2022 年 55 巻 3 号 p. 191-198
症例は74歳の女性で,2017年11月に施行したCTで回盲部リンパ節腫大を認め,悪性リンパ腫の疑いで当院血液内科にて精査中であった.2018年1月,腹痛・嘔吐を主訴に救急外来を受診,CTで回腸悪性リンパ腫を先進部とした回盲部腸重積症と診断した.内視鏡下に整復を試みるも困難であったため,イレウス管により減圧し翌日開腹術を施行した.術中所見では上行結腸に回腸の陥入を認め,周囲の腸間膜には腫大したリンパ節を散見した.重積部位を一塊にして回盲部切除を施行した.摘出標本では回腸末端部の粘膜面に小隆起を散見したが,明らかな腫瘤性病変は認めなかった.先進部は肥厚した粘膜であった.病理組織学的診断は反応性濾胞過形成であった.術後経過は良好であり,術後10日目で退院となった.今回,我々は悪性リンパ腫と鑑別が困難であった反応性濾胞過形成による腸重積症の1例を経験したので報告する.
The patient was a 74-year-old woman in whom a CT scan revealed enlarged lymph nodes in the ileocecal region in November 2017. She was examined in the Department of Hematology at our hospital on suspicion of malignant lymphoma. In January 2018, the patient visited the emergency department with complaints of abdominal pain and vomiting, and was diagnosed with ileocecal intussusception with malignant lymphoma of the ileum on CT. Laparotomy was performed on the day after decompression with an ileus tube due to difficulty with endoscopic repair. Intraoperative findings showed ileal incarceration in the ascending colon and enlarged lymph nodes in the surrounding mesentery. Ileocecal resection was performed as a single mass. The specimen showed a small elevation on the mucosal surface of the terminal ileum, but no obvious mass lesion. Intussusception was caused by thickened mucosa. The histopathological diagnosis was reactive follicular hyperplasia. The postoperative course was good and the patient was discharged on the 10th day after surgery. We report this case as an example of intussusception due to reactive follicular hyperplasia that was difficult to distinguish from malignant lymphoma.
腸重積症は幼小児に多くみられ,成人例の占める割合は5%にすぎない比較的まれな疾患であり,90%以上が腸管内に器質的疾患を有し,小腸では良性腫瘍,大腸では悪性腫瘍が多いとされる1).今回,我々は悪性リンパ腫と鑑別が困難であった,良性疾患である反応性濾胞過形成による腸重積症の1例を経験したので報告する.
患者:74歳,女性
主訴:腹痛・嘔吐
既往歴:高血圧,左副腎腫瘍(1回/年CTで経過観察中)
内服薬:マニジピン塩酸塩
現病歴:2017年11月に施行したCTで回盲部リンパ節腫大を認め,悪性リンパ腫の疑いで当院血液内科にて精査中であった.2018年1月,腹痛および嘔吐を主訴に救急外来を受診した.
腸重積症発症前(2017年11月):
腹部造影CT・PET-CT所見:回盲部腫瘤および周囲の腫大したリンパ節を認め,同部位に集積亢進を認めた(Fig. 1a~d).そのほか大動脈周囲に軽度腫大したリンパ節を認めたが,PET-CTで集積は認めなかった.

a, c: CT showed a mass and swollen lymph nodes. b, d: PET-CT showed uptake of FDG.
下部消化管内視鏡検査所見:回腸末端からBauhin弁に限局するびらん・粘膜下隆起の集簇を認め,悪性リンパ腫と診断した(Fig. 2a).生検では大型のリンパ球の集簇を認め,辺縁が不整な比較的大型の核を有し,分裂像などの異型がみられた.免疫組織化学ではCD3−,CD5−,CD10+,CD20+,PAX5+,MUM-1−,BCL-2−,BCL-6+であることから,仮にリンパ腫であった場合にはびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫・バーキットリンパ腫などが鑑別に上げられた.しかし,組織量が少なく,確定診断には至らず,後日再度CT,生検を行うこととなった(Fig. 2b).のちの手術標本からは,リンパ濾胞の胚中心細胞に由来したリンパ球を見ていた可能性が考えられた.

a: Colonoscopy showed mucosal erosion and uneven mucosa in the terminal ileum. b: Microscopic findings of the biopsy specimen showed aggregation of atypical large-sized lymphocytes (high-power view in the box).
入院時現症:身長160 cm,体重42.0 kg,BMI 16.41,体温36.2°C,血圧123/86 mmHg,脈拍75回/分,SpO2 98%(room air).腹部は軽度膨満,右下腹部に圧痛あり,反跳痛なし.
血液検査所見:特記すべき異常なし.
腸重積症発症時(2018年1月):
腹部CT所見:水平断にて上行結腸にtarget sign,冠状断にて上行結腸への回腸終末部の陥入を認めた(Fig. 3a, b).口側小腸は拡張していた.

a, b: Abdominal CT showed a target sign in the ascending colon.
下部消化管内視鏡検査および注腸造影検査所見:重積した回腸と思われる部分を認め,表面は全体に暗赤色であった(Fig. 4a).また,造影にて,crab’s claw-like appearanceを認めた(Fig. 4b).

a: A protruding lesion in the ascending colon was found in colonoscopy. b: A gastrografin enema showed a crab claw-like shadow in the ascending colon.
以上より,回腸悪性リンパ腫(疑い)による腸重積症と診断した.内視鏡下に整復を試みるも困難であったため,イレウス管にて減圧を行ったのち,翌日開腹手術を施行した.
手術所見:病変部を検索すると,回腸末端部が上行結腸に陥入していた(Fig. 5).部分切除を行うこととし,重積部の整復は行わず,腸間膜内の腫大したリンパ節も含め一塊にして切除した.手術時間は2時間11分,出血量は20 gであった.

Intraoperative finding of invagination of the ileum into the ascending colon.
切除標本所見:重積状態のまま摘出した.腸間膜には最大径2 cmの腫大したリンパ節を散見した(Fig. 6a).

Macroscopic findings of the resected specimen showed swollen lymph nodes in the mesentery (a) and thickened Peyer’s patches at the mucosal surface of the terminal ileum (b). No mass lesions were identified.
粘膜面は全体に浮腫状であり,回腸の終末30 cm程はパイエル板の肥厚を認めた(Fig. 6b).
病理組織学的検査所見:回腸末端の粘膜内には,マントル層と胚中心との境界は明瞭であり,胚中心が拡大したリンパ濾胞を認めた.濾胞間への形質細胞の浸潤は認めなかった.また,胚中心は暗調部と明調部に分かれており,tingible body macrophageを散見した(Fig. 7a~c).免疫組織化学では,BCL-2が胚中心で陰性,CD20が濾胞部を主体に陽性,CD3が濾胞間を主体に陽性,CD10が濾胞胚中心のみ陽性であり,悪性リンパ腫を示唆する所見は認めず(Fig. 8a~d),腸間膜リンパ節も同様の所見であった.FISH法ではIgH BCL-2の癒合シグナルは0%であった.

Histological examination of the resected terminal ileum showed intramucosal lymph follicles with enlarged germinal centers (a, b) and many tangible body macrophages (c, yellow arrows).

Immunohistochemistry of the lymph follicles in the ileal mucosa showed expression of BCL2 mostly outside germinal centers (a), predominantly interfollicular expression of CD3 (b), expression of CD10 confined to germinal centers (c), and predominantly follicular expression of CD20 (d). These findings confirmed that the lesion was reactive follicular hyperplasia.
以上より,反応性濾胞過形成と診断した.
術後:経過は良好であり,術後10日目に退院した.
成人における腸重積症は腸閉塞症に占める割合の1~5%と報告されている2).器質的疾患が先進部となる場合は,成人では約90%に認めるのに対し,小児では約9%と,成人と比べ少ないと報告されている2)3).また,成人腸重積症の原因としては脂肪腫,腺癌,悪性リンパ腫,平滑筋肉腫,黒色腫などがあり,悪性リンパ腫によるものは約12%と報告されている4).
本症例は,病理学的所見より,反応性濾胞過形成が先進部となり発症したと診断した.医学中央雑誌で1964年から2019年11月の期間で「反応性濾胞過形成(リンパ濾胞過形成)」,「腸重積症」をキーワードとして検索した結果,小児の発症報告例は散見されたが,成人例での報告は1例のみであり,非常にまれである.
反応性濾胞過形成は拡大した胚中心を有するリンパ濾胞からなる良性非腫瘍性リンパ節症である.リンパ節腫大は頸部,腋窩領域の局所性であることが多いが,全身のリンパ節腫大を呈することもある.中村5)の報告によると,小児や若年の場合特定に至らないことが多いが,成人では感染症,薬剤,関節リウマチ,全身性エリテマトーデスを背景に認めることが多いとされる.本症例では,退院後内科にて精査を行うも原因疾患の特定には至らなかったが,異時性に発症する可能性も考え厳重な経過観察が必要であると考える.
反応性濾胞過形成の最終診断は病理像にてなされるが,鑑別診断として最も重要な疾患は濾胞性リンパ腫である.鑑別点として,マントル層の菲薄化はともに見られるが,濾胞性リンパ腫がより高度である.また,濾胞性リンパ腫は腫瘍性濾胞同士がより近接した所見であるback to back構造を認めることが多い.胚中心に注目すると反応性濾胞過形成の細胞の多様さに対し,濾胞性リンパ腫は比較的均一に構成されており,単一な印象を受ける.免疫組織化学では反応性濾胞過形成ではBCL2が胚中心で陰性,CD10が胚中心で陽性となるが,濾胞性リンパ腫ではBCL2・CD10ともに腫瘍性濾胞で陽性である点が鑑別点の一つである6).その他にも本症例の鑑別診断として胚中心進展性異形成,MALTリンパ腫があげられる.
胚中心進展性異形成は濾胞の過形成を示す良性非腫瘍性リンパ節症の1型であり,病理所見上マントル層のB細胞が胚中心に進展することが特徴的とされる.また,大小のリンパ濾胞が形成され,小型のリンパ濾胞は反応性濾胞過形成と同様の形態を呈するが,大型のリンパ濾胞では1個のリンパ濾胞内に複数の胚中心を認めることが特徴的である.免疫組織化学では基本的に反応性濾胞過形成と同様の形態を呈するが,リンパ濾胞内のCD57+T細胞が多いことがしばしば認められる.MALTリンパ腫は形態的に不均一な細胞から構成されており,lymphoepithelial lesion(LEL)と呼ばれる,小~中型で核にくびれがある腫瘍細胞(centrocyte-like cell)が粘膜~粘膜下層内に浸潤し,粘膜上皮腺管の変形,破壊を示す像が特徴的である.また,過形成性リンパ濾胞の胚中心にBCL2陽性のリンパ腫細胞が浸潤している像(follicular colonization)も反応性濾胞過形成との鑑別に有用である7).
本症例では術前に生検を施行するも,組織量が微量なことにより確定診断には至らなかった.
また,消化管における反応性濾胞過形成は小児期での報告が多くみられる.堀池ら8)の報告によると,特に回盲部にかけてのリンパ組織は8歳までをピークに増殖する生理的リンパ組織の腫大に加えて,感染やアレルギーなどの反応性変化によりリンパ濾胞過形成が起こるとされている.
手術方法であるが,肉眼的に悪性が否定できない場合に重積を解除してから切除するのか,あるいは解除せずに一塊のまま切除するのがよいかに関しては意見が分かれるところである.術中の無理な重積の整復は悪性であった場合に癌散布の危険性があり整復せず切除すべきとする意見9)と,より的確な術式の選択のために愛護的整復であれば整復を試みても問題はないとする意見1)があるが,目黒ら10)はS状結腸癌の腸重積症に対し整復後に切除し,吻合部に局所再発した1例を報告しており,implantationの可能性を示唆している.著者は文献中に憶測の域を脱しないと記しており,あくまで予想の範疇であることから詳細な機序は不明であるが,腸重積による閉塞を解除することにより本来流れるはずのなかった肛門側への癌細胞の流入が原因ではないかと考えられる.本症例では術前に消化器内科医師により内視鏡での整復を一度試みてはいるが,当科としては悪性の可能性を否定できず,implantationの可能性を危惧し整復せず一塊にして切除を行った.
術式の選択としては,近年は腹腔鏡手術の普及に伴い,腸重積症の整復,切除を腹腔鏡で行ったとする報告が増加している.腸管拡張による術野の確保が懸念されるが,和田ら11)の報告によると成人の腸重積症の発症は比較的緩徐であり,腸重積症による腸管拡張を来している例は少なく,腹腔内の観察やワーキングスペースは十分に確保可能としている.しかし,本症例では術前のCTで小腸の著明な拡張を認めており,上記に該当しないと判断し開腹手術を選択した.症例に応じた適切な判断が重要であると考える.
今回,悪性リンパ腫と鑑別が困難であった反応性濾胞過形成による腸重積症の1例を経験したが,回腸終末部は腸管悪性リンパ腫の好発部位であることはよく知られており,本疾患においては,悪性リンパ腫との鑑別が重要であると考えられた.
利益相反:なし