2017 年 50 巻 6 号 p. 437-444
症例は53歳の男性で,主訴は黄疸であった.腹部CTで肝内肝外胆管・主膵管の拡張,十二指腸乳頭部腫瘤を認めた.術前の生検では腺癌が疑われ,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織は上皮様細胞が充実性,索状に増殖し,腺管構造は認めず,免疫染色検査ではCD56(+),chromogranin A(−),synaptophysin(−)であった.腺癌や内分泌細胞癌は否定的で,未分化癌と診断した.最終診断は十二指腸乳頭部未分化癌,露出腫瘤型,15 mm,pT3a,pN0,pM0,pStage IIAであった.術後はS-1で補助化学療法を開始したが,肝転移・リンパ節転移を認め,gemcitabineとS-1併用療法に変更した.十二指腸乳頭部未分化癌は非常にまれで悪性度が高く予後不良である.予後改善には術後補助化学療法が有効とされるが,一定の見解はなく今後のさらなる検討が望まれる.
十二指腸乳頭部癌は他の胆道癌と比較して比較的予後が良好である症例が多いとされるが1)2),一部に急速に進展する予後不良の症例を認め3)~6),十二指腸乳頭部未分化癌もそのうちの一つである.十二指腸乳頭部未分化癌は非常にまれな疾患であり,進行癌で発見されることが多く,根治術を施行した場合も予後が不良であるとされる5)7)~10).予後改善には術後補助化学療法に大きな期待が持たれるが,依然確立されたものはなく,本邦報告例では本症例を除いて術後補助化学療法が施行された症例は認めない.今回,我々は根治術を施行し,術後補助化学療法を施行した十二指腸乳頭部未分化癌の1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.
患者:53歳,男性
主訴:尿濃染,黄疸
既往歴:虫垂炎(10歳代に手術),高脂血症,高尿酸血症,高血圧,陳旧性小脳梗塞(3年前に指摘,後遺症なし),髄膜炎(30歳代で罹患,後遺症なし)
家族歴:父 膵臓癌
現病歴:2週間前より尿濃染を自覚し,近医を受診した.近医で黄疸を指摘され,当院紹介となった.
入院時身体所見:眼球結膜黄染あり,皮膚黄染あり,腹部平坦・軟・圧痛なし.
入院時血液検査所見:Hb 11.9 g/dl,AST 210 IU/l,ALT 133 IU/l,ALP 1,461 IU/l,γ-GTP 6,590 IU/l,LDH 227 IU/l,T-bil 5.2 mg/dl,D-bil 3.2 mg/dl,P-AMY 61 IU/l,Lipase 454 IU/l,と軽度の貧血,肝胆道系酵素の上昇,膵酵素の上昇を認めた.CEAは2.81 ng/mlと正常値であったが,CA19-9は48.02 U/mlと軽度上昇を認めた.
腹部CT所見:肝内外胆管および主膵管の拡張を認め,十二指腸乳頭部付近に閉塞原因と思われる直径15 mmの不均一な造影効果を伴った腫瘤を認めた.膵実質への浸潤が疑われたが,明らかなリンパ節腫大は認めなかった.明らかな肝転移,肺転移は認めなかった(Fig. 1A~C).
Abdominal enhanced CT shows a partial high density mass (A, arrow) at the duodenal ampulla, significant dilation of the intra- and extra-hepatic bile duct and the main pancreatic duct (B, C).
十二指腸内視鏡検査所見:十二指腸乳頭開口部に易出血性の粗造な粘膜面を認め,同部位から生検を行った(Fig. 2).生検病理組織所見は,検体辺縁のごく一部にクロマチン増殖および核腫大を有する異型細胞を認め,腺癌が疑われたが,確定診断には至らなかった.免疫染色検査でもモノクローナルな増殖は認めず,診断は困難であった.
Duodenum endoscopy shows an exposed-protruding type mass at the duodenal ampulla (B).
ERCP所見:下部胆管で約35 mmの狭窄部を認め(Fig. 3 波括弧),それより上流の総胆管・肝内胆管の拡張を認めた(Fig. 3).内視鏡的逆行性胆管ドレナージチューブを留置した.
ERCP shows a 35-mm stenosis part at the lower bile duct (curled parentheses).
管腔内超音波検査(intraductal ultrasonography;IDUS)所見:乳頭部は全周性の壁肥厚を認め,腫瘍が疑われた(Fig. 4A 矢印).さらに,乳頭部から約35 mm頭側方向にまで壁肥厚が続いていた(Fig. 4B 両矢印).また,膵頭部に限局して膵管内に突出するような隆起性病変を認めた(Fig. 4C 波括弧).
IDUS shows the wall thickening with the whole circumference of the duodenal ampulla, and the presence of tumor is suggested (A, arrow). The wall thickening continues from the tumor to the cranial direction 35 mm in diameter (B, double-headed arrow). The tumor is recognized in the main pancreatic duct of the pancreas head (C, curled parentheses).
MRI所見:十二指腸乳頭部の腫瘍はT1強調像で低信号(Fig. 5A 矢印),T2強調像で軽度高信号(Fig. 5B 矢印),拡散強調像で拡散低下を認めた(Fig. 5C 矢印).
Regarding MRCP, T1 fats at weighted image shows a low density mass (A, arrow), T2 weighted image shows a partial high density mass (B, arrow), and diffusion emphasized image shows a high intensity mass (C, arrow).
生検標本病理組織学的検査所見:検体辺縁のごく一部にクロマチン増殖および核腫大を有する異型細胞を認め,腺癌が疑われたが,確定診断には至らなかった.免疫染色検査でもモノクローナルな増殖は認めず,診断は困難であった.
術前診断:十二指腸乳頭部癌,AcbpdBdPh,露出腫瘤型,31 mm,cT3a,cN0,cM0,cStage IIA.
手術所見:亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(subtotal stomach preserving pancreaticoduodenectomy;以下,SSPPDと略記)とリンパ節郭清(D2+16b1)を施行した.再建術式は,IIa-1で行い,膵空腸吻合は柿田式で行った.
切除標本所見:約15 mm大の乳頭部に限局した腫瘍を認め,同部位で膵実質への直接浸潤が疑われた(Fig. 6A, B 点線内の箇所).下部胆管には壁肥厚を認めた(Fig. 6 矢印).
The tumor, 15 mm in size, is located in the duodenal ampulla and is suspected to invade the pancreas head directly. The tumor is shown in a dotted line in A, B. The boundary of pancreas head is the dotted line in C. Hyperplasia can be recognized at the lower bile duct (A, arrow).
病理組織学的検査所見:上皮様細胞が充実性,索状に増殖を認め,明らかな腺管構造は認めなかった(Fig. 7C, D).免疫染色検査では,CA19-9(−),CD56(+)(Fig. 7E),chromogranin A(−)(Fig. 7F),synaptophysin(−)(Fig. 7G),CK7(−),CK20(−),EMA(−),α-AT(−)であった.以上より,腺癌や内分泌細胞癌等は否定的であり,未分化癌と判断した.下部胆管の壁肥厚箇所には悪性所見は認めず,胆管浸潤は認めなかった.また,膵実質への直接浸潤を認めたが,5 mm以内の限局した浸潤であり,膵管内浸潤は認めなかった.
Macroscopically, the tumor is located along the dotted line in A, B. Histopathologically, epithelioid tumor shows solid and trabecular proliferation without ductal structures (HE, ×100: C, ×400: D). Immunohistological staining is positive for CD56 (E), negative for chromogranin A (F) and synaptophysin (G).
最終診断は,胆道癌取扱い規約第6版に準じて,十二指腸乳頭部未分化癌,露出腫瘤型,15 mm,pT3a,pN0,pM0,pStage IIAであった.
術後経過:術後補助化学療法をS-1にて9コース行ったが,術後約8か月のPET-CTにて肝転移およびリンパ節転移を認めたため,gemcitabine・S-1併用に変更した.しかし,術後約12か月のCTで肝転移増大を認め,gemcitabine ・cisplatin併用に変更し,本論文執筆中の術後約14か月の現在も治療継続中である.
日本肝胆膵外科学会が行っている全国胆道癌登録(2008~2013年)2)によると,胆道癌における乳頭部癌の占める割合は11.6%である.2008~2013年までの乳頭部癌2,161例の集計結果によれば男女比は1:0.78であり,男性に多い.平均年齢は69.1歳(19~91歳)であった.初発症状は黄疸が40%と最多であったが,過去10年間の推移では減少傾向であり胆道癌への認識の向上や画像診断能の向上により,無黄疸での治療開始が増加していると推測されている1).乳頭部癌の切除例は1,297例で,切除率は95%であり,胆囊癌(72.9%),肝門部胆管癌(87.0%),遠位胆管癌(92.9%)と比較して高率であった.乳頭部癌の切除例の5年生存率は乳頭部癌は61.3%であり,胆囊癌(39.8%),肝門部胆管癌(24.2%),遠位胆管癌(39.1%)と比較して高率であった.進行度で比較するとStage IAが92.2%,Stage IBが74.4%,Stage IIAが47.8%,Stage IIBが31.3%,Stage IVが11.7%であった.術式に関しては,最近では胆管癌同様,胃周囲リンパ節の転移がほとんど見られないことからpancreatoduodenectomy(PD)ではなくpylorus-preserving pancreatoduodenectomy(PPPD)やSSPPDが主な術式となっている.乳頭切除は推奨されていない.予後因子としては,リンパ節転移,膵浸潤があげられる.乳頭部癌の中には本症例のような未分化癌をはじめ,腺内分泌癌,腺扁平上皮癌,印環細胞癌などのまれな腫瘍で急速な進展を来した報告例があるが3)4),組織型による予後不良因子には一定の見解がないのが現状である.
十二指腸乳頭部未分化癌は非常にまれな疾患で,全国胆道癌登録での十二指腸乳頭部癌の組織型の内訳は,乳頭部癌27.2%,高分化管状腺癌37.8%,中分化管状腺癌24.7%,低分化管状腺癌5.4%であり,未分化癌は2例のみで0.15%と報告されている1).1977年から2016年4月の間で医学中央雑誌にて「十二指腸乳頭部癌」,「未分化癌」をキーワードにして検索すると,会議録を除くと本邦報告例は6例のみであった.うち1例は基礎疾患があり,術後1日で死亡した非典型的な経過であったため,今回の検討からは除外した.本症例を含めた本邦報告6例の十二指腸乳頭部未分化癌5)7)~10)(以下,未分化癌と略記)(Table 1)と全国胆道癌登録の十二指腸乳頭部癌1)2)11)~13)(以下,乳頭部癌全体と略記)の特徴と比較した.年齢に関しては,未分化癌は平均63.5歳(53~74歳)で,乳頭部癌全体の好発年齢と差はなかった.性別は未分化癌では男女比は2:1であった.初発症状は,未分化癌は全例が黄疸であり,乳頭部癌全体の黄疸の比率(40%)より高率であった.胆管拡張は全例に膵管拡張は4例(67%)に認めた.治療は,未分化癌では全例に切除術が施行されていたが,乳頭部癌全体の比率(91%)と差はなかった.未分化癌では切除術式は全例PDまたはPPPDであった.肉眼型は未分化癌では本症例の露出腫瘤型を除いて腫瘤潰瘍型もしくは潰瘍型であったが,乳頭部癌全体では露出腫瘤型が38.8~51.6%と最も多かった.膵浸潤に関しては未分化癌では全例に認め,乳頭部癌全体の41.8~48.6%と比較して有意に高かった.深達度は未分化癌では全例がT3以上であったのに対し,乳頭部癌全体ではT2以下が68.9~85.9%であった.リンパ節転移は未分化癌では本症例を除く全例に認め,乳頭部癌全体の23.6%に比べて有意に高かった.未分化癌において最終診断で肝転移を認めたのは1例のみであったが,詳細な記載がない2例を除けば本症例を含めて全例が肝転移を認めている.進行度は未分化癌では本症例と肝転移の記載がない2例を除いてStage III以上であり,乳頭部癌全体においてStage III以下が89.2~94.3%であるのに対して,進行例が多かった.予後は未分化癌では最長約12か月であり,乳頭部癌全体に比べて不良であった.
No. | Author/Year | Age/Sex | Symptom | BD dilation | MPD dilation | Tumor size (mm) | Operation | Macroscopic type | Pancreas invasion | LN metastases | Liver metastasis | Liver recurrence | Prognosis |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | Sato7)/ 1995 |
74/M | icterus | + | − | 35 | PPPD | U-type | + | + | NA | NA | NA |
2 | Ohashi8)/ 2000 |
73/ F |
icterus | + | − | 25 | PPPD | M-type | + | + | − | + | 4 months dead |
3 | Nagasawa9)/ 2001 |
68/ M |
icterus | + | + | 35 | PPPD | M-type | + | + | − | + | 372 days dead |
4 | Ueno10)/ 2001 |
55/ F |
icterus | + | + | 20 | PD | U-type | + | + | NA | NA | NA |
5 | Yamanaka5)/ 2006 |
58/ M |
icterus | + | + | 45 | PPPD | M-type | + | + | + | + | 51 days dead |
6 | Our case | 53/ F |
icterus | + | + | 15 | SSPPD | P-type | + | − | − | + | alive# |
U-type: ulcerative type. P-type: exposed-protruded type. M-type: mixed type. Every case is protrude-predominant type. #Postoperative adjuvant chemotherapy is continued.
十二指腸乳頭部未分化癌に対する術後補助化学療法に関しては,現在一定の見解はなく,本邦報告例では本症例以外では施行されていない.現在,胆道癌に対する術後補助化学療法の有用性を検討したランダム化比較試験の報告はなく,治療効果は確立されていないのが現状である14).本邦では,肝外胆管癌根治切除後のgemcitabineと術後経過観察比較の第III相試験(UMIN000000820;BCAT),根治切除後胆道癌に対するS-1と術後経過観察比較の第III相試験(UMIN000011688;JCOG120),gemcitabineとS-1の比較第II相試験(UMIN000009945;KHBO1208)が現在進行中であり,結果が待たれる.本症例では,第一選択としてS-1単独を用い,再発を認めた後,gemcitabineとS-1併用に変更して加療継続中である.また,本症例の組織型はまれな未分化癌であり,多部位原発の未分化癌で化学療法奏効例も報告されていることから15)~18),胆道癌のみならず,多部位原発の未分化癌に対する化学療法レジメンも有効である可能性があると考える.
以上より,十二指腸未分化癌の特徴としては,黄疸で発症するが,比較的症状発現が遅く,診断時既に進行癌である場合が多く,多部位の未分化癌同様増大転移しやすい悪性度の高い癌であり,切除例でも予後不良であると考えられた.本症例は他症例に比べて比較的早期の状態で診断され,根治術を施行できたが,術後8か月で肝転移およびリンパ節転移を認め,現在術後補助化学療法を継続中である.現在,術後補助化学療法に一定の見解はなく,今後のさらなる検討が望まれる.
利益相反:なし