日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
脳室腹腔シャント造設後20年が経過しシャントチューブが上行結腸に穿通した1例
石林 健一崎村 祐介俵 広樹林 憲吾加藤 嘉一郎辻 敏克山本 大輔北村 祥貴角谷 慎一伴登 宏行
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2022 年 55 巻 3 号 p. 217-224

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Abstract

症例は45歳の女性で,20年前にくも膜下出血による水頭症に対して脳室腹腔シャント(ventriculoperitoneal shunt;以下,VPSと略記)挿入術が施行された.意識障害があり当院を受診し頭部CTで脳室拡大を認め,脳室ドレナージが施行された.VPSの閉塞が疑われ施行した全身CTでVPSチューブが上行結腸を穿通しており,治療目的に当科紹介となった.開腹するとチューブ状の繊維性被膜が上行結腸に付着しており,繊維性被膜を全周性に剥離するとVPSチューブが同定できた.VPSチューブを結紮,離断し,腸管に穿通しているカテーテルは抵抗なく抜去できた.腸管の瘻孔は縫合閉鎖した.VPSチューブ腹側端は髄液漏出を確認し,繊維性被膜内から出さずに閉腹した.術後第9病日に脳室ドレーン感染からの髄膜炎を来し,VPSチューブの全抜去を施行した.まれなVPSの消化管穿通の1例を経験したので報告する.

Translated Abstract

A 45-year-old female with a history of hydrocephalus who had been treated with a ventriculoperitoneal shunt (VPS) 20 years ago was admitted with disturbance of consciousness. Cerebral CT indicated dilation of the cerebral ventricle, and external ventricular drainage for decompression was urgently performed by neurosurgeons. Abdominal CT to examine the cause of malfunction of the VPS showed that the peritoneal catheter of the VPS had penetrated and migrated into the ascending colon. Therefore, the patient was referred to our department for surgical removal of the catheter from the colon. Operative findings revealed that the VPS catheter was covered with fibrous tissue and adhered to the ascending colon. The fibrous tissue was detached carefully and the catheter was identified and then removed from the ascending colon after ligation of the catheter close to the penetrating site. The fistula of the ascending colon was sutured. The surgery was completed after confirmation of drainage of cerebral fluid to the abdominal cavity through the catheter. The VPS was totally removed due to meningitis caused by the external ventricular drainage tube.

はじめに

脳室腹腔シャント(ventriculoperitoneal shunt;以下,VPSと略記)は水頭症の標準的な治療である.合併症全体の頻度は33~35%と高いが1),VPSチューブの消化管穿通(bowel perforation by a peritoneal catheter;以下,BPPCと略記)は少なく,さらにその大部分が小児例で,成人報告は本邦で9例のみとまれである2)~10).今回,我々はVPS造設20年後にBPPCを発症し,治療に難渋した1例を経験したので報告する.

症例

患者:45歳,女性

主訴:意識障害

既歴歴:くも膜下出血

現病歴:1998年にくも膜下出血の診断で,脳動脈クリッピング術,脳動静脈奇形摘出術が施行され,術後に水頭症を発症したためVPSを2本造設された.2018年11月に発熱を主訴に前医を受診し,誤嚥性肺炎の診断で抗菌薬加療が開始された.12月に意識障害が出現し,水頭症の疑いで当院脳神経外科に紹介となった.意識障害の精査目的に頭部CTを施行したところ,側脳室から第四脳室の拡大を認めた.VPS閉塞による水頭症と考え,脳室ドレナージを施行し,意識状態は改善した.VPS閉塞の精査目的に腹部骨盤単純CTと脳室造影下全身CTを施行したところ,VPSチューブの上行結腸内への穿通を認めた.VPSチューブの穿通解除目的に当科紹介となった.

来院時現症:Glasgow Coma Scale 10点;E4VtM5(平常時15点,スピーチカニューレで会話可能),Japan Coma Scale I-3(平常時0),血圧129/95 mmHg,脈拍91回/分,体温39.0°C,SpO2 96%(室内気),呼吸数20回/分,腹部は平坦,軟で圧痛を認めなかった.

血液検査所見:CRP 1.05 mg/dl,WBC 9,500/μl,その他特記すべき所見なし.

血液培養検査所見:静脈血より採取した2セットが陰性だった.

髄液培養検査所見:陰性だった.

喀痰培養検査所見:Pseudomonas aeruginosaを検出した.

腹部単純X線写真所見:異常所見を認めなかった.

頭部CT所見:VPSチューブを2本認め,脳室端はそれぞれ右前角と第四脳室に留置されていた.両側脳室から第四脳室の拡大を認めた(Fig. 1a, b).

Fig. 1 

(a, b) CT showed dilation of the cerebral ventricle.

腹部骨盤CT所見:第四脳室から繋がるVPSチューブの腹側端が上行結腸の尾側内側から腸管内に穿通していた.腸管壁の肥厚や,周囲の脂肪織濃度の上昇,膿瘍形成は認めなかった(Fig. 2a, b).

Fig. 2 

(a, b) The VPS tube was suspected to have migrated into the ascending colon. There was no intraperitoneal abscess, high contrast of fatty tissue or wall thickness of the ascending colon.

脳室造影下腹部骨盤CT所見:造影剤を脳室ドレーンから脳室内に注入したところ,造影剤はVPSを通り上行結腸内に流入した(Fig. 3a, b).

Fig. 3 

(a, b) CT under ventriculography showed high contrast in the colon.

以上より,VPSチューブ腹側端の上行結腸内への穿通と診断し,穿通しているカテーテルを腸管内から抜去する方針とした.

手術所見:下腹部正中に6 cmの小開腹を入れると,チューブ状の繊維性被膜が上行結腸に外側から付着していた(Fig. 4a).繊維性皮膜を上行結腸付着点より1 cm脳室側で長軸方向に切開した.繊維性被膜内にチューブが同定でき,同部位で繊維性被膜を全周性に剥離してチューブを露出させた(Fig. 4b).露出したチューブを2箇所結紮し,その間を切離した(Fig. 4c).腸管側チューブをゆっくり牽引すると,抵抗なく上行結腸から抜去できた.腸管壁の損傷がないことを確認し,腸管側の繊維性被膜の瘻孔を刺通結紮し閉鎖した.脳室側チューブの結紮糸を切るとチューブから髄液の漏出が確認できた.脳室側チューブに付着した繊維性被膜は剥離せずに腹腔内に留置した.脳室側チューブ先端は臓器損傷を回避するために固定せず閉腹した(Fig. 4d).手術時間は46分,出血量は1 mlであった.

Fig. 4 

(a) The shunt showed fibrous encasement and adherence to the ascending colon. An incision was made 1 cm from the ascending colon. (b) The fibrous encasement was peeled off and the VPS tube was detected. (c) The tube was ligated in two places and cut between the ligations. (d) The perforated tube was removed and the fistula was closed at the ascending colon. Fluid was confirmed to be coming out of the tube.

術後経過:術後第1病日の頭部単純CTで脳室の縮小を認めた.しかし,術後第6病日に38.5°Cの発熱があり,脳室ドレーン感染も念頭にまず脳室ドレーンを抜去した.髄液培養と脳室ドレーン培養でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌が検出されたため,髄膜炎と診断し,術後第9病日にシャントチューブの全抜去(total shunt removal;以下,TSRと略記)を施行した.術後第23病日,脳室心房シャントを挿入し,以後シャントトラブルは認めていない.

考察

VPS造設術の重篤な合併症として,チューブ閉塞,逆行性髄膜炎,腹腔内膿瘍,皮下トンネル感染や気脳症が報告されているが11),BPPCは頻度0.01~0.07%と少なく,その大多数が小児例であり成人例はまれである12).その理由として,成人は小児に比べて消化管壁が厚いこと,VPS術が成人よりも小児で多く施行されていることが考えられる13).医学中央雑誌で1964年から2020年12月の期間で「脳室腹腔シャント」,「消化管穿孔」あるいは「穿通」,「迷入」をキーワードに会議録を除いて検索したところ,BPPCの成人報告は9例認めた(Table 12)~10)

Table 1  Summary of reported cases of BPPC in adults
No. Author (Year) Age Sex Presentation Time from VPS insertion to BPPC Diagnostic approach Abdominal pain Spinal fluid culture Perforation Management TSR Shunt infection
1 Shinkawa2) (2001) 74 M nothing 1 yrs CT no unknown rectum transanal shunt removal yes none
2 Uehara3) (2003) 42 M fever, consciousness disorder 6 mos unknown no culture negative transverse colon laparotomy yes none
3 Masuoka4) (2005) 47 M headache 4 yrs CT no Enterobacter cloacae stomach percutaneous shunt removal yes none
4 Takayasu5) (2005) 32 F fever 6 yrs CT no unknown descending colon colonoscopy no tunnel infection
5 Shindo6) (2011) 78 M consciousness disorder 26 yrs intraoperative diagnosis no Enterococcus faecalis, Enterobacter cloacae, Proteus vulgaris, Klebsiella pneumoniae small intestine laparotomy no tunnel infection
6 Miyagi7) (2014) 20 M pus of wound 12 yrs CT no unknown transverse colon laparoscopy no tunnel infection
7 Harada8) (2014) 50 M fever, consciousness disorder 5 yrs CT no Enterococcus faecalis, Enterobacter descending colon laparotomy no none
8 Ishino9) (2015) 19 F fever, consciousness disorder 19 yrs CT no Pseudomonas aeruginosa, Enterococcus faecalis transverse colon laparoscopy yes none
9 Yamashita10) (2017) 73 M fever, headache 12 yrs CT no Pseudomonas aeruginosa descending colon laparotomy yes none
10 Our case 45 F consciousness disorder 20 yrs CT/shuntgram no culture negative ascending colon laparotomy no meningitis

診断時の症状は発熱,意識障害,頭痛だったが,無症状で偶発的に診断されたBPPC症例も1例認めた2).しかし,VPSチューブが消化管を穿通しているにもかかわらず,腹痛を生じた症例は認めなかった.腹痛を生じない理由には,消化管穿通の機序が関与していると考えられる.まずシャントチューブに対する異物反応によりチューブ周囲に無菌的慢性炎症が起き,シャントチューブは線維性被膜に被われ,腹腔内に固定される.それにより腸管の1点を繰り返し刺激することで,消化管へ穿通するとされる14).穿通部にも線維性被膜が形成されることで腸管内容物の腹腔内への漏出が防止され,腹部症状を呈さないと考えられる.自験例でもVPSチューブの腸管穿通部は繊維被膜に覆われており,穿通部から腹腔内への腸管内容物の漏出は認めなかった.

BPPCの診断には腹部骨盤部CTが有効であるが,診断に難渋する場合は脳室造影下での腹部骨盤部CTが有効である15).本邦成人報告例は全て腹部骨盤部CTにより診断されているが,初回のCTで診断に至らず診断に時間を要した症例も報告されている5).VPSチューブと腸管が重なっている場合や,VPSチューブの穿通部が短い場合は腹部骨盤部CTによる診断が困難である.そのような症例では,脳室造影下での腹部骨盤部CT撮影により診断が容易となる.自験例では腹部骨盤部CTでBPPCを疑ったが,体動による影響や,VPSチューブが腸管と重なっているのみで穿通していない可能性を否定できず,脳室造影下全身CTを施行しBPPCの確定診断に至った.

BPPCを来した場合,逆行性感染により髄膜炎や皮下トンネル感染を来すため,5年以下の留置症例ではTSRが必要だと考える.腸管穿通部のみの部分的抜去では術後感染により最終的にTSRを施行する症例が報告されている.本邦報告症例10例のうち5例ではTSRが施行されずVPSチューブの部分的抜去を施行しており,うち4例でシャント感染を来している5)~7).感染形式としては,皮下トンネル感染が3例,髄膜炎が1例であった.VPSチューブには逆流防止機構があり,チューブ内腔から逆行性感染は起こりにくいと考えられる.自験例でも逆流防止機構により腸管内にチューブ先端が穿通している状態であっても逆行性感染は起こらなかったと考えられる.しかし,チューブの内腔ではなくチューブ壁と組織の間から逆行性に感染する機序は否定できず,術後感染の原因と考えられる.自験例においては水頭症に対して留置した脳室ドレーンから感染し髄膜炎を来した可能性が高いと考えられる.

しかしながら,5年以上のVPS長期留置例において,TSRは脳室内出血のリスクが高い16).そのため,まずは腸管穿通部のみの部分的抜去を行い,問題が発生した場合のみTSRを二期的に行うべきである.特に成人BPPC症例ではVPS造設術から長期間が経過している症例が多く,そのような症例では,脳室内で脈絡叢がチューブを取り囲み,またチューブ内腔にも進展するため,チューブを牽引すると脈絡叢の血管を損傷し脳室内出血を来すリスクが高い17)18).自験例ではVPS留置後20年が経過していたため,緊急手術下でのTSRは避けたほうが良いと判断し,まずは部分切除を行い,問題が発生した場合のみTSRを行う方針とした.

腸管からのチューブの抜去する際に腸管の損傷の有無を確認する必要がある.なぜならば腸管内から抜去する際にVPSチューブが線維性被膜とともに引き抜かれることで消化管穿孔を来した小児報告例があり19)20),腸管内容物の流出がないことを確認する必要があるためである.腸管の状態を確認し抜去する方法として,開腹でチューブを抜去し瘻孔を縫合閉鎖する方法がある3)6)~10).腸管の状態を確認せずに抜去する方法としては,下部消化管内視鏡により腸管内腔側から抜去し瘻孔はクリップにより閉鎖する方法や5),経皮的に盲目的に抜去する方法4),経肛門的に盲目的に抜去する方法が報告されている2).線維性被膜によって腹腔内への腸管内容物の漏出は防御されるため,VPSチューブを経皮的に腸管から盲目的に抜去することも可能との報告もあるが21),腸管漿膜面を観察し,損傷があれば修復するべきである.腸管漿膜面の状態を確認する方法として腹腔鏡は有用であると考えられ,腹腔鏡と内視鏡を併用し肛門から抜去する方法や,腹腔鏡で観察しながら経皮的に抜去する方法も有効と考えられる.いずれにしても抜去後に腸管の状態を確認できる術式を選択することが肝要であると考えられる.

BPPCを含めVPS留置例への腹腔鏡手術の報告は増加している.虫垂切除術,胆囊摘出術,結腸切除術などの報告は複数あり22)~24),安全に施行されている一方で,腹腔鏡手術により逆行性感染を来した報告はない.VPSチューブに対する気腹の影響について,in vitroの実験モデルではVPSは逆流防止弁により350 mmHgまで逆流を認めなかったと報告されており25),気腹による逆流現象や頭蓋内圧上昇といった影響は生じないと考えられる.しかし,BPPCにおいて逆流防止機構の不具合による逆行性感染を来している場合,気腹により腸管内容物が脳室内に逆流することが予想される.そのため,髄膜炎を来したBPPC症例では腹腔鏡手術の選択は慎重であるべきだと考えられる.本邦で報告された腹腔鏡でのチューブ抜去の症例は,腹腔鏡で穿通部を特定し,癒着を剥離した後に小開腹でチューブが抜去されている7)9).したがって,穿通部が術前に特定できていない症例や,腹腔内の癒着が予想される症例では腹腔鏡での観察と癒着剥離が有用と考えられる.自験例では術前にCTで穿通部が特定できていたため,腹腔鏡を用いずに小開腹で手術を開始した.完全腹腔鏡下のチューブ抜去には十分な縫合結紮の手技の獲得や,汚染されたチューブの適切な処理といった課題がある.術者の技量や,許容可能な手術時間を考慮したうえで行うべきであると考えられる.

VPSの腸管穿通はまれであるが,重篤な合併症の一つであり,適切な診断方法および治療戦略が治療に必須な病態であるため,今回我々の経験を報告した.

利益相反:なし

文献
 

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