日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
粘膜下腫瘍形態を呈した重複腸管由来小腸癌の1例
中村 有貴瀧藤 克也水本 有紀堀田 司横山 省三松田 健司渡邉 高士三谷 泰之家田 淳司山上 裕機
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キーワード: 粘膜下腫瘍, 腸管重複症
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2016 年 49 巻 5 号 p. 447-454

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Abstract

症例は48歳の男性で,健診でのCEA高値の精査目的で近医を受診し,腹部CTで直腸前壁側に壁外性腫瘤を認めたため,当科を紹介受診した.腹部造影CTで直腸または小腸由来の粘膜下腫瘍が疑われたが,超音波内視鏡下穿刺吸引術では小腸腸管重複症を疑い,診断的治療目的に腹腔鏡で観察したところ,回腸終末部に小腸漿膜側に突出する20 mm大の結節性病変を認めた.小腸由来の粘膜下腫瘍と判断し同部位を含む小腸部分切除を行った.病理組織学的には一部小腸壁と固有筋層を共有する囊胞性病変を認め,内腔の上皮はほぼ全て腺癌に置き換わっており,重複腸管由来の小腸癌と確定診断した.成人腸管重複症の報告例は増加しているが,癌化の報告はまれである.成人での腸管重複症の術前診断は難しく,囊胞性の粘膜下腫瘍を疑った際は,腸管重複症さらにはその癌化の可能性も考慮する必要があり,癌化の診断に腫瘍マーカーの測定が有用である可能性が示唆された.

はじめに

腸管重複症とは,本来の消化管に接して内腔をもった消化管構造が存在する病態をさし,全消化管に発生する比較的まれな先天性疾患である1).そのなかでも,重複腸管由来の腺癌は非常にまれである.今回,我々は小腸重複腸管由来腺癌の成人例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

症例

症例:48歳,男性

主訴:腫瘍マーカー高値

既往歴:特記事項なし.

家族歴:母-肺癌,乳癌

嗜好歴:飲酒 缶ビール3本/日×28年,喫煙 なし.

現病歴:健診での腫瘍マーカー高値(CEA 9.1 ng/ml)を主訴に近医を受診し,腹部CTで直腸前壁側に46 mm大の壁外性腫瘤を認めたため,直腸粘膜下腫瘍の疑いにて精査加療目的に当院を紹介受診された.

入院時現症:身長175.8 cm,体重72.4 kg.眼瞼結膜に貧血なし,眼球結膜に黄疸なし,表在リンパ節は触知せず,腹部は平坦,軟で圧痛なし,その他異常所見は認めなかった.

入院時検査所見:血液一般検査では異常所見は認めなかったが,腫瘍マーカーはCEAが12.8 ng/ml,CA19-9は1,146.8 U/mlと高値であった.

腹部CT所見:初診時の腹部単純CT所見では,直腸腹側,やや右側寄りに径37 mm大の腫瘤を認めた.その5日後の腹部造影CT所見では,直腸腹側,やや左側寄りに径37 mm大の内部囊胞性で壁に軽度の造影効果を伴う分葉状腫瘤を認め,可動性があることが示唆された.また,矢状断では直腸壁と同様に小腸壁にも広く接しており,直腸または小腸由来の粘膜下腫瘍が疑われた.腹水の貯留はなく,リンパ節転移や多臓器転移は認めなかった(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal CT shows a cystic tumor 37 mm in size, close to the right anterior wall of the rectum (A: circle), but five days later, it appears close to the left side of the rectum (B: circle, C: arrow).

PET-CT所見:腫瘍への集積は認めず.

上部消化管内視鏡検査所見:異常所見なし.

下部消化管内視鏡検査所見:粘膜面には異常所見なし.

超音波内視鏡検査所見:腹部CTで直腸または小腸由来の粘膜下腫瘍を疑い,超音波内視鏡検査では可動性のある壁の厚い囊胞性腫瘤が疑われ,そのまま経直腸的に超音波内視鏡下穿刺吸引術を施行した.穿刺時の腫瘤壁は弾性やや硬であり,穿刺吸引により茶褐色・粘稠な内容液が採取された.内容液の生化学検査は不可能であったが,細菌検査ではE. coliKlebsiella pneumoniaeが検出された.しかし,細胞成分は認めなかった(Fig. 2, 3).

Fig. 2 

Endoscopic US shows a cystic lesion with a thick wall (arrows).

Fig. 3 

The mass is filled with brown mucus during endoscopic US-guided fine needle aspiration.

以上の所見から,小腸腸管重複症を強く疑ったが,腫瘍マーカーを再検したところCEAが1.5 ng/ml,CA19-9は50.1 U/mlと低下し,PET-CTで有意な集積もなく,悪性化の診断には至らなかった.腸管重複症の最終診断と切除を目的に腹腔鏡手術を行うこととした.

手術所見:腹腔鏡で腹腔内を観察すると,骨盤底には超音波内視鏡下穿刺吸引術により囊胞内容液が腹腔内に漏れて生じたと考えられる骨盤腔と小腸の癒着がみられた.腹腔洗浄細胞診を行ったが,悪性所見はなく,Class-IIであった.小腸は骨盤腔から鈍的に容易に剝離できた.回腸末端から口側20 cmの回腸漿膜側に突出する径20 mm大の白色調の結節性病変を認めたが,虫垂が病変に癒着していたため合併切除を行った.念のため直腸と腫瘍の剥離面にあった白色調の肉芽様組織を切除し術中迅速病理検査に提出したが,明らかな悪性所見は認めなかった.術中明らかなリンパ節腫大を認めず,小腸重複腸管症を強く疑い,悪性所見も認めないことから,腫瘤を完全に切除するようにして約15cmの小腸を部分切除した.

摘出標本では腸間膜対側の漿膜側に接するように径20 mm大の腫瘤を認めた.腫瘤の割面では,内腔が白色調の厚い無構造な上皮を有する囊胞で,明らかな腫瘍様結節は有さず,健常回腸との間に交通も認めなかった.健常腸管を粘膜面から観察したが全く異常を認めず(Fig. 4, 5),摘出標本からも積極的に悪性化を示唆する所見はなく,リンパ節郭清は行わなかった.

Fig. 4 

Surgical findings show a 20-mm large, cystic lesion with a thick wall located in the opposite site of the ileal mesentery (white arrow: tumor, black arrow: sigmoid colon).

Fig. 5 

The resected tumor was cystic and arising from the serosal site, but there were no lesions in the mucosal surface of the ileum (A: serosal surface, B: mucosal surface, C: cut surface).

病理組織学的検査所見:腫瘤には小腸壁の固有筋層と連続する筋層を認め,腫瘤の囊胞壁内腔はほぼ全て腺癌に置換されており,病理組織学的検査で初めて重複腸管由来の小腸癌と確定診断できた.癌は重複腸管固有筋層深部まで浸潤しており,大腸癌取扱い規約に従いtype 5,20×20 mm,tub1>tub2,pMP,ly0,v0,pN0,fStage Iと診断した(Fig. 6).合併切除した虫垂には腫瘍性病変は認めなかった.

Fig. 6 

Histological findings show a muscle layer in the cystic wall continuing from the small intestinal muscularis propria, and the mucosal layer of the cystic wall is replaced by the adenocarcinoma invading to the muscle layer.

術後経過:経過は良好で術後第7病日に退院した.退院後は術後補助化学療法を行わず経過観察しているが,術後3か月には血液検査では腫瘍マーカーは全て正常値まで低下し,1年が経過した現在再発は認めていない.

考察

腸管重複症とは本来の消化管に接して内腔を持った消化管構造が存在する病態で,舌根より肛門にいたる全消化管にみられる先天性疾患であり1),本疾患は病理組織学的に,①一層または数層の平滑筋に包まれていること,②内面が消化管上皮で覆われていること,③本来の消化管に隣接し,それと筋層を共有していることとされている2).発生機序は胎生6~7週における腸管の再疎通障害説3),胎生初期の脊索障害説4),部分双胎説5)などがあるが,いずれも腸管重複症の発生を一元的に説明することはできない.形態的には球状型と管状型があり,頻度はそれぞれ71.7%,25.6%とされている.発生部位別頻度は,回腸末端と回盲部が35.0%と最も多く,次いで結腸直腸が22.8%である.また,小腸発生のものでは球状型が多く,結腸直腸発生のものでは管状型が多いとされており,結腸直腸型では隣接腸管と交通するものが85.0%と多いのに対して,小腸型では4.7%と少ないことも特徴である6).本症例は上記診断基準を全て満たしており,その形態に関しても小腸発生の球状型であり,隣接腸管と交通を認めず,前述の特徴に合致していた.

本邦ではこれまでに500例を超える腸管重複症の報告があるが7),無症状で診断が確定されていない症例も十分存在すると考えられ,正確な発生頻度は不明である.報告症例からは,性別では男性57%,女性43%と男性にやや多く,診断時の年齢は新生児期,乳児期を中心に15歳未満が65%を占めている1).成人においては比較的まれな疾患である.また,臨床症状は腹痛や嘔吐が多く,その他腹部膨満感,下血などを契機に発見されることもあるが,無症状で偶然に撮影したCTなどの検査で発見されることもある1).画像検査としては超音波検査,CT,MRI,交通型の消化管重複症の場合は消化管造影,ダブルバルーン内視鏡やカプセル内視鏡による小腸の観察,異所性胃粘膜を有する場合は99mTcO4–シンチグラフィーが有用であるとされるが8),成人例では疾患概念の認知度が低く,本疾患が念頭になければ診断は難しいといえる.

さらに,腸管重複症では悪性化を指摘する報告7)9)~21)や重複腸管そのものが前癌状態とする意見22)が散見されており,大城ら7)は1981~2008年までに報告された全18症例を集計し検討しているが,これまでに術前に重複腸管由来の癌と診断できた症例はなく,やはり術前診断の困難さが伺える.本症例でも術前診断では腸管重複症を強く疑っていたが癌化の診断には至っておらず,術後の病理組織学的検査で初めて重複腸管由来の腺癌と確定診断できた.

本邦では,医学中央雑誌で「重複腸管」,「腸管重複症」,「癌」をキーワードとして1977~2014年で会議録を除くと15例の報告があった.自験例の1例を加え検討した結果,16例中12例は腺癌であったが,あとの4例は扁平上皮癌1例,カルチノイド1例,gastrointestinal stromal tumor 1例,囊胞腺癌1例と組織学的に多彩な腫瘍が生じている.腸管重複症の発生は小腸に多いとされるが,腺癌12例中,小腸発生は5例,大腸発生は7例と,重複腸管でも癌の発生は大腸に多い傾向が示唆される.また,本症例では,術前CEA,CA19-9が高値であったことから,腫瘍マーカーが腸管重複症の癌化を示唆する所見になりうるかを検討したところ,16例中腫瘍マーカーの上昇を示した症例は9例(56.3%)であった(Table 17)9)~21).錦織ら23)は原発性小腸癌183例を集計し,その中でCEA上昇を20.4%,CA19-9上昇を31.1%の症例で認めたと報告しているが,今回の検討では小腸発生例に限ると,6例中3例(50.0%)で腫瘍マーカーの上昇を認めた.また,病理組織学的所見が腺癌であった12例のうち,9例(75.0%)で腫瘍マーカーは高値を示し,特に球状型を呈していた腸管重複症の腺癌発生例では7例中7例(100%)でいずれかの腫瘍マーカーの上昇を認めた.また,管状型でも10 cm以上と径の大きなものは腫瘍マーカーの上昇がみられている.

Table 1  Reported cases of malignant tumors arising in alimentary tract duplication
Case Author/
Year
Age/
Sex
Symptom Location Duplication type Tumor size (cm) Histology Tumor marker Prognosis (months)
1 Ohoke9)/
1987
74/M Anal pain Rectum Tubular Unknown Adenocarcinoma normal
(CEA 1.9 ng/ml, AFP 0.8 ng/ml)
Unknown
2 Kimura10)/
1995
49/M Abdominal pain Sigmoid colon Cystic 6.5×4.0 Adenocarcinoma CEA ↑
(160.4 ng/ml)
24, Alive
3 Mizumoto11)/
1997
59/F Back pain, Fever Ascending colon Cystic 6.0×5.0×4.0 Adenocarcinoma CEA ↑
(17 ng/ml)
36, Alive
4 Inoue12)/
1998
38/M Abdominal pain Ascending colon Cystic Unknown Adenocarcinoma CEA ↑
(30 ng/ml)
Unknown
5 Inoue12)/
1998
59/F Back pain, Fever Ascending colon Cystic Unknown Adenocarcinoma CEA ↑
(17 ng/ml)
Unknown
6 Kihara13)/
1999
74/F Abdominal pain Cecum Tubular 14.0×4.0 Adenocarcinoma CEA ↑
(8 ng/ml)
12, Alive
7 Matsushita14)/
2002
61/F Abdominal pain Sigmoid colon Tubular 12.0×10.0×11.0 Adenocarcinoma CEA ↑
(9.7 ng/ml), CA19-9 ↑
(72.7 U/ml)
68, Alive
8 Shimada15)/
2003
74/F High tumor marker Jejunum Cystic 4.0×3.0 Adenocarcinoma CEA ↑
(13.4 ng/ml), CA19-9 ↑
(1,360 U/ml)
3, Alive
9 Seki16)/
2003
54/M Ascites Ileum Cystic 4.0×5.0×4.0 Mucinous cystadenoma normal
(CEA 1.2 ng/ml, CA19-9 14 U/ml)
48, Alive
10 Kusunoki17)/
2003
72/M Abdominal pain, distention Jejunum Tubular 5.0×5.0 Adenocarcinoma normal 7, Deceased
11 Nakajima18)/
2004
64/F Anal pain Rectum Tubular 4.0×4.0 Carcinoid normal
(CEA 0.8 ng/ml, CA19-9 9.5 U/ml)
Unknown
12 Takeuchi19)/
2006
34/F Chest pain Duodenum Tubular 6.0×6.0 Adenocarcinoma normal
(CEA 1 ng/ml, CA19-9 6 U/ml)
14, Deceased
13 Oshiro7)/
2009
40/F Abdominal pain, Melena Ileum Cystic 9.0×8.0 Adenocarcinoma CA19-9 ↑
(115.0 U/ml)
12, Alive
14 Yamatogi20)/
2010
50/F Buttock pain Rectum Cystic Unknown Squamous cell calcinoma normal Unknown
15 Furuya21)/
2012
70/F Abdominal pain Ileum Cystic 15.0×5.0×2.0 GIST normal Unknown
16 Our case 48/M High tumor marker Ileum Cystic 2.0×2.0 Adenocarcinoma CEA ↑
(12.8 ng/ml), CA19-9 ↑
(1,146.8 U/ml)
8, Alive

本症例では,内容液の粘度が非常に高く,内容液中の腫瘍マーカーは測定できなかった.CEAやCA19-9は正常腸管の上皮細胞管腔側の膜にも存在する物質であり,腫瘍内容液中のCEAやCA19-9は良悪性の鑑別にはならないとする報告がある24).一方,囊胞内溶液中のCEAやCA19-9は癌病変を合併した症例で著しく高値であったとする報告もある25).囊胞内溶液中にCEAやCA19-9が分泌され濃縮され高濃度となる可能性は十分考えられ,結局囊胞内溶液中のCEAやCA19-9が上昇していても,内溶液中の正常値が確定されないかぎり悪性化の確定診断には至らないと考える.

本症例での血中腫瘍マーカーの上昇の機序として,超音波内視鏡下に内容液を穿刺吸引後CEA,CA19-9値が低下していたことからも,腫瘍内容液中にCEAやCA19-9が分泌され濃縮されて内容液中で濃度が上昇し,さらに内圧の上昇によって血中に過剰に分泌されたのではないかと考えられた.したがって,正常腸管と交通を持たない球状型では腫瘍の大きさにかかわらず腫瘍マーカー上昇が癌化を示唆する所見になりうるとともに,管状型でも径の大きな腫瘍では腫瘍マーカーが癌化の診断の参考になると考える.

本邦の原発性小腸癌183例の検討23)では,発見時にMP以深の進行癌例が90%以上認め,リンパ節転移陽性が約40%で,その予後は5年生存率で15.0~38.5%と報告されているが,重複腸管の癌化の本邦報告例の予後は,経過観察期間が短く通常の原発性小腸癌の予後と比較検討することはできなかった.術前に重複腸管の癌化を確定診断することは困難で,今回検討した16例のうち手術時にリンパ節郭清を施行した明確な記載があるのは1例9)のみであった.しかしながら,重複腸管由来の腺癌にリンパ節転移を認めた報告7)15)17)もあり,その予後は通常の原発性小腸癌と比較しても決して良好とはいえないであろう.

腸管重複症は成人においてまれな疾患であり,その癌化は極めてまれとされているが,有症状のこともあり発見されれば切除の対象となる.成人発症の壁の厚い腹腔内囊胞性腫瘤を認めた場合には,腸管重複症の可能性や,さらには癌化の可能性を念頭に置き,病型や腫瘍径に加え,癌化の診断に有用な血中CEAやCA19-9の測定を行い,癌化の可能性がある場合はリンパ節郭清を伴った切除が望ましいと考える.

利益相反:なし

文献
 

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