2020年に入り,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威をふるっており,私が原稿を作成している時点(2020/2/13)で中国国内の死者数がついに1300人を超えてしまいました.今後の動向が非常に気になるところではありますが,New England Journal of Medicineにアメリカ初の発症例(武漢への旅行から帰国した35歳男性)や,中国渡航歴のない33歳ドイツ人男性が,ドイツを訪問していた上海在住のビジネスパートナー(index patient;ドイツ滞在時は無症状だが,中国帰国後に新型コロナウイルス感染が判明)から感染し,その後3人の会社の同僚(index patientと接触のない2人を含む)も感染が判明したことなど,詳細な症例報告がなされています.臨床医学における症例報告の重要性を示していると思います.
近年はEBM(Evidence-Based Medicine)の重要性が強調され,ともすればRCTによるエビデンスのない治療を軽視する風潮が特に欧米では強いように感じます.しかし,日常の外科臨床の中で,レベルの高いエビデンスはなくとも,外科医の経験や工夫に基づいて治療することにより,よい結果が得られることがあることは紛れもない事実です.しかし,よい結果が得られなかった場合も含め,珍しい症例の経験や治療の工夫を症例報告として論文化することは,査読者とのやり取りを通じ自分たちが行った治療の科学的評価を受け,個人的経験を“サイエンス”に昇華する作業として,極めて重要なステップだと感じます.ぜひ若手の先生方は,“これは日常臨床に役だつ”と思われる症例を論文化し積極的に投稿していただきたいと思います.
さて,第53巻2号には原著1編,症例報告6編,74回日本消化器外科学会総会特別企画「オペレコを極める」の原稿4編が掲載されています.いずれも珍しい症例報告や治療経過,あるいは日常臨床における創意工夫など,示唆に富む興味深い報告ばかりです.その中から今月の一押し論文として,「磁石圧迫吻合部狭窄解除術(第2 山内法)により治療しえた腹腔鏡下低位前方切除術後直腸閉塞の1例」を選ばせていただきました.バルーン拡張では困難な吻合部狭窄に対し再手術を回避することが可能な方法で,恥ずかしながら大腸外科医にもかかわらずこの方法を知りませんでした.ぜひご一読ください.
(秋吉 高志)
2020年2月13日