日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
膵・胆管合流異常症に合併した胆道癌に対する膵頭十二指腸術後に膵管内播種による残膵再発を来した1例
東 勇気清水 康一渡邉 利史寺井 志郎川原 洋平天谷 公司寺田 逸郎山本 精一加治 正英前田 基一内山 明央石澤 伸
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2017 年 50 巻 5 号 p. 393-400

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Abstract

症例は49歳の女性で,乳癌の術後経過観察目的に施行した胸腹部CTで総胆管拡張が指摘され,精査の結果,膵・胆管合流異常症に合併した胆囊癌・胆管癌との診断で幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.遠位胆管癌と胆囊癌のいずれもpT1N0M0 Stage Iとの結果であった.術後1年6か月後に施行した腹部CTで残存膵に乏血性の病変を認め,原発性膵癌を疑い,脾合併残膵全摘術を施行した.病理組織学的検査所見では病変が膵内に不規則に分布し,拡張した膵管内には上皮内に乳頭状構造を示す異型上皮を認めた.また,免疫組織学的所見で染色パターンが,前回の遠位胆管癌と同様であったため,膵・胆管合流異常症を背景とした遠位胆管癌の共通管を介した膵管内播種による残膵再発と診断された.これまでに膵・胆管合流異常症の共通管を介して管内播種を来した報告はない.膵・胆管合流異常症に合併した胆道癌症例に関しては,共通管を介した膵管内播種再発の可能性も念頭におく必要がある.

はじめに

膵・胆管合流異常症に胆道癌が合併するという報告は多く,胆管への膵液の逆流が,その発癌過程に関与しているといわれている1).また,膵・胆管合流異常症を合併する胆道癌が共通管を経由し,膵管内へ進展したという報告2)や膵・胆管合流異常症に合併した胆道癌が逆行性に膵管へと播種し,残膵に再発を来したという報告がある3).今回,膵・胆管合流異常症に合併した胆管癌に対して膵頭十二指腸切除術を施行し,術後1年6か月後に残膵の膵管内に播種再発した1例を経験したので報告する.

症例

患者:49歳,女性

主訴:なし.

既往歴:42歳時に左乳癌に対し左乳房切除術.

現病歴:乳癌の経過観察目的に施行した胸腹部CTで指摘された総胆管拡張の精査目的に当科へ紹介受診となった.腹部造影CTで8 mmに拡張した肝内胆管と25 mmに拡張した総胆管内に長径29.9 mmの不整な結節を認め,胆囊内に10 mmの造影効果のある結節を認めた(Fig. 1A, B).ERCPで拡張した総胆管内に長径30 mmの透亮像を認め,膵管合流型の膵・胆管合流異常を認めた(Fig. 2).以上より,膵・胆管合流異常症に合併した胆囊および肝外胆管腫瘍の診断で幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(pylorus-preserving pancreatoduodenectomy;以下,PPPDと略記)を施行し,胆囊管合流部より肝側で総胆管の切離を行い,胆囊も同時に摘出した.再建はII型とし,膵空腸吻合を行った.病理組織学的検査で,膵管と胆管は十二指腸壁内のOddi括約筋部以前で合流しており,膵・胆管合流異常と考えられた.遠位胆管病変は乳頭腺癌,Bd,rp,26×23 mm,HM0,DM0,EM0,pT1a,pN0,pM0,pStage I(胆道癌取扱い規約,第6版)で,有茎性ポリープ様の形態を示しており,病変は限局していた.胆管や共通管への表層進展や壁外進展はなく,主膵管へ病変は及んでいなかった(Fig. 3).胆囊病変は高分化型管状腺癌,Gbf,ant,32×18 mm,DM0,HM0,EM0,pT1b,pN0,pM0,pStage I(胆道癌取扱い規約,第6版)であった.術後合併症は認めず,術後22日目に退院となった.以後3か月毎に血液検査,6か月毎に腹部造影CTを施行し,再発や転移はなく経過していた.術後1年6か月後に施行した腹部造影CTで残存膵に乏血性の病変を認め,原発性膵癌を疑い,手術加療目的に入院となった.

Fig. 1 

Abdominal CT shows a 29.9-mm slightly enhanced tumor (arrow) in the common bile duct (A), and a 10.0-mm enhanced tumor (arrowhead) in the gallbladder (B).

Fig. 2 

ERCP reveals an anomalous arrange­ment of the pancreaticobiliary ductal system with dilatation of the common bile duct and a defect measuring 30 mm in the major axis in the common bile duct.

Fig. 3 

Macroscopic appearance of the specimen obtained by pancreatoduodenectomy shows the positional relationship between the papillary adenocarcinoma of the extrahepatic bile duct (red arrow) and the main pancreatic duct (white arrows).

入院時身体所見:体温正常.眼瞼結膜貧血なし,眼球結膜黄染なし.腹部は平坦・軟.自発痛・圧痛なし.上腹部に前回手術時の手術瘢痕を認めた.

入院時血液生化学検査所見:WBC 4,500/μl,CRP 0.04 mg/dl,T-Bil 0.6 mg/dl,AST 30 IU/l,ALT 30 IU/l,ALP 264 IU/l,γ-GTP 14 IU/l,Amy 158 IU/lと軽度のAmyの上昇のみ認めた.CEA 1.9 ng/ml,CA19-9 10.8 U/mlと,腫瘍マーカーは正常範囲内であった.

腹部造影CT所見:残膵に主膵管の拡張を認め,体尾部移行部には造影早期で乏血性病変を認めた(Fig. 4A).

Fig. 4 

(A) Abdominal CT shows a hypovascular tumor and dilatation of the main pancreatic duct at the remnant pancreas. (B) The maximal standardized uptake value (SUV max) on PET ranges from 2.2 to 2.3.

PET-CT所見:残膵の乏血性病変に一致して軽度のFDGの集積を認めた(SUV最大値2.2~2.3).他部位に有意なFDGの集積は認めなかった(Fig. 4B).

EUS所見:胃体部からの観察で,残膵に28 mm大の低エコー腫瘤を認め,同腫瘤より尾側の主膵管の拡張を認めた.穿刺組織診を施行され,乳頭腺癌であった(Fig. 5).

Fig. 5 

Endoscopic US shows a 28-mm low echoic mass (arrows) and the dilatation of the main pancreatic duct (arrowheads).

以上の所見より,残膵に発生した原発性膵癌を第一に考え,脾合併残膵全摘術を施行した.

手術所見:残膵を観察するに腫瘍の漿膜への露出は認めなかった.前回のPPPDはII型再建であったため,膵空腸吻合部のやや胆管側で挙上空腸を離断した.脾動脈は根部で,脾静脈は下腸間膜静脈合流部の遠位で処理した.脾動静脈・胃脾間膜・脾結腸間膜を処理し,残膵全摘術を行った.

摘出標本所見:残膵の割面像ではほぼ全体に拡張した分枝膵管が不規則に分布し,拡張した主膵管~分枝膵管内には白色調腫瘍の増殖を認めた(Fig. 6).

Fig. 6 

Macroscopic appearance of the resected specimens shows an irregular arrangement of the many white tumors (red arrows) at the remnant pancreas.

病理組織学的検査所見:拡張した膵管内に異型上皮が上皮内に乳頭状構造をとっていた.周囲組織の萎縮は目立たず,乳頭構造は複雑であり,膵管内に壊死を伴っていた(Fig. 7A, B).腫瘍は広範囲にわたり不規則に分布していたが,膵切除断端は陰性であった.前回手術時の胆管癌は乳頭腺癌であり,今回の残膵腫瘍組織も乳頭像構造を有していた(Fig. 7C, D).

Fig. 7 

(A) Based on the histopathological findings, the uniform atypia of the pancreatic duct shows papillary epithelium. It does not contain any mucin. (B) The papillary tumor with necrosis in the pancreatic duct. (C) Papillary adenocarcinoma of the extrahepatic bile duct. (D) Papillary tumor in the main pancreatic duct.

Fig. 8 

Immunohistochemical analysis revealed identical profiles between the remnant pancreatic tumor and the extrahepatic bile duct tumor. Both sites were MUC1-positive (A), (E), MUC2-negative (B), (F), MUC5AC-negative (C), (G), and MUC6-negative (D), (H).

免疫組織学的検査所見:MUC1が陽性であり,MUC2,MUC5ACおよびMUC6が陰性であった.前回の胆管癌に関しても免疫組織学的検討を行い,同様の結果であった(Fig. 8).

以上より,初回手術時の胆管癌が乳頭腺癌であり,表層進展や壁外進展がなかったこと,病理所見より今回の腫瘍病変に関して膵断端は陰性であり,乳頭構造を有しているが,intraductal papillary-mucinous neoplasm(以下,IPMNと略記)としては非典型的で,残膵に広範囲にわたって乳頭状病変が不規則に分布していたことなどから膵・胆管合流異常症を背景とした遠位胆管癌の共通管を介した膵管内播種による残膵再発と診断された.術後の軽度の耐糖能異常を認めたが,少量のインスリン自己注射で血糖コントロール可能となったため,術後25日目に退院とした.術後1年目無再発生存中である.

考察

膵・胆管合流異常症に胆道癌が合併することは広く知られている.また,膵・胆管合流異常症に合併した原発性膵癌の報告も散見され,Fieberら4)は胆管拡張症の3%に膵癌が合併すると報告し,Funabikiら5)は本邦の膵・胆管合流異常症例1,361例中(1995~2005年)膵癌の合併は11例(0.8%)と報告しており,膵・胆管合流異常症は胆道癌のみならず膵癌の発症にも関与していると推測されている6).胆道癌を合併した膵・胆管合流異常症に異時性に膵癌を認めた報告7)~9)は,本邦で3例あり,いずれも胆囊癌の手術後に異時性膵癌が発生したというものであった.2例は膵体尾部に発生し,1例は膵頭部と膵鉤部に多発しており,膵管断端との連続性は認めなかったと報告されている.膵病変の組織型は,膵体尾部癌の2例はともに乳頭腺癌,膵頭部の多発例は管状腺癌であった.

本症例は膵・胆管合流異常症に合併した胆道癌の術後に残膵より発生した異時性病変を認め,当初は異時性膵癌が疑われた.膵・胆管合流異常症に伴う膵癌におけるIPMNの頻度が通常の膵癌におけるIPMNの頻度より多いとの報告10)があり,膵・胆管合流異常症に合併する膵病変では膵原発腫瘍,特にIPMNとの鑑別が必要となる.本症例では,膵原発腫瘍としては病変の分布が不規則であること,IPMNでは周囲実質が萎縮することが多いのに対して,周囲の膵実質がよく保たれていたこと,また乳頭構造が複雑である点や膵管内に壊死を伴う点などIPMNとしては非典型的な像を示していた.

膵管内への乳頭状増殖を示す膵腫瘍としてはintraductal tublopapillary neoplasm(以下,ITPNと略記)も鑑別に挙がる.ITPNは2009年にYamaguchiら11)によって提唱され,比較的新しい疾患概念ということもあるのか,膵・胆管合流異常症との合併症例の報告はない.ITPNは非粘液産生であり,管状乳頭状に増殖するという特徴があるが,本症例ではITPNに比べ,管腔構造は目立たず,乳頭状構造が主体であった.また,間質の割合がやや多く,太い茎を有するという点でもITPNとしては非典型的であった.

管内播種という腫瘍の進展様式に関しては,動物実験では,ウサギモデルを使用した膵癌の膵管内播種の報告12)がある.臨床領域においては乳癌の乳管内播種13)が有名であり,消化器領域では胆管を介した管内播種の報告が多く,なかでも閉塞性黄疸を伴う胆道腫瘍が経皮経管胆道ドレナージ経路に播種を来したとの報告14)~16)が多い.その他にも,近藤ら17)は肝内側区域の肝細胞癌に対して,肝左葉切除を施行し,術後1年3か月目に総胆管に孤立性の播種再発を来した症例を報告している.また,黒田ら18)は膵頭部癌に対して施行した亜全胃温存膵頭十二指腸切除術後の病理標本に主病変と酷似する胆囊管病変を認め,各種免疫組織染色の結果が一致したことから,膵癌の胆囊管への播種と診断している.膵管を介した管内播種に関しては,Banら19)が膵腺房細胞癌の膵頭部から尾部までの膵管内播種症例を報告しており,膵腺房細胞癌における膵管を介した腫瘍の進展形式について述べている.Matsubaraら3)は十二指腸乳頭部癌に対して膵頭十二指腸切除術を施行し,術後7か月に膵管内へ播種再発した症例を報告しており,遺伝子検索も施行され,十二指腸乳頭部癌が逆行性に残膵膵管内に播種再発したと結論付けている.以上より,胆管や膵管を介した管内播種といった様式はまれではあるが,いくつかの報告例もあり,腫瘍の進展様式の一つとして認識されている.

本症例は膵・胆管合流異常症に伴う胆管癌であり,合流異常症の共通管を介した膵管内逆流によって残膵への播種再発を来したのではないかと考えられる.前述したMatsubaraら3)の報告では播種巣が膵管内に広範囲に不規則な分布を示しており,本症例の再発病変の分布と酷似している.初回の胆管癌と,膵病変の各種免疫組織染色の結果も一致していたため,両病変が同一であると判断し,胆管癌の膵管内播種と診断した.

今回,膵・胆管合流異常症に合併した胆管癌が合流異常の共通管を介して膵管内への播種再発を来した極めてまれな症例を経験した.これまでに膵・胆管合流異常症の共通管を介して管内播種を来した報告はなく,症例の蓄積が望まれる.膵・胆管合流異常症に合併した胆道癌症例に関しては,残膵での膵癌の発生はもちろんのこと,共通管を介した膵管内播種再発の可能性も念頭におく必要がある.

利益相反:なし

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