2020 年 53 巻 7 号 p. 612-616
手術記録(オペレコ)は外科診療における重要なものである.我々はイラストによる所見記載,手術全体の所見の文書化,さらに摘出標本の写真およびスケッチをオペレコとしている.
手術記録は,疾患の状況,どういう手術をどのように行ったのか,どれくらいの時間を要し,出血量はどのくらいであったのか,偶発症などはなかったのかなど詳細に記載する外科診療の中でも重要なものといえる.我々が行っている食道癌手術記録について記載する.
手術記録は術者が食道切除,消化管再建,ドレーン挿入を終えたあと,閉創手技は若手医に委ね,術後管理を行う集中治療部記録室で記載を行う.手術の手順通りにイラストを描く.まず鉛筆で下書きを行い万年筆で上書きをする.色鉛筆で色を付けたあと,所見を手書きで加える.その後,手術全行程を文書化し,さらに食道グループで作成しているフォーマットへのチェック式記録を行う.それらが終了する頃には,研究室医師が摘出標本の生写真,ルゴール染色後の写真,郭清リンパ節の所見を記載し記録室に持参する.摘出標本写真をスケッチし,リンパ節転移の有無をフォーマットのチェック式記録に記載を行いオペレコが完成する.フォーマット形式への所見記載用紙,全所見記載用紙,イラスト,標本写真用紙を一式にオペレコとし,それらをカラー印刷し,電子カルテ用,教室保存用,紹介医への報告用,個人用を作成する.全てが終了するまでに約2時間を要する.
症例:65歳,男性
術前診断:食道癌(LtAe,7 cm,2型,cT3N2M0 Stage III).全身麻酔および硬膜外麻酔,左側臥位にて右第4肋間で開胸した.腫瘍は心囊浸潤が疑われたため切除可能か判断するために中下縦隔の操作から行った.右下肺靭帯を超音波凝固切開装置で切離したあと,奇静脈弓下縁より食道背側の胸膜切開を行い,横隔膜面まで連続させ,食道を授動した.横隔膜脚を露出したあと,食道腹側の剥離を行い,腫瘍頭側で食道の全周性剥離のあとテーピングを行った.腫瘍と心囊間の剥離も可能であり切除可能と判断した.No. 108リンパ節,No. 110リンパ節,No. 111リンパ節の郭清を行った(Fig. 1).次に,上縦隔の操作に移った.右迷走神経直上で胸膜切開を行い,右鎖骨下動脈下縁で右反回神経を確認し,No. 106recRリンパ節および可能なかぎりNo. 101Rリンパ節の郭清を行った.食道背側の剥離を行い,胸管および右気管支動脈を確認温存したあとにNo. 105リンパ節を郭清した(Fig. 2).食道仮切断を行ったあと,左反回神経を確認し,No. 106recLリンパ節,No. 106tbLリンパの郭清を行った.さらに,No. 107リンパ節,No. 109Rリンパ節,No. 109Lリンパ節の郭清を行い,洗浄のあとドレーンを挿入し,胸部操作終了した(Fig. 3).体位を開脚仰臥位としHALSでの腹部操作を開始した.脈管処理をHALSで行い,No. 1,No. 2,No. 3,No. 7,No. 8a,No. 9,No. 11pのリンパ節郭清を行った.胃管は亜全胃管とし,胃切離は胃穹窿部を挙上して最高位を決定したあと,左胃動脈最終枝の胃壁流入部と最終前枝流入部の間から最高位の食道側に向けて自動縫合器で行った(Fig. 4).両側頸部郭清のあと,胸壁前経路に胃管を挙上し,25mm Circular Staplerを用いて頸部吻合を行った.胃瘻カテーテルおよび胃管減圧チューブを挿入した.左右鎖骨上窩および前胸部皮下にドレーンを挿入したあと閉創し手術を終了した(Fig. 5).
Schema shows middle and lower mediastinum. A huge tumor was located in lower esophagus.
Schema shows findings of upper mediastinum.
Schema shows findings of upper mediastinum. Esophagus already has been resected at esophagogastric junction.
Schema shows status of tumor and lymph node metastasis and how to create a gastric tube.
Schema shows status after surgery; how to perform anastomosis, how to pull up a gastric tube, and where to place drainage tubes.
手術記録におけるイラストは手術を再確認し,術者以外の者が内容を把握するのに大変重要である.師事した久留米大学名誉教授藤田博正先生は,手術終了後直ちに手術記録を記載されていた.当時は3枚セットの複写式用紙がグループの手術記録用紙であり,それにフリーハンドで見事に記載されていた1).藤田先生が執刀された症例の手術記録を見ると,イラストと所見から手術が手に取るように理解できる.小生自身で執刀したあとも少しでもそのような記録に近づきたいと思い記録を続けている.
謝辞 稿を終えるにあたり,第74回日本消化器外科学会総会特別企画「オペレコを極める」で司会者賞として選出して頂きました兵庫医科大学 上部消化管外科教授 篠原 尚先生,会長の矢永勝彦先生に改めて御礼申し上げます.
利益相反:なし