日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
孤立性単独脳転移を契機に発見された多発胃癌の1治験例
福島 涼介清水 尚山口 亜梨紗吉田 知典矢内 充洋宮前 洋平黒崎 亮宮崎 達也井出 宗則佐伯 浩司調 憲
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キーワード: 胃癌, 脳転移
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2022 年 55 巻 2 号 p. 82-90

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Abstract

孤立性単独脳転移を契機に発見された多発胃癌の1治験例を報告する.症例は69歳の男性で,健忘,失書,失語を主訴に紹介医を受診,頭部MRIで左頭頂葉に30 mm大の多房性腫瘍を認め,当院に転送された.胸腹骨盤CTで異常なかったが,CEAおよびCA19-9が著明に上昇していた.上部消化管内視鏡検査で多発胃癌(①体上部小彎0-IIc+IIa type,cT1a,②前庭部前壁0-IIc like advanced type,cT2)と診断,まず開頭脳腫瘍切除後,強度変調放射線治療(45 Gy)を施行,病変①に対しESD後に,病変②に対し腹腔鏡下幽門側胃切除,D2,ビルロートI法再建術を施行した.脳腫瘍切除標本の病理組織像は低分化型腺癌で,胃癌の脳転移に矛盾しない所見であり,①tub1>tub2,pT1a,②tub1-2/por2,pT1b2,pN1(#3),pM1(brain),pStage IVの診断であった.術後化学療法は施行せず,脳転移切除後30か月現在,無再発生存中である.

Translated Abstract

We report a case of multiple gastric cancer with a simultaneous solitary cerebral metastasis. A 69-year-old male visited another hospital complaining of amnesia, agraphia, and dysphasia. Cranial MRI revealed a multilocular tumor of 30 mm in diameter in the left parietal lobe of the cerebrum. He was urgently transferred to our hospital for further examination. Thoracoabdominal and pelvic CT showed no other abnormalities, but serum CEA and CA19-9 were markedly elevated to 1,052 ng/ml and 1,736 U/ml, respectively. Gastrointestinal endoscopic findings revealed [1] 0-IIc+IIa-type (cT1a) and [2] advanced 0-IIc-type (cT2) tumors in the lesser curvature of the upper gastric body and on the anterior wall of the antrum, respectively. First, cerebral metasectomy and postoperative intensity modulated radiation therapy (IMRT: 45 Gy) were performed. After IMRT, ESD with curative resection was performed for the 0-IIc+IIa-type early cancer in the upper gastric body, and laparoscopic distal gastrectomy (LDG) with D2 lymph node dissection and Billroth-I reconstruction were used for the advanced 0-IIc-type cancer in the antrum. Pathological examination revealed [1] U, Less, 0-IIc+IIa, tub1>tub2, pT1a, ly0, v0; [2] L, Ant, 0-IIc, tub1-2/por2, pT1b2, ly1a, v1a, pN1 (#3), H0, P0, pM1 (brain), pStage IV. Adjuvant chemotherapy was not administered after gastrectomy. The patient is currently alive with no sign of recurrence for 30 months since the cerebral metasectomy.

はじめに

近年の担癌患者に対する治療成績の向上により,転移性脳腫瘍に遭遇する頻度は増加傾向にあるが1)2),胃癌からの脳転移は比較的まれな疾患であり,0.47~0.7%と報告されている3)4).また,診断時に他臓器への転移を伴うことが多く,単独脳転移はまれである.

今回,我々は孤立性単独脳転移を契機に発見された多発胃癌の1治験例を経験したので報告する.

症例

症例:69歳,男性

主訴:健忘,失書,失語

既往歴:高血圧症

家族歴:父 胃癌

現病歴:前医受診の約1か月前から健忘症状あり,字が書きにくい,言葉が出にくいなど,失書や失語も出現してきたため,前医を受診した.頭部MRIで左頭頂葉に脳腫瘍を指摘され,精査加療目的に当院脳神経外科に紹介入院となった.

入院時現症:身長164 cm,体重65 kg,血圧163/95 mmHg,脈拍107回/分,体温36.3℃,意識清明だが見当識障害あり,失読はないが失書,軽度の失行を認めた.瞳孔不同なく,病的反射や深部腱反射亢進はなかった.

血液生化学検査所見:一般血液・生化学検査では異常を認めなかった.腫瘍マーカーがCEA 1,052 ng/ml,CA19-9 1,736 U/mlと著明に上昇していた.

頭部造影MRI所見:左頭頂葉に30 mmの多房性腫瘤を認め,周囲の白質に広範な浮腫を伴い,脳実質の正中偏位を軽度認めた(Fig. 1a).また,腫瘤はgadolinium-diethylene triamino pentaacetic acidによりリング状に造影された(Fig. 1b).

Fig. 1 

Cranial MRI findings. (a) A multilocular tumor with perifocal edema in the left parietal lobe on T2-weighted images. (b) A ring-enhanced tumor of 30 mm in diameter in the left parietal lobe on gadolinium-diethylene triamine pentaacetic acid images.

胸腹骨盤造影CT所見:肺野,縦隔に異常はなかった.腹腔内臓器に腫瘤性病変を認めず,転移を疑うようなリンパ節腫大,腹膜播種様の結節や腹水も認めなかった.

FDG-PET/CT所見:左頭頂葉にSUVmax 18.67の著明な異常集積を認めたが,それ以外に悪性腫瘍を疑う異常集積はなかった.

入院後経過:CEAおよびCA19-9が高値であり,消化管由来の悪性腫瘍による脳転移の可能性を考慮し,消化管内視鏡検査を施行した.

上部消化管内視鏡検査所見:体上部小彎に0-IIc type(長径20 mm,UL–)の腫瘍①(Fig. 2a)と前庭部前壁に0-IIc like advanced type(長径35 mm)の腫瘍②(Fig. 2b)を認めた.生検結果はいずれもGroup 5 ①tub1-2,②tub1-2/por(Fig. 3a)で,同時性多発胃癌の診断であった.

Fig. 2 

Gastrointestinal endoscopic findings. (a) A 0-IIc-type (cT1a) tumor in the lesser curvature of the upper gastric body. (b) Advanced 0-IIc-type (cT2) tumors on the anterior wall of the antrum.

Fig. 3 

(a) Histological findings for the gastric tumor on the anterior wall of the antrum showed poorly differentiated adenocarcinoma. Scale bar: 250 μm. (b) Histological findings for the brain tumor showed poorly differentiated adenocarcinoma that was not inconsistent with the findings for the gastric tumor. Scale bar: 250 μm.

下部消化管内視鏡検査所見:S状結腸および直腸S状部にそれぞれ4 mmと8 mm大のIs polypを認め,いずれもEMRを施行した.病理診断はいずれもadenomaで,悪性所見はなかった.

胃癌以外に原発巣となりうる病変がなく,極めてまれではあるが,胃癌の同時性孤立性単独脳転移が疑われた.神経症状を有する脳腫瘍であり,脳腫瘍の制御後,胃癌根治術を行うことで長期予後が得られる可能性があると判断し,まずは脳腫瘍の切除を行う方針とし,入院5病日に開頭腫瘍摘出術を施行した.

病理組織学的検査所見:脳腫瘍切除標本の病理組織学的検査所見は低分化型腺癌の診断で,前庭部前壁の胃癌の組織と類似しており,胃癌の転移として矛盾のない所見であった(Fig. 3b).

術後,麻痺や構語障害,神経脱落症状の出現なく,経過は良好であった.再発予防のため,術後9病日より脳腫瘍摘出腔に強度変調放射線治療(intensity modulated radiation therapy;以下,IMRTと略記)を合計45 Gy追加した.IMRT終了直後の腫瘍マーカーは,CEA 106.2 ng/ml,CA19-9 70.3 U/mlと低下していた.

続いて胃癌の治療に移行した.同時性の多発胃癌であったが,体上部小彎の0-IIc病変は長径約20 mm大でUL–かつcT1aと推察されたため,ESDの方針とし,IMRT後20病日にESDを施行した(Fig. 4a).術後経過は良好で,術後7病日に軽快退院となった.

Fig. 4 

(a) Specimen of gastric cancer obtained in ESD in the lesser curvature of the upper gastric body. (b) Resected specimen of gastric cancer on the anterior wall of the antrum.

病理組織学的検査所見:U,Less,0-IIc+IIa,21×14 mm,tub1>tub2,pT1a,pUL0,ly0,v0,pHM0,pVM0の診断で,治癒切除であった.

その後の頭部MRI,胸腹部造影CTで転移再発がないことを確認後,ESD後29病日に腹腔鏡下幽門側胃切除(laparoscopic distal gastrectomy;以下,LDGと略記),D2郭清,体腔内hemi-double stapling techniqueによるBillroth-I法再建術を施行した(Fig. 4b).術後経過は良好で,術後7病日に軽快退院となった.退院時の腫瘍マーカーはCEA 2.1 ng/ml,CA19-9 3.7 U/mlとCEAも正常化していた.

病理組織学的検査所見:L,Ant,0-IIc,36×33 mm,tub1-2/por2,pT1b2(SM2),ly1a,v1a,pN1(#3),pPM0,pDM0,pM1(brain),pStage IVと診断された.

退院後経過:R0手術を施行しえたStage IV胃癌であり,術後補助化学療法の適応と考えたが希望されず,外来で経過観察の方針となった.脳転移切除後30か月が経過したが,腫瘍マーカーはCEA,CA19-9いずれも正常値を保っており,画像上も転移再発を認めておらず,外来で経過観察を継続中である.

考察

近年,進行胃癌に対する化学療法を含めた集学的治療の進歩により治療成績は向上しているが,遠隔転移を有する進行胃癌の予後は依然として不良である.胃癌の遠隔転移臓器には肝臓,肺,骨,副腎が多く,脳をはじめとする中枢神経系への転移は0.47~0.7%とまれであるが,脳転移を有する胃癌症例の83~90%に他臓器転移を合併し,かつ脳転移巣の60~70%は多発性であると報告されている3)4).また,脳転移による神経学的機能障害が患者の生活の質を著しく低下させるために,胃癌に対する治療を中断せざるをえず,無治療例の30日以内の死亡率は50%との報告もあり,予後は極めて不良である5)

胃癌脳転移の機序として,癌細胞が,①門脈系から肝臓,肺を経て,脳の小動脈に腫瘍塞栓を来し転移巣を形成する血行性転移6),②椎骨静脈叢から静脈を逆行性に脳に至る,肝臓・肺を経由しない血行性転移7),③原発巣周囲のリンパ節から後腹膜の神経根に沿ったリンパ管を介して脊髄クモ膜腔に至るリンパ行性転移の3経路が考えられている8).多くの症例は,①の門脈系を介した経路で,肝転移や肺転移を伴う予後不良な転移様式と考えられ3),本症例のように,他臓器転移を伴わない単独かつ同時性の脳転移を有する胃癌症例は極めてまれと考えられる.

医学中央雑誌で,2001年から2020年の20年間に「胃癌」,「脳転移」をキーワードに検索しえた本邦報告例は,自験例を含めて41例であった(Table 15)9)~38).年齢中央値は71(30~83)歳,男性34例,女性7例と8割以上が男性であった.原発巣の主座はU領域に多く,肉眼型では,3型と2型が無記載の4例を除く37例中32例(86%)を占めていた.組織型では分化型が25例,低・未分化型が17例と分化型が多く,壁深達度では,SS以深が無記載の7例を除く34例中28例(82%)を占めていたが,mおよびsm癌も計5例(15%)認められた.脈管侵襲では,リンパ管侵襲および静脈侵襲陽性例が,いずれも無記載の15例を除く26例中,それぞれ19例(73%),20例(77%)と多く,リンパ節転移陽性例は,無記載の5例を除く36例中30例(83%)を占めていた.病理学的ステージでは,I/II/III/IV期がそれぞれ8/3/12/16例(無記載2例)とIII期以上が7割以上を占めていたが,胃癌診断時に脳以外の遠隔転移を有する症例は,肝転移症例が7例(肺転移併存1例),傍大動脈リンパ節転移症例が5例(副腎転移併存1例),腹膜播種症例が1例の計13例で,全体の3割程度と意外に少なかった.胃癌脳転移症例の多くが門脈系を介した血行性転移で,極めて予後不良であることを考慮すると,今回検索しえた症例報告例の多くは,画像上描出されない微小肝転移や肺転移の存在は否定できないものの13),高度の脈管侵襲やリンパ節転移を認めている症例が多いことから,門脈系を介さない椎骨静脈叢からの逆行性血行性転移7)や,後腹膜の神経根に沿ったリンパ管を介して脊髄クモ膜腔に至るリンパ行性転移8)により脳転移を来した症例である可能性が高いと推察された.

Table 1  Clinicopathological characteristics of patients with brain metastasis from gastric cancer in 40 reported cases and the current case
Age (years) Median (range) 71 (30–83)
Sex Male/Female 34/7
Main location of gastric cancer U/M/L/ND 17/5/4/15
Macroscopic type 0/1/2/3/4/5/ND 4/1/12/20/1/1/4
Microscopic type pap/tub/por/sig/other/ND 4/21/16/1/2/1
Depth m/sm/mp/ss/se/si/ND 1/4/1/16/9/3/7
ly 0/1(1a)/2(1b)/3(1c)/ND 7/4/8/7/15
v 0/1(1a)/2(1b)/3(1c)/ND 6/7/9/4/15
n 0/1/2/3/ND 6/7/13/10/5
M 0/1/ND 23/16/2
Liver 5
Liver+Lung 1
Liver+Brain 1
Brain 3
PALN 4
PALN+Adrenal gland 1
peritoneum 1
pStage I/II/III/IV/ND 7/3/12/17/2
Time interval for diagnosis of brain metastasis (months) Median (range) 15 (0–132)
Neurological symptoms +/– 40/1
Metastatic pattern Synchronous/Metachronous 4/37
Location of brain metastasis CR/CL/CR+CL/CR+Other/CL+Other 24/11/4/2/1
Tumor size (maximum, mm) Median (range) 29 (10–60)
Findings of brain metastasis solitary/multiple/ND 22/18/1
Total Solitary Multiple ND
Treatment for brain metastasis BM 10 9 1
BM→CT 1 1
BM→IMRT 1 1
BM→SRT (SRS/GKRT/CKRT) 5 (3/1/1) 2 3
BM→SRT (CKRT)→CT 1 1
BM→WBRT→CT 1 1
SRT (GKRT)→BM 1 1
SRT (SRS/GKRT/CKRT) 7 (3/3/1) 1 5 1
SRT (GKRT/CKRT)→CT 4 (3/1) 1 3
WBRT→CT 3 2 1
WBRT 2 2
BSC 5 2 3
Survial after brain metastasis (months) Median (range) 9.5 (0.25–158) 14.5 (0.25–120) 8 (0.5–158)

ND: not described, PALN: para-aortic lymph node, CR: cerebrum, CL: cerebellum, BM: brain metasectomy, CT: chemotherapy, IMRT: intensity modulated radiation therapy, SRT: stereotactic radiation therapy, SRS: stereotactic radiosurgery, GKRT: gunnma-knife radiation therapy, CKRT: cyber-knife radiation therapy, WBRT: whole brain radiation therapy, BSC: best supportive care

胃癌脳転移と診断されるまでの期間中央値は15(0~132)か月であった.41例中40例で神経学的機能障害を主訴に受診され,脳転移が発見されていた.異時性脳転移症例が37例と約9割を占め,同時性脳転移症例は4例のみで,1例は肝転移を伴っていたが,他の3例は自験例同様,孤立性単独脳転移の症例であった.脳転移の部位は大脳25例,小脳12例,大脳+小脳4例の順に多く,同時性孤立性単独脳転移症例はいずれも大脳への転移であった.脳転移病変の最大径中央値は29(10~60)mmで,単発転移が22例,多発転移が18例と,報告例では単発例が多い傾向にあった.

脳転移の治療では,腫瘍径や転移個数,患者の自立度などに応じて,手術療法,放射線療法および化学療法が単独もしくは集学的に施行されている.脳腫瘍診療ガイドライン(2019年度版)では,脳転移の個数に応じて各治療法の推奨グレードが定められており,単発では腫瘍切除術,定位放射線照射,全脳照射がいずれも推奨度B(中等度の科学的根拠があり,行うように勧められる),2~4個では定位放射線照射と全脳照射が推奨度B(腫瘍切除術は推奨度C1(十分な科学的根拠はないが,行うことを考慮しても良い)),5個以上では全脳照射が推奨度A(強い科学的根拠があり,行うように強く勧められる)(腫瘍切除術,定位放射線照射はいずれも推奨度C1)となっている39).全脳照射はいずれの個数の場合でも高く推奨されているが,全脳照射による晩期有害事象として白質脳症や脳萎縮による認知機能の低下が出現することが懸念されており38),近年ではサイバーナイフなどの放射線治療技術の進歩から定位放射線照射を選択することが多くなっている.2005~2008年の脳腫瘍全国集計調査の報告では,脳転移を有する胃癌症例104例のうち,手術療法が63例(66%),定位放射線照射が35例(34%),全脳照射が27例(26%)の順(併用症例あり)であった40).本邦報告例の脳転移に対する治療では,単発脳転移症例では転移巣切除術を中心とした治療が,多発脳転移症例では定位放射線照射を中心とした治療が主体で,全脳照射が行われた症例は6例のみ14)18)20)27)29)35)であった.自験例を除く同時性孤立性単独脳転移症例2例のうち,1例はガンマナイフ照射後に化学療法22)が,もう1例は転移巣切除術のみ36)が施行されていた.自験例は,転移巣切除後に定位放射線治療の一つであるIMRTを局所再発予防に追加した.Mahajanら41)は,転移性脳腫瘍の切除後に,術後定位放射線治療施行群と経過観察群を比較した第3相ランダム化試験で,術後1年経過時の局所無再発率が,術後定位放射線治療群では72%,経過観察群では43%(HR:0.46,P=0.015)と,局所制御率が術後定位放射線治療群で有意に高率であったと報告している.また,Kayamaら42)は,転移性脳腫瘍切除後の全脳照射群と定位放射線治療群とを比較した第3相ランダム化試験で,全生存期間中央値がいずれも15.6か月(HR:1.05,P for noninferiority=0.027)と,脳転移切除後の全脳照射群に対する定位放射線治療群の非劣性が証明されており,脳転移巣切除後の定位放射線治療は有効であることが示されている.IMRTによる照射法は,①照射野の範囲に制限がない,②不整形の病変に対しても均質な線量分布が作成可能,③複数の重なりあう標的に対して異なる線量設定が可能,④分割照射が可能といった特徴があり,極めて自由度が高い43).IMRTを用いることにより,照射標的への均質な線量分布を行いながら,腫瘍近傍のリスク臓器への被曝線量を抑えることが可能であるため,神経学的有害事象の抑制に貢献することができ,今後,IMRTを用いた脳転移治療の普及が期待されている44).自験例においても,IMRT施行後の神経学的有害事象は全く認められず,また,局所再発も認めておらず,有効な放射線治療であったと考えられる.転移性脳腫瘍術後の再発予防を目的とした定位放射線治療として,IMRTとそれ以外とを比較検討した報告は検索しえたかぎりなかったが,脳転移切除後の摘出腔は,浮腫などを伴い不整な形状を呈していることを考慮すると,複雑な形状の照射野に最適な効果を発揮するIMRTの頻度は,今後増えていくものと推察される.

転移巣に対する手術療法や放射線治療後に化学療法が施行された症例は10例で,そのうちの7例は脳転移診断時に肝臓や肺,腹膜などの頭蓋外転移巣を伴っており,単独脳転移に対する切除術や定位放射線治療後に化学療法が施行された症例は3例のみ22)28)35)で,うち1例が同時性孤立性単独脳転移症例22)であった.胃癌の脳転移に対する化学療法の有効性を示した明確なevidenceはなく,脳転移に対する局所療法が奏効した場合に,頭蓋外病変に対する治療として化学療法を追加するといったstrategyに基づいているケースが多く,化学療法が奏効すれば,より延命効果が期待できると考えられる.

本邦報告例における生存期間中央値は9.5(0.25~158)か月で,単発脳転移例では14.5(0.25~150)か月,多発脳転移例では8(0.5~158)か月と,単発症例のほうが予後良好である傾向にあった.自験例も孤立性独脳転移による神経症状を契機に発見された多発胃癌症例であり,脳転移の治療後,多発胃癌に対してESDおよびLDGを施行することにより胃全摘を回避し,胃の機能温存を図ることができた.術後補助化学療法は施行していないが,脳転移治療後30か月が経過し,無再発生存が得られている.したがって,肝臓や肺への転移を認めない胃癌脳転移症例に遭遇した場合には,脳転移巣に対する積極的な局所療法を先行して神経学的機能障害の軽減および生活の質の向上を図った後,胃癌に対する集学的治療を行うことにより長期生存が得られる可能性があると考えられる.

利益相反:なし

文献
 

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