日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
肝外門脈瘤に起因した術後門脈血栓の圧迫により発症した急性膵炎の1例
新 みゆき川元 俊二山本 孝太寺島 孝弘
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2022 年 55 巻 4 号 p. 251-259

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Abstract

症例は,エホバの証人の56歳の女性で,胃癌cT3,N0,M0 Stage IIB,膵腫瘍に対して,胃全摘,D1+郭清,RY再建+膵体尾部切除兼脾臓摘出術を施行した.術前にCTにて肝外門脈の拡張(門脈瘤)を認めていた.術後11日目に心窩部痛が出現し,CTにて肝門部から肝外門脈内に広範囲な血栓形成を認めた.同日,血栓除去術を行い,また上腸間膜静脈に留置したカテーテルよりウロキナーゼの間欠静注を開始した.血栓除去術翌日,高アミラーゼ値を有する大量の腹水貯留とともに門脈血栓による膵頭部の圧排と,主膵管の閉塞所見を認め,急性膵炎のじゃっ起と膵断端からの膵液廔を認めた.長期にわたる持続腹腔内洗浄とその後の膵管ステント留置により,膵炎は改善し,門脈血栓はワーファリン内服により縮小した.本症例のように門脈瘤に起因した術後の門脈血栓が膵臓を圧排し,膵炎を来した例は,本邦では他に報告がなく,非常に貴重な症例であると思われた.

Translated Abstract

A 56-year-old woman who was a Jehovah’s Witnesses was diagnosed with advanced gastric cancer (cT3, N0, M0) and a pancreatic cystic tumor. Preoperative abdominal CT indicated an extrahepatic portal vein aneurysm with a diameter of 22 mm. Total gastrectomy plus distal pancreatectomy with splenectomy were performed. Epigastric pain occurred on postoperative day 11. CT revealed a massive portal vein thrombus from the level of the superior mesenteric vein to the bifurcation of the hepatic hilum. Thrombectomy was performed under laparotomy, and thereafter urokinase was administered by intermittent infusion through a catheter placed in a branch of the superior mesenteric vein. The day after the reoperation, abdominal CT revealed massive ascites with a high level of amylase and the thrombosed portal vein aneurysm compressing the body of the pancreas, resulting in development of acute pancreatitis and a pancreatic fistula. Continuous abdominal irrigation followed by a pancreatic duct stent indwelled via the papilla of Vater was associated with improvement of pancreatitis and pancreatic fistula. The portal vein thrombus was gradually reduced in size by a use of warfarin. We report this case as a rare example of a portal vein aneurysm that developed into a postoperative portal vein thrombus and compressed the body of the pancreas, causing pancreatitis and pancreatic fistula at the stump.

はじめに

門脈瘤は門脈の部分的な囊状ないし紡錘状に拡張した門脈の解剖学的形態を示し,肝外門脈瘤と肝内門脈瘤に分類される1).一方で門脈瘤に血栓症を合併した症例もまれながら報告されている.今回,我々は胃全摘+膵体尾部切除術兼脾摘術後に,肝外門脈瘤に門脈血栓症を併発し,さらに,血栓の圧迫による主膵管の閉塞で急性膵炎を来した症例を経験したので文献的考察を含めて報告する.

症例

症例:56歳,女性,エホバの証人(アルブミン,抗凝固剤などの血液製剤と自己血輸血は許容される)

身長152 cm,体重40 kg

既往歴:子宮筋腫(2020年子宮筋腫摘出術)

現病歴:貧血と胃部不快感の精査目的に上部内視鏡検査を施行したところ,胃体中部の前壁に胃癌Type 3病変を認め,生検でadenocarcinomaを認めたため,無輸血治療目的で当科に紹介となった.

血液検査所見:Hb値は12.1 g/dlであり,その他特記所見は認めなかった.腫瘍マーカーは,CEA 1.08 ng/ml,CA19-9 18.2 U/ml,DU-PAN-2 <25 U/l,SPAN-1抗原19.0 U/mlと基準範囲内であった.

造影CT所見:胃前庭部の不整な壁肥厚と,膵尾部に不均一低吸収な多房性囊胞性腫瘤を認めた.有意なリンパ節腫大や遠隔転移は認めなかった.門脈本幹の最大径は22 cmであり,通常の門脈本幹に比べ,拡張していた(Fig. 1a, b).

Fig. 1 

Enhanced CT (a: axial view, b: coronal view) showing the extrahepatic portal vein aneurysm.

PET-CT所見:胃前庭部に異常集積(SUV max 5.0)を認めた.膵尾部に33 mmの囊胞性腫瘤を認めたが,異常集積は認めなかった.

超音波内視鏡検査所見(EUS):膵尾部に小囊胞の集簇がみられた.辺縁での血流を有する腫瘤像を形成していた.主膵管拡張は認めなかった(Fig. 2).

Fig. 2 

EUS showing accumulation of multiple cysts in the pancreas tail. The main pancreatic duct was not dilated.

このEUS所見からは,漿液性囊胞腫瘍(serous cystic neoplasm;以下,SCNと略記)の可能性が高いと考えられた.しかし,中年女性の膵尾部に存在する腫瘍で,多房性の囊胞性腫瘤,主膵管との交通なし,という所見から,膵粘液囊胞性腫瘍(mucinous cystic neoplasm;以下,MCNと略記)を完全には除外できなかった.

胃癌cT3,N0,M0 cStage IIB,膵腫瘍の診断にて,胃全摘,D1+郭清+膵体尾部切除兼脾臓摘出術を施行した.再建は,Roux-en-Y再建とした.

手術時間:6時間02分.術中出血量:1,165 ml.800 mlの希釈式自己血輸血を適用した.

病理組織学的検査所見:胃癌 LM,Circ,Type 4,15×14 cm,pT4a(SE),INFb,Ly1,V1,pPM0,pDM0,pN2(6/22),pStage IIIA(胃癌取扱い規約第15版),膵腫瘍:serous cystadenoma of the pancreas tail.

術後経過:術後,一時的に胆道系酵素の軽度上昇を認めたが,自然に改善傾向となった.4PODのドレーンアミラーゼ値は113 U/lであり,膵液廔は認めていなかった.6PODより食事を開始した.11PODに心窩部痛が出現し,血液検査で肝胆道系酵素の上昇(ALP 359 U/l,γ-GTP 87 U/l)も認めたため,造影CTを施行したところ,肝内門脈,肝門部,門脈本幹,脾静脈断端,上腸間膜静脈に至る広範囲な血栓形成を認めた(Fig. 3).同日,緊急開腹下に血栓除去術を施行した.肝門部門脈に血管鉗子をかけ,門脈前壁を約20 mmに渡り縦切開し,Fogartyのballoon catheter(4Fr)と外科用スプーンを用いて,多量の血栓を除去した.腸管側の門脈血流の流出が十分に得られた時点で血栓除去術を可及的に終了したが,血栓が残存している可能性が高いと考えられたため,回結腸静脈分枝より上腸間膜静脈内にカテーテルを留置し,術直後よりウロキナーゼ(6×104 U/回/8時間毎)の間欠静注を施行した.

Fig. 3 

Enhanced CT showing a massive thrombus within the portal vein (arrow).

なお,胃癌術後の血液生化学検査で,Hb値の推移は,11PODまで9 g/dl台で経過し,血小板数の推移は,8PODで51.9×104/μlまで増加していた.

血栓除去術後の経過:ヘパリン(12,000 U/日)の全身投与も同時に開始した.再開腹3日後のCTでは,術前と同様で,血栓の拡がりは広範囲であった.術後より,発熱と炎症反応上昇(CRP値:24.06 mg/dl,白血球数:16,900/μl)を認め,造影CTを施行したところ,大量の腹水貯留とともに,門脈内に増大した血栓が背側より膵頭部を圧排しており,残膵の主膵管の拡張所見を認めた(Fig. 4a, b).一方,血中アミラーゼ値(387 U/l),血中エラスターゼ値(1,111.5 ng/d)の有意な増加と,腹水中のアミラーゼ値(12,903 U/l)の著明な増加を認めたことから,血栓の圧排による主膵管の閉塞によりじゃっ起された急性膵炎による滲出性腹水,膵断端からの膵液廔の可能性が示唆された.急性膵炎に対してウリナスタチン(15×104 U/日)を,膵液廔に対してオクトレオチド酢酸塩(300 μg/日)の全身投与(保険適用外)を行うとともに,16Frセイラムサンプチューブを左側上部腹腔内に追加留置し,再手術の際に左上腹部に留置したセイラムサンプチューブとともに持続洗浄間欠吸引(生食100 ml/h)を開始した.この間,絶食とし,高カロリー輸液による栄養管理を行った.膵炎の消退と腹水貯留が改善した約1か月後に持続洗浄を終了,チューブを抜去し,58PODに退院となった.この間,門脈内血栓は縮小傾向を示さなかったが,抗血栓療法を全身ヘパリン投与からワーファリン内服へと変更した.しかし,退院2週間後の腹部CTにて腹水貯留の再燃と膵断端液体貯留の所見を認め(Fig. 5),液貯留部にピッグテールカテーテル(8Fr)を穿刺留置し,透明な膵液の排出を得たため,ドレナージを再開し継続した.膵液廔は約1か月後に消退したものの,その後も血中エラスターゼ値の増加変動,腹水貯留の再燃を繰り返した.発症4か月後に他院に転院し,single balloon内視鏡によるERCPを施行し,主膵管の狭窄部を確認し,膵管ステントを狭窄の遠位側まで挿入,留置した(Fig. 6a, b).この間,PT-INR 1.7~2.0を維持するべく,ワーファリン内服を継続した.術後約10か月後のCTにて,肝門部から右門脈幹にかけての血栓は残存していたが,門脈本幹の血栓は消失しており,血栓の著明な縮小を認めた.また,門脈瘤は残存しているものの,門脈周囲には多数の側副血行路の形成を認めていた(Fig. 7a, b).血栓が存在していた期間,肝胆道系酵素(ALP,γ-GTP)は高値を持続していた.1年後,膵管ステントを抜去し,ワーファリン投与下に,術後化学療法としてS-1の内服を開始し,再発なく経過している.術後の経過をFig. 8に示した.

Fig. 4 

Enhanced CT (a: axial view, b: coronal view) showing the thrombosed portal vein aneurysm compressing the pancreas, resulting in development of acute pancreatitis and a pancreatic fistula.

Fig. 5 

Enhanced CT showing fluid collection on the pancreatic stump (arrow).

Fig. 6 

(a, b) ERCP showing insertion and retention of a pancreatic duct stent (arrow).

Fig. 7 

Enhanced CT (a: axial view, b: coronal view) showing reduction of the size of the thrombus and formation of collateral veins.

Fig. 8 

Postoperative course.

考察

門脈瘤は門脈の部分的な囊状ないし紡錘状に拡張した門脈の解剖学的形態を示し,最大径が2.0 cmを超えるものとして定義されているまれな病態である1)(肝疾患や門脈圧亢進症のない人の正常な門脈径は,0.64~1.21 cm,平均0.89 cmである2)).1956年にBarzilaiら3)が報告したのが最初であり,このとき初めて門脈拡張部に対して門脈瘤(aneurysm of portal vein)という用語を用いている.門脈瘤は,その拡張部位により,肝外門脈瘤と肝内門脈瘤に分けられ,本邦では大部分が肝内門脈瘤であり,肝外門脈瘤の報告は少ない4)5).また,先天性と後天性に分類され,先天性の原因としては,胎児期に右卵黄静脈が退化せず,憩室を形成したことによるものや,静脈壁の脆弱化によって生じるものとされている.後天性は,慢性肝疾患における門脈圧亢進症による静脈壁の脆弱化,急性膵炎での消化酵素で誘発された炎症による静脈壁の脆弱化,肝生検・胆囊摘出術などの外的侵襲による動静脈化,などが原因とされている6).本症例では,膵炎や肝疾患の既往はなく,門脈圧亢進症もないことから,先天性と考えられる.門脈瘤の合併症としては,門脈内血栓,門脈瘤破裂,近接臓器への圧迫(十二指腸,胆管,下大静脈など)などである.

門脈血栓症は,門脈瘤の約30%に生じ6),拡張した血管での血流停滞,血流の乱れ,手術侵襲(脾摘術や門脈切除を伴う肝胆膵手術),凝固亢進状態での血液過粘稠,腫瘍や炎症による血管圧迫などが原因とされる7).特に脾摘後は血小板が増加するため,血栓が生じやすく,発生頻度は4.4~17.3%と報告されている.脾摘後門脈血栓の形成時期は手術後数日~約2か月が多いが,3年以上経過した症例も報告されている8).本症例では,術後11日目に門脈血栓が発現した.門脈血栓の症状としては,肝機能障害,腹痛,腹水出現,上部消化管出血が多いが,無症状のこともある9).急性に発達した門脈血栓症は,上腸間膜静脈や脾静脈まで及ぶ場合があり,治療の遅れは腸壊死や肝不全などの重篤な病態を来すことがあるため,早期の診断と治療が必要であり,血栓除去術を行うべきとする報告が多い1)6).一方,保存的治療としては,血栓溶解療法や抗凝固療法が有効とされる.血栓溶解療法としては,血栓溶解薬(ウロキナーゼ,組織プラスミノーゲンアクチベーター)の全身投与や,血管造影下による直接的な局所血栓溶解療法がある.抗凝固薬としては,ヘパリン,アンチトロンビンIII製剤,ワーファリンなどが使用される9).本症例では,診断時に緊急開腹下にて血栓除去術を行い,同手技に引き続いて,回結腸静脈分枝より門脈本幹内にカニュレーションを留置し,術後ウロキナーゼの間欠投与を行った.

血液の凝固亢進状態や先天性凝固因子の異常も門脈血栓症の原因となりうるが,本症例では,術後血小板数の増加を認めたものの,抗凝固因子であるプロテインS,プロテインC,AT IIIは正常であった.

本症例においては,基礎疾患として先天的な門脈瘤があり,門脈血流のうっ滞が生じやすい状態であった.そこに,膵体尾部切除兼脾摘出術に伴う脾静脈切離による血行動態変化と,脾摘による血液成分の変化(凝固能,血小板数や機能),手術侵襲による血管壁の変化などが加わったことが門脈血栓症を来した原因と考えられる10).また,血栓が広範囲であり,門脈への直達手術で血栓を全て除去することは不可能であったが,ウロキナーゼ門脈内投与に続くヘパリン全身投与とその後のワーファリン内服を継続し,血栓の縮小に至った.この間,肝機能障害の増悪と門脈圧亢進による消化管出血等に至らなかったのは,徐々に形成された側副血行路によって肝臓への血流が維持されたものと思われる.本症例のように既存の門脈瘤に門脈血栓を来しやすい要因が重なる場合は,術後早期からのヘパリン投与やワーファリン内服などの抗凝固療法を,血栓予防として考慮することも一案と思われた.山下ら11)も,予防的な全身保存療法として,術後可及的早期から血小板凝集抑制剤の投与が重要としているが,大谷ら8)の症例のように,それだけでは不十分な症例も存在する.そのため,血栓を誘発しやすい脾臓摘出については,適応を慎重に見極めるべきである.

本病態は,血栓による門脈圧亢進により滲出した大量の腹水に,主膵管閉塞による膵管および膵実質内圧の上昇による膵断端から持続的に漏出した膵液と,膵実質より滲出した炎症性サイトカインを含む腹水が混在した特異な病態の存在が推測されたこと,膵液廔が早期に自然消退する可能性が低く,膵液とサイトカインを薄めて体外に排出すること,を目的に,エビデンスはないものの,持続灌流ドレナージが必要と判断した.

ERCP下による膵管造影所見より,長期間に渡り,血栓により圧排されていた部位の主膵管が狭窄を来したものと考えられた.膵管ドレナージ(endoscopic retrograde pancreatic drainage;以下,ERPDと略記)は,本病態の根本的治療になると考え,著者らも発症早期に試みた.しかし,胃全摘術,R-Y再建後の施行は,高度技術を要したため,急性膵炎の消退を待って専門医の在職する施設にて,膵管ステント留置を施行した.ただ,膵液廔の制御には早期の膵管ステント留置が重要であるため,自院で不能であったとしても,積極的な医療連携により早期に施行すべきであった.

医学中央雑誌にて,「門脈瘤」をキーワードに検索した結果,1964年から2019年までの本邦における報告例は,会議録を除いて59例認めた.その中で,本症例のような肝外門脈瘤に発生した広範囲な血栓が膵臓を圧排し,急性膵炎を来した例は,本邦では他に報告がなく,非常に貴重な症例であると思われる.

術前の膵囊胞性病変において画像上はMCNと断定できる要素に欠けてはいたが,鑑別診断の基準に鑑み,MCNであれば悪性のリスクも残るため,切除する方針とした.IAPガイドラインの中で,“MCNの切除方法では術前にあるいは術中に正確に異型度を診断することは困難である.浸潤癌が考えられる場合はリンパ節郭清を伴う膵頭十二指腸切除,膵体尾部切除または膵全摘術などが病変の部位と進展度に応じて選択されるべき標準手術である”となっていることより,本症例では膵体尾部切除兼脾臓摘出術を選択した.しかし,結果的に本術式が重篤な門脈血栓を誘発することになってしまったことは否めず,より正確な画像診断を考慮すべく,造影EUSなどを施行し,膵腫瘍の確定診断に役立てる努力をすべきであったと思われる.さらに,脾摘による門脈血流の変化が門脈血栓を誘発するリスクを考慮し,慎重な手技を要するものの,脾温存膵体尾部切除術の施行に努めるべきであったと思われた.以上より,本症例のような門脈瘤を有する症例では,門脈血流量の変化をもたらす外科手術の適応を検討する場合は,術後門脈血栓症の発生に十分注意が必要であり,できるかぎり不要な手技は避けるべきであると思われる.

門脈瘤に血栓が生じた場合の外科治療に関しては,定まった標準治療はない.手術後の再発率や死亡率が高いという報告もある12).また,Ahmedら13)は,消化管出血や虚血,隣接臓器閉塞などを生じる巨大門脈瘤のみに外科治療を制限すべきであるとしたうえで,門脈瘤に生じた血栓については,血栓除去術の困難性や術後再発率の高さを考慮し,手術ではなく抗凝固療法で対応すべきと論じている.上記の論文のように,手術に対して否定的な意見もあるが,本症例では,門脈血栓が門脈本幹の全周に広範囲に渡って急性に発現しており,急性門脈圧亢進など重篤な合併症に発展する可能性があったため,血栓除去術を選択し,術後再発を予測して,上腸間膜静脈内にカテーテルを留置し,ウロキナーゼを門脈内投与するという方法を選択した.確かに,血栓除去術後すぐに再発を来したが,血管内に直接抗凝固薬を投与するという方法は,抗凝固薬の全身投与に比べて,より効果的であると考えられた.門脈血栓除去術の外科手技として,本症例ではまず門脈本幹の肝側をクランプし,その末梢側の門脈前壁を縦切開して,腸管側の血栓をバルーンやスプーンと用いて除去した.続いて,切開部の腸管側をクランプし,肝内門脈血栓含め肝側の血栓を,除去した.以上の手技により,出血を最小限にとどめ,肝内門脈にまで及んだ血栓を除去することが可能と考えた.

今回,我々は門脈瘤を伴う胃癌,膵腫瘍に対して,胃全摘+膵体尾部切除兼脾摘術を施行し,術後門脈血栓症と,血栓の圧排による主膵管の閉塞と急性膵炎を来した1例を報告した.門脈瘤は血栓の誘因となりうるため,術後早期の抗凝固剤の予防的投与も選択肢の一つと考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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