日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
潰瘍性大腸炎に併発した神経内分泌細胞癌の2例
蝶野 晃弘池内 浩基堀尾 勇規後藤 佳子佐々木 寛文平田 晃弘坂東 俊宏辻村 亨宋 美紗内野 基
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2017 年 50 巻 10 号 p. 838-848

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Abstract

本邦の炎症性腸疾患患者は年々増加し,長期経過例に合併する発癌が問題となっている.潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;以下,UCと略記)に合併する発癌症例の組織型は,頻度的には,高分化型腺癌が最も多いが,低分化の癌合併の報告も進行癌を中心にみられる.今回,神経内分泌細胞癌(neuroendocrine carcinoma;以下,NECと略記)を合併したUC症例を2例経験したので報告する.UCの長期経過例に対するサーベイランスの普及により,早期癌が増加し予後は改善しているが,NECの症例は2例とも早期に遠隔転移を生じ,予後は極めて不良でそれぞれ術後16か月,15か月で永眠となった.症例1のように早期発見は困難な症例も存在するが,dysplasiaが検出された症例は手術を強く勧めるべきだと考える.

はじめに

神経内分泌細胞癌(neuroendocrine carcinoma;以下,NECと略記)は罹患率が年々増加傾向にあると報告されており,本邦において,その発生頻度は10万人に5.25人の割合で,全悪性腫瘍の1~2%を占めるとされている1).潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;以下,UCと略記)の発癌症例が近年,問題となっているがNEC合併症例の報告はまれである.今回,我々はUCに合併したNEC症例を2例経験したので報告する.

症例

症例1:23歳,女性

既往歴:小児喘息,ステロイド性骨粗鬆症

現病歴:16歳時に下痢・腹痛でUCを発症した.5-アミノサリチル酸製剤(以下,5-ASAと略記),ステロイド,インフリキシマブで加療されていたが,再燃寛解を繰り返していた.ステロイド総投与量が10,000 mg以上となりステロイド性骨粗鬆症を併発したことから,タクロリムス導入目的で当院内科紹介となる.しかし,タクロリムスに対しても治療抵抗性であったため,手術目的で当科紹介となった.

来院時検査所見:アルブミン3.1 g/dlと軽度の低下,CRP 2.9 mg/dl,白血球数 16,670/μlと炎症反応の上昇を認める以外は,特記すべき所見を認めなかった.CEA:0.2未満,Ca19-9:4.8,抗p53抗体:0.4未満で腫瘍マーカーも正常であった.

下部消化管内視鏡検査所見:盲腸から直腸まで,粘膜は浮腫状で血管透見も消失しており,右側結腸の炎症が特に強度であった.また,S状結腸から直腸は地図状潰瘍が多発していた.生検にてdysplasiaおよび癌の合併はなかった.

手術所見:手術は定型的に大腸全摘術,J型回腸囊肛門吻合術,回腸人工肛門造設術を施行した.

切除標本所見:術前に癌,dysplasiaは指摘されておらず,手術摘出標本においても肉眼上,右側優位に全大腸に強い炎症性変化を認めるが,明らかな腫瘍は指摘できなかった(Fig. 1).

Fig. 1 

Resected specimen. Macroscopic findings include only severe inflammatory changes in the cecum to the rectum without tumor.

病理組織学的検査所見:横行結腸からS状結腸にdysplasiaが散見され,S状結腸の粘膜下層に7 mm大の腫瘍が指摘された(Fig. 2a).粘膜面に腫瘍は露出しておらず,術前の生検では診断不可能であったことが推測される.免疫染色検査でsynaptophysin陽性,chromogranin Aごく一部に陽性の索状~充実性に増殖する腫瘍を認め,Ki-67陽性率40%以上で,NECと診断された.漿膜下組織の静脈壁およびリンパ管,周囲脂肪組織に腫瘍細胞浸潤を認め(ly3,V1),漿膜面にも腫瘍細胞を認めた(pT4a)(Fig. 2).最終診断は,S,type 5,7 mm,pT4a,ly3,v1,NX,PN0,M0,pStage II(大腸癌取扱い規約 第8版)であった.

Fig. 2 

Microscopic findings of the tumor. a: HE staining. Tumor is present in the submucosa without invading the mucosal layer. b, c: HE staining. Tumor cell infiltrates the serosa (b) and vein at the subserosa (c). d, e, f: Immunohistochemical examination shows immunostaining for chromogranin A (d) and synaptophysin (e) are positive in tumor cells, and the Ki-67 index of tumor cells is >40% (f).

術後経過:術後経過は概ね良好で,第10病日に退院となった.なお,入院中に腹部CTを施行しているが明らかな転移は認めなかった.上記病理結果であったが,回腸人工肛門造設中の化学療法は脱水などで継続困難となることも多く,インフォームドコンセントを得て,2か月後に人工肛門閉鎖術を施行した.人工肛門閉鎖後の全身検索では,FDG-PETで右大腿骨頸部に集積像を認め(Fig. 3),また集積は認めなかったが同時施行のCTで,肝臓に以前には認めなかった多発低吸収域像が指摘された.前記のようなFDG-PET結果であったため,MRIを施行した.右大腿骨頸部にT1W1で低信号,STIRで高信号を示す,造影で不均一な増強効果をみる病変を認め,骨転移と診断した.さらに同様の信号強度を持つ病変を左腸骨にも認め,多発骨転移と診断した(Fig. 4).さらに,EOBプリモビスト造影MRIで,前述の肝病変は,多発肝転移と診断された(Fig. 5).骨転移に対して強度変調放射線治療を,肝転移に対して,CDDP+VP16による化学療法を施行するも,手術から16か月後に永眠した.

Fig. 3 

FDG-PET scan shows high accu­mulation in the right femoral head with a SUVmax of 7.3 (arrow).

Fig. 4 

T1 study of MRI reveals a low intensity area in the right femoral head and left iliac bone and STIR reveals a high intensity area in the same areas.

Fig. 5 

abdominal MRI. a: T1-weighted MRI reveals multiple hypointense lesions. b: T2-weighted MRI reveals multiple hyperintense lesions. c: EOB-MRI reveals a low intensity lesion in the hepatobiliary phase.

症例2:43歳,男性

既往歴:不安神経症

現病歴:35歳時に下痢・血便でUCを発症した.5-ASAおよびステロイドで経過観察されていたが,再燃緩解を繰り返していた.42歳時のsurveillance colonoscopy(以下,SCと略記)にてS状結腸の小隆起病変よりdysplasiaを検出した.手術を勧めるも,本人の強い希望により漢方治療を追加して行っていた.半年後のSCにて同部位よりNECを検出した.手術目的で当科紹介となった.

入院時現症:身長170 cm,体重57 kg,理学的所見に特記すべき異常を認めなかった.カルチノイド徴候も認めなかった.

血液検査所見:炎症反応は正常で貧血も認めなかった.腫瘍マーカーはCEA:2.1,CA19-9:1.2,抗p53抗体:0.4未満と正常であった.

下部消化管内視鏡検査所見:S状結腸に周囲との境界がやや不明瞭な2型腫瘍を認め,生検にてNECと診断された(Fig. 6).

Fig. 6 

Colonoscopy shows a smooth pro­trusion with central depression in the sigmoid colon.

手術所見:手術は定型的に大腸全摘術,J型回腸囊肛門吻合術,回腸人工肛門造設術,D3郭清を施行した.

切除標本所見:炎症は左側を中心に直腸から盲腸に亘ってびまん性に認め,S状結腸に既知の腫瘍を認めた(Fig. 7).

Fig. 7 

Resected specimen. The cecum to the rectum shows active colitis, and an elevated lesion with central depression in the sigmoid colon (arrow).

病理組織学的検査所見:腫瘍部にN/C比の大きい小型異型細胞の小胞巣状または充実性増殖を認め(Fig. 8a),腫瘍細胞は免疫染色検査でsynaptophysin一部陽性,chromogranin A陽性(Fig. 8b),CD56陽性(Fig. 8c),さらにKi-67陽性率60%以上(Fig. 8d)であり,NECと診断された.腫瘍周囲にはdysplasiaが散見され,炎症性発癌として矛盾しない所見であった.最終診断は,S,type 2,14 mm,pT2,int,INFb,ly3,v1,N0,PN0,M0,pStage I(大腸癌取扱い規約 第8版)であった.

Fig. 8 

Microscopic findings of the tumor. a: HE staining. Alveolar and funicular structures can be seen. b, c, d: Immunohistochemical examination shows immunostaining for chromogranin A (b) and CD56 (c) are positive in tumor cells, and the Ki-67 index of tumor cells is >60% (d).

術後経過:麻痺性の腸閉塞を併発したが保存的に軽快し,第24病日に退院となった.脈管侵襲陽性であったが,Stage Iであり十分なインフォームドコンセントを得て,術後補助化学療法は行わない方針となった.しかし,10か月後に右臀部痛が出現し,精査にて右腸骨転移が明らかとなった(Fig. 9).疼痛が強く,本人の希望もあり骨転移部に陽子線治療(64 GyE/16回)を施行するも,さらに右第6肋骨転移・多発肝転移・縦隔リンパ節転移が出現した(Fig. 10).手術から15か月後に永眠となった.

Fig. 9 

Abdominal CT examination. Right iliac bone metastasis appeared at 10 months after operation (arrows).

Fig. 10 

Chest and abdominal CT examination. a, b, c: metastasis in the sixth rib (a), mediastinal lymph node metastases (b), and liver metastases (arrows).

考察

UCに合併する発癌症例が増加している.Ekbomら2)は,全大腸炎型UCの発癌リスクは,健常者に対して14.8倍と報告しており,Eadenら3)のメタアナリシス解析では,UC累積発癌率が発症10年で1.6%,20年で8.3%,30年で18.4%であったとされている.本邦でも,鈴木ら4)の集計で,病悩期間が10年以上の症例,全大腸炎型の症例に多かったと報告されている.また,当院で手術施行したUC症例においても,癌/dysplasiaで手術となる症例が急激に増加してきており,2011年以降は手術数に占める割合が20%を超えている5)6).UCに合併する癌の発癌経路は,sporadic cancerの発癌経路として知られるadenoma-carcinoma sequenceなどではなく,慢性炎症性粘膜を発生母地として,dysplasiaを介し癌へ進展していく,dysplasia-carcinoma sequenceと考えられている7)8).そのため,欧米ではSCが行われ,ガイドラインにその有用性が示されており,発症から8年経過した全ての症例に推奨されており,高リスク群では毎年,中リスク群では2,3 年ごとに,低リスク群では5年ごとに施行することを推奨している9).本邦でも広く普及してきておりガイドライン化が待たれる.本邦におけるUC合併発癌症例の予後に関して,Watanabeら10)の報告ではsporadic cancerと比較し,Stage IIIにおいて全生存率が有意に低いことが示されており,Stage I,IIにおいては有意差を認めず,SCで早期に発見することが重要とされている.しかし,SCを施行していたにもかかわらず,進行癌で発見された症例も少なくなく,当院の症例の検討においても,SC群でも25%がStage II以上であった11).今回,我々が経験した2例においては,発症後,7年目・8年目と比較的早期にNECを合併し,進行癌であった.

さらにUCに合併する癌は,sporadic cancerと比べ,組織学的に低分化癌の頻度が高いとされていた4)が,SCが本邦でも広く普及してきたため,近年では比較的早期に診断されることも多く,高分化癌が増加している.Table 1に当院で経験したUCに合併した発癌症例147症例185病変の組織形を示した.高分化型腺癌が最も多く107病変(57.8%)であり,NECは2病変(1.1%)であった.

Table 1  Histological type of cancer with UC in our institution
Histological type of cancer
Well differentiated adenocarcinoma 107 (57.8)
Moderately differentiated adenocarcinoma 38 (20.5)
Poorly differentiated adenocarcinoma 16 (8.6)
Mucinous adenocarcinoma 14 (7.6)
Signet-ring cell carcinoma 5 (2.7)
Squamous cell carcinoma 3 (1.6)
NEC 2 (1.1)

Values are shown as n (%).

神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor;以下,NETと略記)はカルチノイドとして1907年にOberendorferによって初めて報告され世界保健機関により病理組織学的特徴による分類が提唱され,疾患概念と名称が定着した.2010年に改定が行われ,Ki-67指数>20%がNECと分類され,悪性度・増殖能の高く予後不良とされている.その罹患率は年々増加傾向にあるといわれており,本邦において,その発生頻度は10万人に5.25人の割合で発症し,全悪性腫瘍の1~2%を占めるとされている.本邦では,直腸で最も多く発生し,消化管NETの55.7%とされている1)

治療法としては,NECの生物学的悪性度は高く,外科的切除のみならず,術後化学療法などを行う集学的治療が必要とされ,局所進行切除不良例には放射線療法単独もしくは,放射線化学療法を,遠隔転移例には化学療法を行うとされている12).化学療法のレジメンは肺小細胞癌に準じてエトポシドあるいはイリノテカンとシスプラチンの併用療法が選択される.欧米では,シスプラチン+エトポシドが用いられることが多いが,本邦では肺小細胞癌に対し,シスプラチン+イリノテカンがシスプラチン+エトポシドよりも優越性を示したことより,シスプラチン+イリノテカンが用いられることも少なくない13).高い奏効率が得られるとされているが,増悪後の腫瘍進展速度は早く予後不良である.今回の我々の症例においても,症例1は,術後6か月で再発し,その後10か月で死亡,症例2は,術後10か月で再発し,その後5か月で死亡と予後不良であった.推奨される有効な二次治療はないとされている.

UCに合併したNECの報告は少なく,医学中央雑誌にて「潰瘍性大腸炎」,「神経内分泌細胞癌」もしくは「小細胞癌」というキーワードで,1981年から2016年5月の期間で検索した結果,本邦において,会議録を除くとわずか3例,会議録を含めても9例のみの報告であった(Table 214)~17).海外文献の報告もPubMedにて「ulcerative colitis」,「neuroendocrine carcinoma」もしくは「small cell carcinoma」をキーワードに1981年から2016年5月の期間で検索した結果,内訳が不明だがUC,Crohn病合わせて14例の報告とその他13編14例という少数の報告のみであった(Table 318)~31).全生存期間の平均はわずか10か月と報告されており予後は不良である18)

Table 2  Summary of cases of UC with NEC in Japan
No. Author Year Patients characteristics
Sex Age Disease duration (years) Location
1 Hasegawa14) 2010 M 50 22 Rectum
2 Hayashi15) 2012 M 36 17 Rectum
3 Yoshihara16) 2016 M 70 12 Sigmoid colon
4 Sawano17) 2016 F 45 20 Rectum
5 Our case F 23 7 Sigmoid colon
6 Our case M 43 8 Sigmoid colon
Table 3  Summary of cases of UC with NEC outside Japan
No. Author Year Patients characteristics
Sex Age Disease duration (years) Location
1 Owen18) 1981 M 32 16 Cecum
2 Rubin19) 1990 F 38 20 Rectosigmoid colon
3 Yaziji20) 1996 unclear unclear unclear Rectum
4 Sigel21) 1998 A report of 14 cases: Neuroendocrine neoplasms arising in UC or Crohn disease
(breakdown is unclear)
5 Harikumar22) 2008 M 61 8 Rectosigmoid colon
6 Grassia23) 2009 M 35 11 Rectum
7 Grassia23) 2009 M 77 27 Rectum
8 Freeman24) 2009 M 48 16 Ascending colon
9 Kosmidis25) 2010 M 34 10 Rectum
10 Di Sabatino26) 2011 F 68 30 Rectum
11 Gemeinhardt27) 2012 M 45 unclear Rectosigmoid colon
12 Marchioni Beery28) 2014 M 56 26 Rectosigmoid colon
13 Carvalho29) 2016 M 42 19 unclear
14 Lacerda-Filho30) 2016 F 61 25 unclear
15 Zerboni31) 2016 M 61 12 Sigmoid colon

SCを施行していたにもかかわらず,進行癌で発見された症例も少なくない.今回の2症例のように低分化癌を併発する症例が存在すること,またdysplasia-carcinoma sequenceという発癌経路をたどるとされていることを考慮すると,少なくとも症例2のようにdysplasiaが検出された症例は強く手術を勧めるべきである.

利益相反:なし

文献
 

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