2020 年 53 巻 1 号 p. 61-68
症例1は82歳の男性で,排便異常を主訴に当院を受診し,直腸癌,前立腺癌の診断となった.2011年7月に直腸癌に対し,Hartmann手術,D2郭清を施行した.病理組織学的検査にて,#251領域リンパ節に,免疫学的染色検査にてCK7(−),CK20(+)の大腸癌由来の細胞と,CK7(−),CK20(−),PSA(+)の前立腺癌由来の細胞が衝突する像を確認した.症例2は64歳の男性で,排尿障害を主訴に当院泌尿器科を紹介受診し,前立腺癌,S状結腸癌,多発肝転移の診断となった.2017年7月に当科にてS状結腸癌に対し,Hartmann手術,D3郭清を施行した.#241領域リンパ節において,免疫学的染色検査にてCK7(−),CK20(−),PSA(+)となり,前立腺癌由来のリンパ節転移の診断となった.前立腺癌による大腸間膜リンパ節転移,特に大腸癌と前立腺癌の衝突転移はまれであると考えた.
[Case 1] An 82-year-old man presented with a 3-month history of defecation difficulty. Preoperative examination revealed prostatic cancer and rectal cancer. The patient subsequently underwent a Hartmann’s operation with D2 lymph node dissection in July 2011. A histopathological examination revealed a “collision” metastatic rectal (cytokeratin-7 negative, cytokeratin-20 positive) and prostatic (cytokeratin-7 and cytokeratin-20 negative, prostate-specific antigen positive) carcinoma in the pararectal lymph node. [Case 2] A 64-year-old man presented with a 2-month history of urinary disorder and constipation. Preoperative examination revealed prostatic cancer and sigmoid colonic cancer with multiple liver metastases. The patient subsequently underwent a Hartmann’s operation with D3 lymph node dissection in July 2017. A histopathological examination revealed a metastatic prostatic (cytokeratin-7 and cytokeratin-20 negative, prostate-specific antigen positive) carcinoma in the lymph node of the mesocolon. We encountered rare cases of metastatic prostatic cancer to mesenteric lymph nodes, with the “collision phenomenon” in one lymph node.
大腸は他臓器癌との重複例が増加傾向を示しており1)2),大腸癌取扱い規約の第9版にも多発癌,重複がん,多重がんの定義が明記されている3).大腸癌と前立腺癌は,ともに罹患数の増加を認めており,二つの癌の重複例はめずらしくはないが,前立腺癌が大腸間膜リンパ節に転移する報告例はほとんどない.さらに,単一臓器に二つの癌由来のリンパ節転移を同時に認めることは依然としてまれである.今回,我々は大腸癌と前立腺癌の重複例において,大腸リンパ節に大腸癌および前立腺癌由来の成分を,同時に認めた2例を経験したので報告する.
症例1:82歳,男性
主訴:腹痛,排便異常
既往歴:76歳時,喉頭癌に対し喉頭全摘後.81歳時,頬部有棘細胞癌に対し腫瘍切除術施行後.
家族歴:特記すべきことなし.
現病歴:2011年5月上旬より上記主訴を自覚するようになり,当院消化器内科受診となった.下部消化管内視鏡検査を施行した結果,上部直腸に全周性の2型腫瘍が存在し,生検にて高分化型腺癌の結果であったため,手術加療目的で当科に紹介となった.
入院時現症:身長152 cm,体重41 kg.腹部に異常所見は認めなかったが,直腸診にてAV 7 cmに全周性の腫瘍性病変を触知した.
入院時血液検査所見:CA19-9 72.8 U/ml,PSA 22.9 ng/mlと高値を示したが,他の血液生化学検査ではCEAも含め正常範囲内であった.
胸腹部造影CT所見:上部直腸に造影効果を伴う壁肥厚を認め(Fig. 1a),周囲に腫大したリンパ節を複数認めたが,画像上側方リンパ節転移は明らかでなかった.前立腺腫大を認めるも(Fig. 1b),明らかな遠隔転移および腹膜播種は認めなかった.
CT scan shows the encircling mass at the upper rectum. a: An obstructing mass in the upper rectum (arrow). b: Mass lesion in the prostate (asterisk).
下部消化管内視鏡検査所見:上部直腸に全周性の3型腫瘍を認めた.生検を施行したところ,高分化型腺癌の診断であった.
前立腺の腫大に関しては,PSA高値も含め前立腺癌が疑われたが,直腸癌の治療を先行する方針とし,術前に生検は施行しなかった.
以上の所見より,直腸癌,前立腺癌疑いの術前診断となったが,高齢によるリスクを考慮し,2011年7月に直腸癌(Ra circ 3型 cT3(SS)cN2b cM0 cStage IIIc)に対し,Hartmann手術,D2リンパ節郭清を施行した.
摘出標本所見:径40×25 mm大の全周性の3型腫瘍を認めた.
病理組織学的検査所見:潰瘍浸潤型の腫瘍を認め,中分化型管状腺癌が優位であったが,一部高分化型管状腺癌の増殖を認めた.腫瘍の境界は明瞭であり,漿膜下層に浸潤していた.郭清リンパ節は16個であったが,16個全てにリンパ節転移を認めた.そのうち#251領域に認めたリンパ節転移の1個では,CK7(−),CK20(+),PSA(−)である直腸癌の転移と考えられる組織像と,CK7(−),CK20(−),PSA(+)である前立腺癌の転移と考えられる組織像が混在していた(Fig. 2).その他の15個の転移は直腸癌由来であった.術後に,衝突転移を認めたリンパ節とその他のものについて,術前の画像を再検討したが,それらの差異は明らかではなかった.
Histology and immunohistochemical stain of the boundary region of the lymph node with collision metastases from rectal and prostate cancers. a: Lymph node invaded by two different types of cancer: rectal origin at right (◆) and prostate origin at left (★) (HE, ×10). b: Immunohistochemical stain for cytokeratin 7 was negative (×10). c: Immunohistochemical stain for cytokeratin 20 was positive at right side (arrows) (×10). d: Immunohistochemical stain for PSA was strongly positive at left side (arrowheads) (×10).
術後経過:経過は良好であったが,人工肛門の装具交換の手技獲得に時間を要し,術後28病日に退院となった.直腸癌は術後補助化学療法の適応と考えられたが,高齢のため施行しなかった.前立腺癌に対してはホルモン療法を施行した.経過観察中に原発性肺癌の診断となったが,高齢のため手術および化学療法の適応外と判断された.原発性肺癌の進行により,術後2年3か月で死亡した.
症例2:64歳,男性
主訴:排尿障害
既往歴,家族歴:特記すべきことなし.
現病歴:2016年末より上記を自覚,症状の増悪を認めたため前医受診,骨盤MRIにて前立腺癌の診断となった.当院泌尿器科を紹介受診し,精査の結果,前立腺癌,S状結腸癌,多発肝転移の診断となり当科依頼となった.
入院時現症:身長165 cm,体重71 kg.腹部に異常所見は認めなかった.
入院時血液検査所見:Hbは9.5 g/dlと貧血の像を呈し,PSAも251.6 ng/mlと異常高値を示したが,他の血液生化学検査にはCEA,CA19-9も含め正常範囲内であった.
胸腹部造影CT所見:S状結腸に腫瘤性病変が存在し,周囲のリンパ節腫大を認めた(Fig. 3a).また,前立腺は不整な腫瘤として認められ(Fig. 3b),両側閉鎖および右外腸骨リンパ節の腫大を認めた.肝臓の左右両葉に複数の乏血性腫瘍を認めたため(Fig. 3c, d),肝腫瘍の1個より超音波ガイド下生検を施行し,大腸癌由来の転移であることを確認した.肺には腫瘤性病変は認めなかった.加えて傍大動脈リンパ節腫大を右腎動脈分岐部付近から総腸骨動脈分岐部に認めた(Fig. 3d).前立腺癌が極めて局所で進行しており,骨盤内リンパ節の腫大を認めたことより,前立腺癌による転移の可能性が高いと考えられたが,S状結腸癌自体も進行しており,いずれの癌の転移とも考えることが可能であり,また画像上でも判別することは不可能であった.
CT scan shows the mass at the sigmoid colon and prostate. a: A mass in the sigmoid colon (arrow). b: Huge mass lesion in the prostate with wall thickening of the urinary bladder (*). c: Metastatic liver tumor at the left lobe (arrow). d: Metastatic liver tumor at the right lobe (arrow), and paraaortic lymph node metastasis (〇).
下部消化管内視鏡検査所見:S状結腸に2/3周性の2型の腫瘍を認めた.生検にて高~中分化型腺癌の診断であった.
前立腺の腫瘤性病変に対しては,術前に生検を施行し,低分化成分を主体とする腺癌の診断となり,Gleason score 5+5=10とhigh riskであった.
以上の所見より,S状結腸癌,多発肝転移,傍大動脈リンパ節転移,前立腺癌の術前診断となった.S状結腸癌に伴う腸管の狭窄症状も認めたため手術の方針としたが,前立腺癌は高度進行例であり,将来的に前立腺癌が直腸に浸潤する可能性が否定できなかったため,2017年7月に結腸癌(S circ 2型 cT4b(回腸)cN1 cM1(肝臓,傍大動脈リンパ節)cStage IVb)に対し,Hartmann手術,D3リンパ節郭清を施行した.術中所見にて腫瘍の回腸浸潤を認めたため,回腸部分切除術も併施した.
摘出標本所見:径81×49 mm大の1/2周性の2型腫瘍を認めた.腫瘍は回腸に浸潤していた.
病理組織学的検査所見:潰瘍限局型の腫瘍を認め,高分化型管状腺癌が優位であったが,中分化型管状腺癌の混在を認めた.腫瘍は回腸壁に直接浸潤して回腸粘膜面に露出していた.郭清リンパ節は28個であったが,転移は#241領域の3個に認めた.そのうち,2個はS状結腸癌由来の転移として矛盾しない所見であったが(Fig. 4a),残りの1個は大腸癌とは組織型が異なり(Fig. 4b),CK20(−),PSA(+)であったため(Fig. 4c, d),前立腺癌由来の転移と診断された.術後にS状結腸癌由来と前立腺癌由来の転移リンパ節について,術前の画像を再検討したが,それらの差異は明らかではなかった.
Histology and immunohistochemistry of the lymph node with metastases from colonic and prostate cancers. a: Metastatic colonic cancer in a mesenteric lymph node (HE, ×20). b: Metastatic prostate cancer in a paracolic lymph node (HE, ×20). c: Metastatic prostate cancer in a mesenteric lymph node: immunohistochemical stain for cytokeratin 20 was negative within tumor cells (×20). d: Metastatic prostate cancer in a mesenteric lymph node: immunohistochemical stain for PSA was positive within tumor cells (×20).
経過:経過は良好であり,術後8病日に退院となった.現在外来にて通院加療中であり,前立腺癌に対してはホルモン療法を施行中であり,大腸癌に対してはSOX+bevacizumabを施行中である.
2種類の重複癌が同時性に存在することは珍しくない.早期診断および治療により,ある癌の生存者が他の原発癌に罹患する可能性は増加している1).重複癌の診断には一般的にはWarrenら2)の基準が用いられている.大腸癌取扱い規約にも第7版から明記され,①大腸原発の癌腫が複数個発生したものを多発癌,②多臓器に癌腫が発生したものを重複がん,大腸多発癌と重複癌がともに発生したものを多発・重複がんと定義した3).本報告では,2症例ともに大腸癌と前立腺癌が同時性に存在する重複癌であった.
今回の報告では,症例1において大腸癌と前立腺癌の衝突転移を認めた.文献的には,衝突癌は二つの癌が同時に存在し,さらに異なる二つの起源をもつ細胞由来の腫瘍が,解剖学的および組織学的に異なる領域より発生し,かつ二つの腫瘍の境界は明瞭ではあるが近接しながら存在するものである4)5).
白血病やリンパ腫のような造血器系の腫瘍を除けば,リンパ節の衝突転移の報告例は比較的少なく,医学中央雑誌(1964年~2018年)およびPubMed(1950年~2018年)で「リンパ節」,「衝突転移」,「lymph node」,「collision metastasis」のキーワードで検索したところ(会議録を除く),本症例を含め18例であり,前立腺癌を合併したものが12例,次いで甲状腺癌が5例であり,その2種類の癌で実に17例を占めた(Table 1)5)~20).さらに,大腸癌と前立腺癌が衝突していたものは,自験例を含め5例のみであった5)7)12).前立腺癌や甲状腺癌は偶発的に発見されることが多い癌であり,転移巣が先に発見された後に原発巣であったことが明らかになる頻度が高い.前立腺癌や甲状腺癌はともに進行が遅い癌であり,さまざまな臓器に転移した後でも長期生存が可能である場合が多いため,衝突癌が発生すると考えられる.
Case | Author | Year | Age | Sex | Colliding tumors | Site of lymph nodes |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | Terada6) | 1993 | 83 | M | Prostatic cancer/Stomach cancer | Para-aortic |
2 | Ergan7) | 1995 | 67 | M | Prostatic cancer/Bladder cancer | Pelvic |
3 | Pastolero8) | 1996 | 41 | M | Papillary thyroid cancer/Medullary thyroid cancer | Cervical |
4 | Gohji9) | 1997 | 78 | M | Prostatic cancer/Bladder cancer | Pelvic |
5 | Overstreet10) | 2001 | 67 | M | Prostatic cancer/Bladder cancer | Pelvic |
6 | Wade5) | 2004 | 80 | M | Prostatic cancer/Colonic cancer | Mesenteric |
7 | Wade5) | 2004 | 61 | M | Prostatic cancer/Rectal cancer | Perirectal |
8 | Murray11) | 2004 | 68 | M | Prostatic cancer/Rectal cancer | Perirectal |
9 | Mourra12) | 2005 | 70 | M | Prostatic cancer/Rectal cancer | Perirectal |
10 | Lim13) | 2008 | 47 | M | Tongue cancer/Thyroid cancer | Cervical |
11 | Sughayer14) | 2009 | 63 | F | Breast cancer/Ovarian cancer | Axillary |
12 | Zeng15) | 2012 | 49 | F | Breast cancer/Thyroid cancer | Cervical |
13 | Bhavsar16) | 2012 | 83 | M | Prostatic cancer/Bladder cancer | Pelvic |
14 | Gao17) | 2014 | 59 | F | Breast cancer/Thyroid cancer | Axillary |
15 | Pacella18) | 2015 | 75 | M | Prostatic cancer/Bladder cancer | Perirectal |
16 | Alhanafy19) | 2016 | 73 | F | Papillary thyroid cancer/Squamous cell thyroid cancer | Cervical |
17 | Sellman20) | 2018 | 73 | M | Prostatic cancer/Bladder cancer | Pelvic |
18 | Our case | 82 | M | Prostatic cancer/Rectal cancer | Perirectal |
前立腺はリンパ管の流入が多く,一般的に閉鎖リンパ節や内外腸骨リンパ節へドレナージされるため21),同領域にリンパ節転移を示すことはまれではない.一方で腸間膜内リンパ節に前立腺癌の転移を認めることはまれであり,現在に至るまで,傍直腸リンパ節に転移を来した10例11)12)22)が報告されているのみである.
腹膜翻転部以下に存在する進行下部直腸癌において,閉鎖リンパ節や内外腸骨リンパ節といった側方リンパ節領域への転移を認めることからも,直腸間膜内と側方リンパ節領域間にリンパのドレナージ経路が存在すると考えられる.
大腸癌においては重複癌が予後不良因子とされているが23),今回の症例のように,他癌の転移を大腸間膜リンパ節に認める症例の予後について言及する報告はない.重複癌の場合は双方の組織学的悪性度や進行度,全身状態を考慮したうえで治療を選択しなければならず,しばしば治療方針の決定に難渋する.本報告の症例2では,S状結腸癌と前立腺癌の双方とも根治的切除が不可能であったが,S状結腸癌に対してはHartmann手術を施行した後に化学療法を,前立腺癌に対してはホルモン療法を施行し,双方に薬物療法を施行した,S状結腸癌に対する外科治療を先行して行うことで,腫瘍増悪に伴う出血や腸閉塞のリスクを回避し,S状結腸癌および前立腺癌に対する薬物療法を円滑に施行することが可能となったと考えられた.しかしながら,予後については明確にされておらず,適切な治療方針については今後さらなる症例の集積が必要である.
なお要旨については,第73回日本消化器外科学会総会にて報告した.
利益相反:なし