日本消化器外科学会雑誌
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原著
食道cancer boardに基づく統合的治療戦略決定による前向きデータベースを用いた食道扁平上皮癌の予後の検討
原田 宏輝山下 継史細田 桂森谷 宏光三重野 浩朗江間 玲鷲尾 真理愛堅田 親利小森 承子渡邊 昌彦
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2017 年 50 巻 12 号 p. 941-955

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Abstract

目的:当院特有の食道癌治療は,cStage II/III(cT4除く)症例に対するdocetaxel/CDDP/5-FUを用いた術前化学療法,cT4あるいはcM1 lymph node metastasis症例に対するdocetaxel/CDDP/5-FUを用いた化学放射線療法の施設臨床研究からなる.Cancer board(以下,CBと略記)に基づく食道癌治療戦略の決定と最新の予後解析について報告する.方法:2009年1月から2016年3月までに食道CBで検討された504例の食道扁平上皮癌の前向きデータベースに基づく予後解析を行った.結果:(1)手術治療症例のcStage 毎(I/IIA/IIB/III/IV)の5年全生存率は,88.3/85.2/83.8/55.8/66.7%であった.(2)cStage I/IIB症例に対する手術治療例においては,5年疾患特異的生存率は95.3/90.2%と極めて良好であった.cStage IIBでは90.5%の症例に術前化学療法が施行された.(3)cStage IIA/III症例の手術治療成績は,予後不良のcT4症例を除いた非手術治療と比較して有意に良好であった(P=0.0229).(4)遠隔転移cStage IV症例の長期生存例は,傍大動脈リンパ節転移例に対するconversion surgeryであった.結語:食道CBによる集学的治療方針決定により予後が最適化された.特に手術治療症例の予後が良好であり,適応患者には最も推奨できる治療法と考える.

はじめに

食道癌は他の消化器癌に比べて化学療法や放射線療法などの非手術治療が奏効する.それゆえ治療選択肢は多岐で複雑である.また,欧米との組織型の違いから海外の文献を本邦の標準治療として用いることは困難である.当院では食道癌に対する合同カンファレンス(cancer board;以下,CBと略記)にて我が国の標準治療を踏まえ議論を行い,治療方針を決定しており,各症例において最適の集学的治療を目指している.

我が国における食道癌の動態は,2012年の食道癌罹患者数は21,965人であり,2014年の死亡者数は11,576人であった.男女比は6:1と男性に多く,男性の粗死亡率は癌死亡率における第6位に位置しており1),早急な治療evidenceの構築や治療成績についての理解が必要である.

これまでに前向きデータベースによる全ステージ別の食道癌治療法や予後解析をまとめた報告は少ない.また,近年docetaxelを臨床試験として取り入れた集学的治療を行った食道癌治療の詳細な解析結果が待たれている.CBによって選択される統合的な集学的治療法についての現状についても報告の価値があると考える.

目的

食道CBにおける治療方針決定とその有用性を検討する目的で,前向きデータベースを用いて予後解析を行っ‍た.

対象と方法

2009年1月1日から2016年3月31日までの期間で,消化器外科,消化器内科,放射線科によるCBに提示された食道扁平上皮癌症例504例の合同協議による前向きデータベースをもとに解析を行った.明らかに内科的治療の適応と考えられた表在型食道癌は検討から外されている.

CBにおける第一治療選択の原則として,1)cStage I症例のうちcT1a(EP/LPM)症例には内視鏡的治療(endoscopic mucosal resection;以下,EMRと略記,endoscopic submucosal dissection;以下,ESDと略記)を,cT1a(MM),cT1b(SM1)症例は相対的適応として内視鏡的治療を施行する.切除検体において断端陽性,pSM 2/3,脈管侵襲ありの場合は化学放射線療法(chemoradiotherapy;以下,CRTと略記)を追加する.cT1b(SM2,SM3)症例に関しては外科治療を行う.2)cT4を除くcStage II,III症例に対しては,docetaxel/CDDP/5-FU(以下,DCFと略記)化学療法の効果を確認し,奏効,非奏効によりCRTあるいは手術を検討する(chemoselection)第II相試験(CROC試験)に登録することを優先し,対象症例から外れた症例もしくは,参加を拒否した症例に関しては,手術が可能であれば,DCFを用いた術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy;以下,NACと略記)を行い手術とする.手術可能例で,DCFの適応にならない患者に推奨される治療は全国標準治療としてNAC-CDDP/5-FU(以下,CFと略記)とする(JCOG9907 regimen)2).手術可能ではあるが,高齢(CDDPの適応は75歳以下に限定するため,76歳以上はNACを行わない)または腎機能が低下して化学療法を施行できない症例に対しては手術単独で治療を行う.

耐術能のない患者や手術を受けられない患者は代替療法としてCF療法を併用した根治療法であるdefinitive CRT(以下,dCRTと略記)3)をRadiation Therapy Oncology Group regimenに基づいて行った.76歳以上の高齢者に対してはnedaplatin/5-FU(以下,NFと略記)+放射線療法(radiation therapy;以下,Rと略記)を用いたがこれも根治療法と位置付けた.CRT治療前に化学療法を行った導入化学療法(induction chemotherapy;以下,ICTと略記)は,臨床試験参加例(CROC試験)あるいは他の癌の合併例(特に頭頸部癌や肺癌などの扁平上皮癌の合併例)や結果として手術拒否例などに施行された(Fig. 1).3)cT4または,傍大動脈リンパ節転移を除く領域外リンパ節転移を有したcStage IV M1 lymph node metastasis(以下,M1 LYMと略記)症例に対しては,当院にて行われた臨床試験 KDOG 0501-P24)に基づきDCF(docetaxel 35 mg/m2/CDDP 40 mg/m2/5-FU 400 mg/m2)と併用した根治的な放射線療法(以下,DCF-Rと略記)を行った.4)他臓器転移,傍大動脈リンパ節転移を有したM1 distant metastasis(以下,M1 DISと略記)の症例に関してはDCFが使用可能であればICTを行い,downstageした場合は根治を目指したCRTあるいは手術治療を行う.疼痛例や嚥下困難例には姑息的CRT(5-FU-Rなど)も行ったが,化学療法適応外症例には緩和的放射線単独療法を行った.治療不能例,積極的な治療を望まれない例はbest supportive careとした(Fig. 2).

Fig. 1 

Principle of therapeutic strategies for esophageal squamous cell carcinoma (ESCC) patients with cStage I and cStage II/III (excluding cT4) based on an esophageal cancer board. CF: CDDP+5-FU, R: radiation therapy, CROC trial: chemoselection clinical trial, DCF: docetaxel+CDDP+5-FU, RTOG: radiation therapy oncology group, NAC: neoadjuvant chemotherapy, NF: nedaplatin+5-FU, ICT: induction chemotherapy with DCF.

Fig. 2 

Principle of therapeutic strategies for ESCC patients with cStage III (cT4)/IVA (M1 LYM) and cStage IVB (M1 DIS) based on an esophageal cancer board. LYM: lymph-node metastasis, DIS: distant metastasis, CT: chemotherapy, BSC: best supportive care.

治療方針に影響を与える当院特有のdiscussion pointとして,cStage Iに対しての当院の手術治療成績が極めて良好であることから5),可及的に手術治療を推奨した.cStage IIB症例は,表在癌が多くを占め,予後もcStage IIAより良好であり5),NAC-DCFなどの強度が強い術前治療がためらわれた経緯もあった.cStage IIA/III症例におけるdiscussion pointは,臨床試験であるCROC試験への参加,標準治療であるNAC(CF/DCF),代替治療であるdCRTの選択肢の中から,どの治療法をどのような社会的背景で患者が選択する,あるいは迷っているのかの説明がなされ,推奨治療が決定された.また,重複癌の治療方針として,CBにおいて,ICT-DCFが推奨され,その反応によっては再度CBに症例が呈示され,最適と思われる治療法を再検討することなども頻回に行われていた.cM1 LYMあるいはcT4症例への治療においてのdiscussion pointは,臨床研究4)である DCF-Rとそれ以外の治療法(標準治療は化学療法)の推奨が患者の背景因子により異なることが説明された.

臨床ステージ決定については,UICC-TNM第6版に従った(治療法に関するエビデンスがこれに基づいているため).連続変数は各々の平均値を用いて2群とした.単変量解析の検定は標準化Wilcoxonを用いて,それぞれP<0.05を有意差ありとした.全患者の予後スコアを算出し,Kaplan-Meier法を用いて各群の累積生存曲線を作成した.Log-rank検定で解析し,P<0.05として有意差を判定した.解析は統計ソフトJMP pro 11(SAS Institute Japan株式会社)を用いた.観察期間の中央値は28.0か月(範囲0.40~87.4か月)であった.

結果

初期治療方針が手術治療に決定した症例が172例(34.2%),非手術治療に決定した症例が332例(65.8%)であった.Salvage手術は手術治療には含めていない.患者背景をTable 1に示す.cStageでは非手術治療群で有意に進行度が高かった(P<0.0001).手術治療群と非手術治療群は5年全生存率(overall survival;以下,OSと略記)がそれぞれ75.5%と33.9%であり予後に有意な差を認めた(P<0.0001).非手術治療群の治療種類別内訳をTable 2に示す.CRTに関しては,ICTを行った症例が85例,前治療なくCRTを行った症例は159例であった.CRT治療の内訳は,DCF-Rは53例,CF-Rは52例,NF-Rは37例,5-FU-Rは11例,その他の化学療法-Rは6例であった.

Table 1  Clinical characteristics comparing the surgical treatment group with the other treatment group
Variable Number
(n=504)
Surgery
(n=172)
Non-surgery
(n=332)
P value
Age (years) NS (0.091)
 <65 150 57 93
 ≥65 354 115 239
Sex NS
 Male 414 137 277
 Female 90 35 55
Clinical T factor <.0001
 cTx 3 0 3
 cTis 1 0 1
 cT1 142 71 71
 cT2 57 25 32
 cT3 216 75 141
 cT4 85 1 84
Clinical N factor 0.008​
 cN0 240 100 140
 cN1 264 72 192
Clinical M factor <.0001​
 cM0 396 167 229
 cM1a 12 0 12
 cM1b 96 5 91
Clinical Stage <.0001​
 0/I 123 55 68
 IIA 84 38 46
 IIB 34 22 12
 III 155 49 106
 IVA 12 0 12
 IVB 96 5 91
Table 2  Treatment of non-surgery patients
Variable Number (total 332)
Endoscopic treatment
 Endoscopic submucosal dissection 13
 Algon plasma coagulation 4
 ET followed by chemoradiationtherapy 17
Induction chemotherapy
 Docetaxel/CDDP/5-FU 85
Chemoradiationtherapy
 Docetaxel/CDDP/5-FU+Radiationtherapy 53
 CDDP/5-FU+Radiationtherapy 52
 Nedaplatin/5-FU+Radiationtherapy 37
 5-FU+Radiationtherapy 11
 Other chemotherapy+Radiationtherapy 6
Chemotherapy
 Docetaxel/CDDP/S1 2
 CDDP/5-FU 5
 Nedaplatin/5-FU 6
Palliative care
 Radiationtherapy alone 16
 Best supportive care 25

cStage別のOSをFig. 3に提示し,手術治療と非手術治療に分けて行った解析をFig. 4に提示する.手術治療症例において,cStage I,IIA,IIB,IIIそれぞれの5年OSは88.3%,85.2%,83.8%,55.8% であり良好であった(Fig. 4A).一方,同時期の非手術治療症例の5年OSはcStage I,IIA,IIB,IIIそれぞれ72.9%,58.8%,83.3%,34.0%であり(Fig. 4B),この結果からすると,Stage I/IIBのように表在癌が主となるステージにおいては,やむをえず非手術治療になっても比較的良好な治療成績が得られたが,Stage IIA/IIIのように深達度がより進行した癌が主となるステージにおいては,手術治療の有用性が確認された.よって,深達度が進行した症例においては安易に非手術治療を選択せず,手術治療を考慮することが重要と考えられた.

Fig. 3 

Overall survival rates of total ESCC patients according to each cStage.

Fig. 4 

A) Overall survival rates of ESCC patients in the “surgery group” according to each cStage. B) Overall survival rates of ESCC patients in the “non-surgery group” according to each cStage.

手術治療で良好な予後が得られるcStage 0/I–II症例(n=123)における非手術治療を選択した理由として,内視鏡治療の適応症例が35例(ESD/APC:31/4),臨床試験(CROC試験)参加症例が14例,既往症の術後癒着が予想された症例が4例(食道癌術後/胃穿孔術後/肺結核術後:2/1/1),手術拒否が16例,他悪性疾患併存が31例(頭頸部癌/胃癌/肺癌/悪性リンパ腫/肝細胞癌:17/4/6/3/1),耐術能なしが22例,右鎖骨下動脈に走行異常のある症例が1例であった(Table 3).

Table 3  The reasons for non-surgery treatment at cStage 0–II
Variable Number (total 123)
Endoscopic treatment
 Endoscopic submucosal dissection 31
 Algon plasma coagulation 4
Clinical trial
 Chemoselection trial* 14
Post surgery
 Esophageal cancer 2
 Gastric perforation 1
 Tuberculosis 1
Refused surgery 16
Malignant disease
 Head and Neck cancer 17
 Gastric cancer 4
 Lung cancer 6
 Malignant lymphoma 3
 Hepatocellular carcinoma 1
Inoperable 22
Anatomical abnormality 1

*Phase II study (CROC trial) to evaluate docetaxel/CDDP/5-FU chemoselection for esophageal squamous cell carcinoma

cStage IIB症例(n=34)は半分がcT1で占められ,一方cStage IIA症例(n=84)はcT2/T3N0症例でT2,T3の内訳は1:2であり,cT1癌は含んでいない.このため内視鏡的進行度としてむしろcStage IIB症例の方が cStage IIAより早い.このことを反映してか,cStage IIBの治療成績は極めて良好であり,5年OS,5年疾患特異的生存率(disease-specific survival;以下,DSSと略記)ともにcStage Iと差を認めなかった.しかし,このことはcStage IIBがcStage Iと同じ予後を示す疾患群であることを意味するわけではない.実際に,集学的治療という観点でいうとcStage IはcStage IIBよりも治療強度が弱く,手術治療症例に限った比較においても,前者は全例でNACが入っていないが,後者はNACが90.5%の症例に行われており,強い強度のNAC-DCFが11例(半数以上の57.9%)において行われていた.おそらく,術前治療の影響もあり,手術治療症例におけるcStage I(n=59)とcStage IIB(n=21)との予後比較において有意な差は認められなかったと考えられた(P=0.4322)(Fig. 5A).cStage I症例における手術治療例(n=59)と非手術治療例(n=64)を5年DSSで比較すると,有意な差は認められなかったが(95.3%,80.5%,P=0.1229),手術治療例のほうがよりcT1b(UICC-TNM 7th)症例が多いにもかかわらず(P=0.0022)良好な傾向にあった(Fig. 5B).

Fig. 5 

A) Disease-specific survival rates of the ESCC patients who had surgery in cStage I and cStage IIB. B) Disease-specific survival rates of ESCC patients with cStage I in the “surgery group” and “non-surgery group”. cT1b factor was significantly more in the “surgery group” than in “non-surgery group” (P=0.0022).

次いで,cStage IIA(n=84),III(n=152)の生存率について解析した.5年OSは73.9%,41.7%であり,cStage IIIの症例が有意に予後不良であった(P=0.0003)(Fig. 6A).手術治療群と非手術治療群に分け解析を行っても,同様の結果であった.手術治療群の5年OSは,cStage IIA(n=38),III(n=49)でそれぞれ85.2%,55.8%であり(P=0.0433)(Fig. 6B),非手術治療群のそれより予後良好であった(P=0.0103)(Fig. 6C).

Fig. 6 

A) Overall survival rates of the ESCC patients with cStage IIA and cStage III. ESCC patients with cStage III showed significantly worse prognosis than those with cStage IIA (P=0.0003). B) Overall survival rates of the ESCC patients with cStage IIA and cStage III in “surgery group”. C) Overall survival rates of the ESCC patients in the cStage IIA and cStage III than in the “non-surgery group”.

cStage IIIにおけるcT4のほとんどは非手術治療を受けていたため,非手術治療例におけるcT4の予後をそれ以外の症例と比較した.cT4はdefinitive cT4のみを含め,Near cT4(cT3.5,borderline resectable)はcT3としている.非手術治療群のcT4(n=57),non cT4(n=92)の比較を行うと,それぞれの5年OSは26.6%,49.4%であり,cT4症例の予後は有意に不良であった(P=0.0232)(Fig. 7A).さらに,予後不良因子であるcT4症例を除いたcStage III(n=46)とcStage IIA(n=46)の非手術治療例の予後は,5年OSではそれぞれ58.8%,40.4%であり,cStage III症例の非手術治療例全体の予後(Fig. 6C)に比較して約6.4%改善した.最後にcT4症例を除いたcStage IIIとcStage IIAの手術治療群(n=85)と非手術治療群(n=92)の解析を行うと,5年OSはそれぞれ68.3%,49.4%であり手術治療施行群の予後が有意に良好であり(P=0.0229)(Fig. 7B),cT因子,cN因子の偏りも両群間で認めなかった(P=0.6626,P=0.6957).

Fig. 7 

A) Overall survival rates of the ESCC patients with cT4 and non-cT4 in the “non-surgery group”. ESCC patients with cT4 showed significantly worse prognosis than those with non cT4 (P=0.0232). B) Overall survival rates of the ESCC patients with cStage IIA/III excluding cT4 in the “surgery group” and “non-surgery group” (cStage IIA/III excluding cT4). ESCC patients in the “surgery group” showed significantly better prognosis than those in the “non-surgery group” among the patients with cStage IIA/III excluding cT4.

次に,cStage IIA,IIIの手術治療症例についてさらに詳細に予後を解析すると,NAC-DCF(n=49),NAC-CF(n=18),手術単独(n=20)の5年OSは70.9%,63.7%,55.4%であった(Fig. 8A).cStage IIA,IIIの非手術治療に関してはICT施行後にCRTを施行した群(n=44),CRTのみの群(n=83),それ以外の治療を行った群(n=22)に分けて解析した.ICT施行後にCRTを行った群の5年OSは69.0%であり,他の治療法の5年OSに比べ,有意に良好であった(P<0.0001)(Fig. 8B).ICT施行後のCRT療法の治療成績は手術治療法の生存率に匹敵し,cStage IIA,III症例に対する手術治療の代替治療として有望な治療と考えられた.ICT群と非ICT群間ではcT因子とcStageにおいて有意に非ICT群で進行度が高かった(P=0.0006,P=0.0376)(Table 4).cStage IIA,III症例についての非手術治療と手術治療それぞれの最も推奨される治療であるICT施行後のCRT(n=44)とNAC-DCF(n=49)との患者背景の進行度を比較したところ,cT因子のみ有意差をもってICT施行後のCRTにcT4が多かった(P=0.0231)(Table 5).

Fig. 8 

A) Overall survival rates of the NAC-DCF, and NAC-CF, surgery alone groups respectively. B) Overall survival rates of the ICT group followed by the CRT group, CRT group and other treatment group.

Table 4  Clinical characteristics comparing the presence the ICT group with the non-ICT group
Variable Number ICT (+) ICT (−) P value
Age (years) NS
 <65 37 14 23
 ≥65 115 34 81
Clinical T factor 0.0006
 cT2 14 2 12
 cT3 79 36 43
 cT4 59 10 49
Clinical N factor NS
 cN0 64 22 42
 cN1 88 26 62
Clinical Stage 0.0376
 IIA 46 20 26
 III 106 28 78

ICT: induction chemotherapy

Table 5  Clinical characteristics comparing the ICT followed by the CRT group with the NAC-DCF group
Variable Number ICT followed by CRT NAC-DCF P value
Age (years) NS
 <65 33 14 19
 ≥65 59 30 29
Clinical T factor 0.0073
 cT2 7 2 5
 cT3 74 32 42
 cT4 11 10 1
Clinical N factor NS
 cN0 44 22 22
 cN1 48 22 26
Clinical Stage NS
 IIA 40 20 20
 III 52 24 28

ICT: induction chemotherapy, CRT: chemoradiotherapy, NAC: neoadjuvant chemotherapy, DCF: docetaxel/CDDP/5-FU

最後にcStage IV症例について予後を解析した.M1 LYM(n=33),M1 DIS(n=78)の3年OSはそれぞれ30.7%,12.6%であり,M1 DISのほうが有意に予後不良であった(P=0.0194)(Fig. 9).一方で,M1 DISの78症例のうち5症例は手術を施行されていた.手術を行った5症例の3年OSは66.7%と比較的良好であった(Fig. 4A).そのほかの73症例の3年OSは9.6%,M1 LYMは30.7%であり,M1 DISの非手術治療症例は有意に予後不良であった(P=0.0077).手術治療5例のうち3例は傍大動脈リンパ節転移症例であった.

Fig. 9 

Overall survival rates of the M1 LYM group and M1 DIS group.

考察

当院のCBの特徴は,短径1 cmのリンパ節転移診断と,内科診断学に基づく壁深達度の診断である.CB以前は主治医ごとの診断法に基づき診断が不均一であったが,最も経験のある医師(堅田,小森)の説明で深達度が読影され,全体のコンセンサスを得たうえで診断がなされたことで治療前診断の均一性・標準化は達成され,治療前診断に応じた予後の差を認め,CBにより再現性のある臨床結果が可能となったと考えられた.

CBにて治療方針を決定する意義を以下に示す,(1)最も読影に精通した内視鏡医が壁深達度を診断した理由を皆で確認することで,メンバーに対する教育効果が得られる.壁深達度についてのboard内診断の再現精度が上がり,基準が明確になる.(2)リンパ節転移については,最も精通した放射線診断医が当該リンパ節の短径を皆の前で測定することで,その所在部位と短径1cm以上という定義が確認され,基準が統一化される.(3)前向きデータベースにCBでのステージを記入することで,UICCのステージの誤解しやすいポイントが整理される.例えば,UICCにおいては,腹部食道癌はLtに含まれることや,内視鏡診断やCT診断において深達度を迷った場合は,浅い方を採択するなどの細かいルールの確認が行え,ステージの再現性・記述性が上がる.(4)ステージごとの治療方針についても,再現性のある治療法選択が行える.また,その治療法を選択できない除外基準についても毎回皆で確認できる.その時によって異なる治療法選択にならないことは,患者の運命を左右しないという点で重要である.このような再現性のある診断法・治療方針決定により,今後の治療的介入の変化に伴う臨床結果の違いについてもより正確な評価が行える可能性がある.

1. 全症例における予後比較

当院の各cStageにおける手術治療症例の5年OSはcStage I,IIA,IIB,IIIそれぞれ88.3%,85.2%,83.8%,55.8%と極めて良好であった.

CBで検討を行うようになってのち,cM1 LYM症例はCRTを標準治療とし,手術治療を選択されることがなかったが4),手術できる患者については全国の手術治療成績と同様に(25%程度)比較的良好な成績も経験しており,この点の治療戦略については検討を要する5)

2. 食道表在癌に対する治療

食道癌の内視鏡的治療はリンパ節転移,脈管侵襲が極めてまれな壁深達度T1a-EP,LPMまでの症例が絶対適応となる6)7).一方,壁深達度T1a-MMでは0~12.2%,T1b-SM1では19.6%にリンパ節転移を認めたとの報告があり,画像診断上リンパ節転移を認めないことを条件に相対的適応とする試みがなされている6)8)9).内視鏡治療が絶対適応となる症例はCBに提示されないため,CBに提示された食道表在癌症例は,耐術能などに問題があり,手術ではなく相対的に内視鏡治療適応になることが多い.そのため,手術治療例より予後が不良になると考えられた(Fig. 5B).そのような相対適応となる症例に対する有用な治療法の検討として,EMRとCRTを組み合わせた非手術治療の有効性と安全性を評価する目的でJCOG0508が行われた10).2016年のAmerican Society of Clinical Oncology Annual Meetingにて結果が公表され,T1a-MM以浅かつ脈管侵襲陽性かつ断端陰性,pT1b-SM1~2かつ断端陰性症例の3年生存割合は90.7%(90%信頼区間:84.0~94.7%)と極めて良好な成績であった11).これにより,CBに提示されるような相対的適応症例に対する治療の選択基準が変わる可能性があるが長期予後の結果を注目すべきである.

当院でのcStage I症例における手術治療成績は5年OSが88.3%と極めて良好であった.cStage I症例の予後が良好であることは以前に報告しているが5),この時のOSとほぼ同様であり,症例の重なりはほとんど認めなかった.また,手術療法は非手術治療法と比べ有意にcT1b症例が多いにもかかわらず,5年DSSが95.3%であり現段階ではcStage I症例の最も推奨される治療であると考える.

一方,耐術能の不良あるいは手術を拒否した症例などの代替治療については,予後良好な疾患群であることを考えると早急に代替治療法を確立する必要がある.JCOG9708はcStage I(T1bN0M0)食道癌に対するCF療法を用いた同時併用CRT(合計60 Gy/30 fr)が,食道切除術との比較試験を行うに足る有効性・安全性を有するかを検討する第II相臨床試験である.完全奏効率は,87.5%であり,5年OSは75%で,同じ臨床病期を対象とした手術治療成績とほぼ同等であった12).現在,手術治療に対するdCRTの非劣性デザイン無作為化比較試験であるJCOG0502が症例集積中である13).今後,手術治療に対する非劣性が示されれば,非手術治療の代替治療としての地位が向上し患者にとって治療選択肢が広がると考えられる.

当院におけるcStage IIB症例の治療成績は良好であり,手術治療では5年OSが83.8%とcStage I(88.3%)とほぼ同等であった.このことは,cStage IIB症例が根治治療により予後良好となるポテンシャルを有する疾患群であることを示唆する結果であり,積極的な根治治療の良い適応であることを示す.cStage IIB症例の多くがNACを施行しており,さらに,より強力なNAC-DCF療法がそれらの半数以上に行われていた.つまり集学的治療により治療成績が向上しcStage Iと遜色のない予後となった可能性がある.実際にこれらの症例のどの程度が,病理学的に真にリンパ節転移があったか明らかにはできないが,NACを施行しなかった2例の症例中,両者ともにリンパ節転移陽性であったため,短径1cmでリンパ節転移を定義した場合14)15),診断的中率は高いといえる.

表在癌あるいはそれに近い深達度の食道癌については,手術を中心にした集学的治療を現在の適応に準じて行うことにより良好な治療結果が得られる.一方で,手術治療が選択できなくとも代替根治治療により許容できる結果が得られると考えられた.今後,さらに多様化する表在癌での治療選択においてもCBでの検討は,適切な診断,治療選択に寄与すると考えられた.

3. 進行食道癌に対する集学的治療

術前補助化学療法

cStage II,III症例に対するNACの有効性が明らかとなり,NAC-CFが本邦での標準治療とされている2).我々も,2007年から2009年までの2年間は NAC-CFを cStage II/III(cT4除く)症例に推奨していたが,早期治療失敗例(術前病状進行・術後早期再発)が多いことから,その後より強力な NAC-DCFを取り入れた16).当院のDCF療法の特徴として,投与量が多く(docetaxel 70~75 mg/m2,CDDP 70~75 mg/m2,5-FU 750 mg/m2),完遂率が高く(35/38,92.1%)16),十分な予後観察期間の後にも70%を超える良好な OSを報告している17)~19).今回の解析では,患者バイアスもあり,NAC-DCFのNAC-CFに対する有効性を強調する目的はないが,これまでの結果を踏襲するものであった.

今回の解析で比較したのは前向きデータベースによるcStage IIとcStage IIIの予後的な違いと,手術治療のそれに比較した非手術治療のポテンシャルについてである.以前の後ろ向き単科診断によるcStage II,IIIの解析ではcStage IIとcStage IIIに予後の差を認めなかったが5),今回の合同協議による前向きデータベースに基づく臨床ステージ決定を用いると強い有意差を認めた(Fig. 6A).短径1 cm以上をリンパ節転移陽性と定義することで,予後的に意味のある転移診断ができたことと,内視鏡とCTを加味した深達度診断の有用性を示唆するものと解釈する.

また,治療法(手術治療と非手術治療)による予後を比べてみるとcStage IIAにおいても cStage IIIにおいても手術治療が予後良好であり推奨される治療であると考えられた.cStage IIIはcT4を含み,実際にcT4の予後は非手術治療の中でも予後不良であった(Fig. 7A).しかし,cT4を除いたcStage IIIとcStage IIAの予後比較においても手術治療が良好であり,この両者にはステージの分布に全く差がないことから,やはり手術治療が最も推奨される治療であることが示唆された.しかし,非手術治療は全例で根治的治療が行えているわけではない.dCRTに限った非手術治療と手術治療を比較した場合,5年生存率は50.3% vs 67.7%(P=0.0405)という結果であり,非根治的治療を加えた状態に比べると予後の差は縮まるが,手術治療で有意に予後良好であることには変わりなかった.結論を出すためにはランダム化試験が必要と考えるが,倫理的側面もあるため実際の施行は難しいと考える.

導入化学療法

一方,cStage IIA,IIIの非手術治療の中で,ICT後の CRT症例の5年OSが69.0%と極めて良好であることが判明した(Fig. 8B).この成績はNAC-CF症例よりも良好であり,NAC-DCF症例に匹敵するものであった(Fig. 8A).手術治療の最も推奨される治療であるNAC-DCFと患者背景を比較したところ,驚いたことにICT-CRTの方がcT4を有意に多く含んでいた(Table 5).また,cStage IIA,III症例におけるICTの内訳は,臨床研究や手術拒否例や他癌合併例などであった.放射線感受性を予測できる手段が開発されれば,実臨床での推奨が現実味を帯びてくると考える.化学療法著効例(中央画像診断にてcT1相当にdownstageした症例)は放射線治療においても奏効が期待されるというrationaleのもとに,頭頸部癌ではchemoselectionの概念の臨床導入が成功している20).食道癌におけるDCF療法後著効例にはdCRTを行い,著効しない症例には手術治療を行う患者選別試験(第II相臨床試験)として,当院では臨床研究に積極的に取り組んでおりその結果に期待がかかる(UMIN000008086).

根治的化学放射線療法

高齢者や耐術能不良例の増加から,cStage II,III食道癌に対する食道温存療法としてのdCRTが期待されている21).当院におけるcStage IIA,III食道癌のdCRTの3年OSは48.1%であり,前向き臨床試験と同等の成績であったが,約半数にcT4症例が含まれており,進行度は当院の症例のほうが進んでいた(当院のcT4はcT3.5を含んでいない).cStage IIBを加えると予後はさらに改善する.一方,cT4症例の非手術治療後の予後は5年OS 26.6%と他のcStage IIA,III症例よりは不良であるが想定より良好であった.当院特有のDCF-Rを使用した臨床試験4)による影響の可能性が高い.本邦における代表的な前向き試験における2-3年生存割合は23~32%である22)~24)

4. 遠隔転移を有する食道癌に対する治療

切除不能進行食道癌や再発例の予後は極めて不良である.当院の特徴的な治療方針として,M1 LYMに対してDCF-Rを施行しており4),M1 LYMの治療成績は比較的良好(30.7%)であった.M1 LYM症例の一部には手術治療の適応例があり,そのような症例に対する手術治療成績は一定の成功を収めており5),適応症例の選定に意味があるかもしれない.

今回の検討のように多くの患者背景の相違がある中で,どのような治療法が推奨できる治療法であるかを検証するのは困難である.しかし,逆に,標準治療あるいは,みなし標準治療ができなかった患者にも行える代替治療の潜在的可能性を知るうえで重要な解析であったと考える.本研究が我々の日常診療の記述的な内容になっているのは今回の検討のlimitationである.

cStage I/II/III食道癌においては手術治療症例の予後が最も良好であり,適応患者には推奨できる治療法と考える.一方,非手術治療の成績も許容できるレベルであり代替治療としての高いポテンシャルを有すると思われた.選択肢に関する最終的な結論を言うためにはランダム化比較試験を行う以外にはないと考える.

利益相反:なし

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