日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
Osler-Weber-Rendu病を併存したS状結腸癌に対して腹腔鏡下S状結腸切除術を施行した1例
秋山 浩輝大原 佑介大和田 洋平杉 朋幸山中 俊久倉 勝治明石 義正小川 光一榎本 剛史小田 竜也
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2021 年 54 巻 12 号 p. 876-883

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Abstract

Osler-Weber-Rendu病(遺伝性出血性毛細血管拡張症,hereditary hemorrhagic telangiectasia;以下,Osler病と略記)は多臓器にわたる異常な毛細血管の拡張を来すまれな疾患で,出血やシャントによる臓器障害の危険性があり手術の際には十分な注意が必要である.症例は65歳の女性で,Osler病による消化管出血に対し,外科的治療,内視鏡的治療,輸血などが繰り返し行われていた.貧血の精査のための下部消化管内視鏡検査で,S状結腸癌と診断された.S状結腸癌に対して腹腔鏡下S状結腸切除術を行った.Osler病による腸間膜血管の拡張を認めたが,術前の血行動態の精査,術中の細かな止血操作を徹底し,合併症なく手術を遂行することができた.Osler病を有する大腸癌患者に対する腹腔鏡手術においては,手術ならびに周術期管理に注意が必要であった.

Translated Abstract

Osler-Weber-Rendu disease (Osler’s disease or hereditary hemorrhagic telangiectasia) is a rare disease that causes abnormal capillary dilatation in multiple organs. This disease can cause organ disorders due to hemorrhage and shunts; therefore, it requires careful attention during surgery. Here, we report the case of a 65-year-old female with gastrointestinal bleeding due to Osler’s disease who had a history of treatment of surgery, endoscopy, and blood transfusion. The patient underwent colonoscopy for anemia, which revealed sigmoid colon cancer, for which laparoscopic sigmoidectomy was performed. Abnormal dilatation of the mesenteric vessels was present, but precise preoperative hemodynamic evaluation and careful intraoperative maneuver of hemostasis provided a safe surgery without complications.

はじめに

Osler-Weber-Rendu病(遺伝性出血性毛細血管拡張症,hereditary hemorrhagic telangiectasia;以下,Osler病と略記)は,皮膚や多臓器にわたる毛細血管の拡張を主徴とする疾患であり1)2),特に肝臓,肺,脳の動静脈奇形やシャントは重大な臓器障害を引き起こすことがある.今回,我々はOsler病を有するS状結腸癌に対して腹腔鏡下手術で治療を行った症例を経験したので報告する.

症例

患者:65歳,女性

既往歴:47歳時に小腸・胆道出血に対し,小腸部分切除,十二指腸乳頭粘膜切除,乳頭形成術施行し,これを契機にOsler病と診断された.59歳時に消化管潰瘍・毛細血管拡張に対し,輸血,クリッピングが施行された.62歳時に消化管・胆道出血に対し,肝内動静脈瘻閉鎖術施行,および肺高血圧症に対し在宅酸素療法を導入された.65歳時に小腸出血に対して保存的加療が施行された.過去の精査で脳血管系の異常は指摘されていなかった.

現病歴:2019年に貧血の精査で下部消化管内視鏡検査を施行したところ,S状結腸に2型病変が認められ,生検の結果,大腸癌と診断された.手術目的に当科紹介となった.

初診時現症:身長159 cm,体重43.3 kg,血圧85/36 mmHg,心拍数76回/分,体温36.6°C,酸素飽和度98%(酸素3 l/分).自覚症状はなく,貧血黄疸を認めず,腹部は平坦,軟で圧痛や腫瘤は認めなかった.

血液検査所見:Hb 10.4 g/dl,CA19-9 16.9 U/ml,CEA 5.3 ng/ml

下部消化管内視鏡検査所見:S状結腸(肛門縁より25 cm)に半周性の2型病変を認め(Fig. 1),生検で中分化管状腺癌と診断された.

Fig. 1 

Colonoscopy findings. A semicircular type 2 tumor was observed in the sigmoid colon.

胸腹部造影CT所見:S状結腸に造影効果を伴う腸管壁の肥厚を認め,原発巣と判断した(Fig. 2a).リンパ節転移,遠隔転移を認めず,cT3N0M0,cStage IIa(大腸癌取扱い規約第9版)3)と判断した.肝内には著明なシャントが多発しており,肝内胆管の拡張を認めた(Fig. 2b).脾静脈をはじめ主要な静脈は拡張し,S状結腸間膜内には拡張血管が多数認められた.骨盤壁左側に2 cm大の大網の静脈瘤を認めた(Fig. 2c).著明な心拡大,肺動脈の顕著な拡大が認められ,両肺にはうっ血に伴う所見と思われるスリガラス影が多発していた(Fig. 2d).

Fig. 2 

Contrast-enhanced CT of the chest to the pelvis. (a) A thickened wall with contrast enhancement was observed in the sigmoid colon (arrows). (b) Multiple hepatic arteriovenous shunts and a dilated intrahepatic bile duct were present. (c) Dilated vessels were observed in the greater omentum (arrows). (d) Multiple ground-glass appearances due to congestion were seen in the bilateral lungs.

肺機能検査所見:予測肺活量66.7%,1秒率75.0%と拘束性換気障害を認めた.

心臓超音波検査所見:三尖弁逆流ピーク速度3.1 m/秒,右室右房圧較差38.8 mmHg,推定肺動脈収縮期圧48.8 mmHgと肺高血圧症の所見を認めた.

術前評価のまとめ:手術適応のS状結腸癌と診断した.肝内,肺内にシャント形成が著しく低心肺機能であったが,循環器専門医,麻酔医などにコンサルテーションを行い,大腸切除ならびに腹腔鏡手術は可能と判断し,腹腔鏡下S状結腸切除術を計画した.

手術所見:体位は砕石位,頭低位,右側低位とした.肝表は凹凸を呈し,大網には2 cm大の血管瘤を認めた(Fig. 3).結腸間膜内には毛細血管が拡張していたが,血管のシーリング効果の高いLigaSureTM(Medtronic社)を用いて丹念に止血を行いながら手術を進めた(Fig. 4).粗大な血管瘤は切除することなく切離ラインを設定し間膜を切離した.当科ではS状結腸切除の際は器械吻合(double stapling technique)を標準としていたが,本症例では吻合時の適切な止血を考え器械吻合ではなく手縫い吻合を計画した.郭清はD3とし,下腸間膜根リンパ節を郭清し,左結腸動脈と下腸間膜動脈は温存し,第1と第2 S状結腸動脈はクリッピングし切離した.ICG蛍光法で血流を確認した後に,腫瘍より10 cmのマージンをとり腸管を切除し検体を摘出した.吻合は手縫い,端端,層層吻合で施行した.手術時間は3時間26分,出血量は少量であった.麻酔は全身麻酔と腹直筋鞘ブロックを併用した.術中は血圧や酸素飽和度のモニタリングを行い,さらに血液ガス分析を複数回行うことで術中の操作や体位による変動に注意したが,循環呼吸状態は安定していた.

Fig. 3 

Intraoperative findings. A 2-cm aneurysm of the vein was observed in the greater omentum.

Fig. 4 

Intraoperative findings in laparoscopy. Dilated veins were observed in the mesocolon (arrows).

摘出標本所見:腫瘍は2型であった(Fig. 5).

Fig. 5 

Macroscopic features of the resected specimen. A 30×20 mm type 2 tumor was found in the sigmoid colon.

病理組織学的検査所見:S,2型,32×18 mm,tub2>tub1,pT3,INFb,Ly1a,V1a,Pn1a,pPM0,pDM0,pRM0,pN1b(2/8),pStage IIIb(大腸癌取扱い規約第9版)3)

術後臨床経過:術後の経過は問題なく術後10日目に退院となった.リンパ節転移を伴う大腸癌であり術後補助化学療法の適応であったが,重度の心肺機能の低下があるため施行はしなかった.現在術後12か月を経過し再発を認めていない.

考察

Osler病は,1864年にSutton4)によって初めて報告され,Rendu5),Osler6),Weber7)らによって疾患として確立された,全身に血管奇形を生じる疾患である.日本人での発症頻度は10万人に1~2人程度とまれであり8),①皮膚・粘膜・内臓の多発性末梢血管拡張症,②拡張血管からの反復する出血,③遺伝的発生(常染色体優性遺伝)を3徴とする9)

毛細血管の拡張病変は鼻粘膜に最も多く,口唇,口腔粘膜,顔面,指尖,消化管,肝臓,肺,脳など多臓器にわたって観察され,それに伴う鼻出血や消化管出血などを契機に発見されることが多い1)2).特に肝臓,肺,脳の動静脈奇形や動静脈瘻は重大な臓器障害を引き起こすことがある.

また,Osler病の原因遺伝子として,新生血管の構築とその安定化に重要なTGF-β/BMPシグナルカスケード関連の遺伝子であるENG,ACVRL1,SMAD4が明らかとなっており10),このうちSMAD4の変異は臨床診断されたOsler病全体の1~2%と頻度は低いが11),Osler病に若年性ポリポーシス(juvenile polyposis;以下,JPと略記)を合併した若年性ポリポーシス/遺伝性末梢血管拡張複合症候群(以下,JP/HHTと略記)との関連が示唆されている12).JPでみられるポリープは6~68%の症例で悪性化がみられ13),JP/HHTにおいても同様に若年発症の消化管癌が20%と高率にみられる12)14)15).JPは臨床的に,①5個より多くの若年性ポリープが大腸に認められる,②胃腸管に若年性ポリープが多発している,③若年性ポリープの個数に関係なく若年性ポリープの家族歴がある,の3項目のうち少なくとも1項目が認められた場合に診断されるが16),本症例においては内視鏡検査で胃,小腸,大腸にポリポーシスを認めず,家族歴においても診断基準を満たさなかった.JPを併発していないOsler病患者における癌の合併ついては明確な傾向はなく,大腸癌の合併頻度については非Osler病患者と比較して頻度の差がないとされる17)

医学中央雑誌で1964年から2020年の期間で「遺伝性出血性末梢血管拡張症」,「手術」をキーワードとして検索し,消化器手術以外の術式を除外したところ(会議録除く),自験例を含め7例の報告のみであった18)~23)Table 1).そのうち悪性腫瘍に対して手術施行したものは3例,腹腔鏡下手術を施行したものは2例であり,Osler病を併存した大腸癌に対する腹腔鏡下手術についての報告例は自験例のみであった.膵頭十二指腸切除を施行した報告では手術時間が長く出血量がやや多い印象であるが,Osler病の血管病変が影響した可能性がある.術後合併症では鼻出血の報告があるが,その他Osler病の病態が影響したと思われる合併症はみられなかった.Osler病患者の大腸癌手術においては,Osler病の病態を理解し,十分なリスク評価を行ったうえで,慎重な操作で手術を進めなくてはならないと考える.まずリスク評価については,Osler病患者の肺,脳の血管奇形病変は十分に考慮する必要がある.15~25%に肺動静脈瘻が合併するとされ24),肺動静脈瘻形成による低酸素血症,肺高血圧,高拍出性心不全,あるいは破裂による突然死などの合併症を起こす可能性がある25).また,10~20%に脳神経症状が認められるとされ26),脳動脈奇形による脳出血,または肺動静脈瘻による脳梗塞や一過性脳虚血発作の危険性がある.手術手技については,大腸腸間膜の動静脈奇形,動静脈瘤,消化管粘膜の末梢血管拡張に伴う出血を来し,止血困難となる可能性がある.下行結腸間膜動脈領域の動静脈奇形はまれとされるが20),腸管の授動,中枢血管の剥離,辺縁動静脈の切離,腸管吻合の際にこれらの血管を損傷し出血を来すことが予想される.また,不十分な止血操作によって術後出血を来しうることも懸念される.

Table 1  Reported surgical cases of Osler-Weber-Rendu disease in Japan
No. Author Year Age (y) Sex Reason for surgery Surgical procedure Operative time (min) Blood loss (ml) Postoperative complication
1 Muto18) 2008 58 male pancreatic anteriovenous malformation pancreaticoduodenectomy 400 785 pancreatic fistula
2 Nishino19) 2010 74 female gastric bleeding total gastrectomy
splenectomy
ND ND epistaxis
3 Sato20) 2014 69 male inferior mesenteric anteriovenous fistula low anterior resection of rectum ND ND none
4 Waki21) 2015 78 male gastric bleeding laparoscopy-assisted distal gastrectomy 190 60 none
5 Doi22) 2018 51 male duodenal cancer stomach-preserving pancreaticoduodenectomy ileocecal resection partial resection of discending colon 766 860 pancreatic fistula
intra-abdominal abcess
6 Morii23) 2018 76 female hepatocellular carcinoma partial hepatectomy ND ND none
7 Our case 65 female sigmoid colon cancer laparoscopic sigmoidectomy 206 5 none

ND: not described

本症例では肺高血圧症に伴い在宅酸素投与中ではあったが,術前の肺機能検査では拘束性換気障害を認めたものの手術可能と判断した.また,脳の血管奇形や心機能,肝機能の障害は認めなかった.循環器内科医師らと相談し十分なリスク評価と行い手術を計画した.当院では大腸癌において腹腔鏡手術を第一選択としており,本症例においても腹腔鏡手術を計画した.腹腔鏡下結腸切除術は大腸癌治療ガイドライン2019年版27)において「選択肢の1つとして弱く推奨」とあるが,広く全国に普及した標準的な術式であると考える.本症例において腹腔鏡手術の利点は,気腹圧による出血のコントロールが可能であること,創部が小さいことで術後疼痛を減じ呼吸状態に好影響を与えることが期待された.一方,欠点として気腹による高二酸化炭素血症28)により酸素化不良となる可能性があったが,麻酔科と密に連携し,特に術中の血液ガス分析で問題を生じなかった.また,本症例には当てはまらなかったが,脳動脈瘤を有する患者では腹腔鏡手術の頭低位が瘤の破裂の原因となることがあり,注意が必要であった.手術操作においては,腹腔鏡では良好な視野の獲得,拡大視効果での詳細な血管走行の認識が可能であり,腸間膜を愛護的に把持し,拡張した静脈を丹念にシーリングし止血を行いながら安全に手術を行いえた.手縫い吻合は器械吻合と比較して術後の吻合部出血のリスクが低いとする報告があり29),本症例においても吻合時に腸管断端からの出血を確実に止血できると考え手縫い吻合を選択した.幸い術後合併症なく退院し,再発所見なく外来経過観察中であるが,今後肝転移や肺転移などの再発については注意が必要である.Osler病の患者に肝切除術や化学療法を施行した症例報告はあるものの23)30),Osler病に伴う肝動静脈瘻により門脈圧亢進,肝実質や胆道の虚血を来すことがあり,術中の出血や術後の肝不全のリスクとなりうる.また,化学療法に関しても,肝動静脈瘻や肺動静脈瘻による心不全や肺高血圧,低酸素血症のため循環・呼吸器の予備能が低く,副作用の増悪を考慮するとリスクが高いと考える.本症例においても肝動静脈瘻や肺動静脈瘻の発達が著しく,肝切除術,化学療法ともに適応を慎重に考慮する必要があることを念頭におき,再発時の治療が限定的となりうることを患者と共有しサーベイランスを行う必要があると考えた.

Osler病を有する患者のS状結腸癌に対して,腹腔鏡下S状結腸切除術を施行した1例を経験した.本邦での報告はないが,安全に手術を施行でき重篤な合併症もなく経過した.術前の十分な全身状態の評価と,術中の血管に対する繊細な手技が必要であると考えた.

利益相反:なし

文献
 

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