日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
食道癌術後に再建胃管潰瘍が心囊内に穿孔し緊急手術で救命しえた1例
水田 憲利菅沼 利行中谷 研介岡田 晋一郎飯田 真岐辻本 志朗
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キーワード: 食道癌術後, 胃管潰瘍
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2019 年 52 巻 3 号 p. 137-145

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Abstract

食道癌術後に,再建胃管潰瘍が心囊内に穿孔した1例を経験した.症例は64歳の女性で,進行食道癌に対し胸腔鏡補助下食道切除,胸骨後胃管再建術を受け,術後に補助化学放射線療法を実施した.術後10か月後胸部痛が出現し,当院受診となった.CTにて鏡面像を伴う心囊液貯留,左胸水,縦隔気腫を認め,経口造影検査を施行したところ,心囊内への造影剤流出を認めた.再建胃管の心囊への穿孔,の診断で緊急手術を施行した.左後側方開胸し,心囊を開放すると多量の食物残渣が排出し,右心室側心囊に8 mm大の胃管潰瘍穿孔を認めた.同部位に心囊側からT-tubeを挿入し,胸腔洗浄後,心囊,胸腔にドレナージチューブを留置した.術後19日目に経口摂取を開始し,47日目に自宅退院となった.食道癌術後に胃管潰瘍が心囊に穿孔することは比較的まれであり,保存的治療では致死率が高く,迅速な外科的ドレナージが必要と考えられた.

Translated Abstract

We report a case of a reconstructed gastric tube ulcer perforation with leakage into the pericardial space after esophagectomy for esophageal cancer. A 64-year-old woman underwent thoracoscopically-assisted esophagectomy and replacement via the retrosternal route, using a gastric tube for advanced esophageal cancer, followed by adjuvant chemoradiotherapy. Ten months after the surgery, she had chest pain, and revisited our hospital. Pericardial effusion, left pleural effusion and mediastinal emphysema were recognized by CT scan, so an upper gastrointestinal series was performed. Contrast medium leaked from the reconstructed gastric tube into the pericardial space. We diagnosed perforation of reconstructed gastric tube and performed emergency surgery. Left posterolateral thoracotomy was performed and the pericardium was incised longitudinally. A large amount of food residue was withdrawn and an 8 mm perforation site of the reconstructed gastric tube ulcer was recognized. After irrigation, we inserted a T-tube into the perforation site and drainage tubes into the pericardium and thoracic cavity respectively. Oral ingestion resumed on POD19 and the patient was discharged on POD 47. Reconstructed gastric tube ulcer perforation with leakage into the pericardial space after esophagectomy for esophageal cancer is rare, but mortality is extremely high using conservative treatment. Rapid surgical intervention is therefore crucial.

はじめに

食道癌術後の合併症の一つとして再建胃管潰瘍があり,通常術後5年以内に発生し,発生率は6.6~19.4%と報告されている1).さらに,胃管潰瘍が穿孔した場合,致命的な経過を辿ることが多い.今回,我々は食道癌術後の再建胃管潰瘍が心囊内に穿孔したまれな症例を経験したので報告する.

症例

患者:64歳,女性

主訴:前胸部痛

既往歴:糖尿病

現病歴:2009年11月胸部下部食道癌に対し胸腔鏡補助下食道亜全摘,胸骨後経路胃管再建術を施行した.病理組織学的所見は,Lt,30×35×15 mm,Type 3,squamous cell carcinoma,moderately differentiated type,pT2,pPM0,pDM0,INFb,v1,ly2,IM0,RM0,pN3(2b),sM0,pStage III(食道癌取扱い規約 第10版補訂版2))であった.2010年1月から術後予防的化学放射線療法を施行した(総線量50 Gy/25 Fr,low dose FP療法(CDDP 5 mg/m2/day×13 days,5-FU 500 mg/m2/day×13 days).術後にH2受容体拮抗薬が処方されていた.2010年6月の上部消化管内視鏡検査では異常所見を認めなかった.2010年9月に前胸部痛が出現し,前医受診したところ,筋肉痛と診断された.Non-steroidal anti-inflammatory drugs(以下,NSAIDsと略記)を処方され,頻回に内服していたが改善せず,発熱,右肩痛,前胸部の圧迫感も自覚するようになったため,当院救急外来受診となった.

入院時現症:血圧103/56 mmHg,脈拍113回/分,体温38.7°C,頸部には明らかな異常を認めず,胸部では左肺にcoarse crackleを聴取し,皮下気腫は認めなかった.腹部にも明らかな異常を認めなかった.

血液検査所見:WBC 3,600/μl,RBC 349×104/μl,Hb 10.9 g/dlと軽度低下,CRP 9.0 mg/dlと炎症反応が上昇していた.その他の血算,生化学所見に異常を認めなかった.

心電図所見:リズム整,120回/分,II,aVfで非特異的ST上昇,V4-6で早期再分極を認めた.

胸部X線写真所見:心陰影の拡大,および心囊内に気腫像を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Chest X ray showed the enlarged cardiac shadow and the pericardial emphysema (arrow).

胸部CT所見:心囊の拡大と鏡面像を伴う心囊液の貯留,左胸水,縦隔気腫を認めた(Fig. 2a~c).

Fig. 2 

a. CT showed the gastric tube at the retrosternum. Left pleural effusion was seen. b. Pericardial emphysema with niveau was seen (arrow). c. Pericardial effusion was seen (arrow).

上部消化管造影検査所見:再建胃管遠位部後壁やや左側壁から,心囊内への造影剤流出を認めた(Fig. 3a, b).

Fig. 3 

a. Examination of upper GI series showed the gastric tube (black arrow). The perforation was observed at the left side of the gastric tube (red circle). b. The pericardium was well-enhanced by a contrast medium (red arrow).

以上より,再建胃管の心囊穿孔,左胸腔穿孔疑いの診断で緊急手術を施行した.

手術所見:右側臥位,左第6肋間後側方切開で開胸した.胸腔内には混濁した胸水を認めていたが,食物残渣は認めなかった.心囊壁は発赤,浮腫が著明で緊満していた.左横隔神経背側にて心囊を開放すると多量の食物残渣が排出され,心外膜表面は著明な発赤と白苔で被覆されていた.再建胃管を同定すべく,皮膚切開を腹側に延長し,胃管の剥離露出を試みるも心囊,前胸壁,横隔膜と強固に癒着しており,剥離困難な状態であった.心囊を横隔膜面から頭側に,左横隔神経の腹側で大きく縦切開し,心尖部を挙上し,心囊側から穿孔部を検索したが同定できなかった.最終的に経鼻胃管からの送気テストにより右心室側心囊への約8 mm大の穿孔部位を認めた(Fig. 4a~c).視野確保が困難であり,縫合操作は断念し,同部位へ心囊側から8 FrのT-tubeを挿入留置した.後縦隔や上縦隔は,炎症所見に乏しかった.心囊内横隔膜腹側,背側,および胸腔内背側から肺尖部にむけての計3か所に24 Fr持続吸引胸腔ドレーン,胸腔内腹側に20 Frダブルルーメン胸腔ドレーンを挿入した(Fig. 4d, 5).手術時間は3時間24分,出血量は550 mlであった.

Fig. 4 

a. Intraoperative findings. The dorsal side of the phrenic nerve was incised. The black arrows show the pericardium. The blue arrow indicates the left ventricle. b. Intraoperative findings. Incision at the ventral side of the phrenic nerve. The yellow arrow shows the right ventricle. c. Diagram of the intraoperative findings. The ulcer perforated into the right ventricle side of the pericardium. The perforation site was observed at the posterior wall of the gastric tube. d. The diagram of the tube insertion. A T-tube was inserted into the perforation site (No. 1). Continuous drainage tubes were inserted to the ventral side of the pericardium (No. 2), the dorsal side of the pericardium (No. 3), and the pulmonary apex site of the thoracic cavity (No. 4). A double lumen tube was inserted into the ventral side of thoracic cavity (No. 5).

Fig. 5 

A chest X ray after the operation. Tubes are inserted in the thoracic cavity and pericardium.

術後経過:ICU入室,メロペネム,proton pump inhibitor(以下,PPIと略記)の投与,人工呼吸器管理を含めた集学的治療を施行した.術中所見で,食物残渣が多量であり,口腔内からのカンジダの侵入が懸念されたこと,またT-tube挿入部からの消化管内容物の漏出も懸念されたため,術後第2病日からミカファンギンの投与を追加した.結果として血液中β-Dグルカンは正常値で,喀痰,胸水,心囊各種培養検査から真菌は検出されなかった.術後第8病日に偽膜性腸炎を発症したため,抗菌薬投与は全て中止した.また,同日,気管内チューブ,ダブルルーメン胸腔ドレーンを抜去した.術後第14病日心囊内横隔膜背側ドレーンを抜去し,第15病日には心囊内横隔膜腹側,胸腔背側ドレーンを抜去した.第19病日には経口摂取を開始した.第29病日にT-tube抜去し,第42病日に経口造影検査で壁外に瘻孔の一部が残存していたが,心囊内に拡大する所見はなかった.第47病日に自宅退院となった.後日外来で施行した上部消化管内視鏡検査で再建胃管遠位部後壁にH2ステージ潰瘍を認め,生検を施行したが悪性所見はなく,血清Helicobacter pylori抗体は陰性であった.PPIを継続投与し,再建胃管潰瘍は瘢痕化には至っていないものの2017年6月の時点で再燃傾向なく,当科から近医に紹介となった.

考察

食道癌術後の重大な合併症の一つとして再建胃管潰瘍穿孔があるが,穿孔が発生した場合,致命的な経過を辿ることが多い1).Ubukataら1)は,本邦での23例の胃管潰瘍穿孔例のうち,9例が後縦隔経路(気管5例,胸壁2例,心囊2例)で死亡率77.8%,12例が胸骨後経路(皮膚4例,心囊4例,胸部大動脈2例,胸腔1例,胸骨1例)で死亡率50%,2例が胸骨前(皮膚1例,胸骨1例)で死亡率0%であり,後縦隔経路で死亡率が最も高かったと報告している.再建胃管の解剖学的位置から,気管,胸部大動脈,心臓などの臓器に近接しているため,穿孔した場合は,気管食道瘻,大量出血,心外膜炎,縦隔炎などにより致命的になることが多いと考える.食道癌術後の再建胃管は,Helicobacter pylori感染,血流低下,gastric stasis,胆汁逆流,放射線治療後,など背景にあり潰瘍発症のリスクが高いとされている1).今回の症例の場合,前胸部痛を主訴に前医を受診し,筋肉痛と診断され,NSAIDsを処方されている.受診3か月前に施行された上部消化管内視鏡検査では異常所見なく,胃管潰瘍の原因としては放射線治療後の影響も示唆される.そこにNSAIDsの投与が誘因となり,潰瘍穿孔に至ったのではないかと考えられる.発症した場合,胸痛,呼吸苦,吐血などの症状がある.再建胃管潰瘍穿孔例は,医学中央雑誌で1964年から2017年10月の期間で「胃管潰瘍」,「食道癌術後」をキーワードとして検索した結果,29件(会議録を除く),またPubMedで1950年から2017年10月の期間で「esophageal cancer」,「gastric tube」,「perforation」をキーワードとして検索すると,15件(会議録を除く)あり,本症例を併せ45件の報告例がある.

上記再建胃管潰瘍穿孔例のうち心囊に穿孔した症例は15例報告されている(Table 13)~16).再建経路は胸骨後14例,後縦隔1例であった.初発症状は胸痛が最も多く,9例に認めた.放射線治療を施行していた症例は,本症例以外では1例のみで,術前に施行されていた15).また,NSAIDs服用例は,本症例含め8例報告されていた.診断は単純X線写真,CTに加え,上部消化管内視鏡検査,上部消化管造影検査が行われており,本症例でも食道癌術後で胸痛があり,CTで縦隔気腫,心囊液貯留を認めることから,胃管穿孔を疑い,造影検査を行うことで術前に診断しえた.症状発症時に必要な検査が施行されず,胃管穿孔と診断できていなかった症例を4例認め,うち3例は死亡しており,食道癌術後で胸痛,発熱,呼吸困難などの症状があれば,胃管穿孔は常に鑑別に入れておくべき疾患であり,診断が遅れることは致死的な経過を招くと考えるべきである.治療については,ドレナージが11例,保存的加療が4例施行されていた.全体での治療成績では5例の死亡例があり,保存的加療を受けた症例4例中3例は死亡,ドレナージを受けた症例での死亡例はいずれも発症後2日以降にドレナージがなされた症例であった.発症早期に手術加療しなかった症例の予後は極めて不良であり,心囊に穿孔した症例では,積極的に外科的ドレナージを行うことが必要と考える.

Table 1  Case reports of gastric tube perforation into the pericardium in Japanese and English literature
Case Author Year Age Gender Route of reconstruction Postoperative period Symptom NSAIDs Radiation Initial diagnosis Therapy Result
1 Shima3) 1991 67 M Retrostrnal 3M Chest pain No Conservative Dead
2 Kawasaki4) 1996 66 M Posterior mediastinum 1Y9M Chest pain + Yes Conservative Healed
3 Fukumoto5) 1997 74 M Retrosternal 8Y5M Chest pain + Yes Surgical drainage (left thoracotomy) Healed
4 Miyazawa6) 2000 67 M Retrosternal 3Y11M Chest pain No Percutaneous drainage Dead
5 Ide7) 2003 65 M Retrosternal 8M Neck pain + Yes Conservative Dead
6 Nakauchi8) 2007 72 M Retrosternal 4Y4M Dyspnea No Conservative Dead
7 Shibuya9) 2008 66 M Retrosternal 5Y Fatigue Yes Percutaneous drainage Healed
8 Kato10) 2010 65 M Retrosternal 10Y Right chest pain No Surgical drainage (trans-abdominal),
muscle flap
Healed
9 Dougaki11) 2012 68 M Retrosternal 10Y Chest pain + Yes Surgical drainage Healed
10 Nikolic12) 2013 62 M Retrosternal 1Y6M Upper abdominal pain Yes Surgical drainage (right thoracotomy), removal gastric tube Dead
11 Okada13) 2013 55 F Retrosternal 15Y Chest pain + Yes Surgical drainage (median thoracotomy), partial resection of gastric tube Healed
12 Watanabe14) 2013 66 M Retrosternal 1Y8M Chest pain + Yes Thoracoscopic drainage Healed
13 Hyakumegi15) 2015 66 M Retrosternal 9Y Dyspnea + (Preoperative) Yes Surgical drainage (transabdominal→median thoracotomy), esophagostomy, Roux-en-Y reconstruction with jejunum Healed
14 Umetsu16) 2017 59 M Retrosternal 4Y3M Chest and back pain + Yes Surgical drainage (left thoracotomy) Healed
15 Our case 64 F Retrosternal 10M Chest pain + + (Postoperative) Yes Surgical drainage (left thoracotomy) Healed

その要諦としては,穿孔部の閉鎖とドレナージを如何に行うかであるが,閉鎖可能かどうか,補強は必要か,ドレナージはどこに,何を,何本入れるか,など考慮すべき点が多い.

手術時のアプローチについては,心囊内穿孔では,胃管後壁の穿孔であること,胸骨後再建後が多いため心囊の腹側には再建胃管があることを考慮すると,右側あるいは左側開胸を選択することが多くなると思われる.胸骨後再建後で胸骨正中切開アプローチした症例もあるが13)15),癒着が強く,胃管を損傷した症例13)もあり,第一選択にはならないと考える.最近では胸腔鏡下食道癌手術が増えているが,右開胸手術後では癒着も予想される.本症例では,左胸水も認められ,左胸腔への穿孔も疑われたため,左開胸でのアプローチを選択した.穿孔が心囊に限定されていれば,左右いずれかの開胸アプローチの選択は可能と思われる.後縦隔経路再建後であれば,右側開胸アプローチが良いと思われる.術前造影検査で穿孔部位が確認できるかどうかが,開胸アプローチを考慮する際に重要と考える.状態が許すのであれば,造影検査を施行するべきである.

また,穿孔部位への対応としては,閉鎖が理想的であるが,組織の脆弱性や視野が不良であることなどから閉鎖できない場合も多い.本症例では,手術開始直後は穿孔部が同定できずに苦慮し,経鼻胃管から空気を挿入し,同定しえた.穿孔部を縫合閉鎖することは,炎症の影響で組織も非常に脆弱であり,困難であった.過去の報告でも,穿孔部を修復できた例は2例のみであった10)13).仮に穿孔部を閉鎖できたとしても,可能なかぎり補強が望ましいと考える.胃管幽門側の小彎側ステイプルラインの穿孔例に,腹直筋弁を併用し救命できた症例が報告されている10)

穿孔部を閉鎖することが不可能であれば,穿孔部の大きさ,部位に応じてドレナージのみ,あるいはT-tube挿入留置も選択肢の一つになると考えられる.再建胃管穿孔の病態は,特発性食道破裂の病態とも類似点があり,胃管穿孔例でも応用できるのではないかと考える.特発性食道破裂症例で,T-tubeを挿入留置し,救命できた例も報告されている17)18).増田ら18)は,特発性食道破裂8症例のうち,発症から24時間以上経過して診断しえた5症例,高度汚染症例2症例の計7症例に対しT-tubeドレナージを施行し,全例救命できたと報告している.本症例では,穿孔部の縫合閉鎖は困難であったが,直視下に確認できたこと,またそれほど大きな穿孔ではなかったこともありT-tube挿入留置を行った.再建胃管潰瘍が心囊に穿孔した過去の報告例で,T-tube挿入留置した報告は認めなかった.直接縫合閉鎖ができない比較的小さな穿孔の場合,可能であればT-tube挿入留置することで胃管内容のドレナージおよび瘻孔化を期待することができ,考慮すべきと考える.開胸ドレナージ以外では,胸腔鏡下でのドレナージにて救命できた症例も報告されている14)

手術以外の他のドレナージの方法としては,経皮的心囊ドレナージを施行した例が2例報告されている6)9).このうち1例は救命できていたが,全身状態が安定していたことと,発症早期に効果的なドレナージを行い,感染のコントロールができたことが要因と報告されている9).発症早期で全身状態が安定している症例では,選択肢として検討の余地はあると考えられる.しかし,全身状態が不良な症例では躊躇せずに外科的ドレナージを考慮すべきと考える.

さらに,心囊内のみでなく,胸腔,縦隔にも感染の波及がみられる場合には,これらの部位にも十分なドレナージが肝要と思われる.心囊内には,術後も胃管内容が漏出することも考慮して,持続吸引ドレーンを留置することが望ましいと考えられる.また,胸腔内には背側と腹側に1本ずつ,縦隔側にもドレーン留置が望ましいと考える.本症例では,心囊内横隔膜腹側,背側,および胸腔内背側から肺尖部に向けて24 Fr持続吸引胸腔ドレーン,胸腔内腹側に20 Frダブルルーメン胸腔ドレーンを挿入した.横隔膜後方で椎体側面は,胸腔内のダグラス窩に相当するものであり,術後の同部位の膿胸を予防するために,横隔膜から椎体前面に2重管胃管を吸収糸で固定する方法も報告されており19),同部位に膿瘍を形成し,術後に追加ドレナージを施行した特発性食道破裂の例も報告されている20)

食道癌術後の胃管穿孔は,起こりうる合併症であることを念頭に置いておく必要がある.胃管潰瘍予防にはPPIの継続内服を行っていくことが基本的であるが,内服中に発症した症例も報告されている16).よってPPIの内服だけでなく,定期的な上部消化管内視鏡検査が必須であると考える1)9)16).Mochizukiら21)は,少なくとも6か月ごとの内視鏡検査を勧めているが,本症例では3か月前の内視鏡検査では異常所見を認めておらず,胸部痛などの症状が発生した時点で早期に受診することを患者自身にも説明しておく必要があると考える.

上記のように厳重な術後フォローアップを行っていくことが必須であるが,それでも胃管穿孔が発症した場合には,手術時期を失することなく外科的ドレナージを行うことが重要であると考える.

本症例の要旨については,第68回日本消化器外科学会総会(宮崎)において発表した.

利益相反:なし

文献
 

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