2022 年 55 巻 2 号 p. 132-139
症例は68歳の男性で,Cronkhite-Canada症候群(以下,CCSと略記)の診断にてステロイドを中心とした内科的治療を継続するも無効で3.5か月が経過していた.ポリポーシスが原因の終末回腸浮腫による通過障害にて成分栄養の経口投与で栄養管理され,proton pump inhibitor(以下,PPIと略記)は経口投与されていた.右側腹部痛の急激な増悪を認め,上部消化管穿孔の診断のもと緊急手術を施行した.十二指腸球部前壁の穿孔部分への大網充填に加え,通過障害を呈していた回盲部を切除し,回腸人工肛門造設術を併施した.術後はステロイド,抗TNFα抗体の投与にてCCS症状が改善した,またPPIも術直後の静脈投与から内服に変更したが十二指腸潰瘍の再発は認めなかった.内科的治療抵抗性のCCS症例では主病変の外科的切除を行うことも考慮する必要があると考えられた.
A 68-year-old man was diagnosed with Cronkhite-Canada syndrome (CCS). He was treated with drug therapy, mainly using steroids, for 3.5 months without success. The patient was managed with oral nutrition and a proton pump inhibitor (PPI) for transit disturbance caused by edema of the terminal ileum due to polyposis. After sudden exacerbation of right-sided abdominal pain, emergency surgery was performed with a diagnosis of upper gastrointestinal perforation. In addition to filling the perforated portion of the anterior wall of the duodenal bulb with the great omentum, the ileum was resected and ileostomy was performed. Postoperatively, CCS symptoms were improved by administration of steroids and anti-TNF-alpha antibody, and the PPI was changed from intravenous to oral immediately after surgery, with no recurrence of duodenal ulcer. This case suggests that surgical resection of the main lesion only should be considered for patients with intractable CCS.
Cronkite-Canada症候群(以下,CCSと略記)は消化管に高度の炎症を伴う過誤腫性ポリープが多発し,炎症による蛋白漏出から栄養状態不良となる原因不明の非遺伝性疾患である1).ステロイド投与などの内科的治療が第一選択であるが,抵抗性を示す場合,経過が長期化し治療に難渋する症例も報告されている2).内科的治療に抵抗性のあるCCS症例に対して外科手術が選択され,有効であったとの報告もある3)~5).
今回,我々は内科的治療抵抗性のCCS患者がproton pump inhibitor(以下,PPIと略記)を経口投与していたにもかかわらず十二指腸潰瘍穿孔を発症した症例に対し,腹膜炎に対する手術と同時にポリポーシスにより腸重積を来していた回盲部も切除することで,経口投与のPPIの治療効果改善とCCSの病態の改善が得られた1例を経験したので報告する.
症例:68歳,男性
主訴:右側腹部痛
既往歴:2型糖尿病,甲状腺機能低下症,低銅血症,低亜鉛血症
家族歴:父:脳梗塞,母:心筋梗塞,弟:心筋梗塞
現病歴:2018年8月近医にて貧血ならびに胃ポリポーシスを指摘されたが経過観察となっていた.同年11月より腹痛を自覚し,精査目的に当院消化器内科に紹介受診となった.全消化管に過形成・過誤腫性の多発性腺腫性ポリポーシスを認め(Fig. 1),蛋白漏出性胃腸症,脱毛,爪甲異常,色素沈着の所見からCCSと診断した.2019年1月よりステロイド療法を開始するも症状軽快せず,同年2月からカルシニューリン阻害剤(シクロスポリン)を追加したが無効であった.同年3月中旬からはステロイド療法(プレドニゾロン40 mg/day)を再導入し,同年4月上旬からは抗TNFα阻害剤(インフリキシマブ),プリン拮抗剤(アザチオプリン)の併用療法を継続していた.一方,同年3月中旬から終末回腸の腸管浮腫に伴う壁肥厚により消化管通過障害を来し右側腹部の鈍痛を認め,経口摂取はエレンタールのみとなっていた.同年4月中旬,右側腹部痛が増悪し,腹膜刺激症状も出現し,精査の結果,上部消化管穿孔による腹膜炎の診断で当科に紹介となった.
Upper gastrointestinal endoscopy revealed multiple adenomatous polyposis in the duodenum. The polyps were diagnosed histopathologically as hyperplastic/ hamartomatous polyps.
血液生化学検査所見:WBC 9,850/μl(好中球分画77%),CRP 3.64 mg/dl,総蛋白3.0 g/dl,アルブミン1.5 g/dl,ヘモグロビン9.7 g/dlと炎症反応高値と,低蛋白血症,貧血を認めた.
腹部CT所見:十二指腸球部から下行脚にかけて全周性の壁肥厚があり,その周囲の脂肪織内に遊離ガスを認めた(Fig. 2a, b).胆囊周囲から上行結腸周囲に腹水が存在した.終末回腸は壁肥厚とともに拡張が著明で,また回盲部にはtarget signを認めた(Fig. 2c).
Enhanced abdominal CT at onset. (a) Free gas (arrowhead) in adipose tissue of the thickened duodenum (arrow). (b) Ascites at the surface of the liver and around the ascending colon (arrows). Free gas was also observed in the upper abdomen (arrowheads). (c) Target sign in the ascending colon (arrow).
以上の所見より,十二指腸穿孔による腹膜炎と消化管ポリポーシスに伴う回腸腸重積と診断し緊急手術を施行した.
術中所見:右上腹部に混濁した腹水を少量認めた.幽門輪から約3 cm肛門側の十二指腸球部前壁に1 cm大の穿孔部を認めた.これとは別に終末回腸から上行結腸にかけて腸管壁は浮腫状に肥厚・拡張し暗赤色を呈していた.
手術方法:まず十二指腸穿孔部に大網を充填し穿孔部周囲を縫合閉鎖した.続いて暗赤色を呈していたBauhin弁から9 cm肛門側の上行結腸と80 cm口側の回腸を切除した,高度の低アルブミン血症,ステロイド投与中,糖尿病の併存などから吻合は行わず,回腸切除断端部で単孔式人工肛門を造設した.腹腔内を洗浄後,ドレーンを留置し手術を終了した.
摘出標本肉眼所見:終末回腸は口側断端から回盲弁に至るまで暗赤色の浮腫を伴うびらん性粘膜で,無数の無茎性隆起性病変を認めた.回盲部より肛門側はやや浮腫性の粘膜だがびらんなどは目立たなかった(Fig. 3).
Innumerable sessile polyps (*) were located macroscopically at the dark reddish terminal ileum.
摘出標本病理組織学的検査所見:回腸粘膜内に著明に拡張した腺管を有する過形成・過誤腫性の変化が認められた.粘膜,粘膜下層には炎症細胞の浸潤が認められ,血管の新生や拡張,鬱血が目立っていた.CCSとして矛盾しない組織像であった.
術後経過:術直後よりアルブミンの投与を開始し,術前経口投与されていたPPIは点滴にて投与を開始した.術後3日目よりアミノ酸製剤,術後5日目から高カロリー輸液,また術後6日目から脂肪製剤を用いて必要カロリー数を投与した.原疾患であるCCSの治療およびステロイドカバーとして,術翌日からステロイド投与を再開し,術後12日目からは抗TNFα抗体の投与を再開した.2型糖尿病に対しては術直後より持続インスリン投与を開始し,経口摂取開始後は強化インスリン療法を行った.術後2日目より十二指腸穿孔部ドレーン排液が混濁し始めた.胃内容液は,術前より挿入していた経鼻胃管からドレナージを継続した.ドレーン排液量は術後6日目の410 mlをピークに漸減した.抗生物質は術前から使用していたmeropenem hydrate(以下,MEPMと略記)に加え,ドレーン培養にてCandida albicans,Enterococcus faeciumが検出されその感受性からfluconazole(以下,FCZと略記),vancomycin hydrochloride(以下,VCMと略記)を追加した.免疫抑制剤治療を継続していたことから,サイトメガロウイルス抗原のスクリーニング検査を続けた.術後8日目のCTではドレーンチューブの先端は十二指腸球部前壁近傍に存在し腹腔内膿瘍は認めなかった.術後10日目の胃管造影,ドレーン造影では腸管外の造影剤は瘻孔化しドレーンが描出されるのみであった.術後10日目に胃管抜去し,術後12日目に水分開始,術後15日目には経口摂取を開始した.その後合併症なく経過し,術後29日目に原疾患治療目的に消化器内科に転科となった(Fig. 4).その後,術後38日目に施行した上部消化管内視鏡では十二指腸球部の病変は瘢痕化しS2 stageとなっていた(Fig. 5).術後2年1か月が経過した現在,内科外来通院中であるが,プレドニゾロン 12.5 mg,インフリキシマブ,アザチオプリンの併用により炎症所見は改善傾向で,アルブミンは3.0 g/dl以上を維持している.
Changes in serum albumin and treatment after surgery. Alb: albumin, MEPM: meropenem hydrate, VCM: vancomycin hydrochloride, FCZ: fluconazole, PPI: proton pump inhibitor, PPN: peripheral parenteral nutrition, TPN: total parenteral nutrition, anti-TNFαAb: anti-tumor necrosis factor alpha antibody.
S2 stage scar at the duodenum bulb seen in upper gastrointestinal endoscopy on postoperative day 38.
CCSは1955年にCronkhiteとCanadaにより初めて2例が報告されて以来現在までに本邦を中心に世界で約500例が報告されるのみの希少疾患である1).消化管に高度の炎症を伴う過誤種性ポリープが多発し高率に蛋白漏出性胃腸症を合併することに加えて,脱毛,皮膚色素沈着,爪甲萎縮などの外胚葉の消化管外病変を伴う非遺伝性疾患である.抗核抗体陽性例や生検組織のIgG4免疫染色陽性例が存在することから自己免疫の関与が強く疑われているが,原因はいまだ不明な疾患である6).2010年以降に診断されたCCS 210例の検討では,平均年齢が63.5歳で,男女比では1.84倍男性に多い結果であった7).難治性疾患克服研究事業の研究班から診断基準が提唱されており,本症例もこの診断基準のうち,非遺伝性の胃・小腸・大腸ポリポーシス,特徴的皮膚症状,蛋白漏出を伴う低蛋白血症を認めたことから確定診断に至った8).無治療で自然軽快したとの報告もあるが,原則として内科的治療が第一選択となる.ほとんどの症例でステロイドが使用されその反応は比較的良好で,その他に抗プラスミン剤,5-アミノサリチル酸製剤,プロスタグランジンE1製剤,抗生剤投与にて治療効果を認めたとの報告がある9).1部にステロイドに抵抗性を示す難治例があり,Watanabeら7)の報告では1年間ステロイド治療をうけた150名のCCS患者のうち,30名で奏効しなかったと報告されている.ステロイド抵抗性CCS例に対して免疫調整薬やカルシニューリン阻害剤,抗TNFα抗体などの薬剤の他に,外科手術が有効であったとする報告が散見される3)~5)10)~13).
医学中央雑誌(1964年~2020年),およびPubMed(1950年~2020年)で「Cronkhite-Canada症候群」,「外科治療」,「Cronkhite-Canada syndrome」,「surgical treatment」をキーワードとして検索したところ,CCSの内科的治療無効例や低蛋白血症の改善目的に手術を施行した症例は自験例も含めて9例存在した(Table 1)3)~5)14)~18).症例1,4,5,7と自験例ではいずれも術後のアルブミンは3.0 g/dl以上まで改善し,このうち術前アルブミン値が2 g/dl以下の症例は自験例を含め5例,ポリポーシスにて腸閉塞を来した症例は3例であった.主病変を切除したのは自験例も含め6例であったが,全例でその後の内科的治療の継続により低蛋白血症を含めたCCS症状が軽快または寛解していた.本症例でも高度のポリポーシスにより腸重積を来していた回盲部を切除したことで,ステロイドのみならず免疫調整薬やカルシニューリン阻害剤,抗TNFα抗体に対しても抵抗性を示していた低蛋白血症が術後長期に改善を維持したことから,ポリポーシスが高度な部分を外科的に切除することはCCSの病態改善につながると考えられる.また,症例4では術前にテクネシウム99m標識ヒト血清アルブミン検査を行うことで蛋白漏出部位を特定し,外科的に切除することでCCSの病態の改善が得られている.本症例は緊急手術のため行えなかったが,非常に有用な検査であり,今後外科的に切除を予定する際には行うべきであると考えられる.
Case | Author | Year | Age/Sex | Location of polyposis | Pre-operative Alb value (g/dl) | Pre-operative bowel obstruction | Operative procedure | Post-operative symptoms of CCS |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | Uchida14) | 1984 | 52/F | Stomach, Duodenum, Ileum, Cecum, Ascending colon | 2.9 | no | DG, RHC | improved |
2 | Hanzawa15) | 1998 | 59/F | Stomach, Duodenum, Ascending/Transverse colon | 1.4 | no | RHC, PI | improved |
3 | Yamaguchi16) | 2001 | 41/M | Total tract | 2.6 | no | SC | improved |
4 | Tseng17) | 2005 | 63/M | Total tract | 1.3 | no | SC | improved |
5 | Kabeshima3) | 2007 | 50/F | Total tract | 2.1 | yes | Lap-ICR | improved |
6 | Samalavicius18) | 2013 | 42/M | Stomach, Duodenum, Total colon | 0.7 | no | SC | improved |
7 | Kawano5) | 2015 | 61/M | Ascending/Transverse colon | 1.8 | yes | Extended RHC | improved |
8 | Furukawa4) | 2016 | 54/F | Stomach, Duodenum | 2.9 | no | TG | improved |
9 | Our case | 68/M | Total tract | 1.5 | yes | Lap-ICR | improved |
DG: distal gastrectomy, RHC: right hemicolectomy, PI: partial ileotomy, SC: subtotal colectomy, TG: total gastrectomy, Lap-ICR: laparoscopic ileocecal resection, Alb: albumin
CCSに高率に合併する蛋白漏出性胃腸症は消化吸収に異常がないものの分子量の小さいIgG型の免疫グロブリンやアルブミンが漏出することによる低蛋白血症を中心とした欠乏症状を来す疾患群である19).漏出の機序はいまだ不明な点が多いが,①リンパ系異常に基づくもの,②毛細血管透過性亢進に基づくもの,③腸管粘膜上皮の異常,などが考えられている.CCSは③の腸管粘膜上皮の異常から蛋白が漏出すると考えられるが,本症例の場合,食道を除く全消化管でポリープを認め腸粘膜上皮の異常が広範囲であっただけでなく,終末回腸が腸重積状態を繰り返していたことからリンパ流の鬱滞による異常も混在し,蛋白漏出が極めて高度になったと考えられた.
PPIの一つであるesomeprazoleの日本人健康男性における24時間胃内pH>4の時間率は68.5%と報告され,正常人でも1日の30%以上は上部消化管は酸性状態にある20).本症例ではステロイドの長期投与に併せてesomeprazoleの経口投与を継続していたにもかかわらず十二指腸潰瘍を併発した.PPIは酸に不安定であるため腸溶剤となっており,小腸で吸収され血液を介して胃壁細胞のH+,K+-ATPaseと結合して酵素活性を阻害する.また,PPIは肝臓で主にCYP 2C19によって代謝される.このため一般にPPI抵抗性潰瘍の原因として,①過酸,②胃内容排出遅延,③H+,K+-ATPaseやCYP 2C19の遺伝子多型,④小腸吸収面積の減少,⑤小腸運動障害,などが報告されている21)~23).
本症例においては,手術にてリンパ流異常の責任病変である腸重積部分を切除し,術後omeprazoleの一定期間静脈内投与を行った後,再度esomeprazoleの経口投与に切り替えたが,その後消化性潰瘍は併発していない.このため前述の要因のうちポリポーシスによる小腸吸収面積の減少や広範囲の腸粘膜上皮異常,腸重積に伴うリンパ流の鬱滞による小腸運動障害によって経口投与されたesomeprazoleの吸収が障害され,十二指腸潰瘍を併発した可能性が考えられた.これまでCCSにおける内服薬の吸収動態やPPI抵抗性消化性潰瘍の報告はなく,今後さらなる病態解明が望まれる.
本症例はCCSによる低栄養状態,10週を超えるステロイド投与に加えて,CCS発症前より糖尿病を併存していたこともあり,術後縫合不全を併発した.幸い適切なドレナージ,経鼻胃管の持続吸引,絶食期間中は脂肪製剤を含む必要エネルギー量の経静脈投与に加えて,強化インスリン療法による血糖管理を行い,術直後から原疾患に対するステロイド投与を開始するも保存的治療にて軽快治癒した.また,免疫不全状態であることも考慮して,当初から広範なスペクトラムを有するMEPMを選択し投与したことに加えて,監視培養を続けドレーン排液の細菌培養感受性検査に基づいてVCM,FCZを投与した.さらに,サイトメガロウイルス抗原の監視を継続した.いずれも周術期管理の基本であるが忠実に実行したことで,縫合不全を併発したが最小限の治療で治癒に至った.
本症例はステロイド,免疫調整薬,カルシニューリン阻害剤,抗TNFα抗体による内科的治療に抵抗を示し治療期間が長期となったCCS症例であったが,十二指腸潰瘍穿孔による腹膜炎を発症したことで手術となり,高度なポリポーシスにより腸重積を来していた回盲部を同時切除した結果,CCS症状が改善した症例であった.内科的治療抵抗性のCCSに対しては主たる病変部の外科的切除も考慮すべきであると考えられた.また,大部分の小腸機能が残存していたとしても,長期間の高度蛋白漏出状態に通過障害が加わった内科的治療抵抗性CCS症例においては,PPIの経静脈投与を考慮する必要があると考えられた.
利益相反:なし