2020 年 53 巻 10 号 p. 768-775
当院では2014年4月より小児鼠径ヘルニアに対して単孔式腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術(single-incision laparoscopic-assisted percutaneous extraperitoneal closure;以下,SILPECと略記)を導入した.高位結紮術(従来法)と比較した初期治療成績を報告する.方法:SILPEC導入以前に従来法を施行した131例と,以降SILPECを施行した150例を後方視的に検討した.結果:手術時間は,片側例は女児の従来法で,両側例は男児のSILPECで有意に短かった.SILPECでは術前片側と診断していた141例中66例(46.8%)に術中対側腹膜鞘状突起開存を認め,同時に治療した.術後合併症,再発率,入院期間に差は認めなかった.結語:従来法と比較してSILPECは遜色ない成績だった.整容性がよく,術中対側病変を確認し治療できる点で有用と考える.
Since April 2014, we have introduced single-incision laparoscopic-assisted percutaneous extraperitoneal closure (SILPEC) for pediatric inguinal hernia in our hospital. Herein, we report the initial results compared with high ligation (conventional method). We retrospectively examined 131 patients who had undergone the conventional method prior to the introduction of SILPEC and 150 patients who had undergone SILPEC thereafter. The operative time for the conventional method was significantly shorter for females in unilateral cases, and the time for SILPEC was significantly shorter for males in bilateral cases. Sixty-six out of 141 SILPEC cases (46.8%) who had been preoperatively diagnosed as having unilateral hernia were found to exhibit contralateral patent processus vaginalis during the operation and were treated at the same time. There were no differences in postoperative complications, recurrence, or postoperative hospital stay. Compared with the conventional method, SILPEC is an equally safe and efficacious procedure. SILPEC can be a useful procedure because it has a better cosmetic outcome, and we can also check and treat contralateral hernia during the operation.
小児鼠径ヘルニアの治療法として,1997年にTakeharaら1)によって,腹腔鏡下経皮的腹膜外ヘルニア閉鎖法(laparoscopic-assisted percutaneous extraperitoneal closure;以下,LPECと略記)が報告された.以降多くの施設でLPECが導入され,高位結紮術(従来法)と比較して有用で安全であるとされている2)~4).さらに,2010年にUchidaら5)はLPECと治療成績は同等で,より低侵襲で整容性がよい単孔式腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術(single-incision LPEC;以下,SILPECと略記)を報告した.
当院では2014年3月以前は全例従来法を選択していたが,2014年4月よりSILPECを導入した.従来法とSILPECを比較した報告は一つしかなく6),今回当院における小児鼠径ヘルニアに対するSILPECの初期治療成績を従来法と比較して報告する.
小児鼠径ヘルニア待機的手術に対し,従来法と比較しSILPECの有用性を証明する.
2012年4月から2016年3月までに当院で待機的に小児鼠径ヘルニア根治術を施行した症例は295例だった.2012年4月から2014年3月までに従来法を施行した131例と,2014年4月から2016年3月までにSILPECを施行した150例を比較検討した.SILPEC導入後に家族の希望で従来法を選択した症例,鼠径ヘルニア手術時に臍ヘルニア,停留精巣に対する手術を追加した症例は除外した.また,当施設では小児外科専門医が全症例に執刀医または指導的前立ちとして手術に携わり,基本的に手術翌日退院の方針としている.術後外来受診は,術後1週間,術後1か月,術後半年を基本とし,以降は有事再診としている.特に年齢制限はしておらず,診断された時点で手術を推奨する方針としている.男女比,月齢,体重,手術時間,術後合併症,再発,術後在院日数について後方視的に検討した.統計学的検定には,Fisher’s exact probability test,Mann-Whitney U検定を用いて,P<0.05を有意差ありとした.
本研究は安城更生病院院内倫理委員会にて承認を得て施行した(管理番号:R19-027).
全身麻酔下に仰臥位で施行する.内鼠径輪直上を皮膚皺壁に沿って1.5 cm切開して,ヘルニア囊を同定して腹膜前脂肪織にかかる部位で二重に刺通結紮する.
2. SILPEC全身麻酔下に仰臥位で施行する.術者はヘルニア患側とは対側に立ち,助手はヘルニア患側に立つ.通常は臍を1 cm縦切開で開創するが,患児の臍形態に応じて臍辺縁に沿った円内で逆Y字切開して3枚の皮弁を作成し開創する.3 mmポートを臍創部より挿入し,3 mm 30度硬性斜視鏡で観察する.同一皮切内のポート挿入部すぐ足側より,先端付近が彎曲した3 mm鉗子を挿入する(Fig. 1a, b).先端が彎曲した鉗子を使用することで,腹腔内でのカメラとの干渉を軽減する工夫をしている.ワイヤーループで縫合糸を把持できる19 G LPEC針(ラパヘルクロージャーTM;株式会社八光,長野)に非吸収糸(2-0ポリエステル糸;TicronTM;Medtronic,東京)を装着し,ヘルニア門直上の体表より穿刺する.LPEC針を腹膜と腹膜前筋膜深葉との間で運針し,内鼠径輪を全周縫合する.この際特に男児では精巣動静脈,精管を巻き込まないよう注意する.体外に糸を引き抜き結紮することで,ヘルニア囊を完全に閉鎖する.反対側の腹膜鞘状突起開存を認めた場合は,症状の有無とは関係なく同様に閉鎖している.
a: A camera port and a pair of grasping forceps are inserted through the same umbilical incision. b: A pair of grasping forceps.
LPECではポート挿入創部が2か所であるのに対し,SILPECでは臍1か所の創部で手術を完遂することができる.術創部は臍形成して閉創するため,術後創部はほぼ目立つことはない(Fig. 2a, b).
a: Before the operation. b: After operation with SILPEC for bilateral hernia. The scar from the LPEC needle (arrowheads) will disappear.
患者背景は男女比に有意差はなく,従来法で月齢(中央値)が低く,体重(中央値)が軽かった.術前診断で従来法は片側120例,両側11例,SILPECでは片側141例,両側9例であった.SILPECでは片側と診断していた141例中66例(46.8%)に術中対側腹膜鞘状突起開存を認め,同時に手術を施行した(Table 1).従来法では全例小児外科専門医が執刀していた.一方SILPECの執刀医は初期研修医6例,後期研修医33例,一般外科医3例,小児外科専門医108例であった(Table 2).SILPECを施行した症例のうち,鼠径部切開へ移行した症例はなかった.手術時間(中央値)は,女児片側症例でSILPEC 32分,従来法19.5分とSILPECは従来法と比較して有意に長かった.男児片側症例ではSILPECと従来法の手術時間に有意差を認めなかった.一方,男児両側症例ではSILPEC 46分に対して従来法64分とSILPECの手術時間が有意に短かった.女児両側症例ではSILPECと従来法の手術時間に有意差は認めなかった(Table 3).従来法は全例専門医が執刀していたため,SILPECの専門医執刀症例108例と比較した(Table 4).女児では片側症例の手術時間は従来法で19.5分,SILPEC 30分とSILPECが有意に長かったが,両側症例では有意差は認めなかった.一方,男児では片側症例の手術時間に有意差を認めなかったが,両側症例ではSILPEC 43分,従来法64分とSILPECで有意に短かった.専門医術者と専門医以外術者で比較すると,片側症例で専門医30分,専門医以外41.5分と有意差を認め,特に女児で有意差を認めた.両側症例でも男児で専門医43分,専門医以外55分と有意差を認めた(Table 5).SILPECと従来法の両群で術後合併症と再発は認めなかった.術後在院日数(中央値)は両群とも1日で差は認めなかった(Table 6).
Open repair | SILPEC | P value | |
---|---|---|---|
Patients | 131 | 150 | |
Male:Female | 69:62 | 65:85 | 0.12 |
Age (month) | 46 (2–126) | 53.5 (1–172) | <0.05 |
Body weight (kg) | 13.9 (3.3–40.0) | 16.3 (3.5–52.2) | <0.05 |
Preoperative diagnosis Unilateral:Bilateral |
120:11 | 141:9 | 0.44 |
CPPV positive | NA | 66 |
CPPV: contralateral patent processus vaginalis, NA: not available
Data are presented as median and interquartile range.
Sixty-six out of 141 patients who were diagnosed as having unilateral hernia prior to the operation also exhibited contralateral patent processus vaginalis.
Open repair | SILPEC | |
---|---|---|
Specialist | 131 | 108 |
Junior resident | 0 | 6 |
Senior resident | 0 | 33 |
General surgeon | 0 | 3 |
131 | 150 |
All Open repair cases were performed by board certified pediatric surgery specialists. One hundred and eight SILPEC cases were performed by specialists, 6 cases by initial residents, 33 cases by senior residents, and 3 cases by general surgeons.
Open repair | SILPEC | P value | |||
---|---|---|---|---|---|
Case | n | Operative time | n | Operative time | |
Unilateral | |||||
Total | 120 | 24 (14–73) | 75 | 32 (16–87) | <0.05 |
Male | 62 | 28 (16–73) | 37 | 33 (19–69) | 0.17 |
Female | 58 | 19.5 (14–32) | 38 | 32 (16–87) | <0.05 |
Bilateral | |||||
Total | 11 | 45 (32–158) | 75 | 44 (27–72) | 0.27 |
Male | 7 | 64 (43–158) | 29 | 46 (31–72) | <0.05 |
Female | 4 | 35.5 (32–45) | 46 | 44 (27–64) | 0.14 |
Data are presented as median and interquartile range.
Open repair | SILPEC | P value | |||
---|---|---|---|---|---|
Case | n | Operative time | n | Operative time | |
Unilateral | |||||
Total | 120 | 24 (14–73) | 59 | 30 (16–87) | <0.05 |
Male | 62 | 28 (16–73) | 31 | 32 (19–69) | 0.57 |
Female | 58 | 19.5 (14–32) | 28 | 30 (16–87) | <0.05 |
Bilateral | |||||
Total | 11 | 45 (32–158) | 49 | 43 (27–62) | 0.17 |
Male | 7 | 64 (43–158) | 20 | 43 (31–60) | <0.05 |
Female | 4 | 35.5 (32–45) | 29 | 43 (27–62) | 0.18 |
Data are presented as median and interquartile range.
Specialist | Others | P value | |||
---|---|---|---|---|---|
Case | n | Operative time | n | Operative time | |
Unilateral | |||||
Total | 59 | 30 (16–87) | 16 | 41.5 (28–59) | <0.05 |
Male | 31 | 32 (19–69) | 6 | 43 (28–50) | 0.07 |
Female | 28 | 30 (16–87) | 10 | 37 (28–59) | <0.05 |
Bilateral | |||||
Total | 49 | 43 (27–62) | 26 | 47 (32–72) | 0.09 |
Male | 20 | 43 (31–60) | 9 | 55 (41–72) | <0.05 |
Female | 29 | 43 (27–62) | 17 | 45 (32–64) | 0.66 |
Data are presented as median and interquartile range.
Open repair | SILPEC | P value | |
---|---|---|---|
Postoperative complications | 0 | 0 | NS |
Recurrence | 0 | 0 | NS |
Postoperative hospital stay (days) | 1 | 1 (1–2) | 0.35 |
NS: not significant
Data are presented as median and interquartile range.
Postoperative complications, recurrence, and length of postoperative hospital stay were not significantly different.
小児鼠径ヘルニアに対する治療法として,LPECは確立された術式となっている2)~4).腹腔鏡下アプローチでは,精巣動静脈や精管の剥離を最小限に留めることで損傷の危険性を減らすことができ,腹腔内から精巣動静脈,精管,卵管の巻き込みがないことを確認できるため,従来法よりも安全な術式であるとされている.LPECではカメラポートと鉗子挿入部創部が2か所となるのに対して,今回我々が導入したSILPECは臍創部の1か所のみとなり,術後の整容性がより優れている.従来法とSILPECを比較した報告はAmanoら6)による小児病院での経験をまとめた1報告のみである.従来法995名とSILPEC 1,033名を比較検討し,手術成績は同等であるが整容性と対側発症を予防できる点ではSILPECの方が有用であると報告している.今回,我々は一般市中病院におけるSILPECの初期導入成績を従来法と比較し検討した.
我々の検討では,片側症例の女児でSILPECは従来法より手術時間が有意に長かったが,男児では有意差は認めなかった.一方両側症例では,男児のSILPECの手術時間が有意に短くなり,女児では有意差を認めなくなっていた(Table 3).SILPECは,ポート挿入,気腹準備,SILPEC鉗子の挿入,対側腹膜鞘状突起の開存の確認,さらに女児では卵巣と子宮の確認で時間を要するため,片側症例では手術時間が従来法より長くなったと考える.一方,両側症例では従来法では新たに鼠径部切開を追加するが,SILPECでは同一視野で手術が可能なため手術時間が短くなったと考えられた.また,従来法では片側症例と両側症例ともに男児で女児よりも手術時間が長い傾向であった.一方,SILPECでは片側症例で男児33分,女児32分,両側症例で男児46分,女児44分とほぼ同等の手術時間であった(Table 3).男児において,従来法では精管と精巣動静脈を同定して,ヘルニア囊から剥離するのに時間を要する.対して,腹腔鏡では精管と精巣動静脈の同定が容易であり,LPEC針で剥離する範囲も少ないため女児とほぼ同時間で施行しえたと考える.ただし,LPEC針で剥離する手技に慣れていない専門医以外術者では女児よりも男児で手術時間が長くなる傾向であった(Table 5).Amanoら6)による小児外科に専従する医師のみで施行された小児病院での手術成績と比較しても,成人外科にも従事する医師を含む一般市中病院である当院の手術成績は同等であった.当院では従来法は全例小児外科専門医が執刀していたが,SILPEC導入以降は,後期研修医をはじめとする若手外科医が専門医の指導の元,術者となっていた.小児外科専門医ではない医師が150例中42例(28%)でSILPECを施行しており,途中交代することなく手術を完遂することが可能であった.専門医術者と専門医以外術者で比較すると,全症例を通じて専門医術者の手術時間が短かったが(Table 5),両群で術後合併症,再発は認めていない.よって本術式は小児専門病院だけでしかできない術式ではなく,教育体制が整えば当院のような一般市中病院でも十分導入できると考えられる.今後さらなる手術手技の定例化と,若手術者が修練を積み,腹腔鏡下手術手技をより向上させることによって,手術時間短縮は十分期待できる要素であると思われる.
我々の検討ではSILPEC施行時に,術前に診断されていなかった対側腹膜鞘状突起開存を141例中66例(46.8%)に認め,全例同時に修復しえた.術前片側鼠径ヘルニアの診断例で,術中に対側腹膜鞘状突起開存が指摘されるのは36~63.5%と報告されており2)7)8),当院での頻度も同等であった.腹腔鏡を用いることで対側不顕性ヘルニアの術中診断を可能とし,一度の全身麻酔手術で同時に修復できるという点で,患者に対する手術負担を軽減できるメリットは大きい.しかしながら,従来法術後の対側発生頻度に関して星野ら9)は8.8%と報告しており,術中に指摘された対側腹膜鞘状突起開存の頻度とこれらの値に解離を認めた.よって対側開存症例が全て鼠径ヘルニアを発症するわけではなく,対側開存症例に対して同時手術を施行することはover-invasive surgeryと指摘される可能性がある.しかしながら,どの程度開存していると鼠径ヘルニアを発症するのか明確な基準がない現状では,当院では腹膜鞘状突起開存が確認されれば無症状でも手術をする方針としているが,今後どのような症例に無症候性腹膜鞘状突起開存に対して手術すべきか,検討の余地があると考えられる.
今回我々の研究では,SILPECは従来法と比較して治療成績は遜色なかった.片側症例ではSILPECは従来法よりも手術時間が長くなる傾向があったが,両群間の差は8分であり,さほど大きな差ではないと考える.創部について検討すると,従来法は1.5 cmの創部で施行可能である.Amanoら6)は,従来法490名とSILPEC 605名に対して創部に関するアンケート調査を行い,整容性は従来法よりもSILPECが良好という結果だったが,最終的な創部の満足度は両者で同様であったと報告している.一方,大沢ら10)は従来法417例に対してアンケート調査を行い,術後3年で1名,術後5年で3名に創部が少し目立つという回答を得ている.417名中4名と全体としては低頻度だが,術後3年目より術後5年目に多かった.成人と異なり小児の手術創は体の成長にあわせて大きくなるため,術後年数が経過してから目立つようになった可能性がある.Sanchezら11)による小児創傷治癒に関する報告では,成長とともに創部の瘢痕が出現する可能性があるため,成人になるまで注意深いフォローが必要と述べている.小児鼠径ヘルニアの創部を成人まで経過観察した報告は現時点ではないが,将来的に創部が大きくなる可能性があることを考慮すれば,小児手術の創部は極力小さくするべきである.SILPECの創部は臍の皺に隠れるため,創部が大きくなり目立つ可能性は従来法よりも少ない.よって整容性,対側発症の予防を考慮すると,従来法よりもSILPECは有用であると考える.
本検討は,症例集積を当施設のみで施行し,症例数は全例で281例と既報より少ない.また,全症例が後ろ向きの検討である.術後のフォローとして長期の追跡調査を行うことに限界があり,年単位でのフォローができておらず,創部の整容性や再発に関して十分なデータがない.当院でSILPECを導入してからの期間はいまだ短く,長期的に有効であると示すには今後さらなる症例の蓄積が必要である.
利益相反:なし