2023 年 56 巻 2 号 p. 100-107
目的:日帰りで行う待機的虫垂切除術の安全性と有用性について,入院手術と比較検討した.方法:2017年1月から2021年12月までの5年間に2施設において膿瘍ドレナージ例と小児を除く待機的虫垂切除術を行った連続した256例を対象とした.これら2施設のうち一方は日帰り手術を基本としており,この施設で治療を行った症例(以下,日帰り群と略記)の治療成績や治療費用を,他方の従来の入院手術を基本とする施設での治療症例(以下,従来群と略記)を対照として後向きに比較検討した.結果:日帰り群166例,従来群90例で,手術時間中央値は日帰り群35分,従来群64分(P<0.001)と有意差を認めた.日帰り群は全例日帰りで帰宅できた.合併症率は有意差なく(P=0.15),重篤な合併症は認めなかった.手術費用は,日帰り手術が約29万円,入院手術が約46万円であった.結語:日帰りで行う待機的虫垂切除術は,適正な適応基準のもとで安全に施行可能であり,本邦においても治療選択肢の一つになりえる.
Purpose: The aim of the study was to evaluate the safety and usefulness of interval appendectomy performed as day surgery compared with inpatient surgery. Methods: The study included 256 consecutive patients who underwent interval appendectomy at two centers over five years from January 2017 to December 2021. Patients treated with abscess drainage and pediatric patients were excluded. Outcomes and costs were compared retrospectively between patients who underwent day surgery and those who received conventional surgery. Results: There were 166 patients in the day surgery group and 90 patients in the conventional surgery group. The median operative time was significantly shorter in day surgery (35 vs. 64 min, P<0.001). All patients in the day surgery group were able to return home on the same day. The complication rate did not differ significantly between the groups (P=0.15) and there were no severe complications. The costs were approximately 290,000 yen for day surgery and 460,000 yen for conventional surgery. Conclusion: Interval appendicectomy performed as day surgery is a safe and viable procedure for indicated patients in Japan.
急性虫垂炎は腹部救急疾患の中で頻度が高い疾患であり,生涯リスクは男性8.6%,女性6.9%である1).急性虫垂炎の治療は,迅速な虫垂切除が勧められるものの,抗菌薬を投与することで91.5%は治療可能であり,保存的治療が選択されることも多い2)3).しかし,治療が奏効しないことや,虫垂炎の再発,虫垂腫瘍が存在するリスクが問題である.虫垂炎再発のリスクは,保存的治療後に5年間追跡した報告によると,手術を受けた患者の累積発生率は,1年で27.3%,2年で34.0%,3年で35.2%,4年で37.1%,5年で39.1%であった4).特に虫垂径が10 mm以上の腫大を認める症例では,保存的治療後の再発率が高かった5).虫垂腫瘍が存在するリスクは0.7~1.6%であり,カルチノイド,粘液性腫瘍,腺癌が含まれていた6)7).保存的治療後のこれらのリスクは決して低くはなく,無視することができない.
緊急手術を避けて待機的虫垂切除術(interval appendectomy;以下,IAと略記)を行うことで,開腹移行や拡大手術を回避し,手術合併症を減らすことができる8)9).従来,IAは入院が必要であったため,時間的,金銭的コストの負担が大きかった.そのため,IAの日帰り手術を低侵襲に行うことで,身体的負担・社会的負担を軽減し,医療の効率化を図ってきた.本邦では日帰りで行うIAに関する先行研究はなく,入院手術と比較検討することとした.
日帰りで行うIAの安全性と有用性について,入院手術と比較検討する.
2017年1月から2021年12月までの5年間に,東京外科クリニックと板橋中央総合病院の2施設において,IAを行った連続した264例を抽出した.膿瘍ドレナージを行った既往がある3例と小児5例を除く256例を対象とした.本研究は抗菌薬の投与のみで改善した急性虫垂炎に対するIAを対象とし,膿瘍ドレナージを必要とした急性虫垂炎に対するIAは除外した.2施設のうち一方は日帰り手術を行う施設であり,この施設で治療を行った症例(以下,日帰り群と略記)の手術成績,合併症,手術費用の特徴について,他方の従来の入院手術を行う施設で治療を行った症例(以下,従来群と略記)を対照として,診療録を元に後向きに検討した.日帰り群の術者は10年以上の手術経験がある5名で,従来群の術者は手術経験が1年未満の術者も含む41名であった.評価項目は手術時間,麻酔時間,術後在院時間,退院時の疼痛,日帰り帰宅率,術中合併症,術直後合併症,術後合併症,手術費用とした.退院時の疼痛はnumerical rating scale(以下,NRSと略記)10)を用いて看護師が評価した.合併症はClavien-Dindo分類11)に基づいてGrade I以上を集計した.日帰り帰宅率と退院時の疼痛は,日帰り群のみで評価した.
統計学的解析にはEZR on R commander version 1.5412)を使用し,変数は中央値(四分位範囲)で示した.2群間の比較にはχ2検定およびMann-Whitney U検定を用い,P<0.05を統計学的に有意差ありとした.
なお,本研究については,東京外科クリニック倫理委員会の承認(第202101号),および板橋中央総合病院倫理委員会の承認(第20210916-2号)を得て施行し,オプトアウトを行った.
日帰り群における日帰り手術の適応基準は,年齢や抗血栓薬内服の有無で制限していない.ASA physical statusはClass I,IIを適応としているが,Class IIIであっても基礎疾患が十分にコントロールされていれば適応としている.適応外となるのは,急性虫垂炎の緊急手術が必要,虫垂腫瘍の疑いが強い,回盲部切除を必要とする可能性が高い,手術既往による高度な腹腔内癒着が予想される,重大な麻酔合併症の既往歴がある,病的肥満,妊娠中,透析患者,日帰り手術に協力的でない,帰宅後に電話連絡ができない場合である.また,麻酔科医が全症例について,日帰り手術の適応について確認している.
従来群においては,手術の適応外基準は設けていない.
日帰り群では,初診日に診察,術前検査,手術説明,オリエンテーションを行う.手術当日は,入室30分前に来院する.食事の摂取は手術8時間前まで,飲水は手術3時間前まで許可し,内服は糖尿病薬を除き,抗血栓薬を含めて継続する.手術終了後,ストレッチャーで退室し,回復室で経過観察する.退室から10分後に,別室の椅子に歩いて移動し飲水する.退室から1時間経過して問題なければ帰宅を許可する.緊急連絡先を伝え,帰宅後は24時間電話対応する.手術翌日に電話で経過を確認し,1~2週間後に外来受診する.近隣の病院とあらかじめ提携し入院に備えることで,安全性を確保している.
従来群では,初診日に診察,術前検査を行い,後日に手術説明,オリエンテーションを行い,手術前日に入院する.飲食は日帰り群と同様で,内服は糖尿病薬や抗血栓薬を除いて継続する.手術終了後,病棟に帰室する.帰室から2時間後に,歩行と飲水を開始する.翌日,血液検査を行い,食事を開始し,術後2日目に経過が問題なければ帰宅を許可する.1~2週間後に外来受診する.
日帰り群では,手術は仰臥位で行い,臍部から5 mmトロッカーを挿入し,腹腔内圧8~10 mmHgで気腹する.スコープは5 mmの30°斜視硬性鏡(Olympus)を使用する.麻酔は全身麻酔とし,麻酔導入はプロポフォール,レミフェンタニル,ロクロニウムで行い,麻酔維持はレミフェンタニル+デスフルランまたはプロポフォールで行う.手術直前にセファゾリン1 gを単回投与する.1%リドカイン10 mlを局所麻酔薬として使用する.経鼻胃管や尿道カテーテルは留置しない.
従来群では,手術は仰臥位で行い,臍部から5~12 mmトロッカーを挿入し,腹腔内圧10 mmHgで気腹する.スコープは5 mmの30°斜視硬性鏡(Olympus)を使用する.麻酔は全身麻酔とし,麻酔導入はプロポフォール,フェンタニル,ロクロニウムなどで行い,麻酔維持はフェンタニル+セボフルランなどで行う.手術直前にセフメタゾール1 gを単回投与する.0.5%レボブピバカイン10 mlを局所麻酔薬として使用する.経鼻胃管や尿道カテーテルを術中に留置する.
日帰り群は166例,従来群は90例であった.患者背景において,日帰り群は従来群と比べ,年齢(P=0.01),ASA physical status(P=0.03),膿瘍形成性虫垂炎の既往(P<0.001)が有意に低く,虫垂炎既往回数(P<0.001)が有意に高かった(Table 1).
Variable | Ambulatory group (n=166) | Conventional group (n=90) | P-Value |
---|---|---|---|
Age (years), median (IQR) | 34 (28–43) | 37 (29–53) | 0.01 |
Gender, Male, n (%) | 107 (64.5%) | 55 (61.1%) | 0.69 |
BMI (kg/m2), median (IQR) | 21.7 (20.0–23.8) | 22.2 (20.4–24.1) | 0.45 |
ASA physical status, n (%) | |||
Class I | 85 (51.2%) | 31 (34.4%) | 0.03 |
Class II | 79 (47.6%) | 56 (62.2%) | |
Class III | 2 (1.2%) | 3 (3.3%) | |
Class IV and above | 0 | 0 | |
Antithrombotic medication, n (%) | 2 (1.2%) | 4 (4.4%) | 0.23 |
Previous history of appendicitis (times), median (IQR) | 2 (1–3) | 1 (1–2) | <0.001 |
Previous history of appendiceal abscess, n (%) | 2 (1.2%) | 26 (28.9%) | <0.001 |
Interval from previous appendicitis (days), median (IQR) | 50 (30–110) | 60 (40–94) | 0.06 |
WBC (/μl), median (IQR) | 5,300 (4,500–6,300) | 5,850 (4,725–6,875) | 0.06 |
CRP (mg/dl), median (IQR) | 0.07 (0.05–0.20) | 0.09 (0.04–0.32) | 0.98 |
BMI: body mass index, IQR: interquartile range
手術成績について,手術時間中央値は日帰り群35分,従来群64分(P<0.001),麻酔時間中央値は日帰り群52分,従来群105分(P<0.001)とそれぞれ有意差を認めた.日帰り群において,術後在院時間中央値は50分,退院時の疼痛NRS中央値は10点中1点であり,全例日帰りで帰宅できた.病理検査はほとんどが炎症所見のみであったが,sessile serrated adenoma/polyp,low grade appendiceal neoplasmをそれぞれ2例認めた(Table 2).
Variable | Ambulatory group (n=166) | Conventional group (n=90) | P-Value |
---|---|---|---|
Operative time (min), median (IQR) | 35 (29–46) | 64 (51–83) | <0.001 |
Anesthesia time (min), median (IQR) | 52 (45–62) | 105 (95–128) | <0.001 |
Postoperative length of stay, (min, days) | 50 (40–60) | 2 (2–2) | <0.001 |
NRS score at discharge, median (IQR) | 1 (1–2) | NA | NA |
Achievement of day surgery | 166 (100%) | NA | NA |
Methods of securing airway, n (%) | |||
Intubation | 26 (15.7%) | 90 (100.0%) | <0.001 |
Laryngeal mask airway | 34 (20.5%) | 0 | |
i-gel | 102 (61.4%) | 0 | |
Trocar size, n (%) | |||
20mm (Single port) | 0 | 12 (13.3%) | <0.001 |
12-5-5-5mm | 0 | 2 (2.2%) | |
12-5-5-3mm | 0 | 1 (1.1%) | |
12-5-5mm | 5 (3.0%) | 66 (73.3%) | |
12-5-3mm | 0 | 4 (4.4%) | |
5-5-5mm | 107 (64.5%) | 1 (1.1%) | |
5-5-3mm | 40 (24.1%) | 2 (2.2%) | |
5-3-3mm | 0 | 2 (2.2%) | |
Procedure, n (%) | |||
Appendectomy | 163 (98.2%) | 85 (94.4%) | 0.20 |
Cecalectomy | 3 (1.8%) | 5 (5.6%) | |
Ileocecal resection | 0 | 0 | |
Closure of the appendix root, n (%) | |||
Endoloop | 163 (98.2%) | 82 (91.1%) | 0.02 |
Linear stapler | 3 (1.8%) | 6 (6.7%) | |
Suture | 0 | 2 (2.2%) | |
Drain placement, n (%) | 0 | 0 | NA |
Pathological findings, n (%) | |||
Normal appendix | 4 (2.4%) | 1 (1.1%) | 0.007 |
Catarrhal appendicitis | 27 (16.3%) | 7 (7.8%) | |
Phlegmonous appendicitis | 3 (1.8%) | 1 (1.1%) | |
Gangrenous appendicitis | 4 (2.4%) | 10 (11.1%) | |
Granulomatous appendicitis | 3 (1.8%) | 2 (2.2%) | |
Chronic appendicitis | 121 (72.9%) | 62 (68.9%) | |
Diverticulitis | 1 (0.6%) | 6 (6.7%) | |
Sessile serrated adenoma/polyp | 2 (1.2%) | 0 | |
Low grade appendiceal neoplasm | 1 (0.6%) | 1 (1.1%) |
IQR: interquartile range, NA: not applicable
合併症について,全合併症は日帰り群19例(11.4%),従来群17例(18.9%)(P=0.15)で有意差を認めなかった.術中合併症は日帰り群0例(0%),従来群1例(1.1%)(P=0.76),術直後合併症は日帰り群16例(9.6%),従来群11例(12.2%)(P=0.67),術後合併症は日帰り群3例(1.8%),従来群5例(5.6%)(P=0.20)でそれぞれ有意差を認めなかった.重篤な合併症は認めなかったが,従来群で再入院1例(1.1%)を認めた.術後1か月に癒着性腸閉塞のため再入院したが,保存的に軽快した(Table 3).
Variable, n (%) | Ambulatory group (n=166) | Conventional group (n=90) | P-Value |
---|---|---|---|
Intraoperative complication | 0 | 1 (1.1%) | 0.76 |
Bowel injury | 0 | 1 (1.1%) | |
Conversion to open | 0 | 0 | |
Immediate postoperative complication | 16 (9.6%) | 11 (12.2%) | 0.67 |
Postoperative nausea and vomiting | 8 (4.8%) | 8 (8.9%) | |
Shivering | 8 (4.8%) | 0 | |
Asthma attack | 0 | 1 (1.1%) | |
Delirium | 0 | 1 (1.1%) | |
Urinary retention | 0 | 1 (1.1%) | |
Delayed awakening | 0 | 0 | |
Postoperative complication | 3 (1.8%) | 5 (5.6%) | 0.20 |
Surgical site infection | 1 (0.6%) | 2 (2.2%) | |
Subcutaneous hemorrhage | 2 (1.2%) | 1 (1.1%) | |
Ileus | 0 | 1 (1.1%) | |
Intra-abdominal abcess | 0 | 0 | |
Unexpected readmission | 0 | 1 (1.1%) | |
Unexpected reoperation | 0 | 0 | |
Mortality | 0 | 0 |
手術費用をTable 4に示した.日帰り手術が約29万円,入院手術が約46万円であり,入院手術は日帰り手術の約1.6倍であった.
Details of the fee | Ambulatory surgery (yen) | Conventional surgery (yen) |
---|---|---|
Hospitalization fee (for 4 days) | 0 | 183,610 |
Reexamination fee | 790 | 0 |
Surgery fee | 137,600 | 137,600 |
Anesthesia fee | 76,600 | 76,600 |
Drug and material fees | 50,120 | 46,680 |
Administrative guidance fee | 14,300 | 7,900 |
Histological diagnosis fee | 10,100 | 4,500 |
Meal fee | 0 | 3,200 |
Total | 289,510 | 460,090 |
日帰り手術とは,患者が手術を受けた当日に帰宅する手術のことである.医療効率を最適化し,コストを削減し13),患者の多様なニーズに応えることができる.欧米では虫垂切除術,鼠径ヘルニア修復術,胆囊摘出術,腹壁瘢痕ヘルニア修復術,逆流性食道炎手術など,多くの腹腔鏡下手術において日帰り手術が行われている14)~16).海外の報告では,虫垂炎の日帰り手術は入院手術と比較して,再手術率,合併症率,再入院率を増加することなく,安全に行うことができ16)~18),虫垂炎の日帰り手術に対するアンケート調査で,患者満足度は高かった19).欧米の虫垂炎ガイドラインにおいても,患者の同意があり,日帰り手術の手順が確立していれば,虫垂炎の日帰り手術を推奨している20).しかし,本邦では虫垂炎の日帰り手術がほとんど行われておらず,先行研究もないため,本研究を計画した.
我々は2017年から軽症の急性虫垂炎後のIAに適応を限定して日帰り手術を開始した.既に鼠径ヘルニアに対する腹腔鏡による日帰り手術を豊富に経験していたため21),大きな支障なく導入できた.日帰り手術における手術時間,麻酔時間,術後在院時間は入院手術と比べて短く,日帰り手術の手順を定型化した成果がみられた.従来群で手術時間が長かったのは,膿瘍形成性虫垂炎の治療後の割合が高かったことや,若手の外科医の執刀機会が多かったことが一因と考えられた.術前にCTを確認しているものの,日帰り群3例(1.8%)で盲腸切除を要した.CTで虫垂根部の処理が可能かどうか判断できないことがあるので,盲腸切除となる可能性を念頭において備える必要がある.病理検査ではほとんどが炎症所見のみであったものの,一部に虫垂腫瘍を認め,注意しなければならない6)7).
日帰り手術に関連した周術期の重篤な合併症は認められず,安全性を損なうことはなかった.術後悪心・嘔吐(postoperative nausea and vomiting;以下,PONVと略記)は,日帰り群で4.8%と良好な結果であった.また,退院時の疼痛NRS中央値は10点中1点であり,術後疼痛コントロールも良好であった.PONVや痛みを軽減することは,患者満足度を上げ,日帰り手術を完遂するうえでとても重要である22).
日帰り手術では3泊4日の入院基本料が不要となるため,手術費用が大幅に削減できた.自己負担額は3割負担で約9万円となり,高額療養費制度を利用すると,さらに自己負担額は軽減される.しかし,医療機関にとっては大きな減収となるため,日帰り手術が普及する妨げとなっている可能性がある.充実した体制を整えて日帰り手術を行うためには,相応の費用や手間がかかる.欧米と同様に,診療報酬によるインセンティブをつけることで,日帰り手術を普及させ,医療の効率化を図ることが,今後の医療政策において不可欠である.
虫垂炎の日帰り手術を完遂するためのポイントは,適切な患者選択,定型化された周術期ケア,低侵襲な手術手技,安全な麻酔管理が重要である(Table 5).適切な患者選択をするために,日帰り手術の適応基準を決め,麻酔科医が個々の症例について適応の有無を確認している.周術期ケアのポイントは,看護師チームによる一貫したケアである.術前オリエンテーション,周術期ケア,術後フォローを,同一の看護師チームが管理している.医師は看護師チームと密に連絡をとり,助言や判断を行っている.手順を定型化し,患者とのコミュニケーションを構築することで,円滑なケアを提供できる.手術手技を低侵襲に行うために,腹腔鏡を用い23),3~5 mmのトロッカーを使用することで細径化を実現し,疼痛の軽減をはかっている24).また,5 mmの創部から虫垂を体外に摘出するために,虫垂間膜を温存し,摘出する虫垂側に間膜が残らないように処理している.術後疼痛を緩和し,PONVを予防するために,気腹圧を8 mmHgと低圧にしている24)25).さらに,術後の疼痛対策として,腹腔鏡下に腹直筋鞘ブロックを行っている26).そして,手術手技を定型化することで,手術時間を短縮し,合併症を予防している.低侵襲な麻酔管理を行うために,短時間作用型の薬剤を使用し,できるだけ気管挿管を避け,声門上器具を使用している.経鼻胃管や尿道カテーテル,ドレーンなどの管類は留置していない.PONVを防ぐため,亜酸化窒素は使用せず,オピオイドが過量にならないように注意している.PONVのリスクが高い症例では,プロポフォールによる全静脈麻酔を行っている22).以上のように,外科医だけでは,日帰り手術を安全に完遂することは不可能で,チーム医療の仕組み作りが最も重要である.
<Appropriate patient selection> |
• Appropriate definition of criteria for day surgery |
• Strict confirmation of indications for day surgery in each case by anesthesiologists |
<Standardized perioperative care> |
• Provision of preoperative orientation, perioperative care and postoperative follow-up by fixed member of nurses |
• Formulation of the procedure |
<Minimally invasive surgical techniques> |
• Standardized laparoscopic appendectomy using 5 mm or less trocars |
• Preservation of the mesoappendix |
• Addition of a laparoscopic rectus abdominis sheath block |
<Safe anesthesia management> |
• Use of short-acting drugs for anesthesia |
• Avoidance of an endotracheal intubation |
• Avoidance of the insertion of gastric tube, urinary catheter, drain or other tubes |
• Avoidance of nitrous oxide and caution against opioid overdose |
• Performance of total intravenous anesthesia with propofol in patients with a high risk of postoperative nausea and vomiting |
本研究の限界は,異なる施設間における後向きの比較であり,患者背景が異なる点である.しかし,両施設ともに周術期合併症の発生率は低く,IAは安全に施行できた.また,今回の結果は腹腔鏡の日帰り手術に特化したクリニックにおける成績であり,安全性を確保するためには,同様の仕組みを整えなければならない.本邦においても日帰り手術のニーズがあることは明らかであり,不要な入院を減らすことは医療効率の最適化につながる.合併症を減らし,より安全に快適な日帰り手術が受けられるように,今後さらに工夫を積み重ねていく必要がある.日帰りで行うIAは,適正な適応基準のもとで安全に施行可能であり,本邦においても治療選択肢の一つになりえる.
利益相反:なし