日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
術後18年で肝再発を来した小腸gastrointestinal stromal tumorの1例
上坂 貴洋三澤 一仁大島 隆宏大島 由佳齋藤 健太郎沢田 堯史寺崎 康展皆川 のぞみ奥田 耕司大川 由美石井 保志
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2017 年 50 巻 10 号 p. 830-837

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Abstract

症例は84歳の女性で,1998年2月,12 cm大の小腸gastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記)に対して小腸部分切除を施行した.補助化学療法は行わず,2014年1月まで経過観察を行っていた.2016年6月,高血圧のスクリーニング目的に他院で実施された腹部USで肝右葉に腫瘤を指摘され,精査目的に同月当院紹介受診となった.腹部造影CTで肝S8に98 mm大の腫瘍を認め,腫瘍生検を行ったが診断は確定できなかった.腹部USやCTの結果はGISTの肝転移として矛盾しないものであり,肝右葉切除術を施行した.摘出標本の病理組織検査では紡錘形細胞の束状増生像を認め,c-kit陽性であることから小腸GISTの肝転移と診断した.GISTは切除後10年以上経過してからの再発例が散見され,10年を越える長期的なフォローアップが必要と考えられる.

はじめに

Gastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記)は消化器に発生する非上皮性の腫瘍であり,消化管間葉系腫瘍の中では最も多い1).疾患概念の変化もあって患者数はこれまでの推計より多いと考えられており,重要度は増している1).GISTの治療方法や術後フォローアップ期間についてはガイドラインが整備されてきているが2),切除後10年以上を経てからの再発例も散見され,検討の余地があるように思われる.今回,我々は切除から18年後に肝転移を認めた小腸GISTの1症例を経験したので報告する.

症例

症例:84歳,女性

主訴:なし.

既往歴:関節リウマチ(60歳),クモ膜下出血に対して開頭クリッピング術(80歳),水頭症に対してLPシャント埋設術(80歳),穿孔性虫垂炎に対して虫垂切除術(81歳),高血圧(84歳)

家族歴:特記すべきことなし.

生活歴:飲酒喫煙歴なし.

現病歴:1998年1月,貧血精査目的の腹部CTで小腸腫瘍を指摘され,同年2月に開腹手術を施行した.トライツ靭帯から約100 cmの小腸壁に12 cm大の腫瘤が認められ,同腫瘤を含む小腸を部分切除した.病理組織学的検査では,腫瘍は粘膜下から漿膜下にかけて存在し,内部は紡錘形異型細胞で占められ,核分裂像が散在していた.免疫染色検査ではCD34陽性,αSMA陰性であり,malignant GISTと診断された(Fig. 1A, B).術後は補助化学療法を行わず,外来でのフォローアップとした.2008年7月までの10年間は,3か月毎の外来診察と血液検査,および半年~1年毎の腹部造影CTを実施した.血液検査に関して,術前からCEAやCA19-9などの腫瘍マーカーの上昇は認められなかったため,診断の契機となった貧血の有無の把握を主な目的としてこれを継続した.2008年7月以後は,術後10年無再発で経過したこともあり,基本的には地域の健診およびがん検診にスクリーニングを委ねることとした.なお,関節リウマチで当院リウマチ科には通院中であることから,全身状態および貧血有無の把握を目的としてリウマチ科とともに3か月毎の外来診察を2014年1月まで継続した.その後は担当医の退職にともなって当科は終診となったが,リウマチ科への通院は継続され,特記すべき臨床所見の変化は認められていなかった.2016年6月から高血圧で近医に通院することになり,その際に実施されたスクリーニング目的の腹部USで肝腫瘍を指摘され,精査加療目的に当院紹介受診となった.

Fig. 1 

Pathological findings of the gastrointestinal stromal tumor of the small intestine. (A) HE stain reveals spindle cells. The mitotic count is 7/50 HPF. (B) The tumor cells are diffusely positive for CD34. (C) The tumor cells are diffusely positive for c-kit. (D) MIB-1 index is 10%.

受診時現症:身長143.0 cm,体重33.7 kg.腹部は平坦,軟で圧痛なく,腫瘤は触知しなかった.

血液検査所見:CA19-9が44 U/ml,ICG R15が11.0%と軽度の上昇を認めたが,その他は特記すべき異常所見を認めなかった.HBs抗原,HCV抗体はともに陰性であった.

腹部US所見:肝S8に境界明瞭,内部不均一な充実性腫瘤を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

Abdominal US image shows a heterogeneous mass with a clear boundary in segment 8 of the liver.

腹部CT所見:単純撮像では,肝S8に周囲肝組織より低吸収な98×80 mmの境界明瞭,辺縁整な類円形の腫瘤を認めた(Fig. 3A).また,造影検査では,単純撮像と同部位に漸増性の造影効果を有する腫瘤を認め,内部には血管増生が目立った(Fig. 3B~D).

Fig. 3 

Abdominal dynamic CT image reveals a 98-mm mass in the right lobe of the liver (arrows). (A) Plain. (B) Arterial phase. (C) Portal venous phase. (D) Hepatic venous phase.

腫瘍生検を実施したが組織片の採取ができず,診断確定には至らなかった.また,LPシャント埋設後のためMRIの撮像はできなかった.上記画像所見が小腸GISTの肝転移に矛盾しないものであり,単発で遠隔転移も認められず,また肝機能に問題ないことから切除の方針とした.

手術所見:肝表面は平滑で辺縁鋭であり,肉眼的に正常肝であった.肝S8に弾性軟の腫瘤を触知した.左葉には明らかな腫瘤は認められず,右葉切除術を施行した.手術時間は254分,出血量は780 mlであり,切除肝重量は625 gであった.

切除標本所見:肉眼的には90×70×65 mmの境界明瞭な白色腫瘍を認めた.病理組織学的所見としては,紡錘形細胞が束状に錯綜しながら増生しており,核分裂像は3個/50HPFであった.免疫組織学的には,c-kit陽性,CD34陽性(focalに),MIB-1 indexは10%であった(Fig. 4).

Fig. 4 

Pathological findings of the metastatic tumor of the liver. (A) Macroscopic appearance of the tumor. (B) HE stain reveals spindle cells. Mitotic count is 3/50 HPF. (C) The tumor cells are diffusely positive for c-kit. (D) The tumor cells are focally positive for CD34. (E) The MIB-1 index is 10%.

CD34の染色様式がやや異なるものの,既往や他の病理組織学的所見,および他に原発と推測されうるGIST病変が認められないことなどから,腫瘍は小腸GISTの肝転移と診断した.術後は胆汁瘻および腹腔内膿瘍を合併したが,抗菌薬投与と経皮的膿瘍ドレナージおよび内視鏡的胆道ドレナージで改善し,術後第68病日にリハビリ目的の転院となった.高齢で認知機能の低下もあることから術後補助化学療法は行わず,半年~1年毎のUSあるいは造影CTによる外来フォローアップの方針とした.術後7か月現在,無再発生存中である.

考察

GISTは平滑筋腫瘍,神経鞘腫,デスモイドなどとともに消化管間葉系腫瘍に分類され,その割合は80%と最も多い1)3).GISTの起源は消化管筋層間に存在するCajal介在細胞であることが明らかにされている1).臨床的に治療が必要となるGISTの頻度はこれまで10万人あたり2~3人程度と考えられてきたが,近年の疾患概念の変化に伴って,現在はその10倍以上とも推定されている1).GISTの発症部位としては胃が全体の60%を占め,小腸が30%,直腸が5~10%とされる3).DeMatteoら4)の報告によると,50代後半の男性にやや多い傾向が認められている.

切除可能な原発GIST治療の第一選択は外科的完全切除であり,臓器機能温存を考慮した切除が推奨されている2).術後はFletcherやMiettinenなどの再発リスク分類に基づいてフォローを行うことが望ましく,特にFletcher分類の高リスク群については術後3年間のイマチニブによる補助化学療法が推奨されている2).本症例において,1998年に切除された原発巣の組織検査を改めて実施したところ,免疫染色検査ではc-kit陽性が確認された(Fig. 1C).核分裂像は7個/50HPFであり,MIB-1 indexは10%であった(Fig. 1D).腫瘍の大きさは12×10 cmであったことから,Fletcher分類では高リスクに相当し,今日ではイマチニブによる補助化学療法が必要となる症例といえる.

GISTの再発/転移部位は肝臓や腹膜の頻度が高く,先述のDeMatteoら4)の報告によると,再発部位の63%が肝臓であったとしている.再発部位が切除可能であっても,切除後再々発の頻度が80~90%と外科治療単独での根治は困難であることから,GISTの再発に対してはイマチニブによる治療が第一選択となる2)5).ただし,初回手術から2年以上経過した後の肝転移再発は術後の予後が比較的良好であることから,完全切除が可能な場合には切除を考慮してもよいと考えられる2).本症例は,初回手術から18年が経過していること,術前診断が確定していないものの小腸GISTの再発が疑われること,単発で完全切除が可能と考えられることなどから外科的切除を実施した.再々発を抑制するためにはイマチニブによる治療が必要と思われるが,高齢で認知機能の低下もあり内服の継続は困難と判断し,外来でのフォローアップの方針とした.

医学中央雑誌において1977年から2016年11月の期間で「GIST」,「肝転移」をキーワードとして検索した結果(会議録は除く),300例の報告を認めた.その中で初回手術から10年以上経過したのちに肝転移が指摘されたものは本症例を含めると8例であった(Table 16)~12).平均年齢は67.7歳,男性6例,女性2例であり,原発巣は胃が5例,十二指腸2例,小腸1例であった.いずれの症例も再発時の自覚症状はなく,スクリーニング目的の腹部USやCTで偶然肝腫瘍を指摘された.これら8例のうち,原発巣に関して記載のあるものはいずれも高リスク(Fletcher分類)であった.当初から診断がGISTであったものは本症例の他,宮本ら12)による1例のみであり,平滑筋肉腫と診断されたものが3例7)~9),平滑筋腫が1例6),solid-pseudopapillary tumor(SPT)が1例11),詳細不明の粘膜下腫瘍が1例であった10).GIST以外に診断されたものは肝転移切除時に原発巣の再検査が行われ,その結果診断がGISTに変更となった.いずれの症例も初回手術後に補助化学療法は施行されず,無治療での経過観察となっていた.肝転移巣はいずれも単発で,径は2.5~9.0 cm(中央値6.2 cm)であった.術式は部分切除4例,外側区切除1例,右葉切除3例であり,いずれも完全切除されていた.肝切除後に化学療法が実施されたのは1例のみであった.報告の時点では全ての症例において術後無再発生存中であり,その期間は7~36か月(中央値12か月)であった.観察期間はやや短いものの,いずれも術後経過は比較的良好と考えられる.したがって,このような10年以上の遠隔期での肝転移再発に対し完全切除可能な場合においては,外科的切除が重要な治療選択肢の一つであるといえる.なお,本症例における肝転移再発までの期間18年は,本邦での論文報告例の中では最長であった.

Table 1  Reported cases of liver metastasis of GIST more than 10 years after resection
No. Author Year Age Sex Primary lesion Recurrence risk Adjuvant therapy after resection Complaint at the recurrence Years to metastatic diagnosis Modality at the detection of the liver metastasis Liver metastasis and surgical procedure Adjuvant therapy after hepatectomy Disease-free survival after hepatectomy (month)
Number Size (cm) Surgical procedure
1 Yonezawa6) 2004 74 M Stomach None None 12 CT Single (S4) 6.4 Partial resection of S4 None 10
2 Kikuchi7) 2006 58 M Stomach High None None 13 CT Single (S8) 6.0 Right lobectomy None 12
3 Tsuge8) 2008 56 F Stomach High None None 15 US Single (S2) 2.5 Lateral segmentectomy
4 Furukawa9) 2010 60 M Stomach None None 11 US Single (S8) 5.0 Partial resection of S8 None 14
5 Ueda10) 2012 80 M Stomach None None 12 CT Single
(S6–7)
7.5 Right lobectomy None 12
6 Suito11) 2015 60 M Duodenum High None None 11 US Single (S4) 8.0 Partial resection of S4 Imatinib 36
7 Miyamoto12) 2016 70 M Duodenum High None None 13 CT Single (S8) 3.0 Partial resection of S8 None 16
8 Our case 84 F Small intestine High None None 18 US Single (S8) 9.0 Right lobectomy None 7

現在のGIST診療ガイドラインによると,高リスク症例では定期的なフォローアップCTを術後10年まで継続するよう推奨している2).本症例は初回手術時にmalignant GISTと診断され,その後10年間は定期的な血液検査および腹部造影CTでのフォローが行われており,現在のガイドライン上も適切な対応であったといえる.なお,81歳時に当院で虫垂切除術を施行しているが,その際に撮像された腹部造影CTでも肝腫瘍は認められなかった(術後15年に相当).現在,高リスク症例に関しては術後補助化学療法としてイマチニブの使用が推奨されており,Table 16)~12)に示した症例とは状況が必ずしも一致しないと考えられる.しかし,高リスク症例の場合には術後10年以上経過しても再発する可能性があり,ガイドラインで推奨されている10年を経過した後も,腹部USなど比較的侵襲の少ない画像検査は可能な範囲で継続する必要があると思われた.

利益相反:なし

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