日本消化器外科学会雑誌
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
症例報告
胆囊管にB5胆管が合流し胆囊B5胆管瘻を併発した胆囊結石に対し,腹腔鏡下胆摘兼胆管切除とbiliary ablationを行った1例
市川 健小松原 春菜河埜 道夫近藤 昭信田中 穣長沼 達史伊佐地 秀司
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 49 巻 9 号 p. 889-896

詳細
Abstract

症例は70歳の男性で,10年前より胆石を指摘されていたが,今回右季肋部痛を主訴に当院内科を受診した.腹部USでは胆囊の壁肥厚と胆囊内に複数の結石を認め,drip infusion cholangiographic-CT(以下,DIC-CTと略記)でB5胆管は走行異常を認め,胆囊管と共通管を形成していた.術中胆管損傷を防止するために,術前にB5胆管に内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage;ENBD)留置を施行し,当科で待機的に腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.術中所見では,胆囊頸部で結石が嵌頓しさらに隣接するB5胆管に瘻孔を形成しており,瘻孔部でB5胆管を損傷した.このため,腹腔鏡下に胆囊とB5胆管部分切除を行い,B5末梢側胆管内に無水エタノールを注入するablationを加えた.胆管走行異常を伴い,胆囊結石の嵌頓による胆囊B5胆管瘻に対し,腹腔鏡下に胆囊とB5胆管部分切除に加え,B5末梢胆管のbiliary ablationを加えることで良好な結果が得られた.

はじめに

腹腔鏡下胆囊摘出術において胆道損傷の報告は過去に散見されるが,副肝管やLuschka管など胆管走行の変異の存在が胆管損傷のリスクを高めることが知られている1)2).本症例では副肝管の一つであるB5胆管走行異常に加え,胆囊結石の嵌頓による胆囊B5胆管瘻と術中診断したが,腹腔鏡下に胆囊とB5胆管部分切除を行い,術後胆汁瘻の防止のためにB5肝側胆管に対してbiliary ablationを加えることで合併症を来すことなく管理可能であった.

症例

症例:70歳,男性

主訴:右季肋部痛

既往歴:虫垂炎(32歳),急性心筋梗塞(52歳),糖尿病(60歳より),脂質異常症(60歳より)

現病歴:2004年より胆石を指摘されていた.2014年10月より右季肋部痛を自覚し,症状が持続するため同年11月に当院内科を受診した.

来院時現症:身長165 cm,体重64.1 kg.腹部は平坦軟で心窩部に軽度の圧痛所見と右季肋部の叩打痛を認めた.

腹部US所見:胆囊壁の肥厚と胆囊内に最大19.8 mmで複数個の結石を認め,エコーパターンからはコレステロール系結石が指示された(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal US findings show hypertrophy of the gallbladder wall and several gallbladder stones up to 19.8 mm.

Drip infusion cholangiographic-CT(以下,DIC-CTと略記)所見:B5胆管の走行異常を認めた.胆囊頸部より末梢側ではB5胆管の拡張を認め(Fig. 2a),胆囊頸部で陰影欠損像と,これにより圧排され狭窄を伴ったB5胆管が胆囊管に合流する形態(Fig. 2b)で,最終的にハイステル弁を有する胆囊管が総胆管に合流していた(Fig. 2c).

Fig. 2 

DIC-CT findings (a/b/c). a: DIC-CT shows an abnormal course of the B5 bile duct and dilatation of the peripheral B5 bile duct (arrow). b: The B5 bile duct has joined the cystic duct and is accompanied by retraction and constriction by a filling defect in the gallbladder neck (square A). c: Eventually, the cystic duct merges with the common bile duct (square B).

以上より,胆囊結石・胆管走行異常と診断され手術目的に当科紹介となった.術中胆管損傷のリスクを軽減するために術前にERCを施行した.

ERC所見:DIC-CT所見と同様,B5胆管の走行異常と胆囊頸部に欠損像を認めた(Fig. 3).このため,B5胆管に内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage;以下,ENBDと略記)を留置し腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.

Fig. 3 

ERC findings show abnormal branching similar to the findings of the DIC-CT and incarcerated stones (asterisk) in the gallbladder neck. An ENBD tube is placed into the B5 bile duct.

術中所見:胆囊頸部で胆囊管とB5胆管は別々に剥離可能で先に胆囊管をクリップし,ENBD造影を行った.

術中胆道造影検査所見:胆囊管は造影されなくなったが,術前のERC所見と同様にB5胆管内に陰影欠損像とその周囲に造影所見を認めた(Fig. 4a).造影後に胆囊とB5胆管の剥離を試みたが困難であり,胆囊頸部を損傷しそこから確認すると結石とその直下にENBDチューブを認め,胆囊とB5胆管との瘻孔形成が確認された(Fig. 4b).このため胆囊結石嵌頓による胆囊B5胆管瘻と診断し(Fig. 5),瘻孔部を含めたB5胆管の部分切除が必要となった.肝側B5胆管径は細く胆道再建は困難と考え,肝側断端からの術後胆汁瘻を懸念し,肝外B5胆管の合併切除を行うこととして,肝側のB5胆管領域をablationする方針とした.

Fig. 4 

Operative cholangiographic findings (a) and intraoperative findings (b). a: Contrast images of the cystic duct have disappeared after clipping the cystic duct (yellow arrow), but the filling defect and its surrounding can be detected in the B5 bile duct. b: An ENBD tube is exposed under the stones in the injured gallbladder neck.

Fig. 5 

Diagram shows fistulation to the B5 bile duct confirmed via the stone.

Biliary ablationと胆囊摘出:胆囊管,胆囊動脈を順次切離した後に,胆囊床から胆囊を剥離し胆囊はB5胆管でのみ肝臓とつながった状態となった.B5胆管の肝臓への流入部で小切開し,17G硬膜外針を腹壁より刺入しカテーテル(直径1 mm)を胆管の切開孔より挿入した(Fig. 6a).ウログラフィンを2.5 ml注入,造影しB5末梢胆管の描出を確認した(Fig. 6b).Biliary ablationは同量の無水エタノールを注入し,10分間鉗子でクランプした後に生理食塩水で洗浄して末梢B5胆管をクリップ後切離し,胆囊と一塊に摘出した(Fig. 7a, b).

Fig. 6 

Intraoperative findings (a) and radiographic findings of the bile duct stump (b). a: We dissected the inlet section of the B5 bile duct to the liver and inserted a 17 G epidural catheter from the incision hole. b: Urografin of 2.5 ml was injected to confirm the visualization of the peripheral bile duct (square).

Fig. 7 

Intraoperative findings (a) and radiographic findings of the bile duct stump (b). a: After clipping the peripheral B5 bile duct, cholecystectomy and partial resection of the B5 bile duct were performed. b: The resected specimen shows the B5 bile duct (red arrow) and the cystic duct (yellow arrow).

術後経過:術後の発熱,血液検査上ALPやγGTPも上昇なく経過し胆汁瘻や胆管炎などの合併症は認めず,術後第11病日に退院した.

術後DIC-CT(術後42日目)所見:B5胆管末梢からの胆汁分泌の所見は消失していた(Fig. 8).

Fig. 8 

DIC-CT findings (postoperative day 42) indicating that the bile secretion from the peripheral B5 bile duct had disappeared.

考察

胆道系は変異が多く腹腔鏡下胆囊摘出術を安全に行ううえで術前に走行異常を把握することが重要である.このため,術前のDIC-CTやMRCPの有用性が指摘されており,DIC-CTはMRCPに比べて胆道変異の診断精度が勝るとする報告3)があり,中尾ら4)は胆囊炎に対する腹腔鏡下胆囊摘出術の症例検討においてDIC-CTで胆囊管や胆囊の非造影例では開腹移行率が高かったことを報告している.このため,当科では特にリスクがなければDIC-CTを胆囊摘出術前の総胆管結石や胆管走行異常を確認する目的だけでなく,胆囊と胆囊管の造影有無を確認して腹腔鏡手術の難易度を測るために,MRCPに替わる検査としてルーチンに施行している.本症例でもDIC-CTでB5胆管の走行異常を術前に確認可能であった.さらに,術前走行異常を認めた場合はENBD留置により胆管損傷や胆汁瘻など合併症発生率の低下が期待できるとされる5).本症例でもENBDをB5胆管に術前留置したことで術中の造影や解剖学的認識に有用であり,胆囊胆管瘻の診断を得る一助となり非常に有用であった.

肝外胆管の走行異常については分類においてこれまで多くの報告があり,古くより久次ら6)や松永ら7)の分類が汎用されている.本症例では久次らの分類において副肝管のV型に相当すると考えられたが,実際にはII型とV型の判別が困難な例も多いと思われる.V型は胆管処理において胆道損傷のリスクが高く,臨床的に最も注意を要する走行異常の形態であると報告されており8),本症例では術中胆道損傷のリスクを軽減するためにB5胆管に術前ENBDチューブの留置を行い術中適宜造影検査を行えるようにしておいた.

一方,本症例ではさらに胆囊頸部の結石が隣接するB5胆管に嵌頓することにより瘻孔を形成していた.胆囊胆管瘻は,我々が医学中央雑誌で1977年から2015年の期間に「胆囊胆管瘻」をキーワードに検索しえたかぎりでは多くはMirizzi症候群による報告例であり,PubMedによる1950年から2015年の期間に「biliobiliary fistula」をキーワードに検索しても同様の結果であった.本症例のように結石嵌頓により隣接する分岐した胆管,それも走行異常を伴い瘻孔を形成した報告例はなく極めてまれな病態と考えられた.本症例においては,術前画像診断からは胆囊摘出術の際にB5胆管との慎重な剥離操作が必要であり,術中胆管損傷を合併した場合にはB5胆管の合併切除を行うことも想定していた.過去の報告において,胆管が離断されたときには一般的には開腹しての吻合を行うことが安全とされ,胆管空腸吻合や胆管十二指腸吻合による胆道再建を行われることが多いが,離断された胆管がドレナージする領域が小さければ損傷した胆管断端を結紮する方が術後のトラブルが少ないとも報告されている9).本症例は切離した胆管径は2 mm以下で細く,造影所見においても僅かに胆管枝が描出される程度の小範囲であり,吻合は困難と判断した.また,術後に判明した副肝管離断例に対し,断端を結紮処理後も胆汁瘻が持続し無水エタノール注入により治癒を得た報告例もあり10),胆管断端の結紮やクリップによる処理のみでは術後胆汁瘻を来す可能性があった.このため,本症例では胆管断端から無水エタノール注入によるbiliary ablationを加えたのち,末梢胆管はクリップを用いて確実に閉鎖した.

Biliary ablationは肝胆膵領域における術後胆汁瘻(離断型)の治療において多く報告されるが,この手技を応用しB5末梢胆管の機能廃絶を目的に術中ablationを施行した.鈴木ら11)の胆管ablationについての検討によれば,使用薬剤は無水エタノール,n-butyl cyanoarylate,acetic acidなどが報告される中で無水エタノールの使用例が最も多いが,確立された方法はなく注入量や注入回数,焼灼時間は各施設によりばらつきがある.本症例では無水エタノールを使用し造影剤注入可能量と同量で1回のみ注入を行った.注入量に関しては造影剤量の1.5倍量の投与で穿孔を来した報告例12)もあるため,一定の見解はないものの同量の注入が安全であると考えられる.より確実な胆管ablationを目指すのであれば注入回数も複数回行う方が効果的であり1~4回必要と報告される13).本症例においては術中に完全な機能廃絶を確認する必要はなく,胆管断端もクリップにより確実に閉鎖可能であったため,1回の注入で十分であるものと考えた.

また,本症例では術前B5胆管にENBD留置を行っていたが,カテーテル先端が術中に抜けてしまったため腹壁から硬膜外カテーテルを挿入してB5末梢胆管内にカニュレーションを行う必要性が生じた.ENBDチューブがB5胆管内に留置されていれば,同部位から直接エタノールの注入も可能であったものと思われる.

今回,まれなB5胆管走行異常に加え胆囊結石による胆囊B5胆管瘻を認め,腹腔鏡下にB5胆管部分切除とその末梢胆管に無水エタノールの注入によるbiliary ablationを加え胆囊摘出術を施行した.術前ENBD挿入により手術を安全に施行でき,残存B5胆管のbiliary ablationを施行することにより,術後胆汁瘻や胆管炎などの合併症なく経過した.本症例のような胆管走行異常を伴う腹腔鏡下胆囊摘出術において,肝外胆管の損傷や離断を余儀なくされた症例で胆管がドレナージする領域が小さければ,離断した末梢胆管のablationを加え損傷した肝外胆管を切離する手技は腹腔鏡手術でも容易であり安全な治療法と考えられた.

利益相反:なし

文献
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top