日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
磁石圧迫吻合術(山内法)で治療した腹腔鏡補助下胃全摘後,食道空腸機能的端々吻合部屈曲の1例
伊藤 栄作大平 寛典斉藤 庸博柳 舜仁筒井 信浩吉田 昌柳澤 暁山内 栄五郎鈴木 裕
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2016 年 49 巻 9 号 p. 850-856

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Abstract

症例は53歳の女性で,胃癌に対して腹腔鏡補助下胃全摘術を施行した.再建は機能的端々吻合によるRoux-en Y再建を行った.術後,食道空腸吻合部の屈曲による通過障害を発症し,内視鏡的な処置を繰り返し行ったが改善を認めず,術後1年の時点で磁石圧迫吻合術(山内法)を施行した.術後経過は良好で食事摂取可能となった.自験例での通過障害の原因としては,吻合部が縦隔内へ引き込まれたこと,盲端のステープルが挙上空腸へ癒着したこと,術後に食道が短縮したことなどが考えられた.山内法は磁石を用い管腔臓器を吸着し,挟まれた組織の壊死をじゃっ起し瘻孔を形成する治療法である.自験例は食道空腸吻合部が縦隔内に近い位置に存在するため再吻合術は困難が予想された.屈曲部に対する吻合を行う場合は吻合すべき腸管同士は近接しており,山内法による空腸-空腸吻合術は良い適応と考えられた.

はじめに

胃全摘術のRoux-en Y再建として,吻合法には種々の方法が報告されている.特に機能的端々吻合は吻合部狭窄を来しにくい術式として広く行われている吻合法である1)2).今回,腹腔鏡補助下胃全摘(以下,LATGと略記)術後に食道空腸吻合部の屈曲のために通過障害を来し,磁石圧迫吻合術(山内法)を用い食事摂取可能となった症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

症例

患者:53歳,女性

主訴:食後嘔吐

現病歴:未分化早期胃癌に対してLATG,D1+郭清,Roux-en Y吻合(結腸前経路)を施行した.術前の身長は165 cm,体重は57 kgであり食道裂孔ヘルニアは認めなかった.食道空腸吻合はリニアステイプラーを使用し機能的端々吻合とした.なお,横隔食道膜の切開や横隔膜脚の縫合閉鎖は行っていない.また,ステープルの埋没や漿膜筋層縫合は追加しなかった.病理診断はU,Gre,0-IIc,20×10 mm,por+sig,pT1,ly0,v0,N0(0/37),pPM0,pDM0;pStage IAであった.術後約4か月頃から食後の嘔吐を繰り返した.上部消化管内視鏡検査と上部消化管造影検査を行うと食道空腸吻合部の狭窄はなく屈曲を認め,屈曲が吻合部通過障害の原因となっていると考えられた.内視鏡下バルーン拡張やクリップによる腸管屈曲部の矯正を試みたが症状の改善は認めなかった.体重は14 kg低下し43 kgとなり,血清アルブミン値は3.2 g/dlまで低下した.低栄養状態改善の目的に内視鏡下腸瘻造設を行い経口摂取と併用することにより,血清アルブミン値は4.8 g/dlまで上昇した.術後1年の時点で保存的加療では改善が見込めないと判断し,屈曲部の前後の腸管に対して磁石圧迫吻合術(山内法)を行う方針とした.なお,本治療について臨床研究として院内倫理委員会の承認のもと,患者・家族への十分な説明を行ったうえで同意を得て行った(承認番号13-B-90).

造影CT所見:食道空腸吻合部は下縦隔から腹腔内にまたがって存在していた(Fig. 1a).

Fig. 1 

Study before Yamanouchi method. a) CT scan showed that the esophagojejunostomy is located on the lower mediastinum and the abdominal cavity. b) Gastrointestinal endoscopy showed that the esophagojejunostomy forms a sort of pocket. The endoscope was guided into the anal side of the intestinal tract by surmounting the fold of the mucosa (arrowhead). c) Upper gastrointestinal contrast study showed that there is no obvious stenosis, but contrast agent has accumulated in the pocket. The contrast agent flows to the anal side of the intestinal tract after some time once a certain amount of contrast agent has accumulated.

上部消化管内視鏡検査所見:食道空腸吻合部はポケット様になっており,粘膜のひだを乗り越えると肛門側腸管へ続いていた(Fig. 1b).

上部消化管造影検査所見:明らかな狭窄はないが食道空腸吻合部のポケット様の部分に造影剤が貯留し,一定量の造影剤がたまると時間をおいて肛門側腸管へ造影剤が流れた(Fig. 1c).

山内法施行:経口内視鏡下にガイドワイヤーを進め,食道空腸吻合部のポケット様の部位と肛門側腸管の位置を確認した.ポケット様の部分から肛門側腸管への隔壁となっている粘膜ひだを挟み込むように円盤状の磁石(直径17.5 mm,厚さ5 mm)2個を吸着した(Fig. 2, 3).

Fig. 2 

Yamanouchi method (diagram). A guidewire is inserted under oral endoscopic guidance and two disc-shaped magnets (diameter 17.5 mm, thickness 5 mm) are attached to the mucous membrane to sandwich the folds of the mucosa, forming a wall between the pocket and the anal side of the intestinal tract.

Fig. 3 

Yamanouchi method (fluoroscopy). An obstruction is caused by the bending of the esophagojejunostomy. The pocket and the anal side of the intestinal tract are held together by the magnets. A new passage is created by forming a stoma at the magnet attachment site.

術後経過:山内法施行後,2日毎に腹部単純レントゲンを撮影し第9病日には磁石が回転していた(Fig. 4).第11病日に磁石の落下を確認し,肛門から磁石を自然排泄した.その後,内視鏡下に瘻孔拡張を3回施行し,直径17.5 mmまで拡張を行った(Fig. 5).この時点で経口摂取可能となり,山内法施行後25日目に退院となった.山内法前は50 ml程度の飲水ができなかったが,現在は通常の固形食を摂取可能となり,体重は49 kgまで増加した.山内法施行後4か月で腸瘻は不要となり抜去し,現在は外来経過観察中である.

Fig. 4 

Plain abdominal X-ray after performing the Yamanouchi method. a) The magnets are visible at the esophagojejunostomy directly after the Yamanouchi method. b) After 9 days, the magnets are tilted, forming a positive “Yamanouchi sign”. c) After 11 days, the magnets have dropped.

Fig. 5 

Study after the Yamanouchi method. a, b) Upper gastrointestinal endoscopy showed that the stoma is extended under endoscopic guidance (arrow). Original stoma is showed (arrowhead). c) Upper gastrointestinal contrast study confirmed outflow of contrast agent from the newly created stoma.

考察

腹腔鏡補助下胃全摘術における再建法と通過障害

近年,LATGは増加傾向であり,術式・再建法は種々の方法が考案されている.食道空腸吻合法には従来のアンビルを用いる方法,経口アンビルを用いる方法,オーバラップ吻合,機能的端々吻合が挙げられる1)2).今回行った機能的端々吻合は簡便で短時間に吻合が可能なため汎用されている吻合法である.吻合する腹部食道が長く,可動性が良好な場合に選択されるが,一般的に吻合部の捻れや屈曲・狭窄が少ない吻合法といわれている2)3).本症例では噴門への進展が認められず腹部食道は温存可能であり,腹部食道の可動性が良好であったため機能的端々吻合を選択した.

食道空腸吻合部の通過障害には,吻合部狭窄と吻合部屈曲による二つの機序があると考えられる4)~10).本症例は内視鏡検査やX線透視検査で吻合部狭窄は認めず,吻合部屈曲による通過障害であった.当科で行われたLATG 79例(機能的端々吻合9例,オーバラップ吻合70例)のうち食道空腸吻合部の通過障害を来した症例は2例であり,本症例以外ではオーバーラップ吻合を行った1例に吻合部屈曲を来した.今回のように機能的端々吻合を行った食道空腸吻合部に屈曲を来した報告はなく,通過障害を来した病態については想像の域を出ないが,術後に食道が短縮し食道空腸吻合部が縦隔側へ引き込まれたこと,盲端のステープルが挙上空腸へ癒着したことが考えられる.オーバーラップ吻合に対して挙上空腸を十二指腸断端と縫合することにより,挙上空腸の屈曲を予防する方法が一般に行われているが,機能的端々吻合では屈曲が問題になることはまれである.自験例ではステープルの癒着が発症に関与した可能性もあることから,ステープルの埋没を行うことが予防になるかもしれない.

吻合部狭窄の治療としては内視鏡下吻合部拡張術(バルーン,ブジー)やアルゴンレーザーなどの治療法があり内視鏡的治療が第一選択となる4)~7).一方で吻合部屈曲の報告は少ないものの機械的狭窄を来した場合には内視鏡的治療は無効であり再手術を要することが多い8)~10).その理由としては屈曲による通過障害では腸管壁全層が通過の妨げになっており,癒着やヘルニアなどの腸管外部からの影響が大きいためと考えられる.自験例においても吻合部屈曲による通過障害と診断された後に,バルーン拡張やクリッピングを用いた屈曲部の矯正を10回以上行ったが効果は認めなかった.通常はこの時点で手術による通過障害の解除が考慮される.しかし,食道空腸吻合部盲端のステープルと挙上空腸の癒着が強固であった場合には吻合部切除と再吻合が必要となる可能性があり,その場合には開胸開腹手術となり侵襲性,難易度の非常に高い手術が考えられた.そのため自験例では手術を行わない治療法として山内法を行う方針とした.

磁石圧迫吻合術(山内法)

磁石圧迫吻合術(山内法)は磁石を用い管腔臓器を吸着し,挟まれた組織の壊死をじゃっ起し瘻孔を形成する治療法である.1998年に初めて報告されて以来,現在まで300例以上に施行されてきており,腸管吻合術は160例に及んでいる11).消化管狭窄や閉塞を起こすあらゆる病態に対して適応とされている.希土類磁石でサマリウムコバルト系磁石のうち,生体に安全な成分のみを焼結させて形成された磁石を使用する.磁石の大きさは厚さ5 mm,直径17.5~25 mmのもので,腸管吻合の際には磁石が狭窄部側への落下を予防する目的に吻合部手前の親磁石に大きめの磁石を用いている.この症例ではどちら側に落ちても回収が可能なので同じサイズの磁石を用いた.山内法の利点としては全身麻酔や開腹操作が不要なうえ,合併症が少ないことが挙げられる.一方で吻合を形成するまでに1~2週間程度の時間を要し,定期的な内視鏡下吻合部拡張が必要となる.安全性については手技による死亡はなく,再狭窄により再治療が必要になった症例も認めていない.しかし,腸管減圧を行わずに吻合をした初期の症例で吻合部穿孔を経験しており,山内法施行時は標的腸管が減圧可能であることが前提条件となる12).また,吻合部拡張を行う際に吻合部穿孔を起こすことがあるため,拡張径については週に0.5~1 mmの拡張を行っている.実際に本治療の対象となる患者は全身状態不良であることが多いため,拡張の大きさや頻度は症例毎に慎重に検討しなければならない.吻合対象の腸管の距離はCT上併走していることが望ましいが,腸管は可動性があるため10 cm以上離れていても吻合可能なこともある.吻合したい臓器に介在する臓器がないことが重要であるため,術前画像検査にて臓器の位置関係を把握することが不可欠である12).磁石吸着後は2日に1回の頻度で単純レントゲン写真を撮影し磁石の落下を確認し,内視鏡を用いて回収する.磁石落下の数日前からは磁石が回転することが多い.磁石落下後は1週間の経過観察の後に週に1~2回の頻度で吻合部拡張を行い,吻合径が使用した子磁石径(自験例では17.5 mm)にまで拡張した時点で吻合部が完成となる.吻合完成から3か月,6か月後に内視鏡で吻合部狭窄がないことが確認されれば追加治療は不要である.磁石が体内にある間にMRIは禁忌である.

1977年から2015年4月までの医学中央雑誌で「胃全摘」と「山内法」をキーワードで検索したところ,胃全摘術後通過障害に対する山内法の報告として,経口アンビルを用いたRoux-en Y再建後に食道空腸吻合部の屈曲による通過障害を発症し,山内法を施行した1例報告が認められた13).また,会議録では7例の報告がなされていた.その内訳としては食道空腸吻合に通過障害を認め拡張した盲端に対してρ吻合を施行したものが6例,自験例と全く同じ病態であったものは1例であった14)~19)

自験例は食道空腸吻合部が縦隔内に近い位置に存在するため再吻合術は困難が予想された.屈曲部に対する吻合を行う場合は吻合すべき腸管同士は近接しており,他の消化管が介在することはまれであり,山内法による空腸-空腸吻合術は良い適応と考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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