳の男性で,心窩部痛精査の腹部造影CT・超音波内視鏡検査で十二指腸筋層外から膵頭部実質に浸潤する25 mm大の腫瘤を指摘された.超音波内視鏡下針生検(endoscopic ultrasonography fine needle aspiration biopsy;EUS-FNA)にて類円形・紡錐形異型細胞の充実性増殖を認め,肉腫や分化度の低い癌が疑われた.遠隔転移を認めず,膵頭十二指腸切除術を施行した.病理診断は十二指腸未分化多形肉腫であった.術後6か月で頸部と坐骨近傍の軟部組織,左副腎に転移を来したため,術後再発に対する化学療法としてdoxorubicin投与を開始し,現在術後10か月経過している.

はじめに

未分化多形肉腫(undifferentiated pleomorphic sarcoma;以下,UPSと略記)は,2002年にWHOにより悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histiocytoma;以下,MFHと略記)が再分類されたものである1).UPSは四肢や体幹の軟部組織や長管骨に好発する成人軟部肉腫の中で最も頻度が高く2),組織学的には特定の分化傾向を示さず,腫瘍細胞は多形性を呈するのが特徴で,他の疾患の除外診断により診断される腫瘍であり消化管原発例は極めてまれである.今回,我々は切除後6か月で転移再発し,化学療法施行中の十二指腸原発UPSを経験したので報告する.

症例

患者:69歳,男性

主訴:心窩部痛

現病歴:心窩部痛を主訴に近医受診し,胃酸分泌抑制剤と鎮痛剤にて症状消失した.その後症状再燃し当院救急外来を受診した際の採血で血清アミラーゼの上昇を認め急性膵炎の診断で入院となった.精査の結果,十二指腸下行脚から膵頭部にかけて25 mm大の充実性腫瘤を認め,細胞診および組織診から肉腫や分化度の低い癌が疑われ,手術目的に当科紹介となった.

既往歴:特記事項なし.

身体所見:身長178 cm,体重64.8 kg,BMI 20.4.

血液検査所見:HbA1c 6.1%,BUN 10 mg/dl,Cre 0.8 mg/dl,T-Bil 0.5 mg/dl,AST 20 U/l,ALT 15 U/l,ALP 252 U/l,LDH 192 U/l,AMY 1,334 U/l,γ-GTP 41 U/l,リパーゼ2,205 U/l,CRP 0.3 mg/dl,WBC 6,100 μl,Hb 12.3 g/dl,Plt 16.7×104 μl,PT-INR 1.11,APTT 33.6秒,CEA 0.8 ng/ml,CA19-9 18.6 U/ml.

腹部造影CT所見:十二指腸球部から膵頭部にかけて造影効果の乏しい25 mm大の腫瘤を認め,内部が点状に造影された(Fig. 1).

Fig. 1 

CT reveals a 25 mm low-density mass with an enhanced spot inside, in the 2nd portion of the duodenum (arrow).

MRI所見:同部位は拡散強調像で高信号を呈した.

上部消化管内視鏡検査所見:十二指腸球部後壁から下行脚にかけて粘膜面に発赤を伴う粘膜下腫瘍様の隆起を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

Upper gastrointestinal endoscopy shows a submucosal-like tumor in the posterior wall of the duodenum.

超音波内視鏡検査所見:十二指腸筋層外側と膵頭部に浸潤するように25 mm大の周囲低エコー,内部高エコーの腫瘤を認めた.境界はほぼ明瞭だが膵臓との境界が一部不明瞭であった(Fig. 3).

Fig. 3 

a: The tumor was hypoechoic and heterogeneous. The bloodstream signal as noted outside the muscular layer of the duodenum (arrows). b: The tumor infiltrates to the pancreatic head (arrows). T: tumor, P: pancreas, CBD: common bile duct, MPD: main pancreatic duct.

EUS-FNA所見:類円形・紡錐形の異型細胞が充実性に増殖していた.免疫染色検査ではC-KIT(−),CD34(−),AE1/AE3(−),CK7(−),EMA(−).細胞診ではClass 4であった(Fig. 4).

Fig. 4 

The tumor consisting of spindle-shape cells with atypia (HE ×200), is diagnosed as class 4 by cytology diagnosis.

手術所見:十二指腸に発生した肉腫や膵頭部の退形成癌をはじめ分化度の低い癌を疑い,膵頭十二指腸切除術(D2郭清,Child法)を施行した.腹水は認めず,十二指腸下行脚から膵頭部に約60 mm大の硬い腫瘤を認め,周囲組織には炎症性変化を認めたが,明らかな他臓器浸潤は認めなかった.術前画像検査時よりも明らかな増大を認めた(Fig. 5).手術時間538分,出血量895 mlであった.

Fig. 5 

The tumor is 60 mm in diameter, and has obviously grown in a month (arrows).

病理組織学的検査所見:組織学的には十二指腸下行脚原発のUPSであった.十二指腸下行脚に突出する63×40×37 mmの腫瘤を認め,粘膜との境界は明瞭で,割面は白色で膵実質への浸潤を認めた.多形性に富む腫瘍細胞が充実性に増殖し,紡錐形・多角形および巨大なものが混在し,多数の核分裂像を認めたがcarcinoma成分は認められなかった.腫瘍量は膵臓よりも十二指腸領域に多く,十二指腸原発と診断された.免疫組織化学染色検査ではAE1/AE3(−),EMA(−),CK7(−),CK19(−),vimentin(+),CD31(−),CD34(−),α-SMA(±),S-100(−),p-53(+).リンパ節転移なし(0/19).Ly0,v2,ne1(Fig. 6)であった.

Fig. 6 

a: The tumor is 63×40×37 mm in size with necrotic and hemorrhagic parts. b: The boundary of the mucous membrane is clear, and the tumor infiltrates to the pancreatic head. c: Pleomorphic spindle cells and giant cells intermingled, and many mitotic figures appeared (HE ×200).

術後経過:術後膵液瘻は認めなかったが,胃内容排泄遅延を認め術後54日目に退院した.術後6か月の時点で頸部と坐骨近傍の軟部組織,左副腎に転移を来したため,他施設にて,術後再発に対する化学療法として,doxorubicin単剤75 mg/m2/day 3週間ごとの投与を開始し,現在術後10か月経過している.

考察

UPSは,MFHが再分類されたものであるが,1964年にO’Brienら3)が線維性組織球腫の中で高頻度に核分裂像を有し,周囲組織への浸潤・転移を伴うものを悪性線維性黄色腫と命名したことに始まる.従来,線維芽細胞あるいは組織球への分化を示す多形紡錐形細胞の悪性腫瘍であると考えられていたが4)5),発生起源は組織球ではなく血管周囲の未分化な間葉系細胞であるということがわかってきた.そのため,以前は多くの未分化・低分化な肉腫,癌腫,リンパ腫までもがMFHと診断され治療されてきたが,現在は免疫染色検査など解析技術の発展により,特定の腫瘍の特異的な分化を証明することが可能となり,以前と比べ正確な診断が可能になった.診断技術の進歩に伴い疾患概念も幾度かの再分類を経て現在に至っている.2002年にWHOによりMFHは現在の解析手法では明らかな分化傾向を捉えることができない腫瘍群としてUPSに再分類された1)6).典型像は大型で充実性の腫瘤を形成し,急速な増大を示すものであり,組織学的には多形性を呈する腫瘍細胞の花むしろ状の配列が特徴である.上述のように,再分類されてからまだ日が浅く,UPSとしての報告例がほとんどなく,従来MFHと呼称されていた疾患はUPSとほぼ同義とみなされていることより,本稿中ではこれらを総称してUPS/MFHと用いることとした.

UPS/MFHは成人軟部肉腫の中で最も頻度が高く2),通常四肢や体幹の軟部組織や長管骨に好発する.好発年齢は40歳以上でやや男性に多く,発生頻度は10万人に1~2例とされる.発生部位は四肢が68%と最も多く,次いで腹腔および後腹膜が16%,体幹が9%,頭頸部が3%,その他4%であるが消化管発生は極めてまれである7).消化管原発のものについては報告例が少ないが,萩原ら8)は大腸原発21例の報告を,齊藤ら9)は胃原発15例の報告をそれぞれ集計している.UPS/MFHに対する化学療法や放射線照射に関する治療法は確立されておらず,根治的治療は外科的切除のみとされている.また,切除不能症例に対して化学療法を施行した報告例は散見されるが同様に確立されたものはない.全体での5年生存率は50~60%,四肢の末梢側発生73%に対し中枢側発生は28%,後腹膜や腸間膜発生は14~28%で予後不良とされる10)11)

十二指腸原発に関して,1977年から2014年までの医学中央雑誌で「悪性線維性組織球腫」,「未分化多形肉腫」,「十二指腸」,1950年から2014年までのPubMedで「malignant fibrous histiocytoma」,「undifferentiated pleomorphic sarcoma」,「duodenum」をキーワードに検索しえたかぎりでは,1986年のGilmanら12)の報告例をはじめとしてこれまで7例の報告のみであった12)~18).そのうち十二指腸原発は1例17)を除いた6例のみで,これらに自験例を加えた7例をTable 1にまとめた.7例中5例に膵頭十二指腸切除術(pancreatoduodenectomy;以下,PDと略記)が施行され,うち1例は穿孔例であり非治癒切除であった.他の1例にバイパス術が施行され,残りの1例は切除不能にて化学療法が行われていた.消化管原発のUPS/MFHの予後を比較する目的で,十二指腸,齊藤ら9)の報告と萩原ら8)の報告を基に胃(剖検例1例を除いた14例),大腸原発(剖検例1例と観察期間不明の1例を除いた19例)の生存期間をTable 2に示した.十二指腸原発は大腸原発に比べ早期の再発・死亡が明らかに高く,生存期間の中央値は5.0か月(数日~24か月)vs. 42.0か月(2か月~84か月),Log Rank法にてP=0.015(<0.05)と有意差をもって短かった.胃原発の生存期間の中央値は7.0か月(数週~48か月)で,十二指腸原発は胃原発に比べ短い傾向にあるが,有意差は認められなかった.

Table 1  Reported cases of primary UPS/MFH of the duodenum
Case Author/Year Age Sex Symptoms Size (mm) Sites of invasion or metastasis Therapy Histologic type Recurrence Duration of follow up Prognosis
1 Gilman12)/
1986
29 F Peritonitis (Perforation) 70 Lung PD Storiformpleomorphic Few days dead
2 Asai13)/
1987
61 M Epigastralgia 70 Pancreas PD Pleomorphic 21 ‍months alive
3 Farinon14)/
1999
61 F Gastrointestinal bleeding 90 Pancreas PD Storiformpleomorphic Liver 2 months dead
4 Wang15)/
2005
61 M Gastrointestinal bleeding, Weight loss 150 None PD Storiform 24 ‍months alive
5 Tanaka16)/
2005
53 M Epigastralgia, Fever 40 Lung Chemo therapy
(cisplatin+doxorubicin)
Storiformpleomorphic 5 months dead
6 Makni18)/
2011
63 M Gastrointestinal bleeding, Weight loss, Vomiting 150 IVC Gastroenteroanastomosis Storiformpleomorphic 4 months dead
7 Our case 69 M Epigastralgia, Pancreatitis 63 Pancreas PD Chemo therapy (doxorubicin) Pleomorphic Soft tissue Adrenal gland 10 ‍months alive

PD; pancreatoduodenectomy

Table 2  Survival time
Primary site Number Median survival time P-value
(log rank)
Curative resection rate Recurrence rate
Duodenum 7 5.0 months (a few days–24 months) ⎤*

⎤**


57.1% (4/7) 50.0% (2/4)
Stomach 14 7.0 months (a few weeks–48 months) 71.4% (10/14) 30.0% (3/10)
Colon 19 42.0 months (2–84 months) 94.7% (18/19) 22.2% (4/18)

*: P=0.853, **: P=0.015 (<0.05)

一般的にUPS/MFHは高率に再発・転移を来すとされ,局所再発は20~50%,転移は44~66%で好発部位は肺(82%),リンパ節(32%),肝臓・骨(15%)とされている19).四肢体幹UPS/MFHでは広範囲切除により十分な切除縁が確保された症例では局所再発が少なく良好な予後が期待できるとされる20).また,予後良好の因子としては大きさ(長径5 cm以下),切除縁(2 cm~10 cm以上),再発巣が切除可能,遠隔転移がないなどが挙げられる21)22).腹腔内,特に消化管原発のUPS/MFHは周囲臓器との解剖学的位置関係や機能温存の観点から,十分な切除縁を確保できない場合があり,また,発生部位によっては腫瘍径が大きくなるまで自覚症状が出ないことが,非治癒切除,局所再発,遠隔転移につながり予後不良の要因になるものと推察された.本症例は,腫瘍により膵管が閉塞し膵炎症状を呈し,それが発見の契機になったものと考えられる.また,治癒切除しえたものの,術後に複数か所に転移再発を認めた.再発巣切除は困難であり上記からは予後良好とは言いがたい.十二指腸原発の7例中6例は腫瘍径が5 cmを超えており,治癒切除例4例のうち局所再発を来した例は認めないが,自験例を含む2例に術後転移再発を認めた.1例は肝転移を認め術後2か月で死亡している.また,PDを施行したものの,腫瘍穿孔していたため非治癒切除であった1例は術後数日で死亡し,下大静脈(inferior vena cava;IVC)浸潤を認め治癒切除しえなかった1例と,肺転移を認めたため化学療法が選択された1例もやはり数か月以内に死亡している.以上から,十二指腸原発UPS/MFHは,遠隔転移例や非治癒切除例の予後は期待できず,治癒切除例でも高率に転移再発を来す傾向があり,予後不良であると考えられた.

十二指腸原発UPS/MFHに対する根治的切除はその局在部位からPDになることが多いと考えられる.本症例では膵頭部に腫瘍の浸潤を認めたものの,PDにより病理組織学的には切除が施行できたが,術前の画像検査から手術までの間の約1か月間に画像上25 mm大であった腫瘍径が切除標本では63 mmと急速に増大しており,組織学的悪性度の高さが伺えた.病理組織学的には治癒切除が行えたものの,術後6か月の時点で頸部と坐骨近傍の軟部組織,左副腎に転移を来したため,現在他施設にて,軟部肉腫の術後再発に対して化学療法を施行している.前述の如く,本疾患に対する化学療法は確立していないが,転移を有する軟部肉腫に対してはdoxorubicin,ifosfamide,dacarbazineなどの薬剤を組み合わせたレジメンの報告例が多く,これらの比較試験も報告されている中で,Vermaら23)はdoxorubicinに対するifosfamideの上乗せによる全生存期間の延長は示されなかったと報告しており,本例ではdoxorubicin単剤75 mg/m2/dayを3週間ごとに投与している.

消化管原発のUPS/MFHは極めてまれであり,なかでも十二指腸原発UPS/MFHは自験例を含めこれまでに7例しか報告されておらず,いまだ治療法,予後に関して十分な検討が行えていないのが現状である.根治的切除を行うためにはPDといった侵襲の大きな術式になることからも,術後補助化学療法や化学療法の確立が待たれる.本症例を今後の症例蓄積の一助にできれば幸いである.

利益相反:なし

文献
 

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