日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
Meckel憩室を合併しない卵黄血管遺残による絞扼性イレウスの1例
神野 孝徳森岡 淳小林 聡駒屋 憲一高木 健裕堀 明洋
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2021 年 54 巻 1 号 p. 50-56

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Abstract

症例は80歳の女性で,腹痛,嘔吐を主訴に当院を受診した.右下腹部に圧痛と筋性防御を認めた.腹部CTでは右下腹部の小腸に造影不良域とその周囲に腹水を認めた.小腸絞扼性イレウスと診断し,同日緊急手術を施行した.索状物が臍後壁から腹腔内に連続し,小腸が絞扼されていた.索状物を切離すると絞扼は解除され,索状物は回盲弁より口側約20 cmの小腸間膜の前面に連続していた.Meckel憩室は認めなかった.病理組織学的検査では索状物に血管構造を認め,卵黄血管遺残と診断した.Meckel憩室を合併しない卵黄血管遺残はイレウスを契機に発見されることが多く,画像診断および術前診断は困難である.診断できた場合や偶然に手術で発見された場合には予防的に卵黄血管遺残の切離が望ましいと思われる.

Translated Abstract

A 80-year-old woman visited our hospital with a complaint of abdominal pain and vomiting. Her abdomen showed muscular guarding with tenderness in the right lower quadrant. Abdominal CT showed an area of poor contrast of the small intestine in the right lower abdomen with surrounding ascites. We diagnosed strangulation ileus in the small intestine and performed emergency surgery. In surgery, the cord was found to be continuous from the posterior wall at the umbilicus into the abdominal cavity, and the small intestine was strangulated. The strangulation was released when the cord was resected. The cord was continuous to the anterior of the ileal mesentery about 20 cm proximal from the ileocecal valve. No Meckel’s diverticulum was found. Histopathological examination revealed that the cord contained an artery and vein, and was diagnosed as vitelline vascular remnants. Vitelline vascular remnants without Meckel’s diverticulum are often found in the presence of ileus, making diagnostic imaging and preoperative diagnosis difficult. Prophylactic resection of vitelline vascular remnants may be desirable if a diagnosis can be made or if they are discovered by chance during surgery.

はじめに

卵黄血管遺残は胎生期の卵黄動静脈の遺残であり,Meckel憩室を合併することが多く,比較的まれな疾患である1).今回,我々はMeckel憩室を合併しない卵黄血管遺残による絞扼性イレウスの1例を経験した.まれな症例と考えられたため文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:80歳,女性

主訴:右下腹部痛

既往歴:高血圧

現病歴:これまでにイレウスを疑うエピソードは認めなかった.突然右下腹部に急激な痛みを認め,改善しなかったため3時間後に当院に救急搬送された.

現症:身長151 cm,体重49 kg.血圧179/116 mmHg,脈拍65回/分,体温35.7°C.苦悶様表情で,右下腹部に強い圧痛と筋性防御を認めた.血液検査所見:白血球数は9,110/ulと軽度増加していたが,他に異常を認めなかった.

腹部CT所見:右下腹部の小腸に造影不良域とその周囲に腹水を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal CT showed ischemia of the small intestine and ascites (arrowheads) in the right lower abdomen.

以上より,小腸絞扼性イレウスと診断し,緊急手術を施行した.

手術所見:下腹部正中切開で開腹すると血性腹水を認め,右下腹部に小腸の絞扼を認めた.臍後壁から索状物が腹腔内に連続し,小腸が絞扼されていた.索状物を切離すると絞扼は解除され,索状物は回盲弁より口側約20 cmの小腸間膜の前面に連続していた.Meckel憩室は認めなかった.絞扼腸管は色調が不良であったため切除した(Fig. 2a, b).手術時間は1時間49分,出血は少量であった.

Fig. 2 

Operative findings. (a) The band continued to the umbilical posterior wall. (b) The band continued to the anterior of the ileal mesentery 20 cm proximal from the ileum end (arrowheads).

摘出標本肉眼所見:索状物は腸間膜と連続していた(Fig. 3).

Fig. 3 

Macroscopic findings of the band (arrowheads).

病理組織学的検査所見:索状物内に動脈と静脈を認めた(Fig. 4).

Fig. 4 

Histological findings. The band was found to contain an artery and vein.

以上の所見から,卵黄血管遺残による絞扼性イレウスと診断した.

術後経過:経過良好にて第22病日に退院となった.

考察

胎生第3週の中期に卵黄腸管は卵黄囊から原始腸管へ連続する管腔構造として発達し,卵黄血管(卵黄動脈,卵黄静脈)を伴う.卵黄動脈は腹部大動脈より左右に分枝し,原始腸管,卵黄腸管および卵黄囊を栄養し2),左卵黄動脈は回腸腸間膜後葉側,右卵黄動脈は回腸腸間膜前葉側を経由し卵黄腸管に沿って走行する3).胎生8週には卵黄腸管,卵黄囊の消失に伴い,左卵黄動脈は消失し,右卵黄動脈は上腸間膜動脈となる4).消失の過程が障害されると,卵黄腸管遺残や卵黄血管遺残などさまざまな遺残症が発生する1)4)

卵黄腸管遺残の発生頻度は全人口の1.5~2%とされ5),Meckel憩室の頻度が高い1).卵黄血管遺残はMeckel憩室に合併することが多く3),Rutherfordら4)は148例の小児Meckel憩室の12例に卵黄血管遺残を認めたと報告し,橋本ら6)は全出生に対する卵黄血管遺残の頻度は0.1~0.4%程度と推察している.自験例のようなMeckel憩室を合併しない卵黄血管遺残は,剖検例の検討では卵黄血管遺残全例の1~3%と報告されているが7)8),Smithyら9)は卵黄血管遺残12手術症例のうち6例に,山本ら10)は卵黄血管遺残による絞扼性イレウス43例のうち5例にMeckel憩室を認めなかったと報告しており,頻度はさまざまである.

左右の卵黄動脈の遺残は,回腸の腸間膜とMeckel憩室または臍後壁との間の索状物として認められる.Rutherfordら4)によると右卵黄血管遺残は上腸間膜動脈より分岐しMeckel憩室あるいは臍後壁に達し,左卵黄血管遺残は腹部大動脈から分岐しMeckel憩室あるいは臍後壁に達するとしている.また,索状物の走行が腸間膜の前面であれば右卵黄動脈の遺残,後面であれば左卵黄動脈の遺残であると考えられている6)11)12).自験例において索状物は回腸の腸間膜の前面より起始し臍後壁に達しており,右卵黄動脈の遺残と考えられた.

卵黄血管遺残の多くはイレウスを契機に発見されるが13),一般に術前診断は困難である.自験例において術中に認めた索状物はCTで確認できず,術前に卵黄血管遺残によるイレウスを疑うことはできなかった.本疾患に対する見識があっても,画像診断することは非常に困難であると考えられる.

卵黄血管遺残の確定診断は,卵黄血管の走行として矛盾しない解剖学的位置に索状物を認めることを前提とし,病理組織学的検査で索状物内に動脈を確認できることによりなされる14)15).しかし,過去の索状物による絞扼性イレウスの手術症例の中には卵黄血管遺残が原因であったが,解剖学的検索を行っていない,病理組織学的検索を行っていないために卵黄血管遺残と診断されなかった症例もあると思われる.Meckel憩室を合併しない卵黄血管遺残はまれではあるが,同様の症例に対して今後,索状物の走行の解剖学的検索ならびに病理組織学的検索を施行することが,本疾患の症例の集積,検討には必要であると思われた.

Meckel憩室を合併しない卵黄血管遺残の本邦報告例は,我々の検索しえたかぎり自験例を含めて13例あり,それらについて検討した(医学中央雑誌,1964~2019年6月,検索ワード:「卵黄血管遺残」または「mesodiverticular band」,会議録を除く)(Table 13)6)10)11)16)~23).全て手術症例で,年齢は3か月~80歳(中央値26歳)で,自験例が最高齢であった.男女比は11:2で,男性に多くみられた.術前診断はイレウスが多かったが,卵黄血管遺残が原因と診断できた症例はなかった.手術方法は開腹が多かったが,近年腹腔鏡による手術も散見されるようになった.卵黄血管遺残による合併症はイレウスが多かったが,卵黄血管遺残から出血を認めた症例もみられた23).卵黄血管の遺残形式では右が左より多くみられたが,両側の卵黄血管遺残の症例もみられた19)

Table 1  Reported cases of vitelline vascular remnants without Meckel’s diverticulum in Japan
No. Author Year Age/Sex Preoperative diagnosis Procedure Location Operation Postoperative diagnosis Which VVR Cause of ileus Where VVR
1 Kitamura16) 1983 3 months/M volvulus open 40 ileocecal resection ileus N.D. internal hernia ileum wall
2 Hashimoto6) 1988 5/M ileus open N.D. band resection ileus Lt internal hernia posterior wall at the umbilicus
3 Uchida11) 1993 4/M ileus open N.D. band resection ileus Rt N.D. posterior wall at the umbilicus
4 China17) 1994 19 months/F ileus open 10 band resection ileus N.D. direct compression ileum wall
5 Yamato18) 1997 11/M ileus open 40 band resection ileus N.D. N.D. posterior wall at the umbilicus
6 Kimura19) 2000 64/M ileus open 50 band resection ileus Rt Lt N.D. ileum wall
7 Yamamoto10) 2014 26/M ileus open 50 band resection ileus N.D. internal hernia posterior wall at the umbilicus
8 Kobayashi20) 2014 37/M ileus laparoscopic 40 band resection ileus Rt N.D. posterior wall at the umbilicus
9 Fukuoka21) 2016 71/M ileus laparoscopic N.D. band resection ileus Rt internal hernia posterior wall at the umbilicus
10 Numata22) 2017 77/M ileus laparoscopic 50 band resection ileus Rt internal hernia ileum wall
11 Takaki23) 2018 67/M hematoma open 10 band resection bleeding Lt posterior wall at the umbilicus
12 Aiyoshi3) 2018 14/M ileus open 10 band resection ileus Rt internal hernia posterior wall at the umbilicus
13 Our case 80/F ileus open 20 partial ieum resection ileus Rt internal hernia posterior wall at the umbilicus

Location: distance from the ileocecal valve (cm), N.D.: not described in the literature, VVR: vitelline vascular remnants

卵黄血管遺残によるイレウスの病態としては,卵黄血管遺残により腸管が直接圧迫されるものと,卵黄血管遺残が形成するヘルニア門に腸管が陥入する内ヘルニアがある24).我々の検討ではメッケル憩室を合併しない卵黄血管遺残は腸間膜と臍後壁または腸間膜と腸間膜対側の腸管壁に連続する索状物として認められた.イレウスの病態は内ヘルニアが直接圧迫より多くみられたが,卵黄血管遺残が腸間膜と臍後壁に連続する場合は記載があるものは全て内ヘルニアで3)6)10)21)Fig. 5),腸間膜と腸間膜対側の腸管壁に連続する場合は内ヘルニアと直接圧迫の両方を認めた16)17)22)Fig. 6a, b).橋本ら25)のMeckel憩室を合併する卵黄血管遺残によるイレウス71例の報告によると,内ヘルニアが66例(93.0%)で,直接圧迫は5例(7.0%)であった.自験例のように卵黄血管遺残が腸間膜と臍後壁に連続する場合は卵黄血管遺残と腹壁がつくる空間に腸管が入り込むことにより内ヘルニアを起こしやすく,卵黄血管遺残が腸間膜と腸間膜対側の腸管壁に連続する場合はメッケル憩室を合併する場合と似たような病態と考えることができ,索状物がより腸管に近接するため直接圧迫を起こしやすくなると思われる.今後さらなる症例の集積,検討が必要と考える.

Fig. 5 

The vitelline vascular remnants (VVR) were found between the mesentery and the umbilical posterior wall. A schema of the internal hernia is shown.

Fig. 6 

The vitelline vascular remnants (VVR) were found between the mesentery and the ileum wall opposite the mesentery. (a) Schema of the internal hernia. (b) The ileum was compressed by the VVR.

Günerら26)によると卵黄血管遺残を含む卵黄腸管遺残による症状の多くは4歳までに発症するとされている.しかし,我々の検討では卵黄血管遺残による合併症は乳幼児から高齢者まで,どの年代でも発症しえると考えられた.Meckel憩室を合併しない卵黄血管遺残の治療は,イレウスを契機に発見されることが多いため,索状物の切離とイレウスの解除が治療となることが多い.しかし,長年腹痛を繰り返す原因が卵黄血管遺残によるイレウスであった報告20)もあり,画像診断できた場合や偶然に手術で発見された場合には,予防的に卵黄血管遺残の切離が望ましいと思われる.

利益相反:なし

文献
 

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