2017 年 50 巻 4 号 p. 317-325
症例は60歳の男性で,30年前に他院にて,家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis;以下,FAPと略記)に対し大腸亜全摘術,人工肛門造設術を施行され,通院は自己中断していた.2013年,人工肛門の変形・疼痛を主訴に当科を初診した.人工肛門粘膜面の不整,内腔の狭小化を認めた.下部消化管内視鏡検査では,人工肛門表面から口側5 cmにわたりポリープが多発し,生検の結果は腺癌であった.人工肛門部癌の診断で,人工肛門を含めた腸管切除および回腸人工肛門造設術を施行した.術中,回盲弁と盲腸が残存しており,腫瘍は残存盲腸に発生したことが判明した.病理診断はpT2N1M0 Stage IIIaであった.術後補助化学療法としてCapeOXを6か月間施行し,術後24か月無再発生存中である.FAPは大腸癌発症率が高く大腸全摘が治療の基本であるが,本症例のように残存腸管のサーベイランスが不十分であった例や回腸人工肛門部癌の報告例もあり,長期的かつ定期的な観察が重要である.