日本消化器外科学会雑誌
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原著
閉塞性大腸癌に対するbridging to surgeryとしての大腸ステント留置の短期的な有用性の検討
中野 順隆寺島 秀夫檜山 和寛角 勇作古川 健一朗今村 史人神賀 正博廣島 良規間宮 孝堀口 尚
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2016 年 49 巻 9 号 p. 834-841

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Abstract

目的:本邦でも2012年に大腸閉塞用self-expandable metallic stent(以下,SEMSと略記)が保険適応となり,閉塞性大腸癌の緊急手術を回避するbridge to surgeryが普及しつつある.その短期的有用性を経肛門イレウス管と比較した.方法:2011年から2015年の期間で閉塞性大腸癌に対し手術が行われた36例を術前減圧処置法別にSEMS挿入の24例(以下,S群と略記)と経肛門イレウス管留置の12例(以下,I群と略記)の2群に分け比較検討した.結果:S群では,全例経口栄養摂取が可能となり,75%が退院して外来精査を受けており,I群に比べて体重減少率と腸管減圧効果において有意に良好な結果を示した.病理組織学的にステントによる機械的挫滅は粘膜下層までに留まり,脈管侵襲の程度に関して両群間で有意差はなかった.結語:SEMS挿入は脈管侵襲に悪影響を及ぼさずに良好な条件下の手術を可能にした.

はじめに

閉塞性大腸癌は大腸癌の3.1~15.8%を占め1),緊急手術になった場合に死亡率,合併症率は高く,待機手術症例よりも予後不良と報告されている2).本邦では,2012年1月より大腸用self-expandable metallic stent(以下,SEMSと略記)が保険適応となったことから,閉塞性大腸癌に対する治療戦略としてSEMSにより緊急手術を回避するbridge to surgery(以下,BTSと略記)が急速に普及しつつある.その一方で,2014年,European Society of Gastrointestinal Endoscopy(以下,ESGEと略記)から閉塞性結腸癌に対するSEMSに関するガイドライン3)が公表され,臨床症状を伴う脾彎曲以下の左側閉塞性大腸癌への標準治療としての術前ステント留置によるBTSは推奨できないとの見解が提示された.そこで,自験において,閉塞性大腸癌に対するSEMSの臨床的な有用性,癌組織圧排による病理組織学的な影響の2点を後ろ向きに検討を行ったので報告する.

対象と方法

対象は,2010年4月から2015年3月までに当院で経験した閉塞性大腸癌症例のうち,術前に腸管減圧処置が施され,かつ化学療法が施行されずに原発巣切除が行われた36症例である.その内訳は,SEMS挿入群(以下,S群と略記)が24例,経肛門イレウス管留置群(以下,I群と略記)が12例であった.SEMSの保険収載の関係上,基本的に,I群が2012年以前,S群が2012年以降の症例となっていた.Fig. 1に示すように術前腸管減圧処置別に手術までのプロセスは統一化されており,使用されたステントは全長60~100 mmのWallFlexTM 22 mm(Boston Scientific社製)もしくはNiti-STM 22 mm(TaeWoong社製)であり,全例とも消化器内科医師によって挿入された.SEMS留置後2日目に食事が再開され,大腸閉塞が解除されていることが確認できれば一旦退院となり,外来で非閉塞例の大腸患者と同等の術前精査が完了してから待機手術が予定された.一方,イレウス管留置群では,経肛門イレウスチューブTM22Fr(クリエートメディックス社製)が内科医ないし外科医師によって挿入・留置され,準緊急的に手術が行われていた(Fig. 1).

Fig. 1 

Flow chart for surgery.

BTSの手段としてSEMSと経肛門イレウス管のどちらが有用であるかを比較検討するために,減圧処置後から手術までの期間,一時退院の有無,手術までの待機期間,体重変化率({術直前体重-受診時体重}‍/受診時体重×100%),腸管減圧効果(切除標本における腫瘍口側径/肛門側径の比率),手術時間(分),出血量(g),術後在院日数,総入院期間(減圧処理を行った日から術後退院日までの総日数),術後合併症(JCOG術後合併症規準Clavian-Dindo分類4)によるGrading),の10項目を設定した.SEMSによる癌組織圧排による悪影響を検討するために,病理組織学的に機械的挫滅の深達度をS群の全例で評価し,さらに,S群とI群において脈管侵襲の程度(大腸癌取扱い規約第8版に準じて0,1,2,3)5)を比較した.

統計学的手法としては,中央値(四分位範囲)にて表記し,Mann-Whitney’s U testまたはChi-square testを用いて,P<0.05をもって有意差ありと判定した.

結果

S群とI群の患者背景因子をTable 1に示した.大腸癌の進行度分類および局在は両群間で有意差はなかったが,S群では有意水準で高齢であり腹腔鏡手術の選択率が高かった.

Table 1  Patient characteristics
S group (n=24) I group (n=12) P-value
Age* 75 (70–80) 61 (54.8–73.3) P<0.05**
Gender Male 16 Male 7 P=0.62**
Female 8 Female 5
Performance status >3 n=3 n=0 P=0.2**
Pathological stage ​II 11 (46%) ​II 5 (42%) P=0.68**
according to Japanese classification ​IIIa 5 (21%) ​IIIa 1 (8%)
​IIIb 2 (8%) ​IIIb 1 (8%)
​IV 6 (25%) ​IV 5 (42%)
Primary tumor site ​C 1 (4%) ​C 0 (0%) P=0.47**
​A 2 (8%) ​A 0 (0%)
​T 4(17%) ​T 0 (0%)
​D 4 (17%) ​D 3 (25%)
​S 7 (29%) ​S 4 (33%)
​R 6 (25%) ​R 5 (42%)

*: median (Interquartile Range: IQR), **: Chi-square test, ***: Mann-Whitney U test

SEMSと経肛門イレウス管のアウトカムを比較検討した結果をTable 2に総括した.術前項目の評価では,S群の場合,全例とも通常食の摂取が可能であり,7例(3例の寝たきり症例,2例の術前診断時腹腔内膿瘍形成を認めた炎症遷延症例,2例の早期手術希望患者)を除いた18例(75%)が一旦退院できていた.これにともなって,S群では,手術までの待機期間が中央値22日と有意に長くなっていたが,体重減少は−1%未満に留まり軽度であった.一方,I群の場合,準緊急的に手術が実施されていた結果,待機期間が中央値8日間と短かったが,この期間に−5.18%の体重減少が発生していた.腸管減圧効果を腫瘍口側径‍/肛門側径の比率(切除標本において測定)によって評価してみると,S群ではI群に比べ有意な減圧効果が得られていた.術中項目である手術時間と出血量において両群間で有意差は存在しなかったが,開腹手術と腹腔鏡下手術の症例数に有意差が存在したため,単純に比較することができない.そこで,S群開腹手術11例とI群開腹手術11例をサブグループとして比較検討したところ,手術時間(P=0.24),出血量(P=0.67)に有意差は認められなかった.人工肛門造設となった症例(ハルトマン手術)は,S群3例(理由:寝たきり高齢,骨盤内播種,多発肝転移・腹膜播種),I群1例(理由:骨盤内播種)であり,いずれの場合も大腸の減圧不良に起因する人工肛門造設ではなかった.また,術後項目である術後在院日数と合併症(Clavian-Dindo分類IIIa以上)においても,両群間で有意差を認めなかった.総入院日数で評価した場合でも両群間において有意差はなかった.

Table 2  Clinical outcomes
S group (n=24) I group (n=12) P-value
Preoperative course
 The number of patients allowed discharge 18(75%) 0 (0%) P<0.01**
 Time interval from the emergency procedure to
 elective surgery (days)*
22 (15–36) 8 (5.75–9) P<0.01***
 Rate of weight loss (%)* −0.77 (−4.16–+1.43) −5.18 (−7.03–−3.39) P<0.01***
 Effect of bowel decompression* 1.09 (1–1.41) 1.33 (1.08–1.92) P<0.01***
Procedure-related variables
 Approaches: Open 11 (45.8%) 11 (91.7%) P<0.05**
       Laparoscopic 13 (54.2%) 1 (8.3%)
 Stoma rate 3(12.5%) 1(8%) P=0.74**
 Operation time (min)* 194 (158–232) 175.5 (131–205) P=0.21***
 Blood loss (g)* 110 (10–163) 345 (147–570) P=0.13***
Postoperative course
 Length of hospital stay for surgery (days)* 13 (9–21) 15.5 (12.8–28) P=0.28***
 Total hospitalization (days)* 28 (26–36) 26.5 (21–40) P=0.43***
Postoperative complications
 Anastomosis leak 3 1 P=0.41**
 Hemorrhage 1 1
 SSI (Surgical site infection) 3 3
 Ileus 5 2
 Clavian-Dindo Classification ≥ Grade IIIa 7 5

*: median (Interquartile Range: IQR), **: Chi-square test, ***: Mann-Whitney U test

SEMSによる癌組織圧排の影響を病理組織学的に検討した結果,全例深達度はSE~SIであったが,機械的挫滅所見は粘膜・粘膜下層に限局しており,固有筋層以下への影響を認めなかった(典型例をFig. 2に提示).また,脈管侵襲の検討結果として,リンパ管侵襲では両群間で有意差はなかったが,静脈侵襲においてはI群の方が有意に高度であった(Table 3).

Fig. 2 

Typical pathological findings in one case of the SEMS group. A) Macroscopic findings of a resected specimen: There is no ulceration at the tumor site and the surrounding regions. A black arrow indicates an inserted SEMS. B) Histological findings of the same case: mechanical crushing occurred chiefly in the mucosal and submucosal layer (black arrowhead) but not the proper muscular layer.

Table 3  Evaluation of the lymphovascular invasion
S group (n=24) I group (n=12) P-value
Permeation of the lymphatic vessels (ly)* 0 (0–1) 1 (0–1) P=0.37***
Venous invasion (v)* 2 (1–2) 3 (2.8–3) P<0.01***

In each case, the grading such as 0, 1, 2 and 3 was based on the classification according to the Japanese classification of colorectal carcinoma.

*: median (Interquartile Range: IQR), **: Chi-square test, ***: Mann-Whitney U test

考察

閉塞性大腸癌は,全大腸癌の3.1~15.8%と比較的高頻度に認め1),緊急処置を必要とするoncological emergencyな状態であり,イレウス解除とともに大腸癌の根治性も考慮しなければならない.閉塞性大腸癌症例の多くは一般に全身状態不良であり,術前検査や十分な腸管減圧処理が行われない状態での緊急手術を行った場合,術後合併症が多く,一期的吻合手術では手術死亡率2~17%と高率で,合併症も重篤化する傾向にある6)7).一方,術前腸管減圧後の待機的手術は,経肛門イレウス管と金属ステント留置ともに緊急手術に比べ術後縫合不全率,合併症率,死亡率とも低下し,永久人工肛門患者が少ないと報告されている8).しかし,イレウス管の場合,洗浄操作の手間以外にも,一般にイレウス管減圧成功率が80%程度6)9)10)である点や,経口・経腸栄養や中心静脈栄養などを行っていた症例においても栄養状態が悪化してしまうことが報告されており,術前栄養管理の難しさが指摘されている8).これを裏付けるように,今回の結果でも,切除標本における腫瘍口側径/肛門側径の比率はS群1.09 vs. I群1.33(P<0.01),体重減少率はS群−0.77% vs. I群−5.18%(P<0.01)となっており,術前管理として重要な腸管減圧効果および栄養管理の観点からSEMSの有用性が示された.

BTSまでの期間としてステント留置から10~14日前後の報告が多い11).減圧処置後10日未満での早期BTSは,腸管状態や栄養状態の改善が不十分であり,縫合不全が多くなることが報告されている12)13).閉塞性大腸癌の場合,通常の大腸癌の同時性多発癌の頻度が3%14)に比べ,9%前後15)と高率であり十分な検索が必要と考えられる.今回のステント留置群24例中,術前大腸内視鏡検査9例+術前注腸検査3例で計12例の術前口側腸管評価が行われており,2014年以降では11例中8例(72%)と口側精査の比率が増えていた.しかし,前処置および検査にともなうリスクの観点から,全症例に対して術前口側腸管の検索を行うことは困難と考えられた.

本症例ではステント留置後BTSまでの期間が中央値22日間と比較的長期であった.姑息的ステント留置を参考にすると,SEMSの有害事象として,挿入後30日以降を後期とした場合,再狭窄(4~22.9%)やステント逸脱(1~12.5%),穿孔(0~4%)を生じる可能性が報告されており3),30日を超えての留置は注意が必要と思われる.自験例では,幸い,待機期間中に上述のステント関連合併症は発現していなかった.手術手技への影響を,早期(留置後30日未満)に行われた症例(n=16)と後期に行われた症例(n=9)に分けサブグループ解析してみると,それぞれ手術時間194(113~430)分vs. 190(120~371)分(P=0.73),出血量145(10~1,660)ml vs. 70(10~525)ml(P=0.13)になっており,ステント留置の長期化にともなう手術手技への悪影響も認めなかった.しかしながら,十分な減圧が得られ,術前精査が完了しているのであれば,可及的早急に手術を施行するべきである.

ステント留置の負の側面として癌組織圧排が予後に及ぼす悪影響が懸念されている.Sabbaghら16)は,ステント留置症例では,脈管侵襲が増加すると報告している.今回,S群とI群の脈管侵襲の程度を,癌進行度分類に有意差がなかった前提条件のもとで比較検討した結果,SEMS留置による脈管侵襲の高度化は認められなかった.また,彼らの報告16)では,腫瘍やその周囲に潰瘍形成(腫瘍部96%,周囲60%)が高頻度で発生しており,さらに穿孔症例も24%と多く,癌組織圧排が非常に強いことが示唆された.これに対して,自験例では,癌の深達度はいずれもSE~SIに達していたが,病理学的にはステントでの機械的損傷は粘膜,粘膜下層に限局しており,固有筋層以深に及ぶ影響は認められなかった.この相違の成因として,ステント留置手技の違いが関与している可能性が考えられる.本邦ではaxial force(腸管直線化作用)の強いWallFlexステント®と屈曲への柔軟性を有するNiti-Sステント®が保険適応となっており,それぞれ長所短所がある.WallFlexステント®は,挿入操作の微調整が可能で,その高い直線化力により開存性に富む利点の反面,使用部位によっては,ステント辺縁が非癌部腸管壁に過度に食い込み,これが腸管損傷の要因になっている可能性15)16)が示唆されている.一方,Nitis-Sステント®は,ステント自体のaxial forceがほとんどなく,屈曲した部分でも無理な負荷がかかりにくく,また,両側端部分も柔らかく腸管壁への力を分散させる利点がある反面,位置調整が難しく留置操作に経験を要するとされる.これらの特長を考慮して症例毎に適切な製品を選択し,過度の癌組織圧排を予防することが重要である.以上,我々の検討結果は,適正なSEMS留置を行うかぎり,脈管侵襲の増悪および固有筋層以深の機械的損傷といった悪影響のじゃっ起はない可能性を示唆していると考えられる.

2014年に報告されたESGEガイドライン3)において,閉塞性大腸癌に対するBTSの適応指針が公表された.臨床症状を伴う左側閉塞性大腸癌への標準治療としての術前ステント留置のBTSは推奨できないことが述べられている.大腸ステント留置と緊急手術を比較した際の周術期合併症,一期的吻合,ストマ比率などの観点での短期成績に関するSEMSの有効性は認めつつも17)18),SEMS留置により一定の率で発生する穿孔によって局所再発や腹膜播種をじゃっ起する蓋然性が高いとし19)20),耐術能などにリスクのある患者を除いて,長期予後の観点から適応に否定的な見解を提示している.しかし,ガイドラインが根拠とした臨床研究では,ステント留置成功率が平均76.9%(46.7~100%)となっており,穿孔率が0~12.8%と大きな幅を示しており16)19)21)~23),大腸ステント留置後穿孔症例の場合,局所再発が50%に達し,穿孔なし症例10%と緊急手術症例11%に比べ,高い局所再発率傾向であった(P=0.053).加えて,転移再発率も上昇して83%を示し,穿孔なし症例34%と緊急手術症例26%に比べて有意に高率であった(P<0.01)24).すなわち,ステント留置の合併症である穿孔が局所再発・遠隔再発の原因に強く関与しており,留置手技自体の成績が長期的な予後を大きく左右することが示唆されていた.本邦の場合,留置成功率が非常に高く,臨床的有効率は92~100%1)25)~27)と報告されており,さらに穿孔率は0~3.1%27)~29)に留まり比較的安全に施行されている.もう一点留意しておくべき事項として,同ガイドラインが引用した長期のoncologicalな影響に関する報告は,いずれも症例数が30未満の小規模な検討19)21)であった.以上を勘案すると,ESGEガイドライン3)の見解をそのまま本邦に適応することは合理性を欠くと考えられる.SEMS留置の長期成績に関しては賛否両論30)~32)あるのが現状であり,短期的には局所再発が増加するが長期生存率には差がないとする報告33)34)も存在する.現時点において,閉塞性大腸癌に対するSEMS留置の是非を決めつけることは時期尚早であると思われる.

利益相反:なし

文献
 

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