日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
出血性十二指腸原発未分化癌の1例
中島 隆善生田 真一相原 司光藤 傑楠 蔵人赤塚 昌子北村 優一瀬 規子柳 秀憲覚野 綾子山中 若樹
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キーワード: 十二指腸癌, 未分化癌, 出血
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2018 年 51 巻 7 号 p. 479-487

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Abstract

症例は75歳の男性で,タール便を主訴に前医を受診,上部消化管内視鏡検査にて十二指腸下行脚から水平脚の移行部に出血を伴う3型腫瘍を認め,十二指腸癌と診断された.重度の慢性閉塞性肺疾患の既往があり,全身麻酔および手術に耐えうる状態ではないと判断され出血制御目的で動脈塞栓術を施行された.一旦貧血の進行は制御されたが継続加療目的に当院紹介,転院となった.転院5日後に多量のタール便と貧血の進行を認めショック状態となり,動脈塞栓術での止血は困難と判断し,緊急で亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学検査および免疫染色検査にて十二指腸原発未分化癌と診断した.術36日後に自力歩行で退院となったが,術2か月後に多発性肝転移を来し術3か月後に永眠された.急激な転帰をたどった出血性十二指腸原発未分化癌の1例を報告する.

はじめに

乳頭部癌を除く原発性十二指腸癌は比較的頻度の少ない疾患とされるが1),中でも十二指腸原発の未分化癌の報告は極めてまれであるため,その病態や予後については不明な点が多い.また,治療方針や至適術式について十分な検討がなされていないのが現状である.今回,出血を伴った十二指腸原発未分化癌に対して緊急手術を行い救命しえたものの,その後も急激な転帰をたどった1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:75歳,男性

主訴:タール便

家族歴:特記すべき事項なし.

生活歴:喫煙1日60本を約40年間.飲酒は機会飲酒.

既往歴:Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)による分類2)でStage III期と診断された慢性閉塞性肺疾患に対してペントキシベリンクエン酸塩90 mg/日を内服,ウメクリジニウム臭化物/ビランテロールトリフェニル酢酸塩を1日1回1吸入中であった.

現病歴:3週間前にタール便を主訴に前医を受診,上部消化管出血が疑われ緊急入院となった.上部消化管内視鏡検査にて十二指腸下行脚から水平脚移行部の前壁を主座とする亜全周性の出血を伴う3型の腫瘍性病変を認めた(Fig. 1).管腔内には凝血塊が多量でVater乳頭部の確認はできなかった.同部位からの生検で確定診断には至らなかったものの核腫大を有する異型細胞を認め,十二指腸癌と診断された.前医では既往の慢性閉塞性肺疾患により階段昇降も息切れで困難で,術後呼吸器合併症のリスクが高く耐術は不可能と判断し,出血制御目的に動脈塞栓術の方針となった.腫瘍への栄養血管である前上膵十二指腸動脈および後下膵十二指腸動脈をマイクロカテーテルで選択し,ジェルパート1 mm粒少量にて超選択的に動脈塞栓が行われた(Fig. 2a, b).一旦貧血の進行は制御されたが,患者の手術治療に対する強い希望があり手術可否の判断を含め継続加療目的に当院紹介,転院となった.

Fig. 1 

Upper gastrointestinal endoscopy shows type 3 tumor occupying the second to third portion of the duodenum with blood coagula. The ampulla of Vater cannot be seen.

Fig. 2 

Abdominal angiography showing extravasation at the branch of ASPDA (anterior superior pancreaticoduodenal artery) (a: arrow) and PIPDA (posterior inferior pancreaticoduodenal artery) (b: arrow); therefore, embolization was immediately performed.

現症:身長165 cm,体重55.5 kg,BMI 20,意識清明,血圧95/67 mmHg,脈拍110回/分,SpO2 93%(room air),体温36.1°C.平常時,体動時いずれにおいても口すぼめ呼吸を行っていた.眼瞼結膜に貧血を認めた.腹部は平坦・軟であったが右側腹部に軽度の自発痛および圧痛を認めた.

血液検査所見:WBC 14,000/μl,CRP 8.39 mg/dlと炎症反応は上昇し,RBC 244×104/mm3,Hb 7.1 g/dl,Ht 22.0%と高度貧血を認めた.また,総蛋白が6.2 g/dl,血清アルブミンが2.7 g/dlと低値であった.腫瘍マーカーはCEA,CA19-9ともに正常範囲内であった(Table 1).

Table 1  Laboratory findings on admission
Peripheral Blood Blood chemistry Fe 19​ μg/dl
WBC 14,000​/μl T-bil. 0.5​ mg/dl UIBC 163​ μg/dl
 NEUT% 83.0​% AST 13​ IU/l
 LYMP% 7.0​% ALT 17​ IU/l Viral markers
 MONO% 5.0​% LDH 169​ IU/l HBsAg (−)
 EOS% 5.0​% ALP 224​ IU/l HBsAb (−)
 BASO% 0.0​% ChE 158​ IU/l HBeAg (−)
RBC 244×104​/μl γ-GTP 33​ IU/l HBeAb (−)
Hb 7.1​ g/dl TP 6.2​ g/dl HBcAb (−)
Ht 22.0​% Alb 2.7​ g/dl Anti-HCV (−)
MCV 90.1​ fl BUN 29.7​ mg/dl
MCH 29.0​ pg Cre 0.88​ mg/dl Tumor markers
MCHC 33.1​ g/dl Na 140​ mEq/l CEA 1.8​ ng/ml
Plt 32.2×104​/μl K 5.0​ mEq/l CA19-9 33.0​ U/ml
Coagulation Cl 108​ mEq/l
PT 60.0​% CRP 8.39​ mg/dl
APTT 30.5​ s

腹部造影CT所見:十二指腸下行脚・水平脚移行部の前壁優位に亜全周性で不均一に濃染される隆起性病変を認めた.十二指腸下行脚壁は浮腫状に肥厚し,内腔には血種と考えられる高吸収域が充満しており著明に拡張していた(Fig. 3a, b).膵頭部と病変の境界が一部不明瞭であり膵浸潤が疑われたが,肝内外胆管および主膵管の拡張は認めなかった.

Fig. 3 

Abdominal contrast-enhanced CT scan reveals an unevenly enhanced tumor at the second to third portion of the duodenum (a: arrow), and the marked expansion of the proximal side of the second portion of the duodenum with blood coagula (b).

入院後経過:呼吸機能検査にて1秒率は35.7%,1秒量は33.6%と重度の閉塞性障害の所見で,転院同日より呼吸リハビリを導入した.ASA(American Society of Anesthesiologists)分類3)はPS3,呼吸不全リスク指数(respiratory failure risk index;RFRI)4)はclass 4で,前医の見解と同様,手術は高リスクと判断したが手術以外に根治治療がなく継続的な出血制御も困難であり,患者の強い要望による同意の元,準緊急での手術を計画した.しかし,転院5日後に多量のタール便と急激な血圧低下を認め,Hbは7.9から5.1 g/dlと低下,腫瘍からの再出血により循環血液量減少性ショックを呈したものと判断した.動脈塞栓術による止血は困難と判断し同日緊急で手術を施行した.

手術所見:開腹時に腹腔内播種や出血所見は認めなかった.十二指腸下行脚・水平脚移行部に血腫が充満し浮腫を呈した手拳大の腫瘍性病変を同定,腫瘍は肝彎曲部結腸に接していたが直接浸潤進展を疑う所見はなかった.亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(subtotal stomach preserving pancreaticoduodenectomy;以下,SSPPDと略記)を施行した.再建術式はIIa-1で行い,腸瘻を造設した.手術時間は312分,出血量は460 ml,術中に濃厚赤血球560 mlの輸血を行った.

切除標本所見:十二指腸下行脚・水平脚移行部を主座とする径10×8 cm大の腫瘤を認めた(Fig. 4a).腫瘤の割面には胆汁と凝血塊が充満し,それらに圧排された十二指腸に黄白色の隆起性病変を認めた(Fig. 4b).肉眼的にVater乳頭部は確認できなかった.

Fig. 4 

Macroscopically, the resected specimen shows a mass measuring 80×100 mm in size centered on the second to third portion of the duodenum (a). Cut surface of the specimen shows a yellowish-white tumor mass invading the pancreatic head (b: arrowheads).

病理組織学的検査所見:胞体の広い核小体明瞭な異型細胞が充実性に増生しており,N/C比の高い多核巨細胞が散見された.角化像や腺腔形成は認められず分化傾向は明らかでなかった(Fig. 5).腫瘍は膵頭部へ直接浸潤を来しており,静脈およびリンパ管侵襲を認めた.リンパ節転移は#13のみでそのほかの郭清リンパ節には認められなかった.

Fig. 5 

Histopathologically, the tumor cells show solid proliferation with clear nucleolus but without keratinization or ductal structures. Multinuclear giant cells with a high N/C ratio are noted in part (HE stain ×20).

免疫組織学的検査所見;腫瘍は鍍銀染色にて上皮様配列を示し(Fig. 6a),サイトケラチンAE1/AE3陽性(Fig. 6b),vimentin陽性(Fig. 6c),AFP陰性(Fig. 6d),c-kit陰性(Fig. 6e),CD34陰性(Fig. 6f),α-SMA陰性(Fig. 6g),S-100p陰性(Fig. 6h),hCG陰性(Fig. 6i),HMB45陰性(Fig. 6j)であった.以上の所見より,上皮性腫瘍の判断の元,腺癌や扁平上皮癌,神経内分泌癌などは否定的であり,十二指腸原発未分化癌と診断した.

Fig. 6 

Immunochemically, reticulin stain reveals dense reticulin meshwork surrounding individual tumor cells (a). Tumor cells are positive for cytokeratin AE1/AE3 (b) and vimentin (c) and negative for AFP (d), c-kit (e), CD34 (f), α-SMA (g), S-100p (h), hCG (i) and HMB45 (j).

術後経過:術後早期より呼吸リハビリを再開して術後管理を併施した.致命的となる誤嚥性肺炎の合併を懸念し,経腸栄養管理を行いつつ嚥下機能評価および呼吸筋訓練を十分に行ったのち,術10日後に経口摂取を開始した.呼吸器合併症は認めなかった.術後36日目に自力歩行で退院となったが,術2か月後のCTにて多発性肝転移を来し,病状は急速に進行し術3か月後に永眠された.

考察

乳頭部癌を除く原発性十二指腸癌は全消化管悪性腫瘍の約0.3%と比較的まれであるが,小腸癌の中では25~45%を占めるとされる1).報告により異なるが平均年齢は60歳代,性別は男性にやや多いとする報告が多い5)~7).早期癌の約半数は無症状で,発見,診断時には進行した状態でみつかる頻度が高い8)9).進行癌では上腹部痛などの潰瘍症状と嘔気・嘔吐などの腸閉塞症状が多いが,出血症状が約30%に認められる8).主占居部位別頻度は球部21%,下行脚53%,水平脚19%,上行脚7%と報告されている8)10).治療は病変の進行度や主占居部位にもよるが外科的切除が基本である.深達度pSS以上の進行癌では膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy;以下,PDと略記)または幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(pylorus preserving pancreaticoduodenectomy;以下,PPPDと略記)を標準術式とし,十二指腸乳頭部癌に準じた2群リンパ節郭清が必要と考えられている7)11)12)

十二指腸癌を含む膵頭部領域癌における消化管出血に対して,止血目的に緊急でPDあるいはPPPDが選択される場合があるが,いずれも高侵襲手術であり緊急といえどもその適応選択には慎重を期す必要がある.自験例は重度の呼吸機能障害や低栄養に加えショック状態を来した高リスク症例であったが,濃厚赤血球輸血や止血剤の投与による対症療法や内視鏡的止血術,血管塞栓術による出血制御では救命困難であり緊急手術の適応と判断した.術式に関して,腫瘍サイズが大きいうえに腫瘍への栄養血管は膵頭部領域支配動脈であり,腫瘍切除や十二指腸部分切除を含む縮小手術は困難と判断したためSSPPDを選択した.手術自体は侵襲軽減のため出血量の低減や手術時間の短縮に努め,術後は経腸栄養管理を併用しつつ嚥下機能評価を十分に行い,慎重に経口摂取を開始したことで誤嚥リスクが低減,呼吸器合併症を回避した.慎重な周術期管理に加え,呼吸および運動リハビリテーションの当院転院時からの導入と術後早期での再開を行うことで一旦は独歩退院した.

未分化癌は多方向への分化能力を有した内胚葉系の未分化細胞から発生するため,上皮細胞や神経内分泌細胞,リンパ形質細胞,筋細胞,mesenchymal cellいずれの細胞にも分化傾向を示さない分類不能の組織型を呈する.確定診断に至るには詳細な免疫組織染色検査が必要とされており,病変内の腺癌・扁平上皮癌・小細胞癌・悪性リンパ腫・肉腫などの成分を除外する必要がある13).自験例は病理組織学的には,細胞の核小体は明瞭で核は裸核状ではなく小細胞癌は否定的であり,腺腔形成は認められず粘液産生像も明らかでなかったことから低分化腺癌の所見とも異なっていた.また,腫瘍細胞は敷石状に配列していたことから悪性リンパ腫も否定的であった.免疫組織学的には上皮性マーカーの一つであるサイトケラチンAE1/AE3が陽性を示し,鍍銀染色にて上皮様配列を認めた.非上皮性マーカーであるvimentinは陽性であったが癌腫の中で極めて未分化なものでは陽性となることが報告されており14),上皮性腫瘍の可能性を否定する所見ではないと考えられた.また,上皮系,リンパ細網系,神経系を含む大部分の免疫組織染色検査はいずれも陰性であったことを踏まえ,未分化癌と診断した.

甲状腺や肺を原発臓器とする未分化癌の報告は散見されるが,腹腔内臓器を原発とする未分化癌の報告は各臓器別にみても極めて低率である.主だった報告によれば胃未分化癌は胃癌全体の0.16~0.24%15)16),大腸未分化癌は大腸癌全体の0.04~0.08%17),膵未分化癌の頻度は膵悪性腫瘍の0.4%18)と報告されている.十二指腸ではなく乳頭部原発である十二指腸乳頭部癌にいたっては全国胆道癌登録において未分化癌は0.15%と報告されている19).安井ら20)は本邦報告6例の十二指腸乳頭部未分化癌についてまとめているが,全例に初発症状で黄疸を認め胆管拡張を伴っていた.また,全例で切除がなされていたがいずれも膵浸潤を認めており,進行例が多く予後は最長約12か月であり,乳頭部癌全体に比べて不良であったとしている.自験例は膵浸潤を認めたものの切除標本の割面の肉眼像において病変の主座は明らかに十二指腸であった.また,巨大な腫瘍に圧排され十二指腸乳頭部の確認ができなかったが,かなりの増大を来していたにもかかわらず閉塞性黄疸や膵炎は来しておらず,消化管由来が示唆される出血および狭窄が主症状であったことから十二指腸原発として差し支えない所見であった.病理組織学的には腫瘍が十二指腸壁を置換するように占居し膵頭部に浸潤していたが,膵内胆管には異常所見はなく拡張像も認めなかった.乳頭部は腫瘍で圧挫されていたが腫瘍の中心部とは明らかに離れていた.以上の所見より,十二指腸原発と診断した.

医学中央雑誌において1970年から2016年の期間で会議録を除く,「十二指腸癌」,「未分化癌」ならびにPubMedにおいて1950年から2016年の期間で「primary duodenal carcinoma」,「undifferentiated carcinoma」をキーワードに検索したところ,乳頭部癌を除く原発性十二指腸未分化癌の和文報告は1例のみ,英文でも1例の症例報告のみであり,自験例で3例目であった(Table 221)22).性別は男性2例,女性1例で平均年齢は64(40~77)歳であった.主訴はタール便が2例,心窩部痛が1例であり,病変の主占居部位はいずれも下行脚(自験例は水平脚への移行部)であった.治療は2例に手術療法がなされ,PDが1例,SSPPDが1例であったがいずれも術前に確定診断には至っていない.残る1例は切除不能と判断され,閉塞性黄疸に対して胆管ステントを留置後に化学療法がなされた症例だが,3か所の生検組織を用いて免疫染色検査も施行したうえで未分化癌と診断している.全例でサイトケラチンおよびvimentinを,症例によってはCAM 5.2,EMAなどを追加で用いて免疫染色検査を施行し他の癌腫や肉腫との鑑別診断が行われていた.転帰に関しては自験例が術3か月後に,切除不能であった症例は治療介入約4か月後に原病死しているが,手術が行われたもう1例は術17か月後の時点で無再発生存中であった.

Table 2  Three reported cases of undifferentiated carcinoma of the duodenum from the literature and our case
No. Author/Year Age/Sex Chief complaints Duodenal location Tumor size (cm) Immunohistochemistry Treatment Outcome after primary treatment (months)
1 Matsubayashi21)/2010 77/F Tarry stool Second portion 12 Differentiation not specified Biliary drainage, Chemotherapy 4, dead
2 Takeda22)/2013 40/M Epigastric pain Second portion 7 Differentiation not specified PD 17, alive
3 Our case 75/M Tarry stool Second to third portion 10 Differentiation not specified SSPPD 3, dead

pancreatoduodenectomy=PD, subtotal stomach preserving pancreaticoduodenectomy=SSPPD

猪瀬ら12)は原発性十二指腸癌27切除例に対して臨床病理組織学的検討を行い,27例中15例が無再発生存で,5年累積生存率は50.0%であったと報告している.また,有意な予後規定因子として症状の有無,腫瘍マーカー上昇の有無,壁深達度,膵浸潤の有無を挙げているが,組織型が未分化であった症例は含まれていなかった.自験例や他臓器の未分化癌の報告例において予後不良な症例が多いことを踏まえると,今後の症例の蓄積に伴う解析によっては組織型も重要な予後規定因子の一つとなりうると考えられた.

十二指腸原発未分化癌に対する化学療法に関しては現段階で一定の見解はない.手術が施行されなかった1例にFOLFOX療法が行われているが,効果は乏しく導入3か月後に原病死されている21).一方で,他部位原発の未分化癌においては化学療法の奏効例も報告されており23)~25),胸腺原発でcisplatinとetoposideの併用による著効例や,胃原発でのcisplatinとS-1併用による有用性,甲状腺原発でのS-1単独による長期生存例,などがある.十二指腸原発の未分化癌に対しても有効な可能性はあると考える.自験例は腫瘍にともなう消化管出血および狭窄を来していたため手術を先行したが,症状がコントロールされており,かつ組織診が得られていれば,腫瘍のサイズが大きく膵頭部へ浸潤も来していたため化学療法を先行することも選択肢の一つであったと考えられる.

分子病理学的解析研究において,消化管未分化癌の半数にSWI/SNF様クロマチン構造変換因子複合体を構成するサブユニットであるSMARCB1の欠失が認められるとの報告があるが26),最近ではSMARCA2,SMARCA4,ARID1Aなど,SMARCB1以外のサブユニットの欠失例も報告されている27).これら複合体のサブユニットの欠失や不活化は未分化癌の細胞増殖の調節と密接な関連があることが指摘されており,分子病理学的メカニズムの今後のさらなる解明が期待される.

今回,我々は十二指腸原発未分化癌に対して,十二指腸の通過障害に加え出血を来したことから,緊急で高侵襲手術であるSSPPDを施行した.高リスク患者であったものの慎重な周術期管理と積極的なリハビリを行い救命することができ,短期間ながら自力経口摂取および独歩退院が可能となりQOLの向上に寄与したものと考えられた.十二指腸原発未分化癌は極めてまれで,急激な転帰をたどった貴重な症例と考えられ報告した.今後のさらなる症例の蓄積と検討が臨床病理学的特徴の解明や化学療法レジメンの確立に寄与するものと期待される.

利益相反:なし

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